毛髪の量や髪形は、相手に与える印象を大きく左右するものです。それゆえ、抜け毛が増えて悩んでいる方や脱毛による薄毛に悩んでいる方が多いのでしょう。日本人の髪の平均本数は約10万本。1日に自然と抜ける髪は70〜80本程度といわれています。1本の髪は、初期成長期・成長期、退行期、休止期というサイクルを通常2〜6年かけて繰り返し、生え変わっていきます。若い頃は約85~90%が成長期の髪ですが、加齢や何らかの理由でこのサイクルが乱れると、抜け毛が増えたり、脱毛が起こったりします。
1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。北里大学薬学部非常勤教員。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。
毛髪は、頭皮内を「毛根」、頭皮から出ている部分を「毛幹(もうかん)」といいます。毛根を包む「毛包(もうほう)」は髪を産生する役割を担い、その根っこにある「毛球(もうきゅう)」の奥には、「毛乳頭(もうにゅうとう)」があります。この毛乳頭の毛細血管から「毛母細胞」に十分に栄養が行きわたると、毛母細胞の細胞分裂が活発化し、髪の成長が促進されます。
そして、20~30代以降の世代で最も多いのが、「壮年性脱毛症」とも言われる男性型脱毛症(AGA)。一般的には遺伝性の薄毛または抜け毛のことを言います。
加齢と共に自然と毛髪量は減っていきますが、男性の場合、早ければ10代後半から額の生え際が後退し始めたり、頭頂部が薄くなったりする症状が見られる場合があります。これが、主に男性ホルモンの働きが関係する「壮年性脱毛症」と呼ばれるものです。
毛髪の成長は毛乳頭からの指令によってコントロールされていますが、血液中を流れる男性ホルモンの「テストステロン」が毛乳頭に入り込むと、毛乳頭内の酵素の働きによって「ジヒドロテストステロン」という強力な男性ホルモンに変換されます。ジヒドロテストステロンには毛髪の正常な成長を妨げる作用があり、軟毛化や脱毛を引き起こします。
ただし、血液中の男性ホルモンの量が多い人ほど症状が起こるわけではなく、毛乳頭にある男性ホルモンを受け入れるレセプター(受容体)の感受性の高い人がなりやすく、遺伝的な要素が関連すると考えられています。
壮年性脱毛症には、ストレスや食生活などの生活習慣も複雑に関係しており、日本人男性では、3人に1人が薄毛に悩んでいるといわれています。
女性は40歳を過ぎると、髪が全体的にボリュームダウンする人が増えてきます。その原因の1つがホルモンバランスの変化です。女性ホルモンの「プロゲステロン」は太くて長い髪が育つように成長を支え、「エストロゲン」のほうは髪のツヤやハリ、頭皮の血行や弾力性を高める働きをしているので、この2つの女性ホルモンが減少し始める30代後半くらいから、髪のツヤやハリは徐々に失われ、髪の質感が変化してきたと感じるようになってしまうのです。
女性ホルモンが減少してくると顕著になるのが男性ホルモンの影響です。微量ながら女性にも分泌されている男性ホルモンによって髪の成長が妨げられてしまうので、女性の男性型脱毛症(壮年性脱毛症)といわれています。
女性の壮年性脱毛症のタイプ
毛髪の薄毛や脱毛の症状は、「壮年性脱毛症」のほかに、ストレスが誘引とされる「円形脱毛症」、自己免疫疾患の1つである「皮膚エリテマトーデス」、ポニーテールなどのヘアスタイルで髪の毛を強く引っ張ることで起こる「牽引性脱毛症」などにもみられます。脱毛のしかたもそれぞれ異なり、例えば「壮年性脱毛症」では抜け毛が増えて新しく生える毛髪量が減ることで徐々に薄毛や脱毛の状態になるのに対し、髪が抜けた場所から急に新しい毛髪が生えてこなくなってしまう「円形脱毛症」のような脱毛のしかたもあります。「皮膚エリテマトーデス」は毛髪が斑状に脱毛する傾向、「牽引性脱毛症」は徐々に引っ張っていた箇所が薄くなっていくのが特徴です。
