ふけは、頭皮のターンオーバー(新陳代謝)によって、古くなった角質細胞が剥がれ落ちた物です。ふけというと、何となく不潔なイメージがあるかもしれませんが、頭皮のターンオーバーは誰にでも起こるものであり、どんなに清潔にしていてもふけは発生します。正常なターンオーバーで剥がれ落ちた角質細胞は小さいため、あまり気になりません。しかし、頭皮のトラブルなどでターンオーバーのサイクルが乱れると、大きくなったり量が増えたりして目立つようになります。また、ふけは頭皮を刺激し、かゆみの発生とも深く関係します。今回はふけや頭皮のかゆみを引き起こす様々な原因をご紹介すると共に、その対処法や予防法をご紹介します。
1982年東京女子医科大学卒業後、同大学皮膚科に入局。84年よりスイス・ジュネーブ大学皮膚科に留学。その後、東京女子医科大学皮膚科助教授、同附属女性生涯健康センター教授を経て、17年より現職。医学博士。専門はアトピー性皮膚炎、皮膚科心身医学。著書に『皮膚科専門医が教える やってはいけないスキンケア』(草思社)など。
顔の皮膚に比べ、ややゆっくりと進む頭皮のターンオーバーですが、そのサイクルは様々な原因によって乱れやすく、ふけやかゆみの原因になります。代表的な原因の1つが、季節による温度や湿度の変化です。冬と夏にふけやかゆみの悩みが増える理由と、冬と夏のふけの特徴をご紹介します。
●冬のふけや頭皮のかゆみの主な原因は、乾燥と気温の低さ
冬の乾燥は、頭皮のターンオーバーのサイクルを乱れさせます。通常よりも早い周期で角質細胞が剥がれてしまうため、ふけが増加します。同時に乾燥が頭皮のバリア機能の低下を引き起こすため、ふけの刺激からかゆみも生じます。
さらに気温が低くなると、頭皮の血行も悪くなり、ターンオーバーが乱れて、ふけが発生する原因になります。
<冬は小さくカサついた「乾燥性のふけ」>
頭皮の乾燥により発生。小さめで、肩などにパラパラ落ちる白っぽく乾燥したふけが多い。
●夏のふけや頭皮のかゆみは汗や皮脂の過剰分泌によって発生
気温が上昇する夏は、頭皮の汗や皮脂の分泌が増えます。この皮脂を栄養とする頭皮の常在菌(マラセチア菌など)が過剰に増殖する際に発生する物質により、頭皮が炎症を起こし、ターンオーバーのサイクルが早くなってふけやかゆみが発生します。
<夏は大きくベタついた「脂性のふけ」>
皮脂の分泌が多いことで起こるため、ベタベタと湿っぽく、ブラシにこびりつくような大きめのふけ。
すでに「ふけや頭皮のかゆみが気になっている」という人は、洗髪方法やヘアケア用品に気を使って、いろいろなセルフケアを試しているかもしれません。ただ何事も「やり過ぎ」は禁物! よかれと思って頑張っているヘアケアが、症状を悪化させている可能性もあります。知らず知らずのうちにやってしまいがちなヘアケアのNG行動についてご紹介します。
●こすり過ぎ・洗い過ぎ
洗髪時に頭皮をごしごし洗ったり、1日に何度も洗髪したりすると頭皮が乾燥してふけが出やすくなります。洗い過ぎは「天然の保湿クリーム」である皮脂を落とし過ぎてしまい、頭皮のバリア機能を低下させます。また、洗い過ぎにより頭皮を傷つけることも多く、かゆみの発生にもつながります。
●皮脂の取り過ぎ
「ふけが気になる」という人の中には、シャンプーの「すっきりタイプ(皮脂を取り除くタイプ)」を選んで使っている人もいると思います。季節が夏の場合や、もともと頭皮の皮脂が多く、ベタついたふけが出るタイプの方であれば、症状が改善されることもありますが、皮脂量がもともと多くない人の場合は、皮脂を取り過ぎてしまい、頭皮が乾燥して、ふけやかゆみが増えてしまう可能性があります。このように、シャンプーやトリートメント、ヘアカラー剤などの成分が頭皮に合わないと、かぶれ(接触皮膚炎)や湿疹(脂質性皮膚炎やアトピー性皮膚炎)を起こし、ふけやかゆみを生じることがあります。
●温め過ぎ
