とびひ(伝染性膿痂疹)

とびひ

とびひは正式名称を「伝染性膿痂疹」といい、虫刺されやあせもなどをかきこわした傷、転んでできたすり傷などに細菌が感染することで起きる、代表的な皮膚の細菌感染症です。 とびひは、高温多湿の夏に乳幼児が感染しやすい「水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん:水疱ができるタイプ)」と、季節や年齢に関係なく突然発症する「痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん:かさぶたができるタイプ)」に分けられますが、多くは水疱性膿痂疹です。 水疱性膿痂疹の原因菌は黄色ブドウ球菌で、水疱をかきこわした手で体の他の部位をかいたりすると、火事の飛び火(とびひ)のように、次から次へと他の部位へ水疱が広がっていってしまうことから、「とびひ」と呼ばれます。痂皮性膿痂疹はA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)が原因で、子どもだけでなく大人も発症するのが特徴です。

監修プロフィール
こどもとおとなのクリニック パウルーム 院長 くろき・はるお 黒木 春郎先生

千葉大学医学部卒業。医学博士。千葉大学医学部臨床教授。公認心理師。千葉大学医学部小児科医局に所属し、関連病院勤務を経て、1998年千葉大学医学研究院小児病態学教官。2005年外房こどもクリニック開業(千葉県いすみ市)を経て、08年医療法人社団嗣業の会理事長、23年より「図書室のなかのクリニック」をコンセプトにした、こどもとおとなのクリニック パウルームを東京都港区に開業。日本小児科学会専門医・指導医。日本感染症学会専門医・指導医・評議員。日本遠隔医療学会理事。著書に『駆け抜けた17年』(幻冬舎)、『プライマリケアで診る小児感染症 7講』(中外医学社)、共著『最新感染症ガイド R-Book 2018-2021』(日本小児医事出版社)ほか多数。

とびひ(伝染性膿痂疹)について知る


とびひ(伝染性膿痂疹)の原因

夏の子どもに多い水疱タイプのとびひ「水疱性膿痂疹」は、黄色ブドウ球菌が原因

とびひのほとんどは、皮膚の抵抗力が弱い乳幼児が感染しやすい水疱性膿痂疹です。水疱性膿痂疹の原因菌である黄色ブドウ球菌は、鼻の中や皮膚、のどなどに誰もがもっている常在菌で、健康な皮膚についても何か症状を起こすことはありません。しかし乳幼児は皮膚の抵抗力が弱いため、表皮の角層の下で菌が増殖して、とびひを発症しやすいのです。多くは、虫刺されやあせも、アトピー性皮膚炎、すり傷などによって表皮のバリア機能(外界のアレルゲンや細菌などの異物の侵入から体を守り、体内の水分を逃がさない働き)が弱まっているところへ、鼻の中などを触った手でかきこわすことで感染します。
とびひ(水疱性膿痂疹)は、高温多湿の夏に発症しやすく、強い感染力があり、接触感染でうつることから、夏になると幼稚園や保育所、学校等での集団感染も見られます。

ブドウ球菌

年齢や季節を問わないとびひ「痂皮性膿痂疹」は、A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)が原因

黄褐色のかさぶたになることが特徴の痂皮性膿痂疹は、A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)が表皮の角層の下に感染して発症します。夏に限らずいつの季節も起こり、子どもだけでなく大人も発症します。アトピー性皮膚炎に合併して起こることが多いとびひです。痂皮性膿痂疹はA群β溶血性連鎖球菌だけでなく、黄色ブドウ球菌が混合している場合もあります。

溶連菌

とびひ(伝染性膿痂疹)の症状

水疱タイプのとびひ「水疱性膿痂疹」は、かゆみの強い水疱ができる

高温多湿になると多く発症するとびひ「水疱性膿痂疹」は、皮膚をかきむしった傷口や黄色ブドウ球菌がいる鼻の周辺などに、直径1、2ミリの小さな水疱がいくつも集まって発生し、数日で親指大から鶏卵大に大きくなります。水疱はかゆみが強く、かきこわすとすぐに皮が破れ、赤いびらん状(ただれた状態)になります。水疱の滲出液(しんしゅつえき:染み出てきた液)には菌がいるため、患部をかいた手で体の他の部位をかくと、そこにも水疱ができ、あっという間に広がってしまいます。びらん状になった後はかさぶたになります。

とびひの症状

年齢や季節を問わないとびひ「痂皮性膿痂疹」は、黄褐色の厚いかさぶたになる

痂皮性膿痂疹のとびひは、全身のどこにでも発症します。水疱は少なく、最初は紅斑(小さな発赤)に始まり、その後、米粒大の膿疱(のうほう:膿がたまった状態)ができて、さらに黄褐色の厚いかさぶたとなります。かさぶたは、押すと膿が出ます。患部に近いリンパ節が腫れたり、のどの痛みや発熱を伴ったりする場合もあります。


