おたふくかぜは、ムンプスウイルスによって引き起こされる感染症で、正式名称を「流行性耳下腺(じかせん)炎」といいます。感染すると耳下腺(唾液腺の1つ)を中心に炎症が起こり、その名の通り「おたふく」のように、耳の下からあごまでが腫れて痛むのが特徴です。ただし、おたふくかぜの約30%は感染しても症状が現れない「不顕性(ふけんせい)感染」といわれ、気づかないうちに感染していることもあります。
おたふくかぜが引き起こす合併症には重大な疾患が多く、中でも重い後遺症の1つが難聴です。一度難聴になると残念ながら回復することはありません。こうした合併症のリスクを防ぐためにも、予防接種が推奨されています。任意接種(自己負担)ではありますが、補助金が出る自治体もあるので、確認してワクチンを接種するようにしましょう。
大人がおたふくかぜにかかると重症化しやすいため、大人も予防接種を受けることが推奨されています。
千葉大学医学部卒業。医学博士。千葉大学医学部臨床教授。公認心理師。千葉大学医学部関連病院勤務を経て、1998年千葉大学医学研究院小児病態学教官。2005年外房こどもクリニック開業(千葉県いすみ市)を経て、08年医療法人社団嗣業の会理事長、23年より「図書室のなかのクリニック」をコンセプトにした、こどもとおとなのクリニック パウルームを東京都港区に開業。日本小児科学会専門医・指導医。日本感染症学会専門医・指導医・評議員。日本遠隔医療学会幹事。著書に『駆け抜けた17年』(幻冬舎)、『プライマリケアで診る小児感染症 7講』(中外医学社)、共著『最新感染症ガイド R-Book 2018-2021』(日本小児医事出版社)ほか多数。
●ムンプスウイルスが原因
おたふくかぜは、ムンプスウイルスという感染力の強いウイルスへの感染が原因で起こります。感染経路は、感染者の咳やくしゃみの飛沫を吸い込んで感染する「飛沫感染」と、感染者の鼻水や唾液などが付着した物に触れた手で、自分の口や鼻、目などを触って感染する「接触感染」の2種類です。
一度感染すると多くの場合で終生免疫が得られますが、再感染することもあるので注意が必要です。
●耳の下やあごの下などが腫れ、物を食べたり飲んだりすると特に痛む
おたふくかぜに感染すると、2~3週間の比較的長い潜伏期間の後に、片側または両側の唾液腺に炎症が起こって腫れてきます。最初は片側だけが腫れていても、後から反対側も腫れてくるケースもあります。主な唾液腺には、耳の下の耳下腺、あごの下の顎下腺(がっかせん)と舌下腺があり、これらの唾液腺を中心に炎症が広がります。
唾液腺が腫れるため、物を食べたり飲み込んだりすると痛み、酸っぱい物を食べた時に痛みが強くなったりします。乳幼児はミルクを飲みたがらない、食事をしたがらないなどの変化がないか注意しましょう。
また、発熱を伴うこともあります。腫れのピークは3日程度で、他の症状も含めて1~2週間ほどで治まります。
●感染者の約30%は、感染しても症状が出ない
おたふくかぜは感染しても症状が出ないケース(不顕性感染)が30%程度あり、知らないうちに感染していることも多い感染症です。不顕性感染でも免疫は獲得されます。
●難聴など、重い合併症に注意
ムンプスウイルスは唾液腺だけに感染するのではなく、中枢神経や性腺など全身の臓器にも感染するウイルスです。そのため、おたふくかぜにかかると次のような合併症が起きることがあります。
・難聴
後遺症として残ることが多い合併症が「ムンプス難聴」です。特に乳幼児の場合は難聴に気づきにくいため、呼びかけに応えないなどの変化がないか、治ってからもしばらくの間はよく観察しましょう。
ワクチン未接種の新生児や乳児が、きょうだいなどから不顕性感染をした場合、気づかないうちに難聴になり、言葉の発達の遅れで発覚する…というケースもあります。ムンプス難聴は残念ながら回復することがないため、予防接種がすすめられます。
・無菌性髄膜炎
髄膜(脳と脊髄を包む膜)に炎症が起きる病気です。発熱、頭痛、嘔吐などが起こりますが、新生児や乳児などでは症状が分かりにくいこともあります。
・急性脳炎
ウイルスが脳に炎症を起こす病気で、後遺症が残る可能性があります。
・睾丸炎・卵巣炎
思春期以降に感染した場合、男性では睾丸炎、女性では卵巣炎が起きることがあり、重症になると不妊につながります。