髪は頭皮の奥深くでつくられ、成長していくので、髪にとって頭皮は畑のようなもの。丈夫で健康な髪を育てるためには、頭皮は良好な状態である必要があります。そのために大切なのは、頭皮を清潔に保つことです。フケの増加やかゆみ、炎症がある場合は、正しい洗髪で頭皮の環境を整えましょう。
ただし、洗い過ぎは禁物です。頭皮や髪を覆っている皮脂が減り過ぎて、頭皮の乾燥を進行させてしまいます。また、皮脂を補おうと分泌が過剰になってしまうこともあるので、頭皮の状態をチェックしてから洗髪するようにしましょう。
乾燥が気になる場合は、洗浄力が弱いシャンプーに変える、洗髪後にローションなどで保湿するといった対策も有効です。
抜け毛や薄毛・脱毛が気になったら、市販の発毛剤を使うのもよいでしょう。毛髪が細くなり、ハリやコシがなくなってきたら早めに使用することが大切です。
発毛成分「ミノキシジル」は、壮年性脱毛症の進行を予防したり、発毛させたりする効果が実証されており、ミノキシジルを配合した発毛剤が市販されています。ミノキシジル配合の発毛剤には、ミノキシジル濃度が1%と5%の製品があります。男性の場合はどちらの濃度の製品も使用できますが、女性の場合はミノキシジル1%の製品のみ市販されています。どちらのミノキシジル濃度のタイプがよいかは、薄毛や脱毛の進行状況などを目安に選ぶとよいでしょう。
ミノキシジル配合の発毛剤は、第1類医薬品として市販され、薬剤師による説明を受けたうえで購入することができます。
頭皮や毛髪の健康には、健やかな生活習慣が欠かせません。特に重要なのが睡眠です。睡眠不足は自律神経を乱すため血流が悪化し、それが毛髪の成長に悪影響を及ぼしてしまいます。
もちろん食事も大切です。髪のもととなるタンパク質、毛髪の成長を促し健康に保つ働きがある亜鉛や鉄、銅などのミネラルをしっかり摂りましょう。こうした栄養素を食事でうまく摂れない時は、サプリメントを活用するのも一案です。
また、髪の健康は生活習慣と深い関わりがあります。次のような生活習慣は、髪の成長サイクルを乱し、抜け毛を増やし脱毛を進行させてしまう要因となってしまうので、注意が必要です。
髪の栄養となるタンパク質やビタミン、ミネラル(特に鉄や亜鉛、銅)などが不足してくると、毛根は栄養不足になる。そのため過度なダイエットを行うと、髪は細くなり、抜けやすくなる。
ストレスや睡眠不足は自律神経を乱す。それによって血行が悪くなり、毛母細胞に栄養が届かなくなる。
喫煙はビタミンやミネラルを消耗したり、毛細血管の血行を悪くしたりするので、髪の成長を妨げる。
髪を形成するタンパク質やキューティクル、線維が壊れやすくなり、そのダメージによって毛髪が弱くなり、抜け毛につながる。
シャンプーを過剰に行うと頭皮の保護膜である皮脂を洗い流してしまい、髪の成長を妨げる。頭皮から分泌される皮脂は徐々に毛髪に広がり、乾燥や刺激から守る天然のコーティング剤としての役割を果たしているのである。
頭皮の血流が悪くなると、頭皮が乾燥しやすくなったり、毛髪が抜けやすくなったりすることが明らかになっています。また、毛根全体にまで栄養分が十分に届きにくくなり、毛髪の生成や成長にも影響します。
そこで、健康で丈夫な毛髪を維持するためにも頭皮をマッサージして、血行を促すのが効果的。入浴中に行うなど、毎日の習慣に組み込むとよいでしょう。
マッサージは強く押し過ぎると、かえって頭皮を傷めてしまいます。指の腹を使って、気持ちよいと感じる程度の力で適度に行うようにしましょう。
頭皮や毛髪にダメージを与えないために、ヘアケアでは次のことに注意しましょう。
頭頂部から毛先まで数回に分けて軽くとかす。乱暴にとかすと頭皮を傷つける他、毛髪のキューティクルがはがれ、切れ毛や枝毛になりやすい。
かけ過ぎは頭皮への刺激や毛髪の乾燥の原因になる。ドライヤーは頭皮から15cm以上離してかける。
毛髪への負担が大きいため、両方行う場合は1週間以上期間を空ける。カラーリング剤を使用する場合は、アレルギーによる頭皮のかぶれにも注意する。