男性の頻尿(過活動膀胱/前立腺肥大症)

男性トイレのイメージ画像

頻尿とは、以前に比べてトイレが近くなったり、明らかに尿の回数が多くなったりする症状のこと。トイレの不安によって外出しにくくなったり、夜間の尿意のためによく眠れなかったりするなど、生活の質(QOL)を著しく低下させてしまうものです。人に相談しにくく、しかも加齢によって起こりやすくなることから、「年齢のせいだからしょうがない」などと症状の改善を諦めてしまう人もいるでしょう。しかし、男性の頻尿には、加齢による体の機能の変化だけではなく病気やストレスなど様々な原因があり、症状が軽度な場合は生活習慣の見直しなどのセルフケアで改善できる場合もあります。決して諦めずに自身の頻尿の原因を探り、改善に前向きに取り組んで、健やかな毎日を取り戻しましょう!

監修プロフィール
マイシティクリニック 総院長 ひらさわ・せいいち 平澤 精一 先生

日本医科大学卒業。医学博士。日本医科大学付属病院、三井記念病院などを経て、1992年に「マイシティクリニック」を開業。2024年より現職。2014年から東京医科大学地域医療指導教授として医学生の教育にもかかわる。「テストステロン」の研究者として、「熟年期障害」の治療、高齢者の健康を守る取り組みを数多く実践している。著書に『こっそり治す「夜間頻尿」人に言いづらい悩みを泌尿器科の名医が解決!』(ワニブックス)などがある。

男性の頻尿について知る


男性の頻尿の原因

男性の頻尿の原因には、過活動膀胱や前立腺肥大症をはじめ、様々な原因があります。まずは、どのような原因があるのかを知りましょう。

●過活動膀胱
排尿は、膀胱の筋肉である排尿筋が収縮し、尿道が緩むことで起こります。しかし、次のような事象により、尿がたまりきっていないのに膀胱が勝手に収縮し、尿意を催すことがあります。これが過活動膀胱です。
・加齢により膀胱のしなやかさや弾力性が失われる
・排尿の指令を出す脳と膀胱・尿道を結ぶ神経に障害が起きる
・膀胱や腸を支える骨盤底筋が緩む
過活動膀胱には、脳梗塞などの後遺症や脊髄の障害、糖尿病などの神経障害による「神経因性」と、加齢による機能低下や自律神経の乱れなどが原因となる「非神経因性」があります。20代以上の患者は約1300万人(※)と推計されており、40代以上の約12%、80代以上では約30%の人に発症する病気です。男女共に悩まされる病気で、女性の場合は出産などの影響から40代以降に増加しますが、60代を境に男性の患者数が女性よりも多くなります。
※出典:一般社団法人日本排尿機能学会「下部尿路症状に関する疫学調査(JaCS 2023)」

正常な膀胱と過活動膀胱のイメージイラスト

●前立腺肥大症
前立腺とは、膀胱の下の尿道を取り囲む臓器で、男性だけに存在します。前立腺が肥大する前立腺肥大症になると、膀胱が刺激されて何回もトイレに行くようになります。また、尿道の圧迫が続くと膀胱が勝手に収縮しやすくなり、過活動膀胱も発症します。
前立腺が肥大する原因は特定されていませんが、男性ホルモンのテストステロンから生成されるDHT(ジヒドロテストステロン)が加齢や遺伝的要因により増加することがかかわっていると考えられています。50歳で約30%、60歳で約60%、70歳で約80%、80歳では約90%に見られるとされ、その患者数は約108万人(※)と推計されています。
※出典:厚生労働省『患者調査(2020年)』

正常な前立腺と前立腺肥大症のイメージイラスト

●前立腺炎
前立腺に炎症が起こる前立腺炎は、若い世代からシニアまで、年齢に関係なく発症する病気です。その多くは細菌感染によるもので、膀胱の知覚神経が刺激されて頻尿になり、排尿する時の痛み(排尿痛)や発熱が生じることもあります。また、長時間座りっぱなしでいることによる股間の圧迫や、過度の飲酒、刺激物の摂取が炎症を引き起こす非細菌性の前立腺炎もあります。

●膀胱の病気
尿に含まれる物質が膀胱内で結晶化する膀胱結石や、膀胱に炎症が起こる膀胱炎、膀胱がんなども頻尿の原因になります。膀胱結石と膀胱がんは女性よりも男性に多い病気です。

●精神的な要因
ストレスや不安、抑うつなどにより、膀胱をコントロールする機能や尿意の感知が乱れ、尿がたまっていないのに尿意が抑えられなくなることがあります。これを心因性頻尿といいます。

