触れ合いでリフレッシュ。心が疲れてしまった時に、セルフでできる「タッチほぐし」の方法を紹介

知らないうちにストレスがたまり、心が疲れてはいませんか? 心の疲れをためないためには、日々のケアがとても大切。古来から人の体と心を癒やす方法として伝えられてきた「触れ合い」を、生活の中に取り入れてみてはいかがでしょう? 触れ合いによって心身が整うメカニズム、触れ合いの効果や方法について、身体心理学者の山口創先生にうかがいました。

監修プロフィール
桜美林大学教授・身体心理学者・臨床発達心理士 やまぐち・はじめ 山口 創 先生

早稲田大学大学院人間化科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。専攻はポジティブ心理学、身体心理学。聖徳大学人文学部講師などを経て、現職。主な著書に『手の治癒力』、『人は皮膚から癒される』(草思社)、『愛撫・人の心に触れる力』(NHKブックス)、『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書)、『皮膚は「心」を持っていた!』『図解 脳からストレスが消える「肌セラピー」』(青春出版社)など。

「触れ合い」が制限されることによる悪影響とは?

「触れ合い」が制限されることによる悪影響とは?

体調が悪い時、背中をさすってもらうだけで、楽になることがあります。不安な時、誰かに手を握ってもらうと、勇気を得ることもあります。「触れ合い」は心身を癒やす最も本質的な方法として、また、人と人とのコミュニケーションツールとして脈々と受け継がれてきました。しかし、新型コロナウイルスの影響もあり、人と触れ合う機会が減っています。人々から「触れ合い」が失われてしまうと、どのような悪影響が起こるのでしょうか。

「今、私が一番気になっているのが、子ども、特に就学前の幼児たちへの影響です。子どもは保育園や幼稚園で先生や友だちとたくさん触れ合って、人の温かさ、距離感などを学んでいきます。子どもは触れられることで自分の存在価値を無意識に確証していくところがあり、そこが希薄になると、自己肯定感をもちにくくなる可能性があります。また、マスクをつけていると、感情の伝達もしづらくなり、コミュニケーションが制限されて、人と親しい関係を築いたりすることが難しくなってしまいます」と山口創先生。

「触れ合い」が心を解きほぐすメカニズム

「触れ合い」が心を解きほぐすメカニズム

「触れ合い」が心身の癒やしにつながるのは、なぜでしょうか? マッサージなどで皮膚に心地よい刺激を受けると、刺激が神経と脊髄を伝わり、脳が反応。それにより「オキシトシン」や「セロトニン」というホルモンが分泌されて脳内に広がり、一部は血流にのって全身へと運ばれていきます。皮膚への刺激によって分泌されるこの2つのホルモンの働きにより、私たちは癒やしを得ることができるのです。オキシトシンとセロトニンの働きは次の通りです。

「オキシトシン」や「セロトニン」というホルモンが分泌されて脳内に広がり、一部は血流にのって全身へと運ばれていきます

●オキシトシン……通称、愛情ホルモンと呼ばれる。やすらぎ感をもたらす他、ストレスを減らしたり、血圧を低下させたりする働きがある。

●セロトニン……通称、幸せホルモンと呼ばれる。落ち着きや質のよい眠りをもたらす他、やる気を増したり、自律神経を調整したりする働きがある。

「触れ合いにより、オキシトシン以外にも、サイトカインという生理活性物質が産生されることが最近の研究で分かってきました。サイトカインには様々な種類があるのですが、皮膚に触れることで分泌されるのが、免疫系を活性化させるインターロイキン7〜12です。つまり、普段からマッサージをしたり、皮膚に触れ合ったりしていると、免疫機能にもよい影響を及ぼすといえるのです。新型コロナウイルス感染症やかぜの予防にもつながるので、マッサージなどを習慣化するのはおすすめです」。

