サルコペニア(筋肉減少症)

サルコペニア

サルコペニアとは、ギリシャ語の「Sarx(筋肉)」と「Penia(喪失)」から作られた言葉で、主に加齢によって筋肉(骨格筋:体を動かす筋肉)の量が減少し、筋力と身体能力が低下した状態をいいます。加齢以外にも、不活発な生活や疾患、低栄養が原因で起きる場合もあります。 私たちの筋肉の量は、ピークである20代を過ぎると10年間に男性は約2㎏、女性は約1㎏ずつ減っていくといわれ、75~79歳の男女の約2割、80歳以上では男性の約3割、女性の約半数がサルコペニアに該当するという研究結果(東京都健康長寿医療センター研究所の研究による)もあります。 サルコペニアは寝たきりや要介護状態を引き起こす重大な要因であり、また糖尿病や肺炎などを発症しやすくなり、死亡率が高くなることも分かってきました。 サルコペニアかどうかは、医療機関では握力・歩行速度・BMIで診断しますが、まずは自分でできる簡単なセルフチェックがあります。サルコペニアは運動や食事など、生活を見直すことによって予防や改善ができる疾患のため、自身の状態をチェックし、早めに対策を始めましょう。

監修プロフィール
国立長寿医療研究センター 理事長 あらい・ひでのり 荒井 秀典 先生

医学博士。日本老年学会理事長、日本老年医学会副理事長、日本サルコペニア・フレイル学会代表理事他を務める。専門領域は、老年医学一般、フレイル、サルコペニア、脂質代謝異常。1991年京都大学医学部大学院医学研究科博士課程修了。91年京都大学医学部老年科助手、93~97年米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校研究員。2009年、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授。15年、国立長寿医療研究センター副院長を経て、19年より現職。

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サルコペニア(筋肉減少症)の原因

サルコペニアの主な原因は加齢。不活発な生活や疾患、低栄養が原因となる場合も

サルコペニアは、加齢のみが原因の一次性サルコペニアと、活動、疾患、栄養が原因で起こる二次性サルコペニアに分類されています。多いのは一次性サルコペニアですが、二次性サルコペニアは若い人にも起きることがあり、サルコペニアは決して高齢者だけが注意すればよい疾患ではありません。

一次性 加齢性サルコペニア 加齢以外に明らかな原因がない
二次性 活動によるサルコペニア 寝たきりや長期的な安静状態、不活発な生活スタイル、無重力によるもの
疾患によるサルコペニア 重症臓器不全(心臓、肺、肝臓、腎臓、脳)、炎症性疾患、悪性腫瘍、内分泌疾患によるもの
栄養によるサルコペニア エネルギーとタンパク質の摂取量不足(吸収不良、消化管疾患、および食欲不振を起こす薬剤使用)などによるもの

若い女性の5人に1人が「隠れ肥満」で、将来サルコペニアのリスクがある

19~23歳の女性の身体組成を調べた国立長寿医療研究センターの研究では、5人に1人が、見た目はスリムでも体全体に占める脂肪の割合が多い「隠れ肥満」(BMI25未満なのに、体脂肪率が30%を超える状態)であり、その中には骨格筋量が著しく少ない女性も数多くいたという報告があります。こうした隠れ肥満は、運動不足になりがちな生活習慣や無理なダイエットなどが原因で起こります。隠れ肥満は将来のサルコペニアにつながるリスクもあるので注意が必要です。

隠れ肥満はサルコペニア予備軍?

