「肥満は自己責任。肥満の人は自己管理能力がない、だらしない人間だ」という偏見をもっていませんか? こうした「特定の属性の人に対する負の烙印(らくいん)」のことを「スティグマ」といいます。このような誤った認識で、肥満や肥満症の人には、社会から厳しい目が向けられがちです。しかし、本当に肥満や肥満症は自己責任といえるのでしょうか? 肥満に対するスティグマについて考えてみましょう。
現代は、誰でも肥満や肥満症になる可能性がある時代です。
例えば、仕事が多忙で健康的な食事を作る時間も、運動をする時間もない人もいます。あるいは、昼夜交代勤務の仕事で生活リズムや食の環境を整えるのが難しい人、経済的事情から安価で高カロリーの食品に頼らざるを得ない人もいるでしょう。
また、どこへ行くにも車に乗らないと生活が成り立たない地域に住んでいる人、ストレスや病気、遺伝などが要因となって肥満になる人もいます。
このように様々な状況が影響し、肥満の改善が難しい事情を抱えている人も多くいるのです。それは裏を返せば、「状況次第で、誰でも肥満や肥満症になる可能性がある」ということです。
肥満の発症には遺伝子や腸内環境も関係していることが分かっています。遺伝は肥満の発症に4~6割関与しているという研究もあります。消化・吸収・代謝などに関わるホルモンの分泌量や腸内環境などは一人ひとり異なり、太りやすさには個人差があります。
このような理由から、肥満に対するスティグマをなくしていく必要があるのです。
肥満に対するスティグマには、社会からのスティグマと、自分自身が思うスティグマがあります。
●社会からのスティグマ
「肥満の人には自己管理能力がない」と周りの人が思い込み、レッテルを貼ることが問題です。例えば肥満に対する偏見から、雇用や昇進を妨げたり解雇したりするなど、就労上の不当な扱いをすること、学校などでいじめやからかいの対象にすること、医療者によるスティグマなどは、社会的な差別であることを認識する必要があります。
●自分自身に対するスティグマ
「肥満は自分の責任だから、医療によって治療する対象ではない」と思い込んでしまうことで、適切な医療を受ける機会を失ってしまうことが問題です。また、社会からのスティグマによって引きこもってしまったり、医療者のスティグマが治療の障壁になってしまったりすることがあります。社会からのスティグマは、肥満に悩む人自身がもつスティグマに影響するのです。
現在、治療薬や手術なども含め、肥満症の治療は拡充されています。肥満症に悩む人がいたら、周りの人は偏見をもたず、肥満外来や内科などの専門機関への受診や治療をすすめてください。肥満や肥満症の人の尊厳を守り、共に生きる社会をつくっていきましょう。
また、肥満症の人は決して1人で悩んだり、自分に対して負の烙印を押したりせずに、前向きに治療を受けて肥満症を改善していきましょう。
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