●加齢
加齢によりテストステロンが減少すると、尿量を制御する抗利尿ホルモンの分泌も減少し、夜間頻尿のリスクが高まります。また、就寝時に横になると下半身にたまった水分が心臓に戻り、水分代謝が活発になって尿量も増えます。

●骨盤底筋の衰え
骨盤底筋とは、骨盤の底にある排尿や排便にかかわる筋肉のこと。その筋力が低下すると、尿道を締める力が弱まり頻尿になります。骨盤底筋は加齢で衰えますが、年齢にかかわらず、重い物を持つなど腹圧がかかる仕事や便秘、肥満などで骨盤底筋に負荷をかけている人も注意が必要です。

骨盤底筋、直腸、膀胱、恥骨、尿道の位置のイメージイラスト

●その他の病気、手術、薬の副作用などの影響
・糖尿病
糖尿病で高血糖状態になると、のどが渇いて水分を多く摂るようになり、いわゆる「多飲多尿」になります。また、糖尿病が進行すると、排尿をコントロールする末梢神経に障害が起こり、頻尿が起きやすくなります。
・前立腺がん
前立腺にできるがんで、進行すると頻尿になることがあります。初期は無症状のため、50歳を過ぎたら定期的に検診を受けましょう。
・神経の損傷
腰部椎間板ヘルニアや直腸がんの手術などにより、膀胱を収縮させる神経が損傷を受けると頻尿になることがあります。
・薬の影響
心疾患や腎疾患で服用する利尿薬、高血圧での降圧利尿薬、抗うつ薬を服用していると頻尿になりやすくなります。
・肥満
内臓脂肪によって腹圧が増し、骨盤底筋の筋力が弱くなったり、尿道や膀胱が圧迫されたりして頻尿になることがあります。
・運動不足
運動不足により骨盤底筋の筋力が弱くなり、膀胱の機能が低下することも頻尿に影響します。


一時的な要因で起こることも

下記のようなことがきっかけとなり一時的に頻尿の症状を起こすこともあります。
・水分の摂り過ぎ
・ストレス
・膀胱を刺激する食べ物や飲み物の摂取
アルコールやカフェインといった利尿作用のある物質以外で膀胱を刺激する物としては、炭酸飲料や柑橘類(果物や飲み物)、乳製品が知られています。これらには科学的な根拠が明らかになっていない物もありますが、自身の経験で「これを口にするとトイレに行きたくなる」という物があれば、試しに控えてみるとよいでしょう。


男性の頻尿の症状

性別にかかわらず、医学的には1日8回以上、夜間は2回以上排尿があれば頻尿とされます。また、以下のような変化があれば、何らかの原因で頻尿になっている可能性があります。
・通常よりも短い間隔で尿意を感じる。
・尿意が非常に強く、急いでトイレに行かなければならない。
・1回で少量しか排尿できない。


注意したい夜間頻尿

60代以上の男性の場合、予備軍を含めるとその70~80%は夜間頻尿に悩んでいると考えられます。原因には、夜間の尿量が多い「夜間多尿」、少ない尿でトイレに行きたくなる「膀胱蓄尿障害」、眠れないこととトイレに行くことを繰り返す「睡眠障害」の3つがあり、いずれも睡眠を阻害して日中の疲労感や生活の質の低下をもたらすだけでなく、寝室とトイレとの急な温度変化による脳梗塞や心筋梗塞、暗い場所での転倒のリスクも高めます。夜間頻尿がある高齢者は、そうでない人に比べて死亡率や骨折リスクが約2倍になるというデータもあります(※)。
※出典:日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会『夜間頻尿診察ガイドライン[第2版]』

夜間頻尿のイメージイラスト

頻尿によってもたらされる「負のサイクル」

頻尿は単にトイレが近いだけの問題ではありません。「いつトイレに行きたくなるのか分からない」「トイレが見つからなかったらどうしよう」といった不安から、家に引きこもりがちになり、体も心も弱ってしまうという「負のサイクル」に陥る危険性もあるのです。


男性の頻尿のセルフケア・予防法

頻尿は生活習慣の見直しで症状が改善される場合があります。以下の項目を参考に、セルフケアや予防に取り組んでみましょう。


生活習慣や服装、環境を見直す

●座りっぱなしにならないように体を動かす
デスクワークや自転車などの運転で長い時間座った姿勢でいると、前立腺が圧迫され、前立腺炎のリスクが高まります。また、足のむくみが頻尿につながることも。30分に1回程度は休憩し、前立腺の圧迫を和らげましょう。座面が硬い場合は、クッションを使うのもおすすめです。

