膀胱炎

膀胱炎

膀胱炎は大腸菌などの細菌が尿道口から侵入し、膀胱の表面の粘膜に感染することが原因で起こる感染症です。感染すると、何度もトイレに行きたくなったり、おしっこをする時に痛みが起こったり、尿が濁ったりする症状がでます。
ほとんどは細菌感染で起こる急性の膀胱炎ですが、泌尿器の他の疾患が原因で起こる複雑性膀胱炎や細菌が原因ではない間質性(かんしつせい)膀胱炎もあります。
膀胱炎は、3人に1人は一生のうちに一度はかかるという報告もあるほど身近な疾患で、体の構造の違いから女性がかかりやすいことも特徴です。お尻の拭き方などの毎日のちょっとした習慣の改善が膀胱炎の予防につながるので、膀胱炎を繰り返しがちな人は生活習慣を見直しましょう。
膀胱炎の原因、症状、治し方や予防法について、専門医に伺いました。

監修プロフィール
東京慈恵会医科大学泌尿器科 講師 ほんだ・まりこ 本田 真理子 先生

2004年長崎大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学大学院、葛飾医療センターなどを経て、2021年より現職。専門は女性泌尿器、泌尿器科一般がんゲノム医療。日本泌尿器科学会指導医・専門医。癌治療認定医、泌尿器腹腔鏡技術認定医

膀胱炎について知る


膀胱炎の原因

膀胱炎のほとんどは、大腸菌などの感染が原因の「急性単純性膀胱炎」

膀胱炎には幾つか種類があります。中でも最も多いのが、膀胱や尿道にもともと病気がない人の膀胱に細菌が入り、炎症を起こす「急性単純性膀胱炎」です。原因となる細菌は大腸菌が最も多く、排便などで体外に出た後に、何らかの原因で肛門から尿道へ侵入して感染します。急性単純性膀胱炎は、若い女性に多い疾患です。


女性は体の構造上、膀胱炎にかかりやすい

急性単純性膀胱炎は女性がかかりやすい疾患ですが、その理由には、以下のような体の構造が関係しています。

・尿道が短い……男性の尿道は20cmほどあるのに対して、女性の尿道は約4cmと、男性よりもかなり短いため、細菌が膀胱に侵入しやすい。
・尿道口と肛門、腟が近い位置にある……女性は尿道口が腟や肛門と近いため、細菌が膀胱に侵入しやすい。

男性と女性の尿道の構造の違い

急性単純性膀胱炎は、性交渉や免疫力の低下などが原因でかかりやすい

膀胱炎のきっかけは、生活の中にいくつも潜んでいます。特に以下のような時に膀胱炎にかかりやすくなります。

・性交渉……急性単純性膀胱炎は、20~40代の女性が性交渉でかかることが多いのが特徴。尿道口と腟が近くにあるため、性交渉によって細菌が尿道に入りやすく、炎症を起こしやすい。
・免疫力の低下……尿道や膀胱の粘膜には自浄作用があり、普段は粘膜をバリアして細菌が定着・増殖することを防いでいる。しかし、冷えやかぜなどの病気、疲労、ストレスなどで免疫力が低下して自浄作用が弱まると、細菌に感染しやすくなる。
・トイレを我慢……尿には細菌を流す作用があるため、仕事や家事などで長時間トイレを我慢することが多いと、尿で細菌を流す機会が減ってしまい、炎症が起こりやすい。
・妊娠中……妊娠中は大きくなった子宮に膀胱や尿道が圧迫されて尿が残りやすく、感染しやすくなる。トイレに立つのが面倒だからと我慢するのは禁物。


泌尿器の疾患が原因の「複雑性膀胱炎」

膀胱や尿道にもともと疾患があることによって、細菌が膀胱にすみ着きやすくなり、膀胱炎が発症しやすくなります。このように、他の泌尿器疾患が原因である膀胱炎を「複雑性膀胱炎」といいます。
特に、高齢者は膀胱の働きが弱る神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)や、男性では前立腺が大きくなる前立腺肥大症、前立腺がんなどの病気が多くなります。そのため、うまく排尿できなくなり、排尿後も膀胱に多くの尿が残ってしまうと、膀胱内で細菌が増殖して炎症を起こしてしまいます。


まれに起こる原因不明の「間質性膀胱炎」

「間質性膀胱炎」は、詳しい原因はまだ解明されていませんが、何らかのメカニズムの乱れが原因で、粘膜の奥の間質(かんしつ)と呼ばれる層で炎症が起きる膀胱炎です。膀胱が萎縮してためられる尿量が減ってしまうため、頻尿や強い尿意を感じたり、骨盤周辺に痛みや圧迫感、不快感などの自覚症状が現れたりします。10万人に4.5人というまれな疾患ですが、女性の患者数は男性の5倍以上で、女性のほうがかかりやすいといえます。膀胱にびらん型の病変(ハンナ病変)ができて重症の場合は、難病に指定されています。細菌感染が原因ではないため通常の尿検査では診断できず、専門の検査を行います。


膀胱炎の症状

膀胱炎の3大徴候は 「頻尿・排尿痛・尿の濁り」の症状

膀胱炎では炎症によって様々な症状が現れます。膀胱炎の代表的な徴候とは、「頻尿・排尿痛・尿の濁り」の3つです。それぞれ関連する症状と共に見ていきましょう。


膀胱炎の症状① 頻尿・残尿感

膀胱は神経で大脳とつながっており、通常、尿が約250~300mLたまると膀胱から大脳に尿意のサインが送られます。すると大脳は尿道の筋肉を引き締めて尿を我慢したり、緩めて排泄したりする指令を出すのです。
しかし、膀胱炎によって膀胱が敏感になってしまうと、まだ尿をためられるのに大脳に尿意のサインを送ってしまい、トイレに行ったばかりでもすぐ行きたくなる頻尿が起こります。また、尿を出したばかりなのに、全部出し切れていない感じが残る残尿感も、膀胱が過敏になっているために起こります。


