ぎっくり腰(急性腰痛症)

ぎっくり腰(急性腰痛症)

ぎっくり腰は医学的な病名ではなく、正式には「急性腰痛症」と呼ばれ、急激に発症した腰痛を指します。激しい痛みを伴い、欧米では「魔女の一撃」とも呼ばれます。多くは1週間から10日ほどで自然に回復していきますが、2週間以上改善が見られない、むしろ症状が悪化している、いったんは治まっても繰り返す場合は、ぎっくり腰ではなく、椎間板ヘルニアや圧迫骨折など他の病気が隠れていることがあるので注意が必要です。

監修プロフィール
東京腰痛クリニック 院長 みうら・やすし 三浦 恭志 先生

名古屋大学医学部大学院卒業。医学博士。あいちせぼね病院理事。日本整形外科学会専門医、脊椎脊髄病医、脊椎内視鏡下手術・技術認定医。日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医、脊椎脊髄外科専門医。日本PED研究会世話人。

ぎっくり腰について知る


ぎっくり腰の原因

ぎっくり腰のはっきりした原因は不明

ぎっくり腰の発症のきっかけとしてよく知られているのは「重い物を持ち上げた拍子に発症する」ケースですが、実際には「くしゃみをした時」「下に落ちた物を拾おうとした時」や、「少しお辞儀をしただけ」「ただ立ち上がろうとしただけ」など、些細な動作がきっかけで起きることもあります。

これらに共通するのは、中腰の姿勢で行う動作だということ。中腰は椎間板に圧がかかりやすい姿勢で、特にヘルニアなど腰に問題を抱えている人にとっては、トラブルを引き起こしやすい姿勢なのです。

しかし、ぎっくり腰のはっきりとした原因はいまだ解明されておらず、ぎっくり腰になった時に体の中で何が起こっているのかは実はよく分かっていません。

言い換えれば、ぎっくり腰(急性腰痛症)とは、腰椎(ようつい)椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)、腰椎圧迫骨折など、はっきりした病名がつかない全ての急性腰痛の総称ともいえるのです。


ぎっくり腰だと思ったら、別の病気が隠れていることも

このようなことから、椎間板ヘルニアや圧迫骨折などの病気による痛みを、ただのぎっくり腰だろうと思って放置したり、マッサージなどの施術を受けてかえって悪化してしまったりすることがあります。2週間以上経っても症状が回復しない場合や繰り返す場合は、他の病気が原因ではないか、整形外科を受診して確認することが大切です。

ぎっくり腰と間違いやすい病気やけがとしては次のようなものがあります。
・高齢者では、骨粗鬆(しょう)症に伴う脊椎の圧迫骨折の可能性もあります。
・足のしびれなど他の症状もある場合は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症なども疑われます。
・ぎっくり腰を繰り返している人は、椎間板ヘルニアをはじめとした、背骨の病気が隠れている可能性もあります。

2週間以上経っても症状が回復しない場合や繰り返す場合は、他の病気が原因ではないか、整形外科を受診して確認することが大切です。

ぎっくり腰の症状

ぎっくり腰は、急性で強い痛みが特徴

ぎっくり腰は何らかのきっかけで、瞬間的に急激に生じる強い痛みが特徴です。脂汗をかくほどの激痛を伴うこともあります。ぎっくり腰による痛みなどの症状は通常、数日から10日程度でなくなります。

痛みが2週間以上続く場合は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、腰椎分離症など他の原因が隠れている可能性が高いため、整形外科を受診しましょう。


病院に行くべき、ぎっくり腰の症状

では、どのような症状があれば、病院を受診すべきなのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

・何度もぎっくり腰を繰り返す、またはなかなか治らない
いったん急激な痛みは回復しても、何度もぎっくり腰を繰り返す、あるいは2週間以上経っても回復しない場合は、椎間板ヘルニアをはじめ、他の病気からくる痛みの可能性があります。病院を受診して、原因をしっかり調べてもらうと安心です。

・下肢に痛みやしびれがある
下肢の痛みやしびれは、ただのぎっくり腰ではなく、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアの疑いがあります。整形外科を受診して、専門医による診断を受けましょう。

・下肢の麻痺(まひ)や排尿・排便障害などがある
このような症状がある場合は、早急に病院を受診してください。下肢の麻痺症状や排尿・排便障害がある場合は、腰に大きな神経障害が起こっているサインです。すぐに治療が必要で、場合によっては手術が必要なケースもあります。

・安静にしていても腰痛が回復せず、むしろ悪化している
骨粗鬆症等による腰部の圧迫骨折や内臓の病気、ごくまれにがんの脊椎転移などの可能性もあります。

・発熱、嘔吐、血尿などがある
脊椎炎などの感染症によって発熱することがあります。他にも、発熱や嘔吐などの症状がある場合は、内臓の病気が隠れている場合も。尿路結石が原因の腰痛、血尿の可能性もあります。

