中性脂肪とコレステロールはどちらも肝臓でつくられる脂質の一種です。中性脂肪は主に体を動かすエネルギー源となり、体温を一定に保ったり、体を衝撃から守ったりする働きをしています。コレステロールは細胞膜の構成成分、副腎皮質ホルモンや消化・吸収を助ける胆汁酸などの材料になります。コレステロールにはLDLコレステロールとHDLコレステロールの2種類があります。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)は、全身の細胞にコレステロールを運ぶ「運び屋」で、細胞で使われずに余ると血管壁にたまっていきます。HDLコレステロール(善玉コレステロール)は、血液中や血管壁にたまったコレステロールを回収して肝臓に戻す「回収屋」です。中性脂肪やコレステロールは、このように体にとってなくてはならないものですが、血液中に中性脂肪やLDLコレステロールが過剰になったりHDLコレステロールが不足するなど、これらの数値が基準値を外れると「脂質異常症」と診断されます。自覚症状がなくても数値の異常が見られたら、放置しないことが大切です。
1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。北里大学薬学部非常勤教員。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。
中性脂肪とは、いわゆる脂肪のことで、別名「トリグリセライド」とも呼ばれます。中性脂肪は血液中に入って全身を巡りますが、過剰になると皮膚の下の脂肪細胞(皮下脂肪)や、内臓周りの脂肪細胞(内臓脂肪)に蓄えられます。過剰にする主な原因は次の通りです。
コレステロールは、血液によって各細胞に運ばれます。脂質という性質上、そのままでは血液に溶け込むことができないので、タンパク質と脂質が組み合わさった「リポタンパク」となって血液中を移動しています。LDLコレステロール、HDLコレステロールはそれぞれ、リポタンパクの種類を現しています。LDLコレステロールは、細胞で使われずに余ると血管壁にたまり、動脈硬化の要因となることから「悪玉コレステロール」と呼ばれています。HDLコレステロールは血液中や血管壁にたまったコレステロールを回収し、動脈硬化を予防することから「善玉コレステロール」と呼ばれています。これらの数値の異常を招く主な原因は次の通りです。
中性脂肪値、コレステロール値に異常があっても自覚症状が現れません。そのため、検査の結果、基準値を超えていた場合は、自覚症状がないからと放置せず、医療機関を受診する必要があります。中性脂肪値とコレステロール値はいずれも健康診断等の血液検査で調べることができます。最近では、薬局などでも自己採決検査を受けることができますので、簡易的なチェック法として利用するのも手です。基準値は以下の通りです。
脂質異常症の診断基準(空腹時採血※1)
LDLコレステロール(LDL-C) | 140mg/dL以上 | 高LDLコレステロール血症 |
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120~139mg/dL | 境界域高LDLコレステロール血症※2 | |
HDLコレステロール(HDL-C) | 40mg/dL未満 | 低HDLコレステロール血症 |
中性脂肪(トリグリセライド、TG) | 150mg/dL以上 | 高トリグリセライド血症 |
Non-HDLコレステロール | 170mg/dL以上 | 高non-HDLコレステロール血症 |
150~169mg/dL | 境界域高non-HDLコレステロール血症※2 |
※1:10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。 ※2:スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
・LDL-CはFriedewald式(TC-HDL-C-TG/5)または直接法で求める。
・TGが400mg/dLや食後採血の場合はnon-HDL(TC-HDL-C)かLDL-C直接法を使用する。ただしスクリーニング時に高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30 mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。
(出典)日本動脈硬化学会編:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版より
中性脂肪値やコレステロール値の異常を放置すると動脈硬化が進行します。動脈硬化とは、コレステロールが血管の内側にたまって血液の流れが悪くなる疾患です。次のように動脈硬化が進行すると脳や心臓、脚などに様々な障害を起こし、死因の上位を占める「心疾患」「脳血管疾患」の大きな原因の一つとなります。
(2)血液中にVLDLが増え過ぎると、LDLコレステロールが増産され、LDLコレステロールとHDLコレステロールのバランスが崩れる。
(3)HDLコレステロールが減ると、LDLコレステロールが回収しきれずに血液内に増加する。LDLコレステロールが血管壁に入り込み、盛り上がったプラーク(粥腫)をつくる。
(4)プラークによって血管内が狭くなると同時に血管が硬くなり、プラークの表面に亀裂が起こりやすくなる。
(5)亀裂を起こすと血小板が集まって一気に血栓がつくられ、血管が閉塞すると脳梗塞や心筋梗塞などが起こる。
中性脂肪値とコレステロール値は、いずれも異常があっても自覚症状が見られないため、定期的な健康診断を受けて数値を確認することが何よりも大切です。中性脂肪とコレステロールの数値異常が見られたら、まずは内科を受診します。HDLコレステロールは中性脂肪が130㎎/dLくらいから減り始めることが確認されています。