サルコペニア(筋肉減少症)の症状

サルコペニアの症状は、意識しないと気づかないことも


サルコペニアでは筋肉量の減少、筋力の低下、身体機能の低下によって、次のように様々な症状が現れます。ただ、意識をしないと気づかないことも多いため、以下のような兆候があったらサルコペニアのセルフチェックをしてみましょう。

●筋肉量の減少によるサルコペニアの症状・リスク

①体重減少
ヒトの体重の約40%は筋肉が占めているため、体重が減少する。筋肉量が減っても体脂肪が増えている場合、体重が増加することもある。

②冷え性
筋肉量が減少すると、筋肉での熱産生が減少し冷え性になりやすい。

③熱中症・脱水
筋肉の成分の約75%は水分のため、水分量が減り、熱中症や脱水になりやすくなる。

④骨粗しょう症
筋肉量が減ると骨密度も低下する。サルコペニアと診断された場合、骨粗しょう症を合併していることもある。

⑤糖尿病
筋肉量が減るとインスリン抵抗性となり、糖尿病を発症しやすくなる。

 

●筋力の低下によるサルコペニアの症状・リスク

①立ち上がるのが困難
下肢の筋力が低下すると、いすから立ち上がる時に何かにつかまらないと難しくなる。

②力を入れる作業ができない
握力が低下すると、ペットボトルのふたや缶のプルタブなどを開けるのが難しくなる。

③疲れやすい
日常生活には一定以上の筋力が必要なので、筋力低下により、最大筋力に近い力が常に必要となり、疲れやすくなる。

④バランスが悪い・転びやすい
筋力低下により立っている時や歩行時のバランス能力が低下する。片足立ちできる時間が1分に満たない場合は要注意。

 

●身体機能の低下によるサルコペニアの症状・リスク

①横断歩道を渡り切れない
歩行者用の信号の多くは毎秒1mの歩行速度で渡り切れるように設定されているため、筋力が低下して歩行速度が落ちると青信号のうちに渡り切れなくなる

②階段昇降が難しい
階段の上り下りがつらくなる。

③閉じこもりがちになる
疲れて外出するのが面倒になり、外出しなくなると身体機能はさらに低下し、閉じこもりがちになるという悪循環に。

サルコペニアのリスク

サルコペニア(筋肉減少症)の対策

サルコペニアの危険度を、まずはセルフチェックしてみよう

サルコペニアのリスクは、セルフチェックで簡易的に調べることができます。次の(1)~(3)の3つのセルフチェックで2項目以上該当した場合は、サルコペニアの可能性が高いと判断できます。


(1)指輪っかテスト

①両手の親指と人差し指で輪を作る。

指輪っかテスト1

②利き足でないほうのふくらはぎの一番太い部分を、力を入れずに軽く囲んでみる。

指輪っかテスト2

指輪っかでふくらはぎが囲めてしまう人は、サルコペニアの有病率や新規発症リスクが高いことが分かっています。

指輪っかテスト3

(2)開眼立脚位テスト

①素足で、滑りにくい床に立ち、両手を腰に当てる。
②立ちやすい側の足で立ち、もう一方の足を床から5cmほど上げ、立っていられる時間を計測する。
→立っていられる時間が8秒未満の場合はサルコペニアの可能性があります。

開眼立脚位テスト

(3)5回立ち座りテスト

①ひじ掛けのないいすに座り、両手を交差して胸に当て、足は肩幅程度に開く。
②いすに座った状態から、反復して立ち座り動作を5回繰り返す。かかった時間を計測する。

5回立ち座りする動作が12秒以上かかった場合はサルコペニアの可能性があります。

5回立ち座りテスト

サルコペニアは、整形外科や専門外来等で診断できる

サルコペニアは、整形外科やサルコペニア外来などがある医療機関で、高齢者(65歳以上)を対象に診断を行っています。診断はアジア・サルコペニア・ワーキンググループがアジア人の
握力は男性で28kg未満、女性で18kg未満、歩行速度は1秒間あたり1m未満が基準となり、握力か歩行速度のいずれかが値を下回る場合で、さらに四肢骨格筋量が低下している場合、サルコペニアと診断されます。四肢骨格筋量の低下は、正確には病院での測定が必要ですが、指輪っかテストを用いてもいいですし、下腿周囲長の低下の基準(男性34cm未満、女性33cm未満)を用いてもいいです。サルコペニアと診断された場合には、運動療法や栄養療法等を組み合わせて治療していきます。


