血糖・糖尿病

血糖・糖尿病

血糖とは、血液中に存在するブドウ糖のことです。血糖の量(血糖値)はインスリンというホルモンの働きによってほぼ一定に保たれていますが、インスリンの分泌量が少なかったり作用が弱かったりして血糖値が慢性的に高い状態を糖尿病といいます。放置すると全身に様々な合併症を招くため、定期的な検査による早期発見・早期治療が重要です。

監修プロフィール
芝大門 いまづクリニック院長 いまづ・よしひろ 今津嘉宏先生

1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。北里大学薬学部非常勤教員。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。

血糖・糖尿病について知る


血糖・糖尿病の原因

インスリンの分泌不足と働きの低下が糖尿病の原因

体に必要なエネルギー源は、炭水化物からつくられるブドウ糖です。食事を摂ると、炭水化物は小腸でブドウ糖に分解されて血液中に吸収されるため、食後は一時的に血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高まります。すると膵(すい)臓から分泌されるインスリンによって、血糖の一部は肝臓に蓄えられ、残りは筋肉に運ばれてエネルギー源として使われます。そして最後に、余ったブドウ糖は脂肪として蓄えられることで、食後に高まった血糖値は2〜3時間以内に元に戻ります。

しかしインスリンの分泌量が不足したり、働きが低下したりすると、ブドウ糖はうまく筋肉などに取り込まれず、食後の血糖値が下がりにくくなり(食後高血糖)、やがて常に血液中にブドウ糖があふれた状態(高血糖)が続きます。これが糖尿病です。


糖尿病になるきっかけの約90%は「内臓脂肪の増加」

糖尿病は発症の原因によって大きく4つに分類できますが、日本人の糖尿病全体の約90%を占めるのが、内臓脂肪の増加がきっかけとなって起こる「2型糖尿病」です。もともと日本人は欧米人に比べてインスリンの分泌量が少なく、穀物を中心とした食生活では問題ありませんでした。しかし動物性脂肪の多い食事が続いて内臓の周囲に脂肪がたまると、内臓脂肪細胞からインスリンの働きを妨げる物質が多量に分泌されます。すると日本人の少ないインスリン量では対応できず、糖尿病を発症してしまうのです。糖尿病を発症する時点でインスリンの分泌はすでに50%以下に低下しているため、早い段階での治療が必要になります。


血糖・糖尿病の症状

糖尿病の自覚症状とは

糖尿病になると、次のような自覚症状が現れます。

  • 糖尿病の自覚症状①:尿量が増える
     血液中のブドウ糖(血糖)が増え過ぎると、腎臓はブドウ糖を多量の水分と一緒に尿として排出するようになるので、尿の量が多くなります。
  • 糖尿病の自覚症状②:のどが渇く、水を多くのむ
     尿量が増えると体の水分量は減るので、喉は渇きやすくなり、水をたくさん飲むようになります。
  • 糖尿病の自覚症状③:疲れやすい、食べてもやせる
     食事を摂ってもブドウ糖が尿と一緒に体外に出てしまって、細胞の中に取り込まれないためにエネルギー不足となり、だるさや疲れやすさを感じるようになります。ブドウ糖の代わりに今度は、筋肉や脂肪を消費してエネルギーに変えようとするので、食べているのにやせていってしまうのです。

糖尿病は自覚症状が現れにくいので、健診での早期発見が大切

糖尿病の初期段階では自覚症状が現れにくく、知らぬ間に進行していることが少なくないため、定期的な検査による早期発見が何よりも大事です。一般の健康診断でも行われる空腹時血糖値検査では、次のように判定されます。

空腹時血糖値の区分
  • 「糖尿病域」

空腹時血糖値 126㎎/dL以上
糖尿病と判定され、合併症が起こり始めます。

  • 「境界域」

空腹時血糖値 110㎎/dL以上、126㎎/dL未満
糖尿病を発症する確率が高い糖尿病予備群。再検査と共に、早急な食生活の見直しが必要です。

  • 「正常高域」

空腹時血糖値 100㎎/dL以上、110㎎/dL未満
食生活の改善を行わないと、将来糖尿病になる可能性が高まります。

  • 「正常域」

空腹時血糖値 100㎎/dL未満
インスリンの働きがよい、健康な人です。


糖尿病は放置すると死に至る合併症を引き起こす

糖尿病が怖いのは、死に至るような深刻な合併症を引き起こすという点です。しかも、自覚症状がほとんどないので、気づかないうちに病状が進行しやすいのです。

高血糖状態が続くと、糖が血管を傷つけたり、糖が脂肪分と結びついたりすることで動脈硬化や腎不全を引き起こす他、神経細胞に酸素や栄養が十分に行きわたらなくなるために神経障害も起こり得ます。また免疫機能にかかわる白血球の働きも低下し、感染症にもかかりやすくなります。

  • 糖尿病の三大合併症
    (1)糖尿病神経障害
     糖尿病によって毛細血管が傷ついて血流が滞ると、栄養や酸素が供給されずに末梢神経が傷つきます。足のしびれや知覚障害などが起こり、進行すると潰瘍(かいよう)や壊疽(えそ)を招きます。

    (2)糖尿病網膜症
     糖尿病によって目の網膜の毛細血管が傷ついたり破れたりして、視力の低下や失明を招きます。

    (3)糖尿病腎症
     糖尿病によって腎臓の毛細血管が傷つくと、血液中の老廃物を尿として排泄できなくなります。腎臓の機能が低下し腎不全になると、腎臓の代わりとして透析治療が必要になります。