頭皮を健康に保つためには、高温も大敵です。例えば、ドライヤーの熱を高温にし過ぎたり、必要以上に長時間当て続けたりすると、潤いが失われ、頭皮が乾燥してふけの原因になったり、頭皮の刺激となってかゆみにつながったりすることもあります。また入浴時のシャワーやお風呂の温度が高過ぎると、頭皮の皮脂の落とし過ぎにつながり、ふけが生じたり、体が温まり過ぎてかゆみが出たりすることもあります。
「最近ストレスが多くて、何となく肌の調子が悪い」と感じたことはありませんか? 顔の皮膚とつながっている頭皮にも、同じことがいえます。
ストレスが過度にたまると血流を調整する自律神経のバランスが崩れてしまい、顔と同様に頭皮も血行不良を引き起こします。その結果ターンオーバーが乱れ、ふけやかゆみが出て、それがさらなるストレスを生んで、負のループに陥ってしまうことも。頭皮の健康を保つためにも、日々のストレスをため過ぎないことが大切です。
さらに、睡眠などの生活習慣の乱れも、頭皮の健康に影響を及ぼします。頭皮や皮膚の代謝や細胞の修復は睡眠中に行われますが、睡眠不足が続いたり睡眠の質が落ちたりすると頭皮の新陳代謝が低下し、ふけやかゆみを生じる恐れがあります。
一般的に思春期にはニキビができやすくなりますが、これは皮脂分泌が増えるからです。この時期は顔と同様に頭皮の皮脂分泌も増えるので、季節に関係なく、「脂性のふけ」が出やすくなります。さらに、思春期は見た目や人目を気にし始める時期なので、ふけを気にして、1日に何度も洗髪をしたり、皮脂を取り過ぎるシャンプーを選んでしまったりして、症状を悪化させてしまうこともあります。
一方で更年期世代の女性は、女性ホルモンの1つであるエストロゲンの減少により皮膚が乾燥しやすくなることや、仕事で責任のあるポジションになったり、介護など家庭での負担が増えたりといったことによるストレスの増加、白髪を隠すためのヘアダイなど、ふけや頭皮のかゆみが発生しやすくなる様々な要因が重なります。さらに、女性ホルモンの減少が毛髪の成長期を短縮させ、ヘアサイクルに影響を与えるため、頭皮の悩みやトラブルが増えやすくなります。
頭皮のケアや生活習慣には気をつけていても、なかなか症状が改善しないという場合は、病気が原因である可能性もあります。ふけや頭皮のかゆみを伴う主な皮膚疾患をご紹介します。
【ふけや頭皮のかゆみが生じる皮膚疾患】
●脂質性皮膚炎
頭皮が赤くなり脂っぽいふけを伴う。頭皮の常在菌であるマラセチア菌の増殖によって起こり、乳児期、思春期、中年男性に現れやすい。
●頭皮湿疹
洗い過ぎなどによる乾燥によって起きる湿疹。乾燥肌の人に起こりやすい。
●アトピー性皮膚炎
乾燥肌とかゆみを伴う湿疹が生じる皮膚疾患。
●頭部乾癬
ターンオーバーが過剰になることにより角質が厚くなり、ふけのように剥がれ落ちる。
●白癬菌
水虫の原因となる白癬菌に感染することで起こり、ふけが生じる。
●接触皮膚炎(かぶれ)
ヘアダイやシャンプー剤、トリートメント剤など原因となる物質が頭皮に接触したことによってかゆみが生じる。
病気の種類や症状にもよりますが、病気が原因のふけの場合は、治療によって早期に症状が改善することもあります。症状が続いてつらい、早く改善したいという方は、まずは医師に相談してみましょう。
ふけや頭皮のかゆみの症状は、軽いものであればセルフケアで改善することもありますが、下記のような方や、他にも気になる症状がある方はセルフケアもシャンプーでの洗髪もやめて、早急に皮膚科に相談することをおすすめします。
☑頭皮のかゆみの部位が炎症を起こして湿疹ができた
☑頭皮のかゆみが強くて日常生活に支障が出ている
☑1カ月以上症状が改善しない
☑ふけの量が増えるなど症状が悪化している
☑ふけの原因を突き止めたい
●病院での治療
皮膚科での治療としては、まずふけや頭皮のかゆみの原因を特定します。症状に応じてステロイドの外用薬で炎症を抑えたり、抗真菌薬で原因となる常在菌の増殖を抑えたり、抗ヒスタミン薬でかゆみを和らげたりするなどの治療を行います。
また症状を悪化させないための、日常的な頭皮ケアの見直しについてもアドバイスをしていきます。
●頭皮のかゆみがひどい時のセルフケア