・膵炎
膵臓に起きる炎症で、腹痛や背中の痛みが現れます。
●大人は重症化しやすい。子どもが感染したら大人も3日以内に予防接種 を
おたふくかぜに大人になってから感染すると、子どもよりも症状が重くなりがちです。子どもがおたふくかぜを発症した保護者で、今までおたふくかぜにかかったり予防接種を受けたりしたことがない場合は、子どもが発症してから3日以内に接触した保護者も予防接種を受けることで、重症化を防ぐことができると言われています。
●症状が似ている病気
おたふくかぜと症状が似ている病気に「反復性耳下腺炎」があります。細菌感染などによって耳下腺や顎下腺、舌下腺などが繰り返し腫れる病気で、発熱することは少なく、痛みもほとんどありません。
原因は、むし歯や口腔内の雑菌による感染、耳下腺の先天的な異常など様々なことが考えられていますが、現在のところ明確な原因は分かっていません。反復性耳下腺炎は、人にうつることはありません。
●対症療法で自然治癒を待つ
ムンプスウイルスには抗ウイルス薬や特効薬はないため、痛みなどの症状を和らげる対症療法を行い、自然治癒を待ちます。発熱や耳下腺の痛みには、鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)や冷湿布などが処方されます。
●ホームケア
・食事
酸味のある食べ物は、唾液分泌を刺激して痛みが増してしまうため避けます。また、かむと痛むため、かまずに飲み込めるプリン、ゼリー、おかゆ、ポタージュなど、軟らかくのど越しのよい物を中心に与えるとよいでしょう。
痛みが強くて水分摂取が難しいことがあるため、脱水に気をつけ、水分補給をこまめに行ってください。経口補水液や麦茶などを少量ずつこまめに与えるのもおすすめです。
・冷やすと痛みが和らぐ
冷やすと痛みが和らぐため、濡れタオルや冷湿布などで患部を冷やすのもおすすめです。
●出席停止期間について
ムンプスウイルスは感染力が強く、学校や保育園・幼稚園などで流行しやすいため、学校保健安全法で「腫れが現れてから5日が経過し、全身状態が良好になるまで」と出席停止期間が定められています。自治体によっては医師による登園、登校許可証の提出が必要になる場合もあるので、園や学校に確認しましょう。
●次のような症状がある場合は、早期に再度受診を
おたふくかぜの診断を受けた後、以下のような症状がある場合は合併症を起こしている可能性があります。早期に再受診してください。
・高熱が3日以上続く。
・腫れが引かなかったり、赤くなったりする。
・激しい頭痛や吐き気などがある。
・耳の聞こえが悪いと感じる(テレビの音を大きくしたがる、呼びかけに応えないなど)。
・腹部や背中、睾丸などに痛みがある。
●ワクチンが唯一の予防
おたふくかぜの唯一の予防法は、ワクチンの接種です。1歳から接種が可能で、2回接種で高い予防効果が得られ、合併症予防にもつながります。ワクチンは現在のところ任意接種のため、費用は個人負担となりますが、自治体で補助がある場合もあるので調べてみるとよいでしょう。
<接種回数と推奨時期>
・1回目…1歳(MRワクチン接種時などに一緒に)
・2回目…小学校入学前(MRワクチン2回目接種時などに一緒に)
●成人にも予防接種が推奨されています
ムンプスワクチンは、思春期以降、成人でも接種できます。日本は他の先進国に比べてムンプスワクチンの接種率が低く、定期的におたふくかぜが流行する可能性があります。
大人が感染すると重症化しやすく、難聴など、その後の人生に大きくかかわる合併症のリスクもあります。子どもの頃におたふくかぜにかかったことがある人でも、免疫が不十分な場合は完全にかからなくなるわけではないため、全ての人に2回接種がすすめられています。
特に妊娠を希望する女性とそのパートナーはワクチンの接種を検討しましょう。おたふくかぜの合併症には不妊につながる卵巣炎や睾丸炎があり、また妊娠初期に感染すると、流産のリスクも高まるためです。ワクチン接種後の2カ月間は妊娠を避けるようにしてください。
おたふくかぜは、ワクチンによって感染や重症化が防げる病気です。重大な合併症が起こりうることや、症状がなくても知らないうちに人にうつしてしまう可能性があることを知り、2回のワクチン接種で、より確実に感染を防ぎましょう。