 

三大合併症の発症の目安

糖尿病による合併症が太い血管にまで及ぶと脳梗塞や心筋梗塞、動脈硬化に

さらに太い血管(動脈)の動脈硬化が進むと、脳や心臓、脚の病気を併発します。

  • 脳梗塞(のうこうそく)
     脳の動脈が詰まって起こります。発作が起こると突然、手足・顔面の麻痺(まひ)や、言語障害、意識障害が現れます。糖尿病になると、脳梗塞のリスクが2〜4倍に高まります。
  • 心筋梗塞
     心臓の冠動脈が詰まって起こります。発作的に激しい胸の痛みが起こりますが、糖尿病の人は痛みを感じにくいため発見が遅れやすく、命に関わります。糖尿病になると、心筋梗塞のリスクが約2倍に高まります。
  • 閉塞(へいそく)性動脈硬化症
     脚の動脈が詰まって起こります。脚のしびれや冷え、歩くと脚に痛みが起こりしばらく休むと治る間欠性跛行(かんけつせいはこう)や、潰瘍、壊疽が起こります。糖尿病になると、閉塞性動脈硬化症のリスクが約4倍に高まります。

血糖・糖尿病の対策

糖尿病は「食事療法」「運動療法」を基本に継続治療していく

糖尿病を発症した場合、合併症を予防したり進行を遅らせたりするための、継続的な治療が必要になります。これが“糖尿病になると治らない”ともいわれるゆえんです。糖尿病の治療は「食事療法」と「運動療法」を基本として行い、それでも改善されない場合は薬物療法を行います。

  • 糖尿病の治療①:食事療法
     糖尿病の食事療法は、エネルギー摂取量を必要最小限に抑えて体重を適正化し、膵臓の負担を減らします。高血圧を合併している人はエネルギー摂取量を抑えることに加えて、食塩制限も必要になります。腎症を合併している人は食塩の他にタンパク質の制限も加わります。
  • 糖尿病の治療②:運動療法
     糖尿病の運動療法は、食後に運動をすることで、筋肉でブドウ糖を消費し血糖値を下げます。また日常的に運動を続けることで肥満が解消され、インスリンの働きもよくなります。
  • 糖尿病の治療③:薬物療法
     糖尿病の薬物療法は、不足したインスリンを補うインスリン注射や血糖値を下げる経口血糖降下薬(SGLT2阻害薬)などによる治療を行います。SGLT2阻害薬は血液中の余分な糖を尿として排泄する薬で、服用中は炭水化物制限をしてはいけないなど、医師の指示に従って食事制限を行います。

血糖・糖尿病の予防法

糖尿病予防のための血糖コントロールの基本は「食事」と「運動」

糖尿病予防に欠かせない血糖コントロールの基本は「食事と運動」です。血糖値を上げやすい食生活を避け、運動習慣を身につけて、肥満を予防・解消することも大切です。


糖尿病予防の食生活の基本「3つのポイント」

糖尿病予防のための食生活改善の基本的なポイントは次の3つです。

  1. 適正エネルギーを守る
  2. 栄養バランスをよくする
  3. 1日3回規則正しく食べる
食生活改善の基本

食後の血糖値を上げてしまうNGな食習慣

  1. 食べ過ぎ:エネルギーの摂り過ぎで内臓脂肪がたまると、インスリンの働きを妨げる物質が分泌され、血糖値が下がりにくくなる。
  2. 早食い:早食いをすると、ブドウ糖が小腸で一気に吸収されるため、急激な血糖値の上昇を招く。
  3. 欠食:食事を抜くと、次の食事量が増えて、食後の血糖値が急激に上がりやすくなる。
  4. 夜遅い食事:食べてすぐに寝てしまうと、使われなかったエネルギーが脂肪として蓄えられ、肥満を招く。

食べる順番と食べ方を変えるだけでもメリット大

  1. 食物繊維を先に食べる:糖質の前に食べることで血糖値の上昇が緩やかになる。
  2. ゆっくり食べる:同じ物を食べたとしても、ゆっくりよく噛んで食べるだけで、糖質の吸収スピードは遅くなる。

糖尿病予防のための運動のポイントは「身体活動量」を増やすこと

まとまった運動時間を取るのはハードルが高いものです。運動というよりも「身体活動量」を増やすという考え方を基本に、1駅分歩く、駅では階段を使う、家事で体を動かすなどこまめに活動しましょう。運動をして筋肉量を増やすことは肥満の予防・解消に役立ちます。太ももやお尻の大きな筋肉が効率的に鍛えられる「スクワット」がおすすめです。


お役立ちコラム

体重の1Kgの増減で糖尿病のリスクが変わる!

糖尿病は「肥満の人がなる」と思われがちですが、日本人は皮下脂肪よりも内臓脂肪をため込みやすいとされ、BMI(※)22の普通体型でも、体重が1㎏増えるごとに糖尿病のリスクが高まるといわれています。一方で、食生活の改善で落としやすいのも内臓脂肪。「最近ズボンやスカートがきつくなってきたな」と感じたら、食生活と運動習慣を見直して糖尿病を予防しましょう。

※BMI=体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)。25以上が肥満とされる。


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