「ヘルペス」とは、小さなみずぶくれが集まってできる皮膚疾患で、一般にヘルペスウイルスによる感染症のことを言います。人に感染するヘルペスウイルスは8種類あり、それぞれ感染力が非常に強く、体の皮膚や粘膜のどこにでも感染します。症状が現れる部位や現れ方によって、「口唇ヘルペス」や「性器ヘルペス」、「帯状疱疹」などと呼び分けられています。ヘルペスが他の感染症と大きく異なる点は、一度感染すると、ウイルスが神経節の中に潜伏して生き延びること。そのため、症状が治まったとしても、免疫力が弱くなった時などに再発します。
1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。藤田医科大学医学部名誉教授。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。
主に顔や口唇に症状が現れるヘルペスは、単純ヘルペスウイルス1型が原因になります。このウイルスは顔の三叉神経節に潜み、上半身に発症するのが特徴。単純ヘルペスウイルスによる感染症の中で最も患者数が多いのが、唇や口の周りに水ぶくれができる「口唇ヘルペス」。他に同じウイルスが原因となって、角膜炎や歯肉口内炎、咽頭炎、まれにヘルペス脳炎などを引き起こします。
性器に症状が現れる「性器ヘルペス」は、主に単純ヘルペスウイルス2型が原因になります。このウイルスは腰にある腰仙髄神経節に潜むため、下半身に発症するのが特徴。性器の他に、お尻や大腿部、肛門周辺に症状が現れることもあります。最近では、口唇ヘルペスを発症している人とのオーラルセックスで初感染する単純ヘルペスウイルス1型の性器ヘルペスもあります。
「水ぼうそう」や「帯状疱疹」は、ヘルペスウイルスの1つである「水痘・帯状疱疹ウイルス」に感染して起こります。通常、1〜5歳頃に「水ぼうそう」という形で初感染し、年月を経て大人になってから「帯状疱疹」として再発します。発疹が神経に沿って帯状に出るところから「帯状疱疹」といわれています。特に多いのが胸からおなか、背中などの胸髄神経節と、顔面の三叉神経節の領域です。
帯状疱疹は、他の人に帯状疱疹として感染することはありません。けれども、水ぼうそうに一度もかかったことのない人には、水ぼうそうとしてうつる可能性があります。
水ぼうそうは、患者の咳やくしゃみに含まれるウイルスを吸い込むことで感染(飛沫感染・空気感染)、あるいは、水ぶくれに触れることで感染(接触感染)しますが、帯状疱疹は飛沫感染・空気感染はまれで、接触感染です。
その他、生後半年~2歳の子どもの「突発性発疹」はヒトヘルペスウイルス6型と7型の初感染、「カポジ肉腫」が起こるヒトヘルペスウイルス8型などがあります。
水疱が破れて びらん化したもの
昔は幼少期、親子や祖父母と孫など家族間でほおずりやキスをして感染するケースが多く、ほとんどの人が1~4歳までに感染していました。ところが最近は、核家族化や衛生面の改善などによって抗体保有率が低くなっています。幼少期に一度感染するとウイルスに対する抗体ができるため、大人になって再発しても軽症で済むケースがほとんどです。一方、大人になって初めて感染すると、重症化しやすい傾向があります。
現在の治療法では、神経節の中に入り込んだヘルペスウイルスを取り除くことはできませんが、適切な治療により、ヘルペスの症状の悪化を抑えて再発を軽症化することができます。処置が早いほど症状は軽く回復も早まりますので、チクチク、ピリピリといった再発の前兆が現れたらすぐに皮膚科や耳鼻咽喉科を受診しましょう。治療は、ヘルペスウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬を基本として、症状により抗生物質や鎮痛剤、ビタミン剤を使用する場合もあります。抗ウイルス薬は数種あり、症状の程度によって使い分けられます。症状の悪化を防ぐためには、患部を清潔に保ち、強い紫外線を避け、十分な休養を。炎症を悪化させるアルコールは控えましょう。
ヘルペスの原因である水痘ウイルスに対して、水痘ワクチンが有効です。免疫力が低下している方、帯状疱疹を繰り返す方など、予防的に水痘ワクチンを接種することで、重症化を防ぐことができます。
単純ヘルペスの発症時にできる水ぶくれの中には膨大な数のウイルスがいるため、人から人、またはウイルスが付着した物から人への接触感染によって、非常に感染しやすいことも特徴です。特に皮膚に傷や湿疹ができていたり、抵抗力が落ちていたりする人がウイルスに接触すると感染する率は高くなります。症状が出ている時は特に、他人への感染を予防するために次のことを心がけましょう。
ヘルペスウイルスは、他のウイルス性の病気と異なり、一度感染すると症状がなくなった後もウイルスが神経節の中にじっと潜み、免疫力が弱まった時に症状が再び現れます。口唇ヘルペスの再発頻度は平均年約2回。2型の性器ヘルペスでは女性で平均年7回、男性で平均年12回と頻繁に繰り返すのが特徴です。再発してもやがて自然に治りますが、症状が悪化してウイルスが極端に増殖すると再発頻度が高くなり、症状も重くなります。また、再発を繰り返すと水ぶくれの部分がただれて痕が残ってしまうことがあるので、早めにケアを行うことが大切です。
主にストレスや疲労、睡眠不足、発熱などがヘルペス再発のきっかけになりますが、次のようなことで免疫力が低下した時にも再発しやすくなるので注意しましょう。
口唇ヘルペスの場合は、病院でも処方されている外用の抗ウイルス薬が市販されています。ただし、過去に病院で口唇ヘルペスと診断されたことがあり、同じ症状である場合に限り使用が可能な再発治療薬です。購入の際には、薬剤師から使い方や副作用など、服用に関する説明を受けてください。唇やその周辺にピリピリ、チクチクとした再発の兆しが現れたらすぐに塗布を開始することがポイントです。
症状が出ている範囲が広い場合や、5日間使用しても症状が改善されない場合は使用を中止し、受診するようにしましょう。
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能が壊れてしまっている状態。炎症がある時はウイルスへの感染も起こしやすくなっています。アトピーの湿疹ができている皮膚にヘルペスウイルスが感染すると、水ぶくれが広がり、高熱やリンパ節の腫れを伴う「カポジ水痘様発疹症」を起こすこともあります。ヘルペスをアトピー性皮膚炎の湿疹の悪化だと思い込んでステロイド剤を使用してしまうとかえって悪化するので、自己判断せず、早期に受診しましょう。