●体を冷やさず、巡りをよくする服装を心がける
体が冷えるとトイレが近くなるという経験をした人は、多いのではないでしょうか。特に、膀胱や腎臓のある下腹部の冷えは頻尿に影響します。寒い季節や冷房の利いた場所などでは腹巻も活用して、冷やさないようにしましょう。また、血液やリンパの巡りを促し、血行とむくみを改善する弾性ストッキングを日中に履くと、夜間頻尿が改善されます。

●睡眠環境を整える
寒い季節は室温を18℃以上にすると夜間頻尿のリスクを軽減できます。腹巻を着けて寝るのも下半身の冷え対策におすすめですが、就寝時はできるだけ締めつけの少ない服装が理想です。また、朝日を浴びて睡眠のリズムを整えたり、睡眠の質を高めるために就寝前のブルーライトを控えたり、入眠しやすいように就寝の1~2時間前に入浴したりするのもよいでしょう。

●たばこをやめる
たばこは体の酸化ストレスを高めるもので、喫煙習慣のある人は、過活動膀胱や尿意切迫感、夜間頻尿といった排尿障害を起こす割合が、喫煙習慣のない人に比べて高いことが分かっています。

●体重を減らす
肥満傾向にある人は、骨盤底筋に過度な負担がかかっています。体重を減らすことは、頻尿などのリスクを軽減させることにつながります。

●運動やスポーツ観戦でテストステロン値を高める
頻尿の原因として忘れてはいけないものに加齢があります。加齢によるテストステロン値の低下は夜間頻尿を引き起こすだけでなく、やる気や元気の低下にもつながります。テストステロン値を維持するためには、良質なタンパク質の摂取や良質な睡眠、社会とのつながりが欠かせませんが、特に大切なのが適度な運動です。とはいえ、体を動かすことが苦手な人もいるでしょう。しかし、体を動かさなくても、野球やサッカーなど他人と競い合うスポーツを観戦するだけでもテストステロン値は高まります。ゲームがお好きなら、eスポーツにチャレンジしてみてもよいでしょう。


心身をケアする

●心身をリラックスさせる
心因性頻尿の改善や予防には、心身をリラックスさせ、ストレスを和らげることが大切です。心も体もこわばっているなと感じたら、以下のようなリラックス法を試してみてください。
<深呼吸でリラックス>
① 楽な姿勢で座る。
② 目と口を閉じて、新鮮な空気や穏やかな景色をイメージしながら鼻で深く息を吸う。
③ 吸い込むのにかかる時間と同じ時間をかけて、ストレスや緊張を体の外に排出するイメージで口から息を吐き出す。
<筋肉を緩めてリラックス>
① 寝るか座るかの楽な姿勢をとる。
② 体中の筋肉を手や足など部位ごとに5秒間力を入れ、緩める。
③ 次の筋肉に力を入れるまで10秒間のインターバルをとりながら、手→腕→肩、足→ふくらはぎ→太ももといったように順番に力を入れる。

筋肉を緩めてリラックスする方法のイメージイラスト

●膀胱や骨盤底筋のトレーニングを行う
過活動膀胱の症状改善に有効な膀胱のトレーニングや、排尿にかかわる骨盤底筋のトレーニングにも取り組んでみましょう。どちらも大切なのは継続すること。骨盤底筋のトレーニングは、寝転がっても立っても行えるので、就寝前や通勤電車の中など、時間がとりやすい時に行うと、無理なく習慣化できるでしょう。体力に自信があるなら、ゆっくりとスクワットしながら行うのも有効です。
<膀胱に蓄える尿の量を増やす「膀胱のトレーニング」>
① トイレに行きたくなったら、最初は1~2分を目安に我慢する。
② 徐々に我慢する時間を延ばしていく。
③ 2~3時間我慢できるようになるのを目標に行う。
<尿道を締める筋肉の機能を回復させる「骨盤底筋のトレーニング」>
① いすに座った状態で体の力を抜き、足を肩幅に開いて足の裏は床につける。
② 尿を止めるような動作で肛門や尿道付近の筋肉を収縮させ、3秒キープしてから筋肉を緩める。
③ ②を1セットとして1日10セットを目標に行う。

尿道を締める筋肉の機能を回復させる「骨盤底筋のトレーニング」のイメージイラスト

食事を見直す

●摂取するとよい食品や栄養素
① 亜鉛
抗酸化作用や免疫機能を高め、アンチエイジングに役立つ亜鉛は、カキやアワビ、豚レバー、牛肉、卵、チーズ、豆類、ナッツ類などに多く含まれます。
② リコピン
抗酸化作用が高く前立腺肥大症の予防に有効とされるリコピンは、トマトやスイカ、ピンクグレープフルーツなどに多く含まれます。
③ 食物繊維
便秘の予防や改善になり膀胱の圧迫を和らげ、血糖値の上昇も抑えます。
④ 大豆イソフラボン
大豆イソフラボンには女性ホルモンと似た働きがあり、ホルモンバランスを整えて前立腺肥大症の予防に役立ちます。ただし、摂り過ぎると男性ホルモンであるテストステロンの働きを抑制してしまい、かえって頻尿になることもあるので注意しましょう。
⑤ 肉類や乳製品
タンパク質やビタミンB12、ビタミンD、ヘム鉄、カルシウムなどを補うことができ、アンチエイジングにつながります。

