ダイエットをしているのになかなか体重が減らない、脂肪が落ちないといった悩みをよく聞きます。思うような成果が出ないのは、あなたの頑張りが足りないのではなく、ダイエットの方法が間違っているのかもしれません。その原因が分かれば、軌道修正できるはず。ダイエットで陥りやすい意外な落とし穴と、それを乗り越えるための効果的な方法をお伝えします。
1971年東京医科歯科大学医学部卒業。医学博士。糖尿病、肥満症、メタボリックシンドロームの治療に従事。東京医科歯科大学医学部臨床教授、東京逓信病院外来統括部長・内科部長・副院長を経て2015年より現職。日本内科学会認定医・指導医、日本肥満学会名誉会員など。編著に『ダイエットの方程式』(主婦と生活社)、『肥満症教室』(新興医学出版社)など多数。
ダイエットをしているのに体重が減らない、脂肪が落ちない…そんな時は結果を急がないで、次のことを見直してみましょう。あなたに当てはまる原因が見つかるかもしれません。
タンパク質を摂って筋トレしているのに… →タンパク質も摂り過ぎると脂肪に
タンパク質は糖質や脂質に比べて脂肪になりにくい栄養素ですが、1g当たり4kcalあり、摂りすぎると最終的に中性脂肪になります。また、プロテインのサプリメントや飲料の摂り過ぎは、腎障害を招くこともあるので注意が必要です。男性(18~64歳)で1日65g、女性(18歳以上)で1日50gを目安(※)に、自分の体に必要な量を摂るようにしましょう。
※厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
食べていないつもりでも、摂取エネルギーが思ったより多い
調味料や飲み物、ちょこちょこと口にするおやつなどのカロリーが積み重なり、消費エネルギーを上回っていることがよくあります。また、食事制限をしている人は、食べた物のカロリーを過小評価する傾向があるといわれます。自分が摂る食品や飲み物のカロリーをチェックする習慣をつけ、間食の摂り方も見直してみましょう。
「和食・和菓子はヘルシー」と思い込んで摂り過ぎている
和食には砂糖やみりん、酒などが使われていることが多く、意外と高カロリーです。また、塩辛いおかずでご飯をたくさん摂るような食べ方は糖質過多になりやすく、中性脂肪の蓄積を招いてしまいます。ケーキやスナック菓子に比べてヘルシーと思われがちな和菓子やおせんべいも、高カロリー、高糖質の要注意食品です。食べる量に気をつけましょう。
加齢により基礎代謝量が減り、やせにくくなっている
基礎代謝は生命維持に必要な最小限のエネルギーで、1日に消費するエネルギーの60~70%を占めます。ところが加齢と共に筋肉量が減ると、それに伴って基礎代謝が低下し、やせにくくなります。若い頃と同じように食べている人は、適切なエネルギー摂取量を確認し、併せて筋肉量を減らさないために運動習慣を生活に取り入れましょう。
糖質や脂質を極端に制限している
エネルギー源が枯渇すると体は「飢餓状態」と判断し、生命維持のために基礎代謝を下げて脂肪を温存しようとします。その結果、やせにくい体になってしまいます。また、糖質や脂質が足りなくなると、筋肉のタンパク質を分解してエネルギー源として利用するので、筋肉量が減って太りやすくなります。長期間の絶食や極端な低脂肪食、低糖質食は避け、健康上の理由で短期間行う場合も、正しい知識をもって行うようにしましょう。
停滞期に入っている
ダイエットを始めた当初は順調に減量できていても、ある時期から体重が落ちなくなることがよくあります。これがダイエットの「停滞期」で、たいていは1~2カ月間、人によってはもっと長く続くこともあります。停滞期が訪れるのは、摂取エネルギーを減らしたことで体が飢餓状態に陥ったと認識し、基礎代謝を低下させたり、脂肪を蓄えようとしたりするためで、体を守ろうとする自然な反応です。ここで諦めてしまうとリバウンドしやすいので、これまで通りの食事や運動を続けて停滞期を乗り越えましょう。
睡眠不足やストレスによって、ホルモンバランスが乱れている
睡眠不足やストレスは「コルチゾール」というホルモンの分泌を増加させます。コルチゾールが高い状態が続くと脂肪の蓄積が進み、特にお腹周りの内臓脂肪が増えやすくなります。また、睡眠不足の状態では食欲を抑える「レプチン」というホルモンの分泌が減り、反対に空腹感を呼び起こす「グレリン」というホルモンが増加します。そのため過食傾向が強まり、体重増加につながってしまいます。生活スタイルを見直しましょう。
体重の変化=脂肪の変化ではない
体重が減らないからといって、ダイエットがうまくいっていないとは限りません。実際には脂肪が少しずつ減っている場合もあるからです。体重は一次的な水分量や腸内の内容物によって変化しやすく、脂肪の増減とは必ずしも一致しません。また、運動によって筋肉がつくと、その分体重も増えることがあります。逆に年を取ると筋肉が減って脂肪に置き換わってくるので、体重が同じでも体脂肪率が上がる場合があります。一度体脂肪計などでチェックしてみましょう。
体型の変化を感じるまでには時間がかかる
お腹の内臓の周りにつく「内臓脂肪」は脂肪の一時的な貯蔵庫で、つきやすく減らしやすいという特徴があります。一方、皮膚の下につく「皮下脂肪」はゆっくり落ちるため、体型の変化を感じるまでにはやや時間がかかります。食事のコントロールと運動を続けていればそのうち必ず“見た目”にも変化が現れるので、諦めずに取り組んでいきましょう。
ダイエットは一時的に体重を減らすことが目的ではありません。大切なのは、余計な脂肪を落として心身の健康を長期にわたって維持していくこと。短期決戦ではなく、長期戦なのです。陥りやすい落とし穴を乗り越え、ダイエットを成功に導くヒントをお伝えします。
甘い物は別腹…そのメカニズムとは? 断ち切るには?
