慢性上咽頭炎

慢性上咽頭炎

上咽頭とは、鼻の穴の10cmほど奥、鼻から吸い込んだ空気が気管に向かって流れを変える場所になります。通称のどちんこと呼ばれる口蓋垂(こうがいすい)に隠れていて実際に見ることはできませんが、インフルエンザの検査の時にこすられるところといえばイメージしやすいでしょう。この上咽頭で慢性的な炎症が起こっている状態が慢性上咽頭炎です。

上咽頭の構造

のどに痛みや詰まりなどの違和感があっても、病院の診察では異常が見つからず、症状も改善しないという経験をもつ方がいますが、近年、その原因はのどではなく慢性上咽頭炎にあると指摘されるようになりました。慢性上咽頭炎は鼻やのどの症状だけでなく、呼吸器や歯科、口腔外科の疾患、頭痛、さらには皮膚病などの原因になっているとも考えられています。

監修プロフィール
みらいクリニック 院長 いまい・かずあき 今井 一彰 先生

1995年山口大学医学部卒業。内科医、日本東洋医学会漢方専門医、NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長、日本加圧医療学会理事。息育、口呼吸問題の第一人者として全国を講演で回る日々。「あいうべ体操」、「ゆびのば体操」の考案者であり、TV、ラジオ等への出演多数。漢方治療の他、上咽頭炎治療(Bスポット)も行う。著書に『健康でいたければ鼻呼吸にしなさい』(河出書房新社)、『免疫力を上げ自律神経を整える舌トレ』(かんき出版)、『世界一簡単な驚きの健康法 マウステーピング』(幻冬舎)など。

慢性上咽頭炎について知る


慢性上咽頭炎の原因

ダメージを受けやすい上咽頭

鼻は天然の高機能空気清浄機であり、2、3時間おきに左右の鼻の穴を切り替えて呼吸しています。鼻の穴が2つあるのはこのためで、呼吸に使われていない時は、分泌物を増やして鼻にたまった汚れを排出しています。上咽頭は、2つの鼻の穴から入ってきた空気がどちらも通過する場所。私たちが1日に吸う数百万個の微生物を含む1万ℓもの空気が24時間通過しているため、負担が大きく、ダメージを受けやすくなっています。
上咽頭は鼻腔や気管と同じく表面は線毛上皮で覆われており、線毛上皮細胞の間には多数のリンパ球が存在します。つまり、上咽頭そのものが細菌やウイルスの侵入を防ぐ免疫機能をもつ器官なのです。上咽頭のリンパ球は免疫反応に備えて活性化した状態にあるため、健常者でも上咽頭は常に軽い炎症(生理的炎症)が起きており、外部からの刺激をきっかけにより症状の強い炎症(病的炎症)へと移行します。


上咽頭の炎症を悪化させる要因

上咽頭の炎症を悪化させるものには、以下があります。

上咽頭の炎症を悪化させるものには、細菌、ウイルス、排ガス、花粉、PM2.5がある
上咽頭の炎症を悪化させるものには、低気圧、ストレスがある

・感染(細菌やウイルス)
・空気の汚れ(排気ガス、粉じん、黄砂、花粉、ハウスダスト、PM2.5、たばこの煙など)
・気候(低気圧、寒冷など)
・ストレス


慢性上咽頭炎の症状

自覚症状がない人が多い慢性上咽頭炎

慢性上咽頭炎は軽度から中等度の炎症が持続している状態であり、自覚症状がない人や、咽頭とは直接関係がなさそうな症状の出る人が多いという特徴があります。
ウイルスで病的炎症が起こる急性上咽頭炎の代表的なものがかぜであり、発熱や体の痛み、のどの腫れといった症状が起こります。かぜは、様々な病気のきっかけにもなるため「万病の元」とも言われてきましたが、慢性上咽頭炎こそがその「万病の元」に大きな影響を及ぼしている可能性が指摘されるようになりました。例えば、新型コロナウイルスの後遺症。後遺症に悩む人の多くに慢性上咽頭炎が見られることが明らかになってきていますが、これは自覚症状の有無にかかわらず慢性上咽頭炎を患っていた人が、新型コロナウイルスに感染したことで症状が悪化し、それが重症の慢性上咽頭炎を引き起こしていると考えられます。なお、新型コロナウイルス後遺症は、後述する慢性上咽頭炎の治療「上咽頭擦過療法(EAT)」で症状が改善することも分かりつつあります。


