熱中症は、体温が著しく上昇して体温調節機能が働かなくなり、体内の水分や塩分のバランスが崩れることで起こる、めまいや吐き気、頭痛、けいれんなどの様々な症状の総称です。熱中症は適切な処置を行わずに重症化すると死に至る危険さえあります。熱中症になりやすい状況や注意が必要な人、対策を知り、熱中症を疑われる症状が見られたら、速やかに適切な対応を行うことが大切です。
自治医科大学大学院医学研究科修了。日本消化器病学会認定専門医、日本ヘリコバクター学会ピロリ菌感染症認定医、日本抗加齢医学会専門医、米国消化器病学会国際会員。『新しい腸の教科書』(池田書店)他著書多数。
熱中症は、高温多湿、風が弱い、日射しが強い日に多く発症します。また、夏の初め、梅雨の合間で突然気温が上昇した日など、まだ体が暑さに適応できていない状況で起こることもあります。こうした環境にかぜや疲労、睡眠不足や下痢などの体調不良が重なることでもかかりやすくなります。
近年は節約意識の高まりから冷房の使用を我慢する人が増え、高温多湿による熱中症も増えています。特に高齢者は室内で熱中症にかかる人も少なくありません。
人間は熱に弱い脳や体を守り、暑さや運動によって深部体温が過度に上昇するのを防ぐため、自律神経が指令を出す2つの体温調節システムが備わっています。しかし、暑さや体調、持病などによりこれらの体温調節システムが上手く働かないと熱中症にかかりやすくなります。
速やかに周囲の人に協力してもらい、次のような手順で応急処置を行います。
重症度Ⅲの場合は、すぐに救急隊を呼びましょう。救急隊が到着するまでの間も、応急処置を行います。体温が異常に高くなって様々な障害が出ていることが考えられますから、一刻も早く対応が重要です。また、自分で水分補給ができない場合に無理に水分を与えようとすると、気道に水が流れ込む可能性があるので避けましょう。
熱中症は適切な予防法を知っていれば十分に防ぐことができます。熱中症予防のポイントは以下です。
熱中症予防では、麻や綿など通気性のよい生地を使った衣類、速乾性や吸水性にすぐれた素材の下着などを身につけることで体の熱を逃がすのもよいでしょう。熱中症対策グッズとしてネッククーラーや冷感タオルなど、様々なグッズが販売されているので、これらを利用してみるのもおすすめです。
暑くて寝苦しければ十分な睡眠をとることができずに体力の低下を招き、日中ばかりでなく睡眠中に熱中症となる場合もあります。快適な睡眠をとるために、エアコンや扇風機を使うことはもちろん、通気性や吸水性のよい寝具を使い、睡眠環境を整えましょう。
運動をする時は筋肉で大量の熱が発生するため、気温があまり高くなくても、短時間の運動でも、熱中症の危険度が高くなります。屋外で直射日光を浴びると、輻射熱(ふくしゃねつ)によって気温以上の暑さに見舞われます。閉め切った体育館も気温、湿度共に高くなっているので要注意。運動をする時は環境条件を把握し、以下「熱中症予防のための運動指針」を目安に運動や水分補給を行うことが大切です。暑さに体が慣れていない「急に暑くなった日」や「休み明けの運動」でも熱中症は多く発症するので、注意しましょう。
熱中症予防のための運動指針
WBGT(暑さ指数) | 湿球温度 | 乾球温度(気温) | 熱中症予防運動指針 |
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31℃以上 | 27℃以上 | 35℃以上 | 運動は原則中止:特別の場合以外は運動を中止する。特に子どもの場合には中止すべき。 |
28~31℃ | 24~27℃ | 31~35℃ | 厳重警戒(激しい運動は中止):熱中症の危険性が高いので、激しい運動や持久走など体温が上昇しやすい運動は避ける。10~20分おきに休憩をとり水分・塩分を補給する。暑さに弱い人※は運動を軽減または中止。 |
25~28℃ | 21~24℃ | 28~31℃ | 警戒(積極的に休息):熱中症の危険が増すので、積極的に休息をとり適宜、水分・塩分を補給する。激しい運動では、30分おきくらいに休息をとる。 |
21~25℃ | 18~21℃ | 24~28℃ | 注意(積極的に水分補給):熱中症による死亡事故が発生する可能性がある。熱中症の兆候に注意するとともに、運動の合間に積極的に水分・塩分を補給する。 |
21℃未満 | 18℃未満 | 24℃未満 | ほぼ安全(適宜水分補給):通常は熱中症の危険は小さいが、適宜水分・塩分の補給は必要である。市民マラソンなどではこの条件でも熱中症が発生するので注意。 |
(出典)公益財団法人 日本スポーツ協会 熱中症予防運動指針
1)環境条件の評価にはWBGT(暑さ指数とも言われる)の使用が望ましい。
2)乾球温度(気温)を用いる場合には、湿度に注意する。湿度が高ければ、1ランク厳しい環境条件の運動指針を適用する。
3)熱中症の発症のリスクは個人差が大きく、運動強度も大きく関係する。運動指針は平均的な目安であり、スポーツ現場では個人差や競技特性に配慮する。
※暑さに弱い人:体力の低い人、肥満の人や暑さに慣れていない人など。