甲状腺疾患

甲状腺疾患

甲状腺疾患の患者は全国に500〜700万人いるとされ、特に女性に多く見られます。甲状腺疾患の代表的な疾患としては「バセドウ病」と「橋本病」があり、いずれも免疫機能の異常によって誤って自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患です。甲状腺疾患は新陳代謝を促す甲状腺ホルモンの分泌量に異常を来すため、のどにある甲状腺が腫れる他、代謝に関わる様々な症状が現れます。

監修プロフィール
対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座・新宿理事長 つしま・るりこ 対馬 ルリ子 先生

産婦人科医・医学博士。1984年弘前大学医学部卒業後、東京大学医学部産婦人科学教室助手、東京都立墨東病院総合周産期センター産婦人科医長などを経て、2002年に「ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック」を開院。女性のための総合医療を実現するためにNPO法人「女性医療ネットワーク」を設立(現理事長)。様々な情報提供、啓発活動、政策提言などを行っている。

甲状腺疾患について知る


甲状腺疾患の原因

甲状腺ホルモンの分泌量に異常が起こり甲状腺疾患を発症する

甲状腺は、のどぼとけのすぐ下にある、蝶が羽を広げたような形の器官で、体全体の新陳代謝を促す甲状腺ホルモンを分泌しています。血液中の甲状腺ホルモン量は一定に保たれるようコントロールされていますが、甲状腺ホルモンの分泌量が過剰になったり、逆に減少したりすることがあります。いずれも免疫機能に異常が起こり、自分の甲状腺を攻撃する自己抗体が増殖してしまうためですが、このような反応が起こる原因についてはよく分かっていません。

甲状腺

代表的な甲状腺疾患は「バセドウ病」と「橋本病」

女性に多い甲状腺の病気―バセドウ病や橋本病は、同じ自己免疫異常の仲間です。

甲状腺が刺激され、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態を「甲状腺機能亢進症」といい、抗体が甲状腺を刺激した結果、亢進症状が出るのが「バセドウ病」です。逆に甲状腺の組織が壊されてしまい、分泌量が低下する状態を「甲状腺機能低下症」といい、これが中高年女性に多い「橋本病」です。

いずれも圧倒的に女性に多いのが特徴で、バセドウ病は20〜40代に、橋本病は50代以上によく見られます。女性にとって体質的な弱さともいえます。女性ホルモンの変動に関係するので、妊娠前や産後、更年期に注意しましょう。

また、身内に甲状腺疾患が多い人は、若い時から定期的に検査を受けましょう。甲状腺疾患の検査は会社や自治体の健康診断、人間ドックの検査項目には含まれていないことが多いので要注意です。

  • 甲状腺疾患①:バセドウ病

バセドウ病は甲状腺が抗体によって刺激されて働きが亢進し、甲状腺ホルモンの分泌量が過剰になる。女性患者数は男性の約4倍と女性に多い病気で、特に20〜40代に多く見られる。不妊、流産や妊娠高血圧症につながりやすいので、妊娠前からチェックしておいたほうがよい。

  • 甲状腺疾患②:橋本病

橋本病は甲状腺の働きが悪くなり、甲状腺ホルモンの分泌量が不足する。女性患者数は男性の約20倍と、圧倒的に女性に多い病気。30〜60代の幅広い年代で発症するが、特に女性ホルモンの分泌が低下する50代以上の女性に多く見られる。更年期障害やうつ病と間違われたり、併発したりするので要注意。


甲状腺疾患の症状

甲状腺の腫れ、だるさ、体重の減少・増加など

甲状腺疾患では、甲状腺が腫れて大きくなることがあり、これを健診などで指摘され見つかることがあります。その他に現れる症状は、メンタル症状、代謝に関わるもの、月経など女性ホルモンと関係があるものに分かれます。

甲状腺ホルモンが過剰に分泌するバセドウ病と、甲状腺ホルモンの分泌量が低下する橋本病は症状が異なります。

  • 甲状腺疾患の症状①:バセドウ病
     バセドウ病の主な症状は、首の腫れ、頻脈、眼球突出、手や指の震え。代謝が高まって就寝中も含めて常に興奮状態が続くことで、動悸、息切れ、不整脈、発汗、のぼせ、だるさ、イライラ、高血圧、高血糖など様々な症状が現れる。エネルギーを激しく消耗するため食べてもやせていき、糖尿病に間違えられることもある。
体重減少
  • 甲状腺疾患の症状②:橋本病
     橋本病の主な症状は、首の腫れ、だるさ、冷え、体重増加。ただし甲状腺の腫れが小さく気づかないケースもある。また代謝が落ちることで体重が増えたり、全身にむくみが現れやすくなったりする。活力を失い、慢性的な眠気や体がだるい状態が続いたり、意欲や気力が低下して忘れっぽくなったりする他、月経量の増加、血液中の悪玉コレステロール(LDL)の増加なども起こる。
体重増加

甲状腺疾患の対策

気になる症状があれば早めに検査を

甲状腺は薄く柔らかいため普段は触っても分かりませんが、のど元に触れて甲状腺の形が感じ取れる場合は、何らかの不調が現れています。バセドウ病や橋本病などの甲状腺疾患は、成人女性なら誰でも可能性があるため、疑わしい症状があれば検査を受けて早期発見につなげましょう。


甲状性疾患の検査方法

甲状腺疾患は検査技術の進歩によって外来での診断が可能となり、甲状腺科や内分泌科のある専門病院であれば、30分ほどで検査結果が分かるようになりました。甲状腺疾患の検査では主に、血中の甲状腺ホルモン値を調べる血液検査と、甲状腺の腫れを調べる超音波検査を行います。


甲状腺疾患の治療

バセドウ病の治療法は、年齢や症状などに応じて3つから選択

バセドウ病の治療には「薬物療法」「アイソトープ治療」「手術療法」の3つがあり、年齢や症状、ライフスタイルなどに合わせて選択できます。しかし、女性特有の体質的な弱さともいえるものなので、一生付き合うつもりで治療に取り組みましょう。

  • バセドウ病の治療①:薬物療法
     甲状腺ホルモンの分泌を抑える抗甲状腺薬を服用。全ての患者に適用でき通院での治療が可能だが、治療に時間がかかる。妊娠中や授乳中は薬をかえる必要があるので、妊娠を希望する場合は事前にかかりつけ医に相談しておきましょう。
  • バセドウ病の治療②:アイソトープ療法
     甲状腺ホルモンの働きを抑える、放射性ヨウ素を服用。抗甲状腺薬の副作用が強い人にすすめられる。妊婦などには適応しない。
  • バセドウ病の治療③:手術療法
     甲状腺の一部または全てを摘出する。短期間で症状は治まるが、術後も甲状腺ホルモン量を調整するために、薬の服用が必要になる場合が多い。

橋本病の治療は、甲状腺ホルモンの働きを補う「甲状腺ホルモン補充療法」

橋本病の治療では主に「甲状腺ホルモン補充療法」が行われます。甲状腺ホルモンとほぼ同じ成分の薬で、甲状腺ホルモンの働きを補う方法ですが、症状や体質によって効果に個人差があるため専門医の指示に従って服用することが大切です。また、甲状腺ホルモンの原料にもなるヨードですが、摂り過ぎると甲状腺の機能が低下し、症状が悪化することがあるため、ヨードを多く含む昆布やわかめ、のりなどの食品は控えるようにします。


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