あせも(汗疹)

あせも(汗疹)

汗によって引き起こされる代表的な皮膚トラブルが、いわゆる「あせも」と呼ばれる汗疹(かんしん)です。乳幼児に多いと思われがちですが、猛暑が続く近年では、大人でも悩まされる人が増えています。あせもの症状やそのレベルは様々で、かゆみに耐えられずにかきむしってしまうと、細菌が入って治りにくくなったり、傷痕が残ってしまったりすることも。汗をかく季節が近づいてきた今こそ、あせものメカニズムや対処法・予防法を知っておきましょう。

監修プロフィール
若松町こころとひふのクリニック院長 ひがき・ゆうこ 檜垣 祐子 先生

1982年東京女子医科大学卒業後、同大学皮膚科に入局。84年よりスイス・ジュネーブ大学皮膚科に留学。その後、東京女子医科大学皮膚科助教授、同附属女性生涯健康センター教授を経て、17年より現職。医学博士。専門はアトピー性皮膚炎、皮膚科心身医学。著書に『皮膚科専門医が教える やってはいけないスキンケア』(草思社)など。

<目次>あせもについて知る


あせもの原因

あせもの原因は「許容量を超えた汗」

あせもは、汗管(かんかん)を通る汗の許容量を超えた大量の汗をかくことで起こりますが、そもそも汗はどのような時に出るのでしょうか?

「夏は汗でメイクが崩れる」「汗ジミに悩まされている」「においが気になる」など、何かと嫌われがちな汗ですが、実は私たち人間にとってなくてはならない2つの働きがあります。まずは体内の老廃物や有害物質を体外に排出することで、身体や皮膚を清潔にする働き。そして、皮膚の表面に汗を出した後、その水分が蒸発する時に発生する気化熱を利用することで、体温を下げるという働きです。運動をした時、暑い夏に外出した時、そして発熱した時に汗をかくのは、体温が上昇し過ぎないように体温調節をするためです。

汗は、全身にあるエクリン汗腺(かんせん)と、わきの下などにあるアポクリン汗腺から、汗管(かんかん)を通って体外に出ていきます。汗管は汗を体外に排出するための器官で、汗腺でつくられた汗が皮膚に出るための通り道となっています。この2つのうち、体温調節のために汗を出す汗腺がエクリン汗腺です。外気温の上昇やスポーツなどで体温が上昇すると、エクリン汗腺で大量に汗がつくられます。この時に、汗管の許容量を超えた大量の汗をかくと、汗管が詰まったり壊れたりしてしまいます。その結果、周辺の皮膚組織で炎症などの症状が起こるのがあせもです。

体温調節のために汗を出す汗腺がエクリン汗腺です。外気温の上昇やスポーツなどで体温が上昇すると、エクリン汗腺で大量に汗がつくられます。エクリン汗腺は全身に分布しています。

あなたは大丈夫? あせもができやすい「人」や「環境」

個人差はあるものの、汗は老若男女、どんな人でもかくものですが、全ての人にあせもができるわけではありません。あせもは乳幼児に起こる皮膚トラブルと思われがちですが、猛暑が続く近年では、大人でも悩まされる方が増えています。では、どんな人や環境があせもを引き起こすのかをご紹介します。

●仕事などで高温多湿の環境にいることが多い人

仕事などで高温多湿の環境にいることが多い人はあせもに注意。

汗をかきやすい上に、随時汗を拭くことが難しい環境にいると、あせもができやすくなります。例えば、屋外や空調のない屋内での作業に従事している人、長袖の安全服やマスクといった保護具を着用しなければならない職業の人などは注意しましょう。

●汗をたくさんかく体形や体質の人
肥満体形の人は、皮下脂肪が多いために体内の熱が放出されにくく、汗をたくさんかいて、あせもができやすくなります。また皮下脂肪が多いと、下腹部や脚のつけ根、わきの下、首などで皮膚と皮膚が重なってこすれることで、エクリン汗腺が塞がりやすいという理由もあります。
また、汗をかきやすい体質として、多汗症や更年期障害などの影響があり、汗をたくさんかくことであせもができやすくなる場合があります。

●胸が大きい人、垂れた形をしている人
女性の場合、乳房は想像以上に汗をかいていますが、服を着ていると、顔や首のように常に汗を拭くことが難しく、あせもができやすくなります。胸が大きい人は乳房の間などに汗がたまりやすくなります。胸が大きくなくても、垂れた形をしている人は乳房と下の皮膚との間に汗がたまるので、汗管が閉塞しやすくなります。

●肌のバリア機能が弱い敏感肌の人や、乾燥肌の人
皮膚には、乾燥や摩擦、紫外線や雑菌など、あらゆる外部刺激から肌を守ってくれるバリア機能という働きがあります。紫外線や乾燥、ストレス、加齢などによって、バリア機能が低下すると、化粧品が染みたり、乾燥で肌がかゆくなったりと、肌トラブルを起こしやすい状態になっています。そこに汗をかくと、水分が蒸発して肌が乾燥するので、皮膚のバリア機能がさらに低下し、あせもができやすくなります。