●控えたほうがよい食品や栄養素
① 塩分
過剰に塩分を摂取すると、体内のナトリウム濃度が高まり水分量も増加。尿の量が増えて頻尿につながります。
② 糖分
糖分を摂り過ぎると、余分なブドウ糖を尿として排出しようとして多尿になります。糖分には膀胱を刺激して排尿を促す働きもあります。
③ 辛い物
辛い物は、尿道や膀胱に一時的な刺激を与えたり、水分の過剰摂取につながったりするので控えたほうがよいでしょう。
④ 過剰な水分
多くの水分を摂取すれば、それだけ尿の量も増えます。体に取り入れる水分量と、排出する水分量のバランスをとることが大切です。
⑤ 冷たい飲み物
冷たい飲み物は、温かい飲み物に比べて膀胱の筋肉を収縮させて尿意を感じやすくさせるので、飲み過ぎに注意が必要です。
⑥ アルコールやカフェイン
お酒に含まれるアルコール、コーヒーやお茶に含まれるカフェインは利尿作用が強いので飲み過ぎないようにしましょう。


「腸活」も頻尿のセルフケアになる?

大腸と泌尿器は同じ神経によって支配されています。そのため、便秘や過敏性腸症候群などが起こると、排尿にも影響します。頻尿だけでなく大腸にも不調を感じているなら、近年話題の腸の働きを高める活動「腸活」に取り組んでみましょう。


男性の頻尿の治療法

頻尿は、行動が制限されて生活の質が低下するだけでなく、放置すると症状も悪化してしまいます。また、がんなどの重篤な病気が隠れている場合もあります。生活習慣の見直しなどのセルフケアに取り組んで、1カ月ほどたっても症状の改善が見られないようであれば、早めに医療機関を受診しましょう。


頻尿の相談は泌尿器科へ

頻尿など排尿障害の悩みは泌尿器科に相談しましょう。受診にあたっては、排尿の状況を記録した「排尿日誌」や、お薬手帳も持参するとよいでしょう。病院では、まず尿検査を行い、潜血や尿タンパク、尿糖などの有無で疑いのある病気を特定します。また、前立腺の状態をチェックする直腸診やエコー検査、尿の勢いや残尿を測定する検査もあります。
治療は、その原因に合わせて、生活習慣の改善、行動療法(膀胱のトレーニングなど)、薬物療法(膀胱の収縮力を調整する薬や尿道括約筋を緩める薬、抗菌薬など)、手術(前立腺を削る手術など)が選ばれ、多くの場合、これらの治療が併用されます。また、がんなど重篤な病気が原因の場合はその治療が優先されます。


過活動膀胱と前立腺肥大症の治療

過活動膀胱では、一般的に、排尿の働きを担う副交感神経の働きを抑え膀胱に尿をためやすくする薬(抗コリン薬)や、交感神経に働きかけて膀胱を広げ、尿道を縮ませる薬(β₃受容体作動薬)が用いられます。
前立腺肥大症の場合は、一般的に、排尿に関係する筋肉を緩める薬(α₁遮断薬)や前立腺や尿道の筋肉を緩めて血流を改善する薬(PDE5阻害薬)が用いられます。行動療法や薬物療法で症状が改善しない場合に、手術が検討されます。


「排尿日誌」をつけるメリット

あまり耳馴染みのない「排尿日誌」ですが、「何を何時にどのくらい飲んだか」「尿を何時にどれくらい出したか」と、体の水分のインプット・アウトプットを記録するものです。尿の量などは人と比較する機会もなく、どうしても感覚的になってしまい、医師に正確に伝わらない場合があります。「排尿日誌」を記録するようになれば、自分の尿の状況を可視化し、客観的にとらえることができて医師にも伝えやすくなります。ノートや手帳に記載してもいいですし、インターネット上でダウンロードできる書式もあります。

排尿日誌のイメージ画像

健やかで楽しい毎日を諦めないで!

頻尿による最大のデメリットは、健やかに楽しく暮らす日々が損なわれてしまうことでしょう。でも、それが当たり前だとは思わないでください。デリケートな問題なので、家族や周囲の人に相談しにくいかもしれません。そんな時は気軽に泌尿器科を訪れて、医師に相談すればよいのです。改善の道筋は、きっと見つかります。


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