暑い夏につい手が伸びる栄養ドリンクやエナジードリンク。「なんとなく…」で選んでいませんか? 栄養ドリンクは、医薬品や指定医薬部外品に分類されるクスリで、疲労回復や栄養補給などの効能が表示されています。エナジードリンクは、清涼飲料水の1つで炭酸飲料が多く、気分を切り替えたい時などに飲まれることが多いです。自分の体をよく知り、今の自分に最適な1本を選ぶことも大事な健康管理といえるでしょう。
名城大学薬学部薬学科卒業。名城大学薬学専攻科修了。1998年に医薬情報研究所株式会社エス・アイ・シー設立に参加。東京・八王子にアンテナショップとして開設した公園前薬局を運営しながら、各種データベースの作成や書籍発行に携わっている。
●「栄養ドリンク」と「エナジードリンク」の分類上の違い
栄養ドリンクは「医薬品」もしくは薬に準ずる「医薬部外品(指定医薬部外品)」に分類されているものです。疲労回復に有効な成分が配合され、商品ラベルに効能・効果の表記があり、服用量も定められています。
一方、エナジードリンクは、食品の中の「清涼飲料水」に分類されています。具体的な効能・効果の表示はなく、摂取量を制限してはいません。
●「栄養ドリンク」と「エナジードリンク」の成分の違い
栄養ドリンクには、ビタミンの他、タウリンというアミノ酸の一種や生薬、カフェインなどが配合されています。タウリンは、一般的に人のあらゆる臓器にあり、体の状態を一定に保つように働いています。
エナジードリンクは、アルギニンやカフェイン、糖類、ビタミン類などが含まれています。
「栄養ドリンク」や「エナジードリンク」に含まれる成分について、その特徴をそれぞれご紹介しましょう。
ビタミンB群:肉体疲労、眼精疲労、皮膚や粘膜ケア
ビタミンB群は糖質・脂質・タンパク質をエネルギーに換えるのに必要な栄養素で、肉体疲労や倦怠感、眼精疲労の他、皮膚や粘膜の健康をサポートします。水溶性なので調理方法によっては失われやすく、摂っているつもりでも不足していることがあります。
ビタミンC:皮膚、粘膜、血管や筋肉を正常に保つ、メラニンの色素沈着の抑制・抗酸化作用
ビタミンCは強い抗酸化作用をもち、有害な活性酸素の働きを抑えます。また、コラーゲンの生成に関与し、皮膚や粘膜を正常に保つことで感染防御を高めます。肌のシミの原因となるメラニン色素の生成を抑えるなど、日々の健康と美容をサポートしてくれる栄養素。ストレスや喫煙などによって失われるため日々摂取する必要があります。熱に弱く水溶性なので、野菜などはサラダなど生食がおすすめ。摂り過ぎても過剰分は排出されますが、腎結石のある人は過剰摂取に注意が必要です。
アミノ酸:運動直後の栄養補給・筋肉への働き
アミノ酸は体をつくるタンパク質のもとになっている栄養素で、体内への吸収が速く、仕事や運動で疲れを感じた直後の栄養補給に最適。中でも筋肉疲労を回復する働きが知られています。タンパク質の構成には20種類のアミノ酸が必須で、このうち体内で産生できないものを「必須アミノ酸」、体内で糖質や脂質から産生できるものを「非必須アミノ酸」と言います。必須アミノ酸は食事などで摂らなければならない栄養素。必須アミノ酸のBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)は、筋肉分解抑制作用と筋肉合成促進作用が期待できます。非必須アミノ酸のアスパラギン酸やアルギニンなどは、栄養ドリンクによく配合されています。
タウリン:疲労回復、肝機能強化、高血圧予防
タウリンは、タンパク質が分解される過程でできるアミノ酸に似た物質。脳や心臓、骨格筋、目の網膜や肝臓などに存在し、母乳にも多く含まれ、乳児の発達にも大切な成分です。食品ではカキやサザエなどの貝類、イカ、タコ、魚の血合いなどに多く含まれています。栄養ドリンクなどの医薬品、医薬部外品に配合されているタウリンは化学合成されたものです。
カルニチン:脂肪燃焼
