「更年期」とは女性ホルモン「エストロゲン」の分泌量が低下する、閉経の前後10年間を指します。日本人の閉経平均年齢は50.5歳。個人差がありますが、40代半ばから50代半ばが更年期にあたります。
更年期には「エストロゲン」分泌量の低下に伴い、のぼせやイライラ、不眠、肩こりなど様々な症状が現れます。症状の出方や重症度にも個人差があり、中でも日常生活に支障を来すほど症状が重い状態を「更年期障害」と呼びます。更年期を正しく理解し、対策をとることは、更年期を快適に過ごすだけでなく、その後の人生のQOL(生活の質)の維持・向上につながります。
1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。北里大学薬学部非常勤教員。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。
卵巣から分泌される女性ホルモン「エストロゲン」は、感情、骨、皮膚、関節、筋肉、血管、胃腸、脳など、女性の心と体を包み込むように支えています。けれども「アラフォー」と呼ばれる年代になると、卵巣機能が徐々に低下することにより次第にエストロゲンの分泌量は減少し、閉経前の45歳頃から分泌量は急カーブで低下。閉経後にはほとんど分泌されなくなります。これにより、様々な不定愁訴が起きやすくなり、更年期障害になります。
更年期障害は女性ホルモンの低下だけではなく、女性ホルモンをコントロールする脳の視床下部、自律神経のバランスの乱れによっても起こります。
更年期には、卵巣の機能が低下し、女性ホルモンの分泌量が減少します。すると、卵巣からもっと女性ホルモンを分泌させようと、脳はさらにホルモン分泌の指令を出し続けます。それでも卵巣は女性ホルモンを分泌しないため、視床下部はパニックを起こしてしまうのです。
視床下部は、自律神経の中枢でもあるので、自律神経のバランスも乱れ、のぼせや発汗、動悸などの更年期障害の症状が現れやすくなるのです。
更年期にあたる時期は、親の介護、子どもの受験や自立、自分やパートナーの働き方の変化など、環境的な要因によってストレスを抱えやすい時期であり、もともとの性格や体質とも絡み合って、更年期障害の症状が強く出ることがあります。また、更年期は「つらい」というマイナスイメージや知識不足による不安が症状を悪化させるケースもあります。
卵巣機能の低下によって、月経周期や月経量にも次のような変化が現れます。個人差はありますが、まず通常より月経の間隔が短くなり、その後、間隔が開き、閉経を迎えるというパターンが多く見られます。そして、振り返って1年間月経がないと、1年前に閉経を迎えたということになります。
卵巣機能の低下により、主に以下のような更年期症状が現れやすくなります。しかし個人差があり、このような多くの症状が必ず起こるわけでもないし、こうした症状が現れても、誰もが日常生活に支障が出るほどの「更年期障害」に悩まされるわけでもありません。
また、関節痛や筋肉痛、手・指のこわばりなどが見られることもあります。
女性ホルモン「エストロゲン」には、血管をやわらかく保ち、動脈硬化や内臓脂肪の蓄積を抑制する働きもあり、男性より生活習慣病の発症が抑えられていました。しかし、こうしたエストロゲンの恩恵を受けられなくなる閉経以降は、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病にかかる可能性が増すことをしっかり受け止め、これまで以上に生活習慣に配慮しましょう。
更年期障害による不定愁訴は、漠然とした違和感に始まり、本人だけが感じる自覚症状なので、周囲には分かりにくいものです。症状がつらい場合は、QOLを落とすことになりかねないため、一人で悩まず早期に婦人科で相談し、我慢しないで薬を上手に活用するとよいでしょう。また、更年期障害と思われる症状でも、実は別の疾患が原因の場合もあるので、「更年期だから仕方ない…」と自己判断するのは禁物です。一般的には次のような治療法があります。
漢方薬 | 当帰芍薬散 | 加味逍遙散 | 桂枝茯苓丸 |
---|---|---|---|
体質 | 冷え症、瘦せ型 | 冷えのぼせ、中肉中背 | 暑がり、ポッチャリ型 |
症状 | 四肢末端の冷え、浮腫 | イライラ、不眠 | 発汗、体重の増加 |
更年期障害は女性であれば誰もが経験する可能性があります。思い悩まず、正しい知識をもって、症状がつらくなる前に対策を講じる姿勢をもちましょう。
普段から規則正しい食事や適度な運動、ストレス解消などを心がけ、更年期を迎える準備をすることが予防につながります。自分の心と体の状態に気を配り、自己治癒力を高め、適切な対策をとることは更年期障害だけでなく、様々な疾患の予防や早期発見にもつながります。
更年期世代の女性は、様々な症状が心身に現れるため、症状によって内科や心療内科、整形外科など、複数の医療機関を受診するケースが多く見られます。しかし受診した医師に更年期の視点がないと、症状が改善しないまま複数科受診を重ねてしまい、患者の負担はもちろんのこと、日本の医療費の損失にもつながることが指摘されています。40代半ばから50代半ば頃に、上記のような更年期症状が現れたら、女性ホルモンの変動による更年期症状かもしれないと理解し、まずは婦人科医に相談してみることをおすすめします。別の疾患の可能性がある場合は、婦人科医から適切な専門医を紹介してもらえるでしょう。