腱鞘炎

腱鞘炎

腱鞘炎(けんしょうえん)とは、骨と筋肉をつないで指や手首の曲げ伸ばしを可能にしている腱が太くなったり、腱を包むように収めている腱鞘が硬く厚くなったりして、腱と腱鞘がこすれ合うようになり、炎症が生じるものです。腱鞘炎の症状には、痛みや腫れの他、こわばり、しびれなどが起こる場合もあり、体をスムーズに動かせなくなって生活に支障を来すケースもあります。

腱と腱鞘の正しい状態と腱鞘炎の状態比較。正常な状態は、腱と腱鞘がこすれ合わずスムーズに通っているが、腱鞘炎の状態では、腱鞘が厚くなり腱が通りにくくなっているか、腱が太くなり腱鞘を通りにくくなっている。

腱鞘炎が指や手首に発症するのは、これらの部位が多くの骨によって構成され、細かな動きをすることが多いためです。テニス肘も腱鞘炎と認識されている場合がありますが、実は発症する部位には腱鞘がないため、厳密には腱鞘炎とは異なります。ただし、テニス肘や上腕二頭筋長頭腱炎(じょうわんにとうきんちょうとうけんえん)など腱鞘炎と類似する疾患では同様の治療が行われるため、合わせて解説します。

監修プロフィール
健愛記念病院 副院長 いけだ・さとし 池田 聡 先生

1989年産業医科大学医学部卒業。同大学整形外科、市中病院を経て、2001年健愛記念病院整形外科に入職。日本整形外科学会(専門医、認定リウマチ医、認定スポーツ医、骨粗鬆症委員会アドバイザー)、日本骨粗鬆症学会(監事、評議員、認定医、認定医制度委員会委員長、骨粗鬆症リエゾンサービス委員会委員、キャリアアップ委員会委員)、日本骨形態計測学会評議員、日本骨代謝学会、日本脊椎脊髄病学会、日本腰痛学会、ASBMR(アメリカ骨代謝学会)等に所属。平成21年度日本骨形態計測学会ゴールドリボン賞、日本骨粗鬆症学会森井賞(第11回、16回)受賞。

<目次>腱鞘炎について知る


腱鞘炎の原因

腱鞘炎の主な原因は、仕事や家事、趣味で指や手首を使い過ぎていること

腱鞘炎の原因は、仕事や家事、趣味での指や手首の使い過ぎ

腱鞘炎は何の原因もなく起こる場合もありますが、主な原因は生活の中での指や手首の使い過ぎです。頻繁に動かすことによって腱と腱鞘の間の摩擦が起きやすくなり、炎症が生じるのです。そのため、以下のような生活をしている人は注意が必要です。
・仕事で1日中パソコンを使用していたり、長い文章を手書きしたりしている。
・理容師や美容師、大工、料理人など、指先や手首を使う職業についている。
・仕事や趣味で楽器の演奏をしている。
・時間があればスマートフォンやゲーム機を手にして、長時間使い続けることもある。
・乳幼児を育てている。

加齢や女性ホルモンのバランスの変化も腱鞘炎に影響する

年齢を重ねると、腱が弱くなったり、腱鞘が硬く厚くなったりします。そのような腱と腱鞘の質の変化が炎症を起こすきっかけになる場合があります。
また、女性はホルモンバランスの乱れも影響します。女性ホルモンのエストロゲンには、腱や腱鞘の弾力性・柔軟性を維持したり、関節を覆っている滑膜(かつまく)という組織の腫れを抑えたりする働きがあります。同じく女性ホルモンのプロゲステロンには、腱鞘を収縮させる働きがあります。そのため、女性は妊娠や出産、更年期といった女性ホルモンのバランスが変化するタイミングで腱鞘炎を起こしやすくなるのです。特に出産後は、ホルモンバランスが乱れるのに加え、赤ちゃんの抱っこや授乳などで指や手首への負担が増すため、腱鞘炎に悩まされる人が多くなります。

糖尿病、人工透析などが原因で腱鞘炎が起こる場合も

他の疾患が原因で、指や手に腱鞘炎やそれに類似する疾患が起こることがあります。例えば血糖値が高いと、指の腱の結合部と腱鞘が厚くなり腱鞘炎が現れたり、神経が圧迫されて指がしびれる手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)を発症したりする場合があります。また、腎臓の働きが低下しているとβ2ミクログロブリンというタンパク質の分解が不十分になります。このβ2ミクログロブリンは透析でも除去しきれず、アミロイドという物質になって体内に蓄積されますが、腱や腱鞘に沈着して腱鞘炎を起こすことがあります。指や手に不調が現れた場合は、主治医に相談するようにしましょう。


