こむら返り(足がつる)

こむら返り(足がつる)

こむら返りは、医学用語では「有痛性筋痙攣(ゆうつうせいきんけいれん)」と呼ばれ、いわゆる「筋肉がつった」状態のことを指します。普段は自分の意思で動かしている筋肉が、何らかの理由で突然けいれんを起こして、収縮されたままロックされて、痛みを伴ったまま動かせなくなることを、一般的に「こむら返り」といいます。

夜中にふくらはぎに起こることが多いですが、それ以外の筋肉でも起こります。こむら返りは突発的に起こりやすいことから、正しい対処法を知っておくと安心です。

監修プロフィール
医療法人社団青泉会 下北沢病院 院長 きくち・まもる 菊池 守 先生

2000年大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部形成外科助教、佐賀大学医学部形成外科診療准教授などを経て、2016年日本初の「足の総合病院」としてリニューアルした下北沢病院の院長に就任。日本形成外科学会専門医、日本フットケア・足病医学会評議員・認定師、日本リンパ浮腫治療学会評議員、日本創傷外科学会専門医。

こむら返り(足がつる)について知る


こむら返り(足がつる)の原因

こむら返りはなぜ起こるのか。そのメカニズムはまだ完全には解明されていません。現在は、次の2つが主な原因と考えられています。


①筋肉の伸縮を感知するセンサーの誤作動

私たちの筋肉や腱は、伸び過ぎや縮み過ぎによる損傷を防ぐために、筋肉の中にある「筋紡錘(きんぼうすい)」と、腱と筋肉の境目にある「腱紡錘(けんぼうすい=ゴルジ腱器官)」というセンサー組織によって監視されています。

筋肉の伸縮を感知するセンサー

筋紡錘は筋肉の伸び過ぎを感知すると、即座に脊髄に情報を送り、脊髄は「縮め」と指示を出します。一方、腱紡錘は筋肉の伸びと縮みの両方を監視しており、異変を感知すると脊髄に知らせます。

これらの仕組みは「脊髄反射」と呼ばれ、普段は意識しなくてもうまく働いてバランスを取っているのですが、何らかの理由で誤作動が起きると、脊髄から適切な指示が出ず、筋肉がそのまま暴走してしまいます。この状態が「筋肉のつり」、いわゆるこむら返りです。

筋肉の収縮を感知するセンサーの誤作動でふくらはぎがつる(こむら返りが起こる)

②電解質異常(ミネラルバランスの崩れ)

体内で電解質(ミネラル)のバランスが崩れると、神経の情報伝達がうまくいかず、筋肉の収縮に歯止めが効かなくなります。こむら返りはマグネシウムとカルシウムの不足が主な原因と考えられています。

他にも、以下のような様々な原因が組み合わさって、こむら返りの症状が現れると考えられます。
・水分不足、脱水
・血流不足や冷え
・筋肉疲労
・筋肉量や代謝量の減少
・薬の副作用
・糖尿病や腎臓病などの病気
・下肢静脈瘤
・足のむくみ
・脊柱管狭窄症
・扁平足


こむら返り(足がつる)の症状

筋肉のつりと激しい痛みを伴う

こむら返りを起こすと、自分の意思で筋肉を動かすことはできません。筋肉がけいれんして縮んでしまうため、筋肉のつりと激しい痛みが伴います。
痛みを感じると筋肉はさらに緊張し、同時に血管も収縮して、血流が滞り、細胞が酸素不足となり、痛みのもととなるプロスタグランジンなどの産生が促されるため、痛みはますます強まり、筋肉が緊張・収縮するという悪循環が起きています。こむら返りの多くは一過性ですが、痛みが続く場合や、その後も頻繁に繰り返すケースもあります。
特に症状が出やすいのがふくらはぎです。その他にも、手足の指、腕、足首、太もも、すね、土踏まず、首、肩、背中、腰、お尻の筋肉にも出ることがあります。


なぜふくらはぎに、こむら返りの(足がつる)症状が出やすいの?

