分かってもらえない、この疲れ もしかして「更年期疲労」?

もしかして「更年期疲労」?

気になるその疲れは、更年期症状の1つかもしれません。疲れぐらいと一人で抱えこまず、周囲の理解も得ながら適切にケアしていきましょう。

監修プロフィール
静風荘病院 特別顧問 あまの・けいこ 天野 惠子 先生

日本の「性差医療」研究の草分けとして普及に努め、鹿児島大学及び千葉県にて、性差に基づく女性医療の実践の場として女性外来を立ち上げ、治療に当たる。日本性差医学・医療学会理事。

Introduction.更年期に一番多い不調は「疲れやすい」

一般的には45~55歳頃が女性の「更年期」にあたります。この時期は、閉経に向かって女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が不安定になったり、閉経後に大幅に減少したりすることにより、心身に不調が現れやすくなります。更年期外来を受診した患者の症状を調査した下記のデータによれば、一番多い症状は「疲れやすい」。「疲れ」は、更年期以外でも起こる身近な症状のため、更年期症状として自覚しにくい一面があります。

更年期外来を受診した患者の初診時の訴え

Q1 更年期に疲れやすくなるのは、なぜ?

A1 自律神経失調による「血行不良」が疲れを引き起こしています。

更年期女性の約7割が、「疲れやすい」「だるい」といった症状を抱えています。この「更年期疲労」の原因はまだ明確になっていませんが、自律神経の乱れから「血行不良」が起こり、臓器の機能や体温の低下、睡眠の質の低下などが重なって起こると考えられます。
では、更年期になぜ自律神経が乱れるのでしょう。それは、女性ホルモン分泌の指令を出している脳の「視床下部」が、自律神経もコントロールしているから。更年期に女性ホルモンの分泌が急減すると、その変化によって視床下部に乱れが生じ、自律神経への指令にも影響を及ぼしてしまうのです。
更年期の疲労は、休息をとればすっきりと回復する一般的な疲労とは違い、疲れが四六時中抜けないような状態になります。すぐに疲れやすい、体が思うように動かないといった症状を訴える人もいます。
ただし、こうした疲労感や倦怠感は何らかの病気の始まりにも見られるものなので、気になる疲労感が現れるようになったら、まずは病気の可能性を疑うことが大切です(下記コラム参照)。

更年期の疲れは、自律神経の乱れが原因

column:「更年期疲労」と間違いやすい病気

疲労感をおぼえる女性の病気として最も多く見られるのが、貧血や甲状腺疾患(橋本病・バセドウ病)です。その他、下記に挙げているような病気でも、疲労感や倦怠感を伴います。女性の更年期は、体を守ってくれていたエストロゲンが減少し、病気が増えてくる年代。体に不調が現れたら、病院やクリニックで個別検診を受け、全身をくまなく検査するようにしましょう。

貧血 主に鉄不足から、疲れや肩こり、めまい、顔色の変化や爪が割れるなどのトラブルが起こる。
甲状腺疾患 橋本病とバセドウ病が代表的な疾患。免疫機能の異常により起こる自己免疫疾患。
副腎疲労 ストレスが原因で副腎が疲労。抗ストレスホルモンが分泌できず疲労感が現れる。
肝臓の病気 急性肝炎や慢性肝炎でも疲労感や倦怠感が現れる。黄疸の症状が現れることも。
腎臓の病気 腎臓病の中で最も多い慢性腎炎でも倦怠感が現れる。血尿やむくみなどの症状も。
慢性疲労症候群 確たる原因がまだ分かっていないが、寝込んでしまうほどの疲労感が半年以上続く。

Q2 疲労感に加え、何となく やる気も起きないのですが・・・

A2 更年期に起こりやすい「抑うつ※」症状の可能性があります。

身体的な疲労感だけでなく、気力がわかなかったり、憂鬱な気分が抜けなかったりするのは、更年期特有の「抑うつ」症状の可能性があります。これも女性ホルモンのエストロゲンが関係しています。エストロゲンには、幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」の分泌量を増やす働きがあり、エストロゲンが減少すると、セロトニンの分泌量も減少。ここにストレスなどが加わると、抑うつ症状が起きやすくなるのです。
抑うつ症状の緩和・改善には、漢方薬が有効です。よく用いられるのが、「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」。抑うつ症状を訴える人によく見られる、のどの違和感の改善も期待できます。女性外来を受診し、医師に相談してみてください。
気をつけなければいけないのが、更年期の抑うつ症状は、「うつ病」と見分けがつきにくい点です。自殺願望がある、感情が動かない、不眠が続くなどの場合は、うつ病の可能性が大。この場合は、女性外来ではなく、精神科を受診してください。

※「抑うつ」とは、何となく気分が晴れない、気分が落ち込むといった心の状態をいう

ウォーキングで体を動かすことは、抑うつ症状の改善に有効

Q3 40代後半、この不調はまだまだ続くの?