「甘い物は別腹」とは過去の学習効果です。例えば梅干しを食べたことがない外国人は、梅干しを見ても条件反射で唾液は出ません。このように、おいしい物を学習しているため、甘い物を見ただけで条件反射的に「幸せホルモン」と呼ばれるドーパミンが出やすくなり、快感という“報酬”を獲得するために、つい手を伸ばしてしまうのです。このメカニズムを断ち切るのは、容易なことではありません。
最も確実なのは、甘い物を目に触れないようにすること。お菓子の買い置きをしない、食後のデザートは週2回までと決める、お茶やコーヒーを飲む時に甘い物を一緒に摂る習慣をやめる、甘い物が欲しくなったら30分我慢してみる、体操や歯磨きなどの代替行為をするといった方法も有効な場合があります。
また、甘い物を摂ることですぐに得られる報酬と、摂らないことで得られる長期的な視野に立った報酬とを評価して選択する姿勢も大切です。日頃から健康情報に目を配り、正しい知識を獲得しておくと、その助けになるでしょう。
よくかむ、小さい器に盛るなど「脳をだます」テクニックで過食を防ぐ
早食いは過食のもとといわれますが、これは満腹中枢が刺激される前に食べ過ぎてしまうためです。脳に「もうお腹いっぱい」という信号が届くのは、食べ始めてから20分以上たってから。よくかんでゆっくり食べると、腹八分目でも満腹感を得やすくなります。1口30回を心がけましょう。
視覚的なマジックも有効です。ご飯茶碗をひと回り小さくしたり、おかずを幾つかの小皿に分けて盛ったりすると目からも満足感を得られ、少ない量でもわびしく感じなくなります。また、赤、オレンジ、黄色といった暖色系は食欲を増進させ、黒、茶色、紫、青は食欲を減退させるという研究報告があり、食器やクロスなどの色を変えることで過食を抑えられる可能性が示唆されています。
ご飯を大きめ1口分減らす習慣で、1カ月で1 kg減る計算に
健康的でしかも長続きしやすい減量ペースは、1カ月に-1㎏ほどです。脂肪1kgは約7200 kcalなので、これを30日で割ると1日に約240 kcal減らせばよいことになります。ご飯やパン、麺類などの主食を「大きめ1口」分に当たる50g(約80kcal)減らせば、1日3食で1日の摂取エネルギーを約240 kcal減らせる計算に。毎回食事を1口分減らすだけで、1カ月で1 kgの減量が可能なのです。
食事のモデルケースをつくってみる
ダイエットでは毎日の食事で何をどれだけ摂ればよいのか把握しておくことが大切です。目標とするエネルギー摂取量に合わせて1日3食のモデルケースをつくっておくと、栄養バランスや摂取エネルギーを振り返る助けとなります。カロリー計算が難しい人は、食事管理アプリなども活用するとよいでしょう。
体重を測る習慣をつける
乗るだけで生活を振り返ることができ、ダイエットのモチベーションの維持に役立つのが体重計です。朝食前や夕方など同じ時間・同じ条件で体重計に乗る習慣をつけ、記録するようにしましょう。記入が面倒な人には、乗るだけでスマートフォンのアプリと連携してグラフ化してくれる体重計(体組成計)もあります。
運動は「わざわざ」よりも「ついでに」や「10分だけ」で習慣づける
忙しい毎日の中で、運動をする時間はなかなか取りにくいもの。時間の捻出が難しい人は、いつもの生活ペースを変えずにできる「ながら運動」を取り入れて習慣にしましょう。例えば、通勤しながら階段の昇り降り、歯磨きしながらかかとの上げ下げ、テレビを見ながら踏み台昇降、洗濯物を干しながらスクワットなど。デスクワーク中は、いすでストレッチ、30分に一度はコピーを取りに行くなど、様々な工夫で体に負荷をかけることができます。
また、脂肪を効果的に燃焼させるには20分以上の連続した運動が必要といわれていますが、10分程度の短時間の運動でも脂肪がエネルギー源として利用され、10分を2回、計20分の運動でも、連続して行う20分の運動と同等の減量効果が見込めることが分かっています。仕事の昼休みに、あるいは買い物ついでに速足でウォーキングするなど、ちょっとしたすき間時間を活用しましょう。
座位の時間をできるだけ減らす
座っている時間が長い人は、血流の悪化や脂質代謝の低下、血中インスリン感受性の低下などを引き起こしやすく、肥満や高血圧、糖尿病、骨粗鬆症などのリスクが高いことが分かっています。デスクワーク中心の人や長距離の運転をする人、テレビを見ている時間が長い人は、30分ごとに立ち上がって歩いたり、ストレッチなどで体を動かしたりして、座位の時間をできるだけ減らすよう心がけましょう。
ダイエットをしているのに脂肪が思うように落ちないのは、誤った食事の摂り方や生活習慣の他、体の仕組みが原因の場合もあります。結果が出ない時は焦らず基本に立ち返り、適切なダイエット法を理解した上で、長期的なスパンに立って継続していくことが大切です。自分の生活スタイルや年齢に合わせて工夫を加えていけば、無理なく習慣化することができ、将来的にも健やかな体を維持していくことができるでしょう。