慢性上咽頭炎の症状は3種類

慢性上咽頭炎の症状は、主に以下の3種類に分けられます。

(慢性上咽頭炎の症状1)炎症そのものによる症状
のどの痛みや違和感、長引くせき、たん、後鼻漏(こうびろう)、頭痛、首・肩こり、舌の痛み、歯の知覚過敏など。

(慢性上咽頭炎の症状2)自律神経の乱れによる症状
めまい、吐き気、胃部不快、便通異常、全身倦怠感、睡眠障害、記憶力・集中力低下、慢性疲労症候群、うつなど。上咽頭に通っている脳神経の1つである迷走神経は、自律神経のうち副交感神経を構成し、胸腹部まで広く分布して体の働きを整えています。そのため上咽頭の炎症が自律神経に影響を及ぼし、様々な症状を起こします。また、ストレスを受けた時の生体反応が行われる経路にHPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)というものがありますが、上咽頭が視床下部の近くに位置することからも、炎症がストレス反応を引き起こし、これらの症状につながるとも考えられています。

(慢性上咽頭炎の症状3)免疫システムの乱れによる二次疾患
上咽頭で炎症が起こり、リンパ球などの免疫細胞が活性化されると、骨髄で病原体の侵入を防ぐ粘膜免疫のIgAなどをたくさんつくったり、通常は反応しない常在菌などにも過剰に反応したりするようになります。その結果、炎症物質(サイトカイン)が血流にのり、IgA腎炎、ネフローゼ症候群、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)、関節炎、アトピー性皮膚炎、慢性湿疹など、腎臓や関節、皮膚などに炎症を引き起こします。これらの免疫システムの乱れによる症状には、原病巣である上咽頭炎の治療を含めた根本治療が必要となります。


上咽頭の症状がなぜ「のどの異常」となるのか

上咽頭には、迷走神経と、舌や咽頭の知覚神経である舌咽神経が分布しています。そのため脳が、上咽頭の症状を「のどが痛い」「のどが詰まる」「イガイガする」など、のどの異常と勘違いしてしまうと考えられています。


慢性上咽頭炎の治療・対処法

慢性上咽頭炎のセルフチェック

耳の下から胸に向かって伸びる胸鎖乳突筋や首の後ろにある僧帽筋を押して、強い痛みがあれば慢性上咽頭炎の可能性があります。これらの首を動かす筋肉には、上咽頭の影響を受ける副神経という運動性の神経が分布しており、慢性の炎症によって筋肉がコリ固まり痛みが生じてしまうのです。

耳の下から胸に向かって伸びる胸鎖乳突筋や首の後ろにある僧帽筋を押して、強い痛みがあれば慢性上咽頭炎の可能性があります。

炎症は慢性化すると強い症状が出にくい傾向があります。鼻づまりなどかぜのような症状が長く続いたり、頻繁にかぜをひいたりする人、病院で不調の原因がなかなか特定されないという人は慢性上咽頭炎の疑いがあります。一度、耳鼻咽喉科や内科の医師に相談するとよいでしょう。


医療機関で受けられる慢性上咽頭炎の治療法「上咽頭擦過療法(EAT)」

慢性上咽頭炎の治療法に、「上咽頭擦過療法(EAT)」があります。
「上咽頭擦過療法(EAT)」とは、0.5~1%の濃度の塩化亜鉛溶液を染み込ませた綿棒を鼻と口から挿入し、上咽頭の炎症部分にこすりつける治療法です。近年では、経鼻内視鏡を用いて炎症の状態を観察しながらの治療も可能になりました。麻酔も用いますが、炎症が強いほど出血や痛みが強く、体質に合わない人もいます。

上咽頭擦過療法(EAT)

塩化亜鉛による粘膜の収れん作用と抗炎症作用により、炎症が鎮静化し、炎症そのものによる症状や、免疫機能が関係した症状の改善につながります。炎症やうっ血が改善すると、脳の老廃物を運ぶ脳脊髄液の流れや静脈循環などが円滑になるという作用が期待でき、さらに迷走神経が刺激されることによる抗炎症作用もあって、自律神経の乱れによる症状が改善されます。
「上咽頭擦過療法(EAT)」は耳鼻咽喉科や内科で受けることができます。また、慢性上咽頭炎では、自律神経や免疫機能が関係した症状が全身に起こることから、腎臓内科や皮膚科、精神科などでも治療を行っている場合があります。治療を希望する場合はお近くの医療機関に問い合わせてみてください。