A3 更年期の後半になるとまた違う不調が現れる可能性があります。

更年期に現れる症状は、閉経の前後で変わります。
閉経前の40代半ばからの「早い時期に見られる症状」は、エストロゲンの低下から、血管の収縮や拡張をコントロールする自律神経が乱れることによって起こるもの。代表的な症状として、疲労感やホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)が挙げられます。家庭や職場などでもストレスが生じやすい年代であるため、ストレスが加わることで抑うつ症状なども起きやすいのです。
一方、閉経後の50代半ばからの「遅い時期に見られる症状」は、エストロゲンの分泌がなくなることにより起こるもので、関節痛や性交痛などの症状の他、骨粗鬆症や生活習慣病にも注意が必要になってきます。
「更年期」が訪れるタイミングは人によって様々です。更年期の症状が現れたら、それを適切にケアすると共に、今後起こり得る症状についても知識をもち、対応していく心構えが必要です。100年人生における更年期は、後半の人生に向けての体づくりをする時期。血管や骨、筋肉を若々しく保つための知識を貪欲に吸収し、実行していってください。

更年期の不調の変化

Q4 「更年期疲労」は、病院で治療できるの?

A4 漢方薬やホルモン補充療法で治療すれば症状は改善できます。

病院での治療が必要なほど深刻な更年期症状を抱えている人は10人中4人程度もいるとされます。しかし実際に、女性外来などを訪れ、治療を受けている人はそれほど多くありません。
更年期症状の治療法には、漢方薬とホルモン補充療法(HRT)があり、更年期疲労の場合は大抵、まず漢方薬で治療を行い、効果がなかった場合にHRTを行います。
漢方薬のよいところは、体質や症状に合ったオーダーメイドの処方ができる点と、自然治癒力を引き出し、根本的に治していく点です。さらに、女性の生殖にまつわる不調、抑うつやイライラなどの精神症状は漢方の得意分野です。
一方、HRTが最も効果を発揮するのは、ホットフラッシュや初期の不眠症状です。近年では、体に貼るパッチや、皮膚に塗るジェルなど様々なタイプが登場し、使いやすくなっているのも特徴です。
このように、更年期症状は治療によって緩和・改善が可能です。つらい症状が現れたら躊躇せず、女性外来などで治療を受けるようにしてください。

更年期症状に用いられる三大漢方薬

●当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)…冷えやすく、体力がない人に用いられる。
●桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)…体力があり、のぼせがある人に用いられる。
●加味逍遙散(かみしょうようさん)…肩こりや精神不安などがある人に用いられる。

更年期症状に用いられる三大漢方薬

Q5 更年期疲労のつらさを、夫や家族に分かってもらうには?

A5 パートナーと一緒に女性外来へ。無関心ではいられなくなるはずです。

更年期症状がつらくても我慢している女性は少なくありません。そういう人は意外と更年期に対する知識が浅く、今起こっている症状が、抗いようのない加齢変化だということを知らなかったりします。女性なら誰もが訪れる「更年期」ですから、もっと関心をもち、どのような症状が現れるか、どのような対処法や治療法があるかを学ぶことは必須です。
そして、その学びはパートナーや家族、あるいは職場の人とも共有していってください。更年期疲労で家事ができなかったり、何となくイライラしていたりする理由を知ってもらうべきなのです。更年期症状で女性外来などを受診する時は、パートナーや家族と一緒に行くことをおすすめします。女性特有の「更年期」への理解が一歩進むはずです。

Q6 更年期疲労を改善するセルフケアは?

A6 体を温めて血行をよくしましょう。それには入浴が一番です。

更年期症状の改善には、血行をよくすることが重要なポイントになります。最も手軽に血行をよくする方法が、入浴。じんわりと汗をかくくらいのお湯に浸かり、しっかり体を温めましょう。夜に入浴する場合は、寝る1時間半前には入ること。入浴で上がった体温が自然と下がり、眠りにつきやすくなります。
更年期に乱れがちな自律神経を整えることも大切です。その基本は早寝・早起き。夜は22〜0時に寝て、朝は5〜6時に起床するのが理想です。夜なかなか眠れないという人は、まず起床時間を一定にすることから始めてみてください。そして、起きたら太陽の光を浴びましょう。体内時計がリセットされ、睡眠リズムが整います。
運動は、ヨガやストレッチ、ウォーキングなど、自分ができる運動でよいので習慣にしていきましょう。血行改善はもちろん、更年期に衰えがちな骨や筋肉の健康維持に役立ちます。

doctor's voice

更年期のつらさを助ける方法はいくつもあります。知識や情報を得て、行動していってください。


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