特に、下肢のしびれや麻痺、激しい腰の痛み、発熱や嘔吐、血尿など重篤な症状がある場合は、受診の目安となる2週間を待たずに、できるだけ早く受診することをおすすめします。

なお、セルフケアによって1週間から10日で回復すれば、特に受診の必要はありません。ただし、一度治まっても、ぎっくり腰を繰り返す場合は、別の病気が隠れていないか調べるために、受診しましょう。

病院に行くべき、ぎっくり腰の症状

ぎっくり腰の治し方、対処法

ぎっくり腰になったら。急性期のセルフケア

ぎっくり腰の痛みが強く出ている時はむやみに動かず、自分が最も楽な姿勢でゆっくりと深呼吸を繰り返し、まずは痛みを落ち着かせましょう。激しい痛みが治まるまでは、患部を冷やすより、温めるほうが楽になる人が多いといわれています。

ぎっくり腰には市販の湿布薬や鎮痛剤も有効です。自宅に常備していれば、使うことで痛みが楽になることも。湿布薬は冷感タイプではなく、ロキソプロフェンナトリウムなど配合の外用鎮痛消炎剤を選ぶとよいでしょう。

・寝る姿勢
ぎっくり腰になると、大半は仰向けで脚を伸ばして寝るのは困難です。筋肉や骨の構造上、仰向けになり脚を伸ばすと腰に力が集中してしまうためです。

強い痛みがあるうちは、膝の下に丸めた毛布やクッションなどを置き、膝が90度程度曲がった状態で寝ると、楽だと感じる人が多いでしょう。また、痛いほうを上にして横になり、膝の間にクッションを挟んだり、抱き枕などを抱いて寝るのもおすすめです。

ぎっくり腰で寝るときの楽な姿勢

・お風呂
温めたほうが、痛みが楽になる場合は、入浴もおすすめです。無理のない範囲で、温かいお湯にゆっくり浸かって体を温めましょう。入浴には血液の循環の改善、浮力による腰の負担の軽減、自律神経のバランスが整うリラックス効果などがあるため、お風呂に入ると痛みが楽になる人は多いですが、逆に、入浴によって痛みが強くなる場合や、腫れがある、患部が熱をもっている時などは、入浴は避けたほうがよいでしょう。


ぎっくり腰からの早期回復には普段通りの生活を心がけよう

ぎっくり腰の痛みが強いうちは、横になって休む時間が長くなりますが、痛みが落ち着き、少し動けるようになったら、できるだけ普段通りの生活を心がけたほうが、早く回復することが分かっています。

イギリスの医学誌に掲載された研究では
①ベッドでの安静
②治療家による施術を受ける
③できる限り通常の日常生活を過ごす
という3グループに患者を分けて実験したところ、③のできる限り通常の日常生活を過ごすよう心がけたグループが最も回復が早く、①のベッドで安静にしていたグループが最も回復が遅かったという意外な結果※が出ました。
※ A Malmivaara,et al.N Engl J Med 1995;332(6):351-5.

他の研究でも同様の結果が出ており、動けないほどの激痛でない限り、ぎっくり腰は無理のない範囲で動いたほうが、回復が早い場合がほとんどです。痛いからといって過度に安静にしていると、逆に症状を長引かせてしまうので、痛くて全く動けないという状況が治まったら、なるべく普段通り動くようにしましょう。


コルセットはつけてもいいが、頼り過ぎは禁物

ぎっくり腰の痛みが強い時は、コルセットをつけると楽に動けるという人は多いです。しかし、ぎっくり腰の早期回復には、できる限り普段通りの生活を心がけることが重要ですから、痛みが落ち着いてきたら徐々に外すなど、頼り過ぎないことが肝心です。

ぎっくり腰が回復したら、適度な運動などによって腹筋や背筋を鍛えましょう。体幹の筋肉が、いわば「天然のコルセット」となって腰を守ってくれます。


病院でのぎっくり腰の検査・治療

腰痛の診断は、次のような手順で行われます。

長引く腰痛や、繰り返すぎっくり腰で受診した場合は、注意深い問診や診察により、他の病気が隠れていないかを確認します。その際、神経の異常がないかもチェックします。さらにレントゲン検査を行うことが多いですが、神経や椎間板などの組織の状態はレントゲンでは分からないため、状況に応じてMRIやCTなどの精密検査をすることもあります。