カルニチンはアミノ酸由来の物質で、人のほぼ全ての細胞内に存在しています。高い抗酸化作用があり、脂質代謝を助けてエネルギーに変換する働きをします。赤身肉などに多く含まれています。
生薬:かぜ予防、疲労回復、滋養強壮
生薬は植物や動物、鉱物など、漢方薬の原料にもなるものです。「ニンジン」や「ジオウ」は、かぜ予防や栄養補給に使われます。二日酔いの予防・防止によく使われている「ウコン」は肝臓の機能を強化し、アルコールの代謝を早めるのに役立ちます。
カフェイン:中枢神経刺激作用による眠気や倦怠感の改善など
医薬部外品の栄養ドリンクではカフェインの含有量に規定があり、1日量として50mgまでとなっています。一方、食品である清涼飲料水に同様の定めはありません。カフェインの過剰摂取は中枢神経系の刺激によるめまいや心拍数の増加、不眠、下痢、吐き気などの健康被害をもたらすことがあります。医薬品、飲料、サプリメントなどを含めて、自分が1日に合計何mgを摂っているのか、過剰摂取に対する注意が必要です。参考までに、カフェインは煎茶100g中には約20mg、コーヒー100g中には約60mg(コーヒー粉末10gを熱湯150mlで浸出)が含まれています。(出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂))
日本ではカフェインの1日当たりの摂取許容量は設定されていませんが、カナダ保健省では、健康な成人は1日400mgまで、妊婦は1日300mgまで、子どもはカフェインに対する感受性が高いため、4〜6歳は1日最大45mg、7〜9歳は最大62.5mg、10〜12歳は最大85mgとされています。
1日200mg以上のカフェイン摂取を14日以上続け、次の摂取まで間隔が空いた場合に起こる頭痛は、「カフェイン離脱頭痛」の可能性があります。この頭痛は最後のカフェイン摂取後24時間以内に出現し、100mgのカフェイン摂取で1時間以内に軽快するのが特徴です。頭痛解消としてのカフェイン摂取が習慣になると、摂取量が増加する恐れがあります。正しい改善法はカフェインを完全に断つこと。離脱症状としての頭痛は、約7日で消失するとされています。
医薬品あるいは医薬部外品に分類される栄養ドリンクは、体の機能改善や不調予防のためのもので、目的に応じて効能・効果が認められた有効成分を配合しており、次のような効能・効果が表記されています。
など
栄養ドリンクのラベルには、このような具体的な効能・効果が記載されていますので、自分の不調に照らし合わせて選ぶことができます。ノンカフェインタイプもあるので、就寝前にも服用できるなどシーンや時間帯に応じて選ぶことも可能です。病中病後の体力低下時の栄養補給にも、栄養ドリンクが助けになります。選ぶのに迷った時は薬剤師や登録販売者に相談しましょう。
エナジードリンクは、炭酸やカフェインの効果で気分をシャキッとさせるタイプが中心ですが、中にはノンカフェインで、リラックス効果を特色にしたものもあります。商品によって味やパッケージに特徴があり、ライフシーンや好みで選ぶ楽しさがあります。ただし、飲み過ぎはカフェインや糖分の摂取過多になってしまうため、注意が必要です。
「栄養ドリンクもエナジードリンクも、まずは自分が何を必要としているのかをしっかり見極めて、正しく選ぶことが大切です。選ぶ際には効能・効果、そして成分表示が目安になるので、成分に対する正しい知識や理解を身につけておきましょう。例えば“疲労”も原因が違えば対処法も違ってきます。身の置き場もないような疲労感の場合は肝機能障害の可能性もあるため、病院の内科や消化器科を受診してください」と堀先生。
基本的な健康管理は1日3回の食事をバランスよく摂ること。その上で、栄養ドリンクやエナジードリンクを活用していくとよいでしょう。ただし、体質や持病の有無、服用している医薬品によって摂取に注意が必要な成分があります。分からないことがあれば薬剤師や登録販売者に聞くようにしてください。