急性内斜視が増加中! 治し方や予防法を紹介

デジタル機器の使用をきっかけにした急性内斜視の原因、症状、治し方、予防法

内斜視とは、左右2つの目のうち、片方の目の視線が内側を向いてしまっている状態のことです。
近年、内斜視で医療機関を受診する人の数が増加しつつあるといわれています。特に、比較的短期間に内斜視になる「急性内斜視」を訴える人が多く、子どもが受診するケースも少なくありません。症状を訴えて受診した人に話を聞くと、スマートフォン、タブレット、ゲーム機などのデジタル機器の使用時間や付き合い方が少なからず影響していることが分かってきています。デジタル機器の使用をきっかけにした急性内斜視の原因、症状、治し方、予防法について、専門医である浜松医科大学医学部眼科学教室病院教授の佐藤美保先生にお話をうかがいました。

監修プロフィール
浜松医科大学医学部眼科学教室病院教授 さとう・みほ 佐藤 美保 先生

医学博士。1986年名古屋大学医学部卒業。93年同大学院外科系眼科学修了。93~95年、米国Indiana大学小児眼科斜視部門留学。2002年浜松医科大学医学部眼科学教室准教授。11年より現職。デジタルデバイスの過剰使用と斜視の関連、斜視手術などを研究。日本弱視斜視学会理事長、日本小児眼科学会副理事長。

大人と子どもで違う、内斜視の主な原因

私たちが物を見る時には、眼球を支えている「外眼筋」という筋肉が伸びたり縮んだりして目の動きをコントロールし、ピントを合わせています。例えば、遠くを見る場合には眼球が外側を向くように、近くを見る時には眼球が内側を向くように、自然に調整されています。

外眼筋とは、眼球の外側にあり眼球の運動をつかさどる。上斜筋、上直筋、内直筋、外直筋、下直筋、下斜筋の6つの筋肉からなる


しかし、何らかのきっかけで外眼筋の調整がうまくいかなくなり、片方の目だけが内側を向いたまま戻らなくなってしまう症状を、内斜視といいます。

内斜視

内斜視は、生後6カ月以内に発症する先天性のものと、それ以降に発症する後天性のものとに大きく分けられます。急性の内斜視は後天性に分類されます。

大人の場合は、脳腫瘍などの脳の病気や異常、けが、強い近視、ストレス、高血圧や糖尿病などが原因となって内斜視が起こります。
子どもで最も多いのは遠視に伴う内斜視で、調節性内斜視といい、多くは1歳半から5歳までに起こります。また、ストレスや近視、携帯型のゲーム機やスマホ、タブレットの画面をじっと見続けることで、内斜視が引き起こされることがあります。子どもは大人よりも腕が短いため、手で持って扱うタイプのデジタル機器を見る時には、どうしても画面と顔の距離が近くなりがちです。体の機能が発達途上にある中、近い距離でデジタル機器の画面を見続けると、距離に応じてピントを合わせる調節反射や、目を内側に寄せる輻湊(ふくそう)反応という動きの発達に影響が生じて、内斜視になることがあるのです。

小さな画面を、眼球を動かさずに見続けることが、目の機能に影響する

小さな画面を、眼球を動かさずに見続けることが、目の機能に影響する

近い距離で見ることが内斜視の原因になるのは、デジタル機器だけでなく、読書や勉強でも同様です。読書や勉強の場合は、文字を追うのに眼球を動かす必要があるのに対して、デジタル機器は、画面が小さく、さらにスクロールさせることができるため、眼球を動かさずとも文字や画面の動きを追うことができてしまいます。そのことが、内斜視をより引き起こしやすくしていると考えられています。
ただし、どれくらいの距離で、どれくらいの時間、見続けると内斜視になるのかなど、詳しいことはまだ分かっていません。
また、子どものうちはわざと寄り目にして遊ぶことがあり、それが内斜視の原因になるケースも確認されています。他には、「立体視」と呼ばれる、目のピントをずらして立体的に見る3D画像の見過ぎで、内斜視を引き起こすこともあります。

思い当たったら要注意! 内斜視の主な症状

思い当たったら要注意! 内斜視の主な症状

内斜視の症状として最も分かりやすいのは、左右どちらかの眼球が内側に寄り、正面から見た時に視線がずれてしまうことです。見た目で判断できるので、自分で症状を訴えることが難しい小さなお子さんでも、保護者や周囲の人が気づくことができます。しかし、程度が軽い場合には外見からは分からず、本人のみが見づらさに気づいていることがあります。また、見え方の異常には以下のような症状がありますが、子どもはすぐに状況に慣れてしまい、自分からは異常を訴えない場合が多いことに注意が必要です。

●物が2つに見える……ヒトの目は、近くを見る時には眼球が自然に内側に向き、遠くを見る時には外側に向くようになっています。しかし、内斜視を発症していると、遠くを見る時にも眼球が外側を向かないため、ピントが合わず、物が2つに見えることがあります。
●遠くが見えづらい……物が2つに見えるのと同様の理由で、遠くを見ようとするとピントが合わず、見えづらいことがあります。子どもが、「遠くが見えづらい」という近視によくある症状を訴えたので確認してみると、内斜視を発症していたというケースもあります。
●歩く時にふらつく……遠くのものが見えづらかったり、ピントが合いづらかったりすることが影響して、歩く時にふらふらすることも少なくありません。小さなお子さんの場合、ふらつきをきっかけに保護者が内斜視に気づくことが多々あります。
●まばたきの回数が多くなる……ピントがうまく合わず、見えづらいため、自然とまばたきの回数が増えることもあります。お子さんがよくまばたきをしているなと思ったら、まずは視線をチェックしてみてもよいでしょう。
●顔を斜めにして物を見る……内斜視になっていない片方の目で物を見ようとするあまり、顔を斜めにしてしまうことがあります。子どもの内斜視でよく見られる兆候です。