膀胱炎の症状② 排尿痛(排尿時の痛み)

排尿の開始や終了時に、ジーンとした痛みを感じるようになります。ヒリヒリしたり、刺すような痛みや鈍痛がしたりする時もあります。


膀胱炎の症状③ 尿の濁り・血尿

細菌と闘った白血球が尿から出るため、尿の中に白いモヤモヤしたものが浮かんだり、白く濁ったりすることがあります。また、膀胱の粘膜が傷ついて尿に血が混じることもあります。

その他にも、尿の中に細菌が繁殖するため、通常より尿のにおいが強くなることもあります。

膀胱炎の主な症状(頻尿、残尿感、排尿時の痛み、尿の濁り・血尿、尿のにおいがきつい)

発熱や悪寒があったら、膀胱炎に続き「腎盂腎炎(じんうじんえん)」を発症した可能性も

膀胱炎では発熱することはありませんが、膀胱炎の症状に加えて発熱や悪寒などがある場合は、膀胱の上の腎臓にまで細菌が感染し、腎盂腎炎を引き起こしている可能性があり、注意が必要です。腎盂とは腎臓でできた尿が集まる腎臓内の部屋のこと。病気の連鎖反応を防ぐためにも、膀胱炎の症状が出たらすぐに病院を受診するようにしましょう。


膀胱炎を繰り返す場合は、さらに詳しい検査を

膀胱炎を繰り返す場合、複雑性膀胱炎が疑われます。原因となっている泌尿器疾患がないかどうか、さらに検査が必要です。
また、性交渉後に膀胱炎を繰り返している場合、クラミジア等の性感染症によって、膀胱炎が引き起こされているケースもあります。クラミジアは日本国内で最も多い性感染症の1つで、クラミジア・トラコマチスという病原体が性行為等で粘膜に感染します。性感染症による膀胱炎が疑われる場合、通常の膀胱炎の検査では調べられないため、さらに詳しく検査をする必要があります。


膀胱炎の対策・治し方

膀胱炎を疑ったら、まずは受診

膀胱炎が疑われる症状が現れたら、まずは受診して検査を受けることが大切です。急性単純性膀胱炎と診断されると、膀胱を無菌状態にする抗菌剤が処方されます。これをのむと、症状は3~5日ほどで和らぎます。複雑性膀胱炎の場合は、原因となる病気の治療を行います。

<治療のポイント>
・泌尿器科で尿検査を受ける……細菌の種類をはっきりさせ、抗菌剤による治療を受けることが大切。
・自己判断で薬を選ばない……市販の抗菌剤をのんでも、炎症を起こしている細菌の種類により効果がない場合がある。また、自己判断で抗菌剤をのむと尿検査で細菌の種類の特定ができなくなってしまうため、まずは受診すること。
・処方された薬は全てのみ切る……症状が治まったからと薬をやめると、膀胱に菌が残っている場合は再発しやすい。再発すると細菌が抵抗力をもち、前回の治療薬が効きにくくなる。

膀胱炎の治し方

<治療と併せて行うセルフケア>
治療と併せて、自宅では次のことを心がけましょう。
・水分をたっぷり摂る……排尿の回数を増やす。排尿時に痛むからと、水分を減らすと逆効果。
・お腹を温める……痛みなどの症状が楽になる。入浴が効果的。

膀胱炎の対策(自宅でできるセルフケア)

膀胱炎の予防法

膀胱炎を繰り返さないために生活習慣を見直そう

急性単純性膀胱炎は一度かかると繰り返しやすいといわれることがありますが、これは誤解です。しっかりと治療をすれば再発を防ぐことが可能です。膀胱炎に何度もかかってしまう人は、実は「かかりやすい生活習慣」になっているということ。生活習慣を見直せば、膀胱炎を防ぐことができます。どれも少しの工夫で行えるため、以下の習慣を身につけましょう。

<膀胱炎を予防する生活習慣>
・トイレを我慢しない……膀胱の中に尿がたまっていると細菌が繁殖しやすくなる。こまめに排尿すれば、細菌がいてもすぐに排出できる。忙しくてもトイレを我慢しないことが大切。
・水分をたっぷり摂る……こまめに水を飲んでトイレに行く回数を増やし、膀胱内の細菌を排出する。
・排便後は正しい拭き方でお尻を拭く……排便後、「前から後ろ」にお尻を拭くようにする。「後ろから前」だと、肛門の周りの細菌が尿道口に付着する可能性が高まる。
・温水洗浄器はお尻を拭いてから……排便後に温水洗浄器を使用する場合は、お尻をトイレットペーパーで拭いてから使用する。また、後ろから前に向かって水流が当たると尿道に細菌が付着する可能性が高まるため、水が後ろから前に流れない位置で水を当てる。また、広範囲に飛び散らないように、適切な水圧で使用する。
・性交の後、トイレに行く……性交により細菌が膀胱に入りやすくなる。しかし、すぐに排尿する機会をつくれば尿で細菌を流すことができる。
・生理用ナプキンや吸水シートはこまめに交換……長時間の使用は、雑菌が繁殖しやすくなるのでこまめに取り換える。

膀胱炎の予防法(膀胱炎予防のためのセルフケア)

膀胱炎は普段の心がけで予防できます。かかったことがある人は再びの感染を予防するためにも、より意識してセルフケアを実践するようにしましょう。


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