糖尿病のフットケア

糖尿病のフットケア

糖尿病と診断されたら、フットケアが重要になることをご存知ですか?
少しずつ進行していく糖尿病の合併症の1つに、末梢神経や細い血管の障害があります。特に心臓から遠い足の血流は滞りやすく、細胞に必要な栄養や酸素が行きわたらなくなるため、足にできた傷が治りにくくなったり、免疫力が低下して水虫など皮膚の感染症にもかかりやすくなったりします。さらに末梢神経にも障害が起きるので、足の痛みや傷に気づきにくくなるのです。

このようなことから、糖尿病になると、ちょっとした足の傷をきっかけに、潰瘍や足の組織が壊死(えし)してしまう壊疽(えそ)などを引き起こしやすくなります。そのため、糖尿病の人は毎日自分の足をチェックし、いたわることが大切です。もしも傷やタコ・ウオノメなどを見つけたら、すぐに受診しましょう。糖尿病が招く足トラブルの症状、予防するためのフットケアなどについて詳しく専門医にお伺いしました。

監修プロフィール
獨協医科大学病院 病院長 あそう・よしまさ 麻生 好正 先生

1987年群馬大学医学部卒業。米国カリフォルニア大学アーバイン校病理学教室留学、獨協医科大学内科学(内分泌代謝)主任教授、獨協医科大学病院副院長等を経て、2022年より現職。日本内科学会、日本糖尿病学会、日本内分泌学会、米国糖尿病学会などに所属。

糖尿病が招く障害にはどんなものがある?

糖尿病は、インスリンというホルモンの作用が低下して血液中にブドウ糖が多くなっている状態のことです。空腹時血糖が126mg/dL、食後血糖が200㎎/dL、あるいはHbA1cが6.5%を超えると糖尿病型と診断され、治療が遅れ放置されると合併症が起こりやすくなります。

高血糖が慢性的に続くと、酸化ストレスや炎症が引き起こされ、血管を保護する内皮細胞が障害を受けます。同時に、体をつくっているタンパク質に糖が結びつき、AGE(終末糖化産物)が形成されます。高血糖が長く続くと、AGEは血管に蓄積して血管にダメージを与えます。このように高血糖を放置すると、細い血管も太い血管も侵され、糖尿病神経障害や下肢末梢動脈疾患を起こします。

高血糖を放置すると、細い血管も太い血管も侵され、糖尿病神経障害や下肢末梢動脈疾患を起こします。

●糖尿病神経障害とは?
毛細血管が傷ついて血流が滞ると、栄養や酸素を供給できなくなり、末梢神経がダメージを受けてしまいます。また、高血糖が続くとブドウ糖から合成されるソルビトールという物質が神経細胞の中にたまり、神経細胞にダメージを与えることも原因の1つとされています。初めは足にびりびり、じんじん、ひりひりとした症状が現れ、進行すると無感覚になります。

糖尿病神経障害

●下肢末梢動脈疾患とは?
AGEが血管内のタンパク質を劣化させ、血管の弾力が低下することで動脈硬化が起こり、コレステロールが沈着して血流が悪くなります。足の動脈で起こると、足のしびれや冷え、歩くと足に痛みが起こり、しばらく休むと治まる間欠性跛行(かんけつせいはこう)が現れます。

下肢末梢動脈疾患

足の痛みを感じにくい糖尿病では、フットケアが必要です

糖尿病になると末梢神経障害が起こるため、足の痛みや傷に気づきにくくなります。また、高血糖により血管が傷ついて血流が滞ることから、足の細胞に必要な栄養や酸素が届けられず、傷が治りにくくなり、免疫力も低下するので細菌にも感染しやすくなります。

放置しておくと、感染が皮下組織だけでなく筋肉や骨などの深部にまで広がり、壊疽を引き起こします。また、細菌が血液に乗って全身に広がる敗血症を起こす可能性もあるため、下肢切断を余儀なくされるケースもあります。糖尿病と診断されたらこれらのリスクがあることを理解し、毎日足のケアを行うようにしましょう。

壊疽は皮膚や皮膚組織が死滅して黒く変色する。

●末梢神経障害「手袋靴下型感覚障害」とは
末梢神経障害は足の指先から始まり、足の裏、足部、膝下へと広がり、その後は手の先から手首へと広がります。ちょうど靴下と手袋をつけるところに症状が出やすいことから、末梢神経障害のことを「手袋靴下型感覚障害」とも呼びます。

手袋靴下型感覚障害

糖尿病では、どのような足トラブルに注意すればいいの?