他の疾患の疑いがなく、原因の特定を急がない「ぎっくり腰」と診断がつけば、湿布薬や飲み薬などの治療薬が処方されます。急性腰痛の治療薬として主に用いられる薬剤は、ロキソプロフェンナトリウムやジクロフェナクナトリウムなどの成分の入った、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)です。注射も有効で、痛みを取り、炎症を抑える薬を注射することで症状が軽くなり、回復が早まることもあります。


ぎっくり腰の予防法

ぎっくり腰を起こさない、繰り返さないためには、次のようなことが予防につながります。


ぎっくり腰になりやすい姿勢を取らない

・荷物を持つ時
床に置いた荷物を持ち上げるのは、ぎっくり腰を引き起こしやすい動作の1つです。立ったまま腰だけ曲げて荷物を持ったり、腕の力だけで持ち上げようとしないようにしましょう。

正しい持ち方は、まず股関節と膝を曲げて腰を落とし、体と荷物を近づけます。下腹を前に突き出して、腰椎のS字カーブが保たれた姿勢を意識しましょう。次に、勢いよく持ち上げず、まずはおおよその重さを把握してから、腕ではなく脚の力でゆっくりと持ち上げます。

ぎっくり腰にならない荷物の持ち方

・くしゃみやせきをする時
激しいくしゃみやせきをした時に、ぎっくり腰を起こすことがあります。上体が勢いよく前屈して、腰椎や椎間板に急激に圧がかかるためです。ぎっくり腰の予防では、このように腰椎に大きな圧力が急激にかかるような動作や姿勢をしないことが大切です。

もし、くしゃみやせきが出そうになったら、上体を起こして胸を張り、少し腰を反らせます。腰のS字カーブを保つ姿勢を意識することで、S字がくしゃみやせきの衝撃を吸収して腰椎を守ります。また、壁などに手をついてくしゃみやせきをすると、急激な前屈を防げます。

・その他、日常生活で気をつけるべき姿勢
朝起きる時は、誰でも体が硬くなっているものです。すぐに体を起こそうとせず、布団の中で少し動いてから、ゆっくり起き上がるようにしましょう。体を少しほぐしてから活動するほうが、ぎっくり腰などのトラブルは少なくなります。

また、洗顔の際に前かがみになる姿勢は腰に負担がかかります。洗顔する時は腰だけで前屈せず、両脚を前後に開き、膝も少し曲げると、腰にかかる負担を軽減できます。


座りっぱなしは要注意!体を動かして筋力と柔軟性を保とう

ぎっくり腰の原因ははっきりしておらず、決定的な予防策はありませんが、腰痛の多くは日々の生活の負担が積み重なって発症します。運動不足で筋肉が衰えてしまったり、長時間座りっぱなしのデスクワークなどをしていたりすると、肩や背中、腰などの筋肉が硬直して、腰椎の柔軟性が失われてしまいます。

腰痛の予防には姿勢の改善、ストレッチやウォーキングなど適度な運動で筋肉や関節の柔軟性を保つこと。そして、体を支える筋肉の強化の2つが重要です。

また、ぎっくり腰になる人は体が硬い人が多く、特に太ももの筋肉が硬いという共通点があります。以下のようなストレッチを続けることが予防につながります。


<ぎっくり腰予防におすすめのストレッチ>

・キャットキャメル
背骨の柔軟性を高める体操で、その見た目からキャットキャメル(猫とラクダ)と呼ばれます。

ぎっくり腰予防におすすめのストレッチ:キャットキャメル

①猫のポーズ……四つんばいになってひじを伸ばし、顔を正面に向ける。息を吸いながら肩甲骨を軽く寄せ、背中を反らすように力を入れる。
②ラクダのポーズ……ひじは伸ばさずに軽く曲げ、息を吐きながら背中を丸めてお腹をのぞき込む。この時、ラクダのコブのように背中を突き出して丸め、首に力を入れないこと。
③猫のポーズとラクダのポーズをゆっくりと、痛みの出ない範囲で、できるだけ大きく交互に5回ずつ行う。

・膝抱え体操

ぎっくり腰予防におすすめのストレッチ:膝抱え体操

膝を抱えることで、背中を伸ばします。痛みがなければ首を上げて行うとより効果的です。
①両膝を抱え、背中丸めるイメージで胸に膝を引き寄せる。
②20秒間姿勢を保つ。これを2セット繰り返す。

・太もも伸ばし体操

ぎっくり腰予防におすすめのストレッチ:太もも伸ばし体操

太もものストレッチです。太ももの裏が伸びていることを意識して行いましょう。
①いすに浅く座って膝を伸ばし、足首は上へ引き上げるように反らす。
②腰を丸めずに、上体を前に倒す。
③20秒間姿勢を保つ。反対の脚も行い、2セット繰り返す。


この記事はお役に立ちましたか?

今後最も読みたいコンテンツを教えてください。

ご回答ありがとうございました


健康情報サイト