なぜ、内臓脂肪は命にかかわる病気を引き起こす「怖い脂肪」だといわれるのでしょうか?
それは、内臓脂肪の蓄積によって、生活習慣病が起こり、ドミノ倒しのように重篤な病を引き起こすためです。内臓脂肪が生活習慣病を引き起こすメカニズムについて解説します。
私たちの体内には脂肪細胞が300億個ほど存在し、主に皮下や腹腔に分布しています。脂肪細胞の1つひとつが、エネルギー源となる中性脂肪(トリグリセリド)を貯蔵していますが、食事で取り込まれたエネルギーが余って中性脂肪が増えると、脂肪細胞は3倍もの体積に膨れ上がります。こうして腹腔についた脂肪細胞が肥大化した状態が、内臓脂肪型肥満(りんご型肥満)です。
内臓脂肪の脂肪細胞は、ただ中性脂肪を貯蔵するだけではなく、様々な生理活性物質(ホルモンに類似した物質)を分泌する「内分泌器官」の役割をもっていることが分かってきました。
生理活性物質には、生活習慣病を招く働きがあるものと、防ぐ働きがあるものがありますが、中性脂肪が過剰に増えて肥大化した脂肪細胞からは、生活習慣病を招く物質の分泌が増加し、防ぐ物質の分泌が減少してしまうのです。
内臓脂肪がたまりすぎると
●生活習慣病を招く生理活性物質→増加する
・TNF-α(インスリンの働きを妨げ、血糖値を上げる物質)→糖尿病の引き金になる
・アンジオテンシノーゲン(血圧を上げる物質)→高血圧の引き金になる
・PAI-1(血栓をつくり動脈硬化を促進する物質)→動脈硬化、血栓の引き金になる
内臓脂肪がたまりすぎると
●生活習慣病を防ぐ生理活性物質→減少する
・レプチン(満腹中枢を刺激し食欲を抑制する物質)→食欲が治まりにくくなる
・アディポネクチン(血圧や中性脂肪を下げ、傷んだ血管を修復し動脈硬化を防ぐ物質)→動脈硬化や高血圧リスクが高まる
その結果、内臓脂肪型の肥満が生活習慣病につながってしまうというわけです。なお、生理活性物質は皮下脂肪からも分泌されていますが、その量は内臓脂肪に比べて圧倒的に少ないため、皮下脂肪型肥満(洋なし型肥満)よりも内臓脂肪型肥満(りんご型肥満)のほうが問題になるのです。
このように内臓脂肪の蓄積は、ドミノ倒しのように連鎖して病気を招いていきます。まず食後高血糖、高血圧、脂質異常などが起こり、やがて生活習慣病(糖尿病[2型]、高血圧症、脂質異常症)を連鎖させ、命にかかわる重篤な疾患へとつながっていきます。また、最近ではがんや認知症にも内臓脂肪が関係していることが分かってきました。内臓脂肪が引き起こす病気には、以下のようなものがあります。
●内臓脂肪が引き起こす主な病気
・糖尿病(2型)
インスリンが十分に働かず、血液中を流れるブドウ糖(血糖)が増えてしまう病気。放置すると神経の障害(糖尿病神経障害)、目の障害(糖尿病網膜症)、腎臓の障害(糖尿病腎症)の3大合併症を引き起こし、失明、透析、四肢切断などのリスクが高まる。
・高血圧症
血圧が高いと、血管が硬く狭くなる動脈硬化を引き起こし、脳卒中や狭心症、心筋梗塞などの危険な病気を起こしやすくなる。
・脂質異常症
血液中の脂質の値が基準値から外れて高い状態。動脈硬化を促進し、脳卒中や狭心症、心筋梗塞を引き起こす。
・非アルコール性脂肪性肝疾患
肥満や糖尿病などが原因で、肝臓に脂肪がたまった状態。肝硬変や肝がんに進行するリスクが高くなる。
・高尿酸血症、痛風
血液中の尿酸値が高くなった状態。その影響で関節内に尿酸の塊(結晶)ができ、痛みを伴うのが痛風。
・狭心症、心筋梗塞
狭心症は、心臓の筋肉(心筋)に血液を送る血管(冠動脈)が動脈硬化で細くなり、心筋への血流が減る病気。 完全に血管が詰まり、心筋細胞が壊死するのが心筋梗塞。突然死の原因になる。
・脳卒中
動脈硬化の進行によって、脳の血管が詰まったり破れたりして脳が障害を受ける。死亡リスクが高い。
・慢性腎臓病
慢性に経過する腎臓病。初期には自覚症状がなく、悪化すると透析や腎臓移植などを行う場合も。
・がん
閉経後の乳がん、大腸がん、肝がん、子宮内膜がんなどは内臓脂肪が発症に関係しているとされる。
・認知症
アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症を発症しやすくなる。
このドミノ倒しのような流れが一度始まると、後になればなるほど止めるのが困難になります。ですから内臓脂肪を減らし、このドミノを倒さないことが大変重要なのです。
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[6]肥満には市販薬もあります