初めのうちは、時々このような兆候が見られるだけのこともありますが、そのうち徐々に常態化していったり、周期的に現れたりなど、頻度が上がっていくという特徴があります。

内斜視の治療法は、原因や年齢などに応じて選ぶ

内斜視の治療法は、原因や年齢などに応じて選ぶ

内斜視になってしまった時は、すぐに眼科を受診させてください。目や脳に異常が起きていて早急に対応しないといけない場合があります。どのように治療や対策をするかは、原因や患者さんの年齢などに応じて異なります。主な方法を以下に挙げてみましょう。

●内斜視の治し方①デジタル機器の使用をやめる……デジタル機器の使用が内斜視の原因になっていると考えられる場合、まずはデジタル機器の使用をやめることが大切です。実際の診療現場では、それだけで内斜視が改善するケースが少なくないといいます。内斜視の兆候が見られたら、一定期間使用をやめて、改善を目指してみましょう。学校の授業や仕事などで、デジタル機器の使用が不可欠な場合は、画面との距離を保つ(できれば30cm以上)、こまめに休憩を挟む(できれば20分に一度、遠くを眺める)といったように、使い方に注意することで改善されることもあります。
●内斜視の治し方②眼鏡を装着する……最も大切なのは、遠視や近視に合わせた眼鏡をかけることです。特に5歳以下に多い調節性内斜視は眼鏡だけでよくなる場合が多く見られます。小学生以上になると近視や乱視がそのままにされていることがありますが、遠くも近くもよく見える眼鏡をかけることは大切です。それでも物が2つに見える場合、「プリズム眼鏡」と呼ばれる光の進み方を変えるレンズを装着することで、症状が改善することがあります。ただし、この眼鏡をかけていても斜視が治るわけではありません。
●内斜視の治し方③ボツリヌス注射をする……患者さんの年齢が12歳以上であれば、A型ボツリヌス毒素製剤(ボトックス)を外眼筋に注射し、筋肉を一時的に麻痺(まひ)させることで、眼球の向きを調整する治療を受けることができます。保険診療で受けられる治療法ですので、適応可能な年齢の場合は、検討してみるのもよいでしょう。ただし、効果が予想どおりにならないこともありますし、ボツリヌス菌の効果は数カ月間しか持続しません。そのため、一度の注射で治る人もいますが、多くの場合、定期的に医療機関を受診し、注射を受け続ける必要があります。
●内斜視の治し方④手術をする……手術をして外眼筋が眼球に付着している位置を移動させることで、内斜視を改善する方法もあります。ただし、手術をしても斜視が再発することがあったり、お子さんの場合には全身麻酔のための入院が必要となったりします。想像していたような効果が得られなかったりするケースは少なくありません。患者さんの年齢と斜視の状態を元に、手術を行うべきかどうかの検討をする必要があるでしょう。

症状の度合いや生活への影響、年齢などを考慮し、主治医とも相談して最適な選択を目指しましょう。

「20分・20秒・20フィート」を合い言葉に、デジタル機器との付き合い方を改善しよう

デジタル機器を「20分」使用したら、「20秒」休み、「20フィート(約6m)」先に目線を向けて目を休めよう。

デジタル機器の使い過ぎによる急性内斜視は20代以降の大人にも起こります。デジタル機器の使用をきっかけとした内斜視を予防するには、「どのようにしてデジタル機器とうまく付き合っていくか」が重要となります。
内斜視予防の観点から、デジタル機器の使用については「20分・20秒・20フィート」という指標があります。これは「20分」使用したら、「20秒」休み、「20フィート(約6m)」先に目線を向けようというものです。定期的に遠くを見ることで眼球の向きが変わり、内側ばかりに引っ張られるのを防ぎ、内斜視を予防する効果が期待できます。眼精疲労の予防にもつながるため、「20分に一度は窓の外を眺める」という習慣を意識しておくとよいでしょう。
お子さんの場合は、ゲーム機の画面を長時間、近くで眺めることで内斜視を発症しているケースが多く見られるといいます。そのため、「ゲームをする時はテレビなどの大きな画面に映し、離れて行う」というルールを決めるのも効果的といえます。保護者の方も一緒になってデジタルデバイスの使い方に配慮することが重要です。

また、見え方の異常を自分から訴えることのできない年齢のお子さんでは、保護者の方が、お子さんがデジタル機器を使用する際の様子を確認し、あまり画面と近づき過ぎないように注意することも大切です。そして、お子さんのまばたきの回数が多くなったり、顔を斜めにして物を見たりしていないか、歩く際にふらついていることがないかといったことにも注意をはらっていきましょう。

様々な工夫をして、デジタル機器と上手に付き合い、急性内斜視を予防していきましょう。


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