頭皮のかゆみを抑える一時的な対応としては、患部を冷やすことが効果的です。保冷剤にハンカチなどを巻いて皮膚が濡れないようにカバーしながら、かゆいところに当てるのもよいでしょう。お風呂では熱めのお湯に浸からないようにしましょう。
またストレスによって頭皮のかゆみを感じる場合は、気持ちをリラックスさせると症状が改善することも。深呼吸をしたり、アロマやお香で気持ちを落ち着かせたり、体を動かしたりして気持ちをリフレッシュさせると、かゆみが治まることもあります。
ただ、ふけや頭皮のかゆみの原因は様々なので、まず皮膚科の医師の診断のもと、治療の効果を上げるためのセルフケア指導を受けるとよいでしょう。
乾燥、皮脂の過剰分泌、血行不良、ストレスなど、様々な要因がかかわる頭皮の不調。日常的な頭皮のケアと共に、心身の健康を整えていくことが、頭皮の健康維持には大切です。
●心身の健康
必要な栄養素をしっかり摂るバランスの取れた食事、全身の血行を促しストレス解消にもつながる適度な運動、自律神経を整え頭皮のバリア機能を回復させる質の高い睡眠といった生活習慣は、心身の健康を保つ上で最も大切なことです。心身が健康であることは、頭皮の健康にもつながります。頭皮の状態に限らず、「体調が悪いな」「いつもよりも強いストレスを感じるな」と思ったら、まずは心身の不調の回復を図ることが大切です。いつもより1時間長く睡眠をとる、自分が好きなことをするなど、何でも構いません。不調を感じた時に心身が休まる自分なりのルーチンを決めておくとよいでしょう。
●シャンプーの方法を見直す
現代の日本では、多くの人が「髪をごしごし洗い過ぎ」であり、洗髪時に頭皮にダメージを与えているケースがよく見られます。本来、頭皮の汚れは、通常のターンオーバーで落ちていくものなので、「やり過ぎない」ことが大切です。頭皮のトラブルを防ぐシャンプーの方法と、「どんなシャンプー剤を選べばいいのか分からない」という方向けに、シャンプー剤選びのコツもご紹介します。
<正しいシャンプーの方法>
①シャンプー前に髪や頭皮をぬるま湯で十分に濡らす
②適量のシャンプー剤をよく泡立てて、頭皮から髪全体になじませる
③絹ごし豆腐の表面をつぶさないようになでる感覚で、指の腹で頭皮と髪を優しく洗う(シャンプーブラシを頭皮につけないようにして使うのもよい)
④すすぐ時も指の腹を使って優しくすすぐ
⑤コンディショナーやトリートメント剤などを、髪全体になじませてぬるま湯ですすぐ
⑥タオルドライした後、熱いと感じない程度の温度や距離でドライヤーを使い、乾かす
<シャンプー剤選びの3つのコツ>
☑香りや使い心地など、自分にとって心地よい物を選ぶ
☑ごしごし洗い過ぎず優しく洗うためにも、泡立ちがよい物を選ぶ
☑症状に合わせて、ふけや頭皮のかゆみを抑える成分を配合したシャンプーを選ぶ
●ブラッシング方法を見直す
ブラッシングは髪をほぐすだけでなく、頭皮のふけを落とすことができるので、毎日の習慣にすることをおすすめします。ブラッシングをする時の注意点は、力を入れ過ぎないこと。肌当たりのよいブラシを使い、頭皮を強く刺激し過ぎないようにしましょう。
●頭皮をマッサージする
頭皮の血行を促進するマッサージは、頭皮の状態改善にもおすすめです。日常生活に取り入れやすいシンプルなマッサージ方法をご紹介します。「シャンプーをする時のついで」にできるのはもちろん、仕事中に一息入れたい時、ゆっくりテレビを見ている時などの「ついで」に行ってみてください。
①両手の指の腹を頭皮に当て、なでるように優しく、小さく軽く円を描くように動かし、位置を変えながらもみほぐす
②両手の指の腹で頭皮を軽くつかむように押す
このような頭皮のケアは、日常生活に取り入れて無理なく継続していくことが重要です。「いろいろやってみよう! 頑張ろう!」とあまり気負わず、「自分にとって、何が快適なのか」という感覚を大切にしましょう。ストレス解消法も、ヘアケア用品の選び方も、休息のとり方も、これでなくてはいけないという決まりはありません。世の中にあふれている情報に流され過ぎず、自分の感覚で判断することが、頭皮に限らず自分の健やかさを守るのには大切です。