自分でできる慢性上咽頭炎のセルフケア

(自分でできる慢性上咽頭炎ケア1)鼻うがいをする
慢性上咽頭炎の症状の改善や予防に、自身でできるケアとして、鼻腔内や上咽頭の汚れを洗い流す鼻うがいが有効です。1日に2~3回を目安に、外出先や仕事中などは少量で簡単に行い、1日1回は下記の方法でしっかりと洗浄するとよいでしょう。
<鼻うがいの洗浄液の作り方>
蒸留水や精製水、ない場合は市販のミネラルウォーター200cc当たり2g程度の濃度で食塩を溶かします。0.1g程度の重曹を加えると洗浄力がアップします。市販の鼻うがい用の洗浄液を使っても問題ありません。
<鼻うがいの方法>

鼻うがいの方法

① 顔をやや下に向け、洗浄液を入れた容器(清潔で、先が鋭利でないドレッシングボトルやスポイトなど)を片方の鼻の穴につけます。
② 「あー」と言いながら洗浄液を鼻の中に送り込み、反対側の鼻の穴から出します。
※鼻の穴から出すのが難しい場合は口から出してもOKです。

(自分でできる慢性上咽頭炎ケア2)口が開かないようにテープで固定する
口は食べた物を体のエネルギーに変える働きをする器官であるのに対し、鼻は空気をきれいにして体内に取り込む器官。空気清浄機としての働きに加え、取り込んだ空気の加温・加湿も行っています。そのため、鼻呼吸ではなく口呼吸をしていると、上咽頭に浄化されていない空気や異物が流れ込むだけでなく、冷えや乾燥を招き、炎症を悪化させてしまいます。就寝時などは市販のマウステープや医療用テープ(サージカルテープ)などを利用して、口が開かないようにするとよいでしょう。症状の改善だけでなく予防にもなります。


慢性上咽頭炎の予防法

(慢性上咽頭炎の予防法1)首の後ろを温める
首の後ろを温めると上咽頭の血流が促され、慢性上咽頭炎に特有のうっ血を防ぐことができ、さらに上咽頭の線毛の働きもよくなります。タートルネックを着用したり、湯たんぽや使い捨てカイロなどを活用したりするとよいでしょう。暑い季節でも冷房で首を冷やさないように意識してください。

(慢性上咽頭炎の予防法2)できるだけきれいな空気を吸う
汚れた空気も炎症の原因になるため、自宅の掃除をまめに行ったり、空気清浄機を活用したりして、周囲の空気をできるだけ清浄に保ち、さらに乾燥や冷えにも留意しましょう。体に取り込む空気の量が増える運動時も、交通量の多い場所は避けることをおすすめします。

(慢性上咽頭炎の予防法3)積極的に口を動かす
コロナ禍ではマスク生活が続き、食べやすい食事ばかり摂ったり、会話の機会が減少したりして、口を動かすことが減りました。口を動かさないと体全体の血流が低下し、唾液の分泌が減って口内環境も乱れ、上咽頭の炎症を悪化させる可能性があります。ガムをかむなどして積極的に口を動かしましょう。

(慢性上咽頭炎の予防法4)「舌(ベロ)トレ」で口呼吸を防ぐ
舌の筋力が低下すると、舌が正しい位置に留まることができなくなり、舌の重みで自然と口が開きやすくなり、口で呼吸をするようになります。「舌(ベロ)トレ」で舌の筋力を鍛えましょう。

① あいうべ体操…1日30セット行いましょう。口の中が乾燥しないように入浴中に行うのがおすすめです。

① あいうべ体操、あ…口を大きく開く(1秒)
① あいうべ体操、い…口を横に大きく開く(1秒)
① あいうべ体操、う…口を強く前に突き出す(1秒)
① あいうべ体操、べ…思いっきり舌を出し下に伸ばすのを3回(1回につき1秒)

あ…口を大きく開く(1秒)
い…口を横に大きく開く(1秒)
う…口を強く前に突き出す(1秒)
べ…思いっきり舌を出し下に伸ばすのを3回(1回につき1秒)

② ベロ回し…上下各10回ずつ

② ベロ回し…上下各10回ずつ

口を閉じ、上の歯と唇の間に舌を入れ左右にゆっくりと10回、舌で歯をこするように動かす。次に下の歯と唇の間に舌を入れ、同様に行う。


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