とびひが重症化すると、「ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)」を発症することも

とびひは、まれに重症化してしまうと、黄色ブドウ球菌が産生する毒素によって全身に強い症状が出る「ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)」に移行することもあるため、早めの治療が大切です。SSSSになると患部と周辺の皮膚が真っ赤に腫れ、触れるだけでも痛くなり、やけどのように皮膚がむけてただれます。これが2~3日かけて全身の皮膚に広がってゆき、発熱や悪寒の症状が出て体がだるくなります。


とびひ(伝染性膿痂疹)の対策

とびひは抗菌薬を使わないと治らないため、小さな水疱を見つけたらすぐに病院を受診

とびひの治療には抗菌薬(塗り薬と飲み薬)が必要となります。目、鼻、口の周りや、あせも、虫刺され等の傷口、アトピー性皮膚炎のある部位などに小さな水疱を見つけたら、他の部位や他の人にうつさないうちに、すぐに皮膚科や小児科を受診しましょう。自己判断で手持ちの軟膏などの薬を塗ってしまうと、症状が悪化してしまうこともあるため、症状が見られたら自己判断で安易に薬を使わずに、病院を受診するようにしてください。
病院では、とびひの患部の大きさや状態に応じて、抗菌薬の塗り薬と飲み薬が処方されます。かゆみがひどい時には、かゆみ止めの抗ヒスタミン薬が処方されることもあります。
とびひの症状が治まっても原因菌が体に残っていることがあり、薬を途中でやめてしまうと再発する可能性があります。自己判断で薬をやめずに、処方された薬は必ず医師の指示に従って続けるようにしてください。
A群β溶血性連鎖球菌が原因の痂皮性膿痂疹も基本の治療は同じですが、とびひが治った後に腎炎を起こすこともあるので尿検査も行います。

とびひの抗菌薬

とびひになったら石けんで洗って清潔を保ち、薬を塗った後はしっかり覆うこと

とびひのホームケアで最も重要なのは、患部を清潔に保つことです。石けんを泡立てて優しく洗い、洗った後は十分に流して、清潔なタオルで拭いて乾かしましょう。その後、抗生物質が配合された塗り薬を塗り、患部をしっかりとガーゼで覆い、かかないようにすることが大切です。かきこわさないように爪も短く切りましょう。

とびひの対策

タオルの共用や湯船に浸かるのを避け、家庭内感染を防ぐ

感染力が強いとびひは、家庭内での感染対策も重要です。家族とのタオルの共用は避けてください。お風呂も湯船には浸からず、シャワーを使うようにしましょう。清潔を保つため、シャワーは1日何回でもOKです。

とびひ:家庭内感染を防ぐ

病院で治療の上、とびひの患部をガーゼ等で覆えば登園や登校は可能

とびひは感染力が強いため、学校保健安全法の学校感染症第三種(その他の感染症)に指定されています。病院で治療し、患部をガーゼ等できちんと覆って露出しなければ、基本的に登園・登校はできますが、多発していたり広範囲に及んだりする場合は、休んで治療が必要なケースもあるので、医師や学校・幼稚園・保育所等とよく相談しましょう。
とびひが治るまでプールは禁止です。水を介して感染することはありませんが、肌の接触で他の人への感染の恐れがあるためです。


とびひ(伝染性膿痂疹)の予防法

日頃から手をよく洗い、お風呂に入って皮膚を清潔に保ち、爪を短く切る

とびひの予防には、皮膚を清潔にしておくことが大切です。毎日お風呂に入って全身を清潔にし、外から帰ったら殺菌力のある石けんで手洗いをしましょう。爪を短く切っておくことも大切です。

とびひの予防法

アトピー性皮膚炎、湿疹などの疾患のある人は治療につとめる

アトピー性皮膚炎や湿疹などの皮膚疾患がある人は、皮膚のバリア機能が低下しているため、細菌に感染しやすく、常にとびひにかかりやすい状態にあります。まずは、こうした皮膚疾患の治療につとめ、皮膚をかきこわさないようにしましょう。


虫刺され、すり傷など小さな傷でもしっかり治療し、かきこわさない

夏は虫に刺されることも多く、また、肌の露出も増えるため、転んですり傷をつくってしまう機会も増えがちです。また、汗疹(あせも)も発症しやすくなります。このような一見小さな傷口をかきこわすことが、とびひの原因になってしまうため、虫刺されにはかゆみ止めを使ったり傷口には絆創膏を貼ったりするなど、放置せずに適切に処置し、かきこわしを防ぐホームケアが大切です。

虫刺され

鼻をいじるのをやめる

鼻をほじるクセのある子どもは少なくありません。鼻の中には黄色ブドウ球菌がたくさんいるので、鼻をいじらないようにしましょう。

鼻をいじるのをやめる

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