●エアコンを敬遠したり、汗や皮脂の分泌機能が低下していたりする高齢者
年齢を重ねると汗や皮脂の分泌機能が低下し、あせもにつながる場合があります。高齢者の中には、エアコンを使わずに夏を過ごす方もいますが、高温多湿の時期は、就寝中など知らず知らずのうちに、大量の汗をかいています。また病気などにより、ベッドの上で1日の大半を過ごすという方は、背中や臀部などが長時間ベッドに密着したままになるため、あせもができやすい環境になってしまいます。


乳幼児があせもになりやすいのはなぜ?

乳幼児があせもになりやすいのはなぜ?

汗を出す汗管の数は、大人と乳幼児でほとんど同じといわれています。つまり体の小さな乳幼児は、汗腺の密度が高くなっているのです。さらに、発汗をコントロールする働きが未熟なことも汗をかきやすいことに影響しています。また、乳幼児は新陳代謝が活発で皮膚が柔らかいため、汗の成分が刺激になって皮膚トラブルを起こしやすいという面もあります。これらのことから、乳幼児は大人よりもあせもになりやすいのです。


あせもの症状

あせもは3つの種類に分けられる

ひとくくりにあせもといっても、発症場所や症状に違いを感じたことはありませんか? あせもは、次の3つの種類に分けられます。

あせもは、次の3つの種類に分けられます。①赤みやかゆみはない「水晶様汗疹(すいしょうようかんしん)」②赤みとかゆみが出る「紅色汗疹(こうしょくかんしん)」③赤いポツポツが出る「深在性汗疹(しんざいせいかんしん)」

①赤みやかゆみはない「水晶様汗疹(すいしょうようかんしん)」
エクリン汗管が角質層で閉塞して、角質内に小水疱(小さな水ぶくれ)ができます。赤みやかゆみは生じず、小水疱が破れて中の物質が出たら治るため、比較的治りやすいといわれています。

②赤みとかゆみが出る「紅色汗疹(こうしょくかんしん)」
エクリン汗管が表皮内で閉塞して、真皮の浅い部分に炎症反応が生じ、小水疱ができます。赤みとかゆみが出るあせもとして最も多いタイプです。慢性化すると湿疹になったり、かきむしってしまったりすることで黄色ブドウ球菌や連鎖球菌などの細菌に感染し、「あせものより(多発性汗腺膿瘍/たはつせいかんせんのうよう)」や、「とびひ(伝染性膿痂疹/でんせんせいのうかしん)」に、なってしまうこともあります。

③赤いポツポツが出る「深在性汗疹(しんざいせいかんしん)」
エクリン汗管が真皮内で壊れ、周囲に炎症を起こしたもの。比較的大きな丘疹(きゅうしん)と呼ばれる赤いポツポツが生じます。高温多湿の熱帯地方に多く、日本での発症はあまり多くありません。


あせもができやすい場所

あせもができやすいのは、汗をよくかいたり蒸れやすい次のような場所です。

●首、胸、わきの下、肘(ひじ)の内側、肢のつけ根、膝(ひざ)の裏側
●乳幼児は、おむつの箇所や背中、頭もできやすい

あせもができやすい場所は、汗をよくかいたり蒸れやすい首、胸、わきの下、肘(ひじ)の内側、肢のつけ根、膝(ひざ)の裏側などです。乳幼児は、おむつの箇所や背中、頭もできやすいです。

あせもと間違えやすい「間擦疹(かんさつしん)」

あせもの症状に似たものとして「間擦疹」があります。これは、皮膚同士の摩擦と湿気によって赤みやかゆみが生じるもので、ただれると痛みを伴います。胸の間や下、わきの下など、蒸れたり擦れたりしやすい場所にでき、糖尿病の人や肥満体形の人に多いとされています。また、カンジダ菌の増殖によって発症する「カンジダ性間擦疹」というものもあります。通常、カンジダ菌は体の様々な場所に存在していますが、湿度の高い環境や免疫力の低下などによって増殖します。汗をかきやすい乳幼児や、高齢者、免疫力の低下した人が発症しやすいとされています。


あせもの治し方・治療・対処法

あせもを治すには「肌を清潔に保つ」「かきむしらない」を徹底する

通常、あせもは肌を清潔に保てば、数日で治るケースがほとんどです。赤みとかゆみが出る紅色汗疹の場合でも、肌を清潔にしておけば数日で治るため、あせもは自然治癒が中心となります。ただかゆみがあるため、かきむしってしまうことで症状が悪化したり、細菌に感染して、あせものより(多発性汗腺膿瘍)や、とびひ(伝染性膿痂疹)になったりしてしまうこともあります。あせもを悪化させずに、自然治癒させるためには、とにかく「かきむしらないこと」が重要です。


あせものかゆみを抑えるには「患部を冷やす・温めない」が有効

あせものかゆみが強い時やかきむしるのを我慢できない時は、冷たいタオルを当てるのが有効です。また、血行がよくなるとかゆみが強くなるため、入浴する際には、なるべく湯船には浸からずに、シャワーなどで済ませたほうが、かゆみを抑えるにはよいでしょう。


皮膚科を受診する目安は?