腱鞘炎の症状

腱鞘炎では、炎症が生じている部分に痛みや腫れなどが現れます。神経が刺激されて、鋭い痛みが出ることや、腱の動きが妨げられて、こわばりやしびれが生じ、指や手首の曲げ伸ばしや細かな動き、力を入れることなどがしにくくなる場合もあります。主な症状としては、手首の親指側の腱鞘が太くなり、腱との摩擦で痛みが現れる「ドケルバン病」、指を伸ばそうとすると腱が腱鞘にひっかかって伸ばせなくなる「ばね指」があります。「ばね指」は、どの指にも発症します。

「ドケルバン病」は、手首の親指側にある親指を動かす2本の腱が通っている腱鞘が太くなって起こります。

「ドケルバン病」は、手首の親指側にある親指を動かす2本の腱が通っている腱鞘が太くなって起こります。

「ばね指」は太くなった腱が腱鞘を通過する際にひっかかって起こります。

「ばね指」は太くなった腱が腱鞘を通過する際にひっかかって起こります。

似たような症状を起こす別の疾患に、「デュピュイトラン拘縮(こうしゅく)」というものがあります。これは、手のひらの皮膚の下にある腱膜という薄い膜が徐々に変性し収縮することで、指が伸ばせなくなっていくもので、日常生活に支障を来すようになれば手術が必要となる疾患です。何らかの異変を感じたら整形外科を受診してください。


腱鞘炎の治療・対処法

腱鞘炎の症状が改善せず、生活に支障を来したら整形外科へ

腱鞘炎は痛みや違和感があるからといって動かさないでいると、関節が固まって伸ばしにくくなってしまいます。以下のような状態であれば、整形外科の受診をおすすめします。
・セルフケアをしても症状が改善せず、持続している
・日常生活に支障を来している

整形外科での腱鞘炎の診断・治療

多くの場合は腱鞘炎のための特別な検査の必要はなく、痛みが出る動作や状況に関する問診、腫れなどが出ていないかの視診、痛みを感じる部分の触診などによって診断されます。症状が長く続いている場合は、レントゲンなどの検査を行うケースもあります。
腱鞘炎の主な原因が指や手の使い過ぎであることから、まずは患部をできるだけ動かさないようにします。その際、患部を支えるサポーターなどを使うこともあります。その上で、塗り薬や湿布、テープといった外用消炎鎮痛薬、内服の解熱鎮痛薬が処方されますが、痛みが強い場合は腱鞘の内部にステロイド薬を注射したり、症状が改善しない場合や再発を繰り返す場合は、腫れたり硬くなったりして痛みの原因となっている腱鞘を切開し、腱との摩擦を防ぐ手術を行うこともあります。

腱鞘炎の症状が出た時のセルフケア

腱鞘炎の症状が軽い場合は、指や手を極力休めるようにし、薬剤師や登録販売者に相談して塗り薬や湿布など市販の外用消炎鎮痛薬で対処したり、「ばね指」の症状がある場合は無理のない範囲でストレッチをしたりしてもよいでしょう。ただし、「ドケルバン病」が疑われる場合、手首や親指を動かさないようにするのが大切なので、ストレッチはNGです。

「ばね指」に有効なストレッチ。手を前に伸ばして指を反らせます。

「ばね指」に有効なストレッチ。手を前に伸ばして指を反らせます。

「ドケルバン病」を見極める「フィンケルシュタインテスト」。手の内側に倒した親指を小指側に引っ張ってみて、親指の付け根付近の痛みが強くなれば該当します。

「ドケルバン病」を見極める「フィンケルシュタインテスト」。
手の内側に倒した親指を小指側に引っ張ってみて、親指の付け根付近の痛みが強くなれば該当します。


腱鞘炎の予防法

腱鞘炎は指や手の使い過ぎが主な原因であるため、予防には、こまめに休憩をとって長時間手や指などを使い続けないようにすることが大切です。もし、だるさや痛みを感じるようなら、作業をやめて安静にしましょう。同じ指や片方の手だけを使うのではなく、時々使う指や手を替えることも習慣化してください。