また、背中や手を撫でるだけで不安や抑うつが低下すること、喪失による悲しみを癒やすことなどが研究結果から分かっています。うれしいことに、こうした効果は自分で自分の体をほぐす“セルフマッサージ”でも得られます。セルフマッサージは、手を動かすスピードなどにより効果が異なるので、次を参考に行いましょう。

元気がない時は早めに。イライラしている時はゆっくり。

●抑うつ傾向で元気がない時……手を素早く動かす。素手で行うとよい。

●ストレス過多でイライラしている時……手をゆっくりと動かす。オイルやクリームをつけるとよい。

皮膚は「第二の脳」。皮膚が受け取った感覚は、心の状態に影響を及ぼす

皮膚は、触覚や温度感覚などを感知して脳に伝える人体最大の感覚器官で、「第二の脳」ともいわれています。触れた物の触覚が脳(心)に影響を与えることもあり、「温かい物を触ると、心も温かくなる」というのは起こり得ることなのです。

触覚を感知する神経の中で注目したいのが、「C触覚線維」です。C触覚線維が受け取った情報は、自律神経やホルモンの調節をつかさどる視床下部や、感情にかかわる扁桃体など脳の広い範囲に及ぶため、心とのつながりが特に深い神経線維といえます。

C触覚線維は毛根部に巻き付いており、皮膚に触れた時の振動による刺激を脳に伝えるのが特徴です。C触覚線維は前腕と顔に多く存在しているので、顔をハンドプレスしたり、前腕を優しく撫でさすったりするとよいでしょう。C触覚線維のもう1つの特徴として、1秒に5cm進むぐらいのゆっくりとした速度に最も反応することが分かっています。マッサージをする際は、ゆっくりとしたスピードで撫でさすることを意識してみてください。

C触覚線維は毛根部に巻き付いており、皮膚に触れた時の振動による刺激を脳に伝えるのが特徴

さらに、C触覚線維に関しては、興味深いことが分かっていると山口先生は言います。

「一般的に人間の五感は、加齢に伴って鈍くなってくるものですが、このC触覚線維による心地よさは、年齢を重ねるごとに鋭くなってくるという特徴があります。そういう意味でも、高齢の方の手を握ったり、さすったりしてあげることはとても大切なのです」。

疲れた心を解きほぐす!「タッチほぐし」の方法を紹介

疲れた心を解きほぐす!「タッチほぐし」の方法を紹介

山口先生がおすすめする「セルフタッチほぐし」は、心身を癒やすのに最適。オイルやクリームを使うことでリラックス効果が高まります。自分に思いやりの気持ちをもって、「今日も一日頑張ったね、ありがとう」と、自分をいたわる言葉をかけながら行うことも大事なポイントです。

<セルフタッチほぐしの方法>

もみほぐすマッサージとは違い、自分の体を優しく撫でさすります。1秒に5cm進むぐらいのゆっくりとした速度で動かしましょう。深い呼吸をしながら、触れた皮膚の感覚に意識を向けて行ってください。

●顔……額や頬にハンドプレスを行う。朝に行うと覚醒効果があり、夜はリラックス効果がある。

セルフタッチほぐしの方法:顔

●腕〜胸〜お腹……腕をゆっくり撫でさすった後、胸に両手を重ねてお腹に向かってゆっくり撫でさする。お腹の上にきたら、しばらくハンドプレス。

セルフタッチほぐしの方法:腕~胸~お腹

「テレビを見ながらなど何かをしながら行うのではなく、一人で目を閉じて、感覚に集中しながら行ってみてください。お風呂に浸っている時、入浴後のスキンケア時、眠る前などに行うと習慣化しやすいのではないでしょうか。また、マッサージは、誰かにやってあげることで、自分自身のオキシトシン分泌を促すことにつながります」。

セルフでできる「タッチほぐし」は、自律神経を整えてくれるので、ストレスフルな生活を送っている人や更年期症状に悩んでいる人には特におすすめです。疲れた心身のケアに、今日から取り入れてみてはいかがでしょう。


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