潰瘍や壊疽に進行しやすいため、次のような足のトラブルに気をつけましょう。

●靴擦れ……靴が足に当たり、水ぶくれや傷ができる。
●タコ・ウオノメ……一定の箇所に圧力がかかり、皮膚の角質が硬くなる。ウオノメは強い痛みを生じる。
●陥入爪、巻き爪……爪の両側が皮膚に食い込み炎症を起こす(陥入爪)。爪が筒状に巻き、皮膚に食い込む(巻き爪)。
●水虫…… 白癬菌というカビが角質層に感染して指の間が白くなったり、足の裏に水疱ができたりする。爪に感染すると爪がにごったり、浮き上がったりする(爪水虫)。
●ひび割れ……自律神経障害により皮膚が乾燥しやすいため、皮膚が角化して亀裂が生じる。
●外反母趾、内反小趾……かかとが外側へゆがみ、親指が変形する(外反母趾)。かかとが内側へゆがみ、小指が変形する(内反小趾)。
●ハンマートゥ……指が曲がったまま硬直する。
●開張足……足の指の骨をつなぐ腱が伸びきり、足の甲が平らになり横に広がる。

糖尿病で注意が必要な足トラブル

毎日直接足に触れて、次のチェックリストで異変がないかチェック!

毎日、足全体をくまなくチェックし、直接足に触れて、次のような異変がないか確認するようにしましょう。足の裏やかかとなど見えにくい箇所は、手鏡を使って確認するのがおすすめです。
□ 乾燥してひび割れていないか
□ 冷えていないか
□ 水虫はないか
□ 傷や腫れはないか
□ 皮膚が赤黒くないか
□ 足の形に変化はないか
□ ウオノメやタコができていないか

足トラブルのチェック項目

足トラブルを見つけたら、自己処理せず病院を受診しよう

糖尿病の人は、傷ができると化膿や潰瘍を起こしやすく、足に異変を感じてから壊疽を起こすまでは、3日から1週間ほどといわれています。必ず速やかに病院で処置を受けましょう。
その他、足に次のような異変を見つけたら、受診するようにします。病院では次のような治療を行います。

●タコ・ウオノメ……角質を軟らかくする作用のある軟膏を使用する。ウオノメは取り除くこともある。
●陥入爪、巻き爪……爪の先端に穴を空けてワイヤーを装着し、1~2カ月間爪を伸ばし、爪を平らに矯正する。
●水虫……殺菌作用のある治療薬を処方する。
●外反母趾、内反小趾……テーピングなどで矯正する。

デジタル機器を「20分」使用したら、「20秒」休み、「20フィート(約6m)」先に目線を向けて目を休めよう。

糖尿病と診断されたら、年に一度は足の検査を

糖尿病神経障害は、目安として糖尿病の発症から約7、8年で発症し、20年後には潰瘍を起こす恐れがあるとされています。しかし糖尿病は正確な発症時期が分かりにくく、糖尿病と診断された時にはすでに神経障害が進行している場合があります。また神経障害は高血糖だけでなく、肥満や高血圧、脂質異常も要因となるため、予想以上に進行している可能性も。
糖尿病は自覚症状がないために受診を怠りがちになります。特に神経障害が進行している人ほど症状に気づけず、気がついた時には下肢切断のリスクが高まっている場合があります。糖尿病と診断されたら神経障害の進行を疑い、年に一度は次のような検査を受けましょう。

●アキレス腱反射検査……ゴム製のハンマーでアキレス腱を軽く叩き、足の反射を見る。
●振動覚検査……弱い振動を足に当て、振動を感じている時間の長さなどを測定する。

糖尿病の神経障害の検査(アキレス腱反射検査・振動覚検査)

これら以外にも、温冷覚、痛覚、触覚などの検査を推奨しているところもあります。

●フットケア外来は定期的に受診を
糖尿病と診断されると、病院やクリニックでは糖尿病療養指導士、糖尿病認定看護師などがフットケアの仕方を教えてくれます。また、フットケア外来を設置している所では、フットケアワーカーによる爪や角質除去などのケアを受けられる場合もあります。

フットケア外来でフットケアワーカーによる爪や角質除去などのケア

日常生活で気をつけたい「フットケア7カ条」

足のトラブルを起こさないためには、足をいたわり、毎日ケアをすることが大切です。次の7つのことを心がけましょう。
(1)足のチェックを怠らない……帰宅時やお風呂上がりなど、毎日足に触れて観察する。
(2)足を清潔に保つ……毎日洗い、古い角質を取り除く。
(3)爪を切り過ぎない……陥入爪、巻き爪などを防ぐ。
(4)足に合った靴を履く……タコやウオノメ、足の変形を防ぐ。
(5)やけどに注意する……手で温度を確認してからシャワーを浴びたり、湯船に入ったりする。
(6)足のトラブルは病院で処置する……自己処理は細菌感染を起こす原因になるので避ける。
(7)足に傷ができたら直ちに受診する……細菌感染を起こすリスクを回避する。