では、こむら返りがふくらはぎに起こりやすいのはなぜでしょうか? 考えられる要因を見ていきましょう。

・ふくらはぎは、抗重力筋である
筋肉のけいれんやつりは、地球の重力に対して姿勢を保つために働く筋肉「抗重力筋」でよく起こります。抗重力筋は立ったり、座ったり、普通に生活をしているだけでも常に緊張しています。負荷がかかりやすく、つりやすいのです。中でもふくらはぎは日常的に収縮と弛緩を繰り返すなど、特に疲れやすい筋肉ですから、つりやすいというわけです。

・ふくらはぎは心臓より下にあり、むくみやすい
ふくらはぎは心臓より下にあります。そのため、体液がふくらはぎ辺りにたまって、むくみや血流の滞りが起きやすくなります。むくむと冷えや酸素不足、ミネラルバランスも崩れやすくなり、こむら返りが起こりやすくなります。

・ふくらはぎは、冷えやすい
足元は冷えやすいため血流悪化が起こりやすい部分です。冷えによって筋肉がこわばりやすくなるため、こむら返りを誘発します。


こむら返りが起こりやすい人は?

こむら返りは誰にでも起こり得ますが、中高年になると発症率が増えるといわれています。その他にも、次のような人や状況では、こむら返りが起こりやすいとされています。

・中高年
加齢による筋肉量の減少はこむら返りの大きな要因です。特に、血液を心臓に送り返し、体内に循環させる働きを担う下肢の筋肉量が減ると血流が悪化し、代謝も悪くなるため、こむら返りが起きやすくなります。1日の終わりには筋肉疲労が蓄積し、中高年になると疲労回復も遅れるため、こむら返りのリスクは上がります。さらに動脈硬化、病気や薬の影響などの要因が重なると、こむら返りが頻繁に起こることもあります。

・妊婦
妊娠中期から後期にかけては、お腹が大きくなって姿勢が崩れたり、体重増加によって足の筋肉が疲労しやすくなったりする時期です。胎児が骨盤を圧迫することで、足の血流が滞りやすくなってむくみが発生し、こむら返りが起こりやすくなります。

・冷え性、足がむくみやすい人
冷え性の人は足も冷えやすく、筋肉のこわばりや血流不足などが起こります。足がむくむと冷えを招き、こむら返りが起こりやすくなります。

こむら返り(足がつる)が起こりやすい人

こむら返りが起こりやすい状況は?

こむら返りは、就寝中、運動の最中や後に起こりやすく、また、夏は水分不足になりやすいために注意が必要です。

・就寝中
1日の筋肉疲労の蓄積、脱水、足の冷えなどが原因で、就寝中にこむら返りが起こることは多くあります。就寝中は緩んでいるはずの筋肉が、寝る姿勢によって実際は筋肉が緊張した形状になっており、こむら返りを誘発するケースもあります。また、就寝中は頭と足がほぼ同じ高さになり、ふくらはぎ等の下肢にたまっていた水分が上半身へ流れます。日中のむくみが強い人ほど下肢の水分が急に減るため、筋肉が脱水と同じような状態になり、足がつりやすくなる可能性があります。

・運動中や運動後
運動をして汗をかくと、汗と共に体内のミネラルが失われます。ミネラルバランスの崩れは足の筋肉のつりの原因になります。長く歩いた日や運動をした日は、筋肉疲労によって、筋肉の伸縮を感知するセンサーが誤作動を起こしやすくなります。

・汗をかきやすい夏
寝苦しく暑い夏は、就寝中にこむら返りが起こりやすい季節です。エアコンによる冷えや運動不足による血行不良に加え、発汗でミネラルを放出しやすく、脱水と同じような状態になって足がつることがあります。


こむら返りが起こりやすい生活習慣

こむら返りの発症には生活習慣もかかわっています。リスクの高い生活をしていないかチェックしてみましょう。

・運動不足
運動不足は筋肉量の減少を招きます。特に中高年で運動習慣のない人は下肢の筋肉が衰え、血流が滞りがちです。運動を始めたばかりの人は、軽い運動でも筋肉疲労が起こりやすいので要注意です。運動後に何もケアしないと、こむら返りが起こることも。ストレッチなどで足の疲れをその日のうちに取りましょう。

・食事量が少ない、または食事が偏っている
加齢と共に食事量が減る、過度なダイエットや不規則な食生活を続けていると、ビタミンやミネラル不足に陥り、こむら返りを起こしやすくなります。

・水分をあまり摂らない、または利尿作用のあるカフェインをよく摂る
水分不足もこむら返りの一因です。まとめて水分を摂っても不要分は排出されてしまうため、こまめな水分補給が必要です。水分はコーヒーや紅茶など、利尿作用のあるカフェインを多く含まない飲料を摂るようにしましょう。