運動と栄養による筋肉量・筋力アップで、サルコペニアを改善しよう

サルコペニアを改善するには、筋肉の量や筋力を増やすために、定期的な運動と栄養の摂取が大切です。以下のような運動や栄養がサルコペニアの改善につながります。

●運動・・・レジスタンス運動(筋力トレーニング)

サルコペニアの改善には、筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う、レジスタンス運動が効果的です。レジスタンス運動とは、いわゆる「筋トレ」のことで、スクワットや腕立て伏せのような運動を指します。足の筋力向上のために、簡単にできるいすでの体操をご紹介します。座った時に足の裏が床に着く高さで、ひじ掛けがないいすで行いましょう。

・つま先とかかとの上げ下げ

①かかとを床につけたまま、つま先をしっかり上げ、2~3秒静止した後に下ろす。
②つま先を床につけたまま、かかとを上げ、2~3秒静止した後に下ろす。
③これを1セットとして、10セット程度繰り返す。

つま先とかかとの上げ下げ

・片足上げ膝(ひざ)伸ばし

①いすに深く腰掛け、体が後ろに反らないように気をつけながら、片方の膝を1回伸ばして下ろす。
②反対の足も同様に、膝を1回伸ばす。
③これを1セットとして、10セット程度繰り返す。

片足上げ膝(ひざ)伸ばし

●栄養・・・タンパク質・ビタミンD

タンパク質は筋肉をつくるために欠かせない栄養素です。サルコペニアの改善には、1日に体重1㎏あたり1.2~1.5gのタンパク質を摂ることが必要で、これは体重が60㎏の人なら72~90gほどを1日に摂る計算になります。
しかし、例えば高タンパク・低カロリーである鶏のささみを100g食べたとしても、そこに含まれているタンパク質の量は23g。1日量の1/3程度しか賄えません。無理なく摂るには、1日3食の中でバランスよく、肉や魚、卵、乳製品、大豆製品などから摂ることが大切です。特にお肉のタンパク質は良質なので積極的に食べましょう(ただし、腎機能が低下している場合は、高タンパク食で腎機能障害を引き起こす可能性があるため、医師に相談しましょう)。 ビタミンDはカルシウムと共に、骨をつくるために必要な栄養素として知られています。一方で、血中のビタミンDレベルが低い人は、握力や歩行速度などの身体機能が低いことや、40歳以上の日本人女性ではサルコペニアと骨粗しょう症の発症の間に強い関連があることが実験で示されており、ビタミンDが骨だけではなく筋肉(骨格筋)にも作用する可能性が考えられています。
ビタミンDはイワシやサケ、ウナギなどに多く含まれています。また、日光に当たると皮膚で合成されるので、適度な日光浴もおすすめです。


サルコペニア(筋肉減少症)の予防法

中高年から、日常生活でこまめに動いて筋肉量を落とさず、肉を避けない食生活を

サルコペニアの予防は、中高年のうちから筋肉量を落とさないこと、タンパク質をしっかり摂ることが重要です。
筋肉量や筋力は20代をピークに減少します。筋肉量を増やし、筋力を高めるためにも日常的に掃除や買い物、散歩、階段の上り下りなどで、こまめに体を動かすことが大切です。特に、定年後に家に閉じこもりがちになるとサルコペニアになりやすくなるので、外出の機会を増やしましょう。その上で、レジスタンス運動を行うことも大切です。
また、中高年になると肉よりもさっぱりした食べ物を好む傾向にありますが、タンパク質不足はサルコペニアの元。良質なタンパク源である肉を避けないようにしましょう。高齢になるとタンパク質から筋肉をつくる効率も衰えてくるので、意識して摂り続けることが大切です。


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