フットケア7カ条

寒い時期、気づかずに起こる「低温やけど」に気をつけよう

低温やけどとは、気持ちよいと感じる程度の温度(44~50度)でも起こるやけどのことです。通常のやけどよりも傷が深く、治りにくいのが特徴です。特に糖尿病の人は、神経障害があると熱さを感じにくいため、低温やけどを起こしやすくなります。次のようなシーンに気をつけましょう。

●暖房器具・カイロの使用時……こたつや電気カーペットなどの熱源、カイロは足に直接触れないようにする。なるべくエアコンやストーブなど部屋全体を暖める暖房器具を使用する。
●洋式トイレの使用時……洋式トイレの座面を温かくしている場合、長時間座ったままでいることは避ける。
●電車に乗っている時……座席の下から温風が出ている車両があるので、長時間座ったままでいる場合は脚を近づけ過ぎないようにする。
●就寝時……電気毛布や電気アンカなどは布団に入るまでつけておき、就寝時に消す。湯たんぽは、直接足に触れないようにする。

低温やけどを起こしやすいシーン

正しく足を洗うことが、フットケアの基本です

古い角質は細菌の温床となります。足の裏や指の間は、石けんをつけたスポンジなどで丁寧に洗い、古い角質を落としましょう。爪の周りは特に角質がたまりやすいため、歯ブラシなどで優しく洗います。正しい洗い方の手順は下のイラストの通りです。

正しい足の洗い方

また、糖尿病の人は自律神経障害により元々皮膚が乾燥しやすい傾向にあります。そのため、ゴシゴシと強く洗い過ぎると必要な皮脂まで取り過ぎて、さらなる乾燥を招いてしまいます。皮膚の免疫力をこれ以上低下させないためにも、洗い過ぎないように注意しましょう。

爪の切り方は、「真っ直ぐに切る」のが正解!

深爪をしたり、爪の角を切り過ぎたりすると、爪の両側が皮膚に食い込んで炎症を起こす陥入爪や、爪が筒状に巻く巻き爪になってしまいます。爪は白い部分を1ミリメートル残して一直線に切り、爪やすりで先端を整える程度にしましょう。

正しい爪の切り方

爪が硬くて切りにくい場合は、お風呂上がり、または足を40度くらいのぬるま湯に5~10分ほど浸けた後に切ると、爪が軟らかくなり、切りやすくなります。
また、視力障害がある場合は正しく切ることができない可能性があるため、身近な人に切ってもらうようにしましょう。

●深爪の応急処置
糖尿病の人が深爪になってしまった場合は、細菌感染を防ぐためにすぐに病院で処置をしてもらうようにします。受診するまで痛くて我慢できない場合は、応急処置として、指の皮膚を外側に引っ張ってテープで固定し、爪と皮膚の間に隙間を空けておくとよいでしょう。

深爪の応急処置

足に負担がかからない靴を選びましょう

靴が小さ過ぎたり大き過ぎたりすると、タコやウオノメができたり、足が変形したりします。靴を買う際は足のサイズを測ってもらい、自分の足に合うウォーキングシューズのような物を選び、必ず試し履きをするようにします。また、信頼できる靴店を探すことも大切です。靴選びのポイントとして、次の点に注意しましょう。

●つま先が靴に当たっていないか……かかとに隙間がないように履いた時に、つま先に1センチメートルほどの余裕があるとよい。
●かかと部分に厚みはあるか……体重を支える靴のかかと部分は硬い素材、内側は軟らかい素材でできているとよい。
●甲の高さを調整できるか……足の大きさは1日のうちでも変わるため、靴ひもなどで甲の高さを調整できるようになっている靴がよい。
●靴底は安定しているか……靴内部に不自然な凹凸がなく、土踏まずの部分が自分に合っているとよい。自分の足に合わせたインソールを使用するのも有効。靴底のクッション性がよい物を選ぶこと。

靴選びのポイント

また、素足で靴を履くと傷や靴擦れができやすくなります。足を保護するために必ず靴下を履きましょう。足に傷ができて出血した場合に気づきやすい白い靴下がおすすめです。


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