・座りっぱなし、立ちっぱなしの時間が長い
日中、パソコン作業などで座りっぱなし、接客業で立ちっぱなし、といった生活の人も注意が必要です。下肢に血液が滞りやすく、むくみからこむら返りが起こりやすくなります。

こむら返り(足がつる)が起こりやすい生活習慣

この他にも、喫煙は血管が収縮して、血液が滞りやすくなります。飲酒はアルコールの分解に水分が使われ、水分不足に陥りやすくなるリスクが。毎日お酒を飲む習慣があり、こむら返りが頻繁に起こる場合は、アルコールが関係している可能性があります。


こむら返りが頻繁に起きる場合、病気が隠れている可能性も

こむら返りは、まれに起こる程度なら特に心配ありません。しかし、よく歩いた、よく運動した、1日立ちっぱなしだったなど、特に心あたりがないのに頻繁に足がつる場合は、何らかの病気が原因となっている可能性があります。週に3回以上こむら返りが起こる場合は、早めに受診することをおすすめします。
筋肉が頻繁につる場合に疑われる病気には、次のようなものがあります。

・腰部脊柱管狭窄症
背骨の腰の部分で脊柱管が狭まり神経が圧迫される病気で、加齢が主な原因です。腰椎の神経は下肢に伸びる坐骨神経とつながっており、腰椎にズレや骨の変形が生じると誤作動が起こり、こむら返りにつながりやすくなります。また、前かがみになると痛みが和らぐため猫背の姿勢になりやすく、それを支えるふくらはぎの筋肉が疲労しやすくなります。

・腰部椎間板ヘルニア
腰部の椎骨と椎骨の間でクッションの役割を果たしている軟骨(椎間板)が変形し、その中にある髄核が飛び出す病気。神経を圧迫して炎症が起こると足腰に痛みやしびれ(坐骨神経痛)、こむら返りなどの症状が現れます。

・糖尿病
糖尿病によって末梢神経が傷つき、筋肉の収縮・弛緩のコントロール機能が低下することでこむら返りが起こりやすくなります。筋肉がつる以外にも、のどの渇きや疲労感、多尿・頻尿、手足のしびれなどの症状を伴うこともあります。

・閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)
下肢に動脈硬化が起こり、血管が狭くなり血流が悪くなると、こむら返りの他に、歩行中に間欠性跛行(かんけつせいはこう)が起こりやすくなります。間欠性跛行とは一定の距離を歩くとふくらはぎに痛みやしびれ、疲労感があって歩行が次第に困難になり、しばらく休息すると治まることを繰り返す症状です。

・下肢静脈瘤
下肢の静脈の血流が悪くなることで静脈がポコポコと膨らんでコブができます。下肢のむくみの原因になり、こむら返りを起こしやすい病気の1つです。

つる場所が足以外や、腰痛、手足のしびれなど他の症状がある場合も、他の病気が隠れている可能性があるので、早めに受診しましょう。


他症状から見る診療科の目安

こむら返りが頻繁に起きる場合、何科を受診したらよいかは、他の症状と併せて考えるとよいでしょう。

・腰痛、足腰のしびれや痛みがある → 整形外科(腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアなどの疑い)
・下肢の血管が浮き出る、下肢のだるさ、痛みがある → 血管外科、末梢血管外科(下肢静脈瘤の疑い)
・間欠性跛行の症状や喉の渇きがある → 循環器内科(糖尿病、閉塞性動脈硬化症などの疑い)


こむら返り(足がつる)の対策(応急手当)

こむら返りが起こった時の応急手当は、落ち着いて「ゆっくり膝裏を伸ばすこと」がコツです。具体的なやり方を紹介します。


ゆっくり膝裏を伸ばす(腓腹筋とヒラメ筋を伸ばす)

  1. こむら返りが起きたほうの足を前に伸ばして座り、片手で足のつま先をつかむ。
  2. 息を吐きながらゆっくり少しずつ、足先を手前へ引っ張り、ふくらはぎを伸ばす。
こむら返り(足がつる)の応急手当

<ポイント>
・もう一方の手で優しくさすりながら行うとよい。
・こむら返りが解消し、痛みが和らぐまで続ける。
・手がつま先に届かない場合は、つま先にタオルをかけて、両手でゆっくり引っ張ったり、壁に足裏を押し付けたりして膝裏をゆっくり伸ばしてもよい。
・くれぐれも急に引っ張らず、ゆっくり行うこと。