●パソコンを使う時の注意点
パソコンを使う場合は、手首を支えるクッションやサポーターの利用も検討してください。

●スマートフォンを使う場合の注意点
スマートフォンを片手で持ち、親指だけで操作している人も多く見られますが、支えている指や操作している親指に大きな負担がかかります。スマートフォンを使う時は両手で持ち、操作も両手で行うようにしましょう。

スマートフォンを使う時は両手で持ち、操作も両手で行うようにしましょう。

●ゲームをする場合の注意点
ゲームのコントローラーを使う場合は、手首を無理にひねるような動きは控えましょう。
●子育て中の注意点
子育て中の人は、だっこや授乳の姿勢を見直し、家事を家庭内で分担したり、便利な家電やグッズなどを活用したりすることで、手や指への負担を減らす工夫をしてみてください。

予防を心がけていても腱鞘炎になってしまうことはあります。医師の診断は適切な治療につながり、症状の悪化とそれに伴う生活の質(QOL)の低下を防ぎます。症状が現れたら、早めに整形外科を受診しましょう。


腱鞘炎に類似する疾患の例

腱鞘炎と似た症状を起こす疾患には次のようなものがあります。これらも腱鞘炎と同様の治療を行います。
●テニス肘(上腕骨外側上顆炎:じょうわんこつがいそくじょうかえん)
<原因>
手首や肘の使い過ぎによって、手首を伸ばす働きをする筋肉(短橈側手根伸筋:たんとうそくしゅこんしんきん)の先端の、肘の骨についている部分に炎症が起こり、肘の外側に痛みが生じるものです。テニスやゴルフなどを行う人に見られ、ゴルフ肘と呼ばれることもあります。
<症状>
物をつかんで持ち上げたり、ペットボトルのふたをひねって開けたりする時に、肘の外側から手首にかけて痛みが現れます。

テニスひじは、手首や肘の使い過ぎによって、手首を伸ばす働きをする筋肉(短橈側手根伸筋:たんとうそくしゅこんしんきん)の先端の、肘の骨についている部分に炎症が起こり、肘の外側に痛みが生じるものです。

●上腕二頭筋長頭腱炎
<原因>
肩と肘の間にある上腕二頭筋は、肩の部分で2つに分かれた腱となり、骨に付着しています。そのうち長いほうが長頭腱(ちょうとうけん)と呼ばれ、骨の溝のようになった部分を通っていますが、スポーツや仕事などによる肩や肘の使い過ぎによって長頭腱と溝の間に摩擦が生じ、炎症が起こります。
<症状>
腕を上げる、後ろに回す、物を持ち上げるなどといった動作をすると、肩の前の部分から二の腕にかけて痛みが出ます。

上腕二頭筋長頭腱炎は、スポーツや仕事などによる肩や肘の使い過ぎによって長頭腱と溝の間に摩擦が生じ、炎症が起こります。

●足底腱膜炎(そくていけんまくえん)
<原因>
かかとと足の指の付け根を結び、足の裏のアーチを支える足底腱膜という帯状の膜が炎症を起こすものです。スポーツや長時間の立ち仕事、加齢、足の裏のアーチの崩れ、足の筋力や柔軟性の低下などによる足の裏への過度な負担によって起こります。
<症状>
朝起きた時や歩き出した時などに痛みが出やすいのが特徴です。足の裏を押したり反らしたりしても痛みを感じる場合があります。

足底腱膜炎(そくていけんまくえん)は、かかとと足の指の付け根を結び、足の裏のアーチを支える足底腱膜という帯状の膜が炎症を起こすものです。

●アキレス腱周囲炎
<原因>
足首の後ろ側にあるアキレス腱やアキレス腱を覆う腱周囲膜に炎症が生じ、痛みや腫れが現れます。スポーツや仕事での動作、足に合わない靴を履くなどして繰り返し負荷がかかることで起こります。
<症状>
足首を動かしたり、階段を上り下りしたりすると、アキレス腱の付近に痛みや熱っぽさを感じます。

アキレス腱周囲炎は、足首の後ろ側にあるアキレス腱やアキレス腱を覆う腱周囲膜に炎症が生じ、痛みや腫れが現れます。

このように、腱鞘炎や腱鞘炎に類似する疾患には様々なものがあります。痛みや違和感は、体からのサインです。使い過ぎなどの心当たりがあるなら、早めにケアするようにしましょう。

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