●生活に支障を来すレベルの症状が出た場合
あせものかゆみが強くて眠れなくなったり、あせもの範囲が広がって見た目が気になるようになったり、生活に支障を来してきたら、迷わず皮膚科に相談をしましょう。
●環境を改善しても症状が続く場合
汗をかく環境の改善や、肌を清潔に保つように心がけているにもかかわらず、症状が治まらなかったり、悪化したりする場合は、あせもではなく治療薬が必要な感染症の可能性もあります。すぐに皮膚科を受診しましょう。

赤みやかゆみがある紅色汗疹は、水晶様汗疹が悪化したものです。水晶様汗疹は、自然治癒するものがほとんどなので、その時点で、石けんで洗うなどして皮膚を清潔に保ち、悪化させないようにしましょう。また皮膚科を受診する前に、市販薬などを使う場合は、自己判断で薬を選ばずに、薬剤師や登録販売者に相談しましょう。


あせもの炎症には塗り薬、感染症には内服薬

皮膚科では、あせもの炎症が強い場合には、弱いステロイドの塗り薬を処方されることが多いです。あせものより(多発性汗腺膿瘍)や、とびひ(伝染性膿痂疹)の場合は、抗菌薬の内服薬を使うことも。黄色ブドウ球菌の感染により起こるとびひの場合、毒素が水疱をつくるため、塗り薬を使ったりガーゼで覆ったりすると症状を悪化させてしまうこともあるので、自己判断で処置をしないようにしましょう。


あせもを悪化させないためには「汗をかき過ぎない」

あせもができてしまった場合は、悪化させないことが一番重要です。そのためには、常に肌を清潔に保つことと、汗をかき過ぎない環境づくりが大切。汗腺の密度が高く、汗をかきやすい乳幼児には特に注意が必要です。
●大人が発症した場合:汗をかき過ぎないように環境を整える
あせも発症時は、適切にエアコンを使うなどして、適度な気温と湿度を保つように環境を整えましょう。気温と湿度の調整が難しい場合は、汗をかいたら柔らかいタオルでこまめに拭き、汗をかいたままにしないように心がけましょう。
●乳幼児が発症した場合:徹底した暑さ対策を
乳幼児のあせもの場合も対策は大人と同様ですが、乳幼児は大人よりも体が小さく、汗をかきやすいため、汗をこまめに拭いてあげましょう。また一般的に地面に近いほど、地面からの輻射熱(ふくしゃねつ)は高くなりますが、身長が低かったり、低い位置にあるベビーカーで移動することの多かったりする乳幼児は、大人よりも高温の環境にさらされています。その点に留意した暑さ対策を行い、近くにいる大人がこまめに状態を観察することが大切です。

乳幼児があせもを発症した場合は、徹底した暑さ対策を行いましょう。 汗をこまめに拭いてあげましょう。また、身長が低かったり、ベビーカーでの移動が多い乳幼児は、大人よりも高温の環境にさらされています。その点に留意した暑さ対策を行い、こまめに状態を観察することが大切です。

あせもの予防法

肌を清潔に保つ工夫を

症状によっては自然治癒するあせもですが、まずは発症させないことが一番。日常生活の中で取り入れることができる簡単な対策をご紹介します。
●汗を過剰にかかないように、エアコンや衣類で調節する
●汗をかいたらこまめに拭き、可能であればシャワーなどで流して肌を清潔に保つ
●肌に触れる衣類は、通気性や吸湿性の高いものを着用
汗をかきやすい人や、汗をかきやすい環境で働いている人は、吸湿性や速乾性に優れているスポーツ用や登山用のアンダーウェアがおすすめです。


「汗をかかない対策」はNG

汗をかき過ぎないことは大切ですが、汗には体温調節など大切な役割があり、汗をかくことそのものは人間にとって必要なこと。過剰に発汗を防いだり、忌避したりするような「汗をかかない」対策をすると、体温調節がうまくできずに、熱中症などになるリスクが高まります。
これから暑くなってくると、屋内外にかかわらず、汗をかく機会も増えてきます。ある程度の汗をかくことを「当たり前のこと」「必要なこと」と捉え、汗をかくことに過敏になり過ぎず、あせもなどの皮膚トラブルを防ぐための対処をしながら、上手に汗とつき合っていきましょう。

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