<ふくらはぎを伸ばしても治まらない時は>
・足首から膝裏まで優しくさすり上げる。
・ホットタオルなどで温める。冷やすのはNG!できるだけ温めて血流を促すこと。
・水分を摂る。


すぐに治したい時は、即効性がある漢方薬「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」をのむ

鎮痛作用のある「芍薬」と抗炎症作用のある「甘草」という生薬から成る「芍薬甘草湯」は、こむら返りが起こった時に数分で痛みを和らげてくれる特効薬としてよく知られています。即効性があるため常備しておくと安心です。夜間にこむら返りを起こす人は、枕元に置いておき、こむら返りが起きたらすぐに服用するのが効果的です。
ただし高血圧症や腎臓病の人、妊娠中・妊娠の可能性のある人は医師に相談してから服用するようにしましょう。


こむら返り(足がつる)の予防法

こむら返りを繰り返し起こさないために、次のようなことが予防につながります。こむら返りで悩んでいる人は、できることから取り入れてみましょう。


ふくらはぎ(アキレス腱)のストレッチを習慣にする

壁やいすを使ってアキレス腱を伸ばします。毎日のストレッチがこむら返りの予防につながります。

こむら返り(足がつる)の予防法:アキレス腱伸ばしのストレッチ

寝る前のむくみ対策を取り入れる

夜間に足がつることが多い人は、寝る前のむくみ対策が有効です。10分でもよいので「壁に脚を上げて休む」「両脚ぶらぶら」「ふくらはぎのマッサージ」を行いましょう。マッサージの前に入浴して血流を促し、筋肉を柔らかくしてから行うとより効果的です。全身浴ができない時は、フットバスでもOKです。

こむら返り(足がつる)の予防法:むくみ解消法

また、足の静脈の血流が滞る下肢動脈瘤によるこむら返り防止には、弾性ストッキングも有効です。日中に履いておくとむくみが改善し、就寝中に起きるこむら返りを予防することができます。


ウォーキング等の運動習慣をつけ、筋力を維持する

加齢と共に筋肉量が減ることがこむら返りを誘発するため、筋肉量を減らさないように運動習慣をつけて筋力の維持を心がけましょう。


こまめに水分を摂取する

水分不足だとこむら返りを起こしやすいため、1日2リットル、以下のようなタイミングを目安に、こまめに水分補給をする習慣をつけましょう。喉が渇いたと感じる前に、時間を決めて摂取することがポイントです。

こむら返り(足がつる)の予防法:水分をこまめに摂る

食事でバランスよくミネラルを摂る

こむら返りを防ぐためには、毎日バランスよくミネラルを摂ることが大事です。中でも、現代の日本人に特に足りない栄養素がマグネシウムです。マグネシウムとカルシウムのバランスが「マグネシウム1:カルシウム2~3」の割合になるように摂取するのが理想的です。
ミネラルを多く含む食品には以下のようなものがあります。

・マグネシウムを多く含む食品
ほうれん草、ブロッコリー、ナッツ、大豆製品、未精製の穀物(雑穀や玄米など)、ゴマなどに多く含まれます。豆腐はにがり(凝固剤)の種類で「塩化マグネシウム」を主成分にしたものであれば摂取量を簡単に増やせます。購入の際に、成分表示などで確認しましょう。

・カルシウムを多く含む食品
牛乳、乳製品、小魚、大豆製品、ナッツ、海藻などに多く含まれます。カルシウムの吸収にはビタミンDも重要ですが、骨ごと摂れる小魚はカルシウムとビタミンDの両方が含まれていておすすめです。

・カリウムを多く含む食品
ブロッコリー、ほうれん草、納豆、里芋、さつまいも、バナナ、アボカド、サワラ、鶏もも肉などに多く含まれます。水に溶ける性質があるため、みそ汁やスープで汁ごと摂るなど、調理法を工夫しましょう。例えば、ブロッコリーをゆでると約半分のカリウムを損失しますが、蒸す、電子レンジで加熱すると損失を防げます。

・クエン酸を多く含む食品
酢、レモン、オレンジ、グレープフルーツ等のかんきつ類、梅干しなど。クエン酸にはキレート作用という、ミネラルを溶けやすく吸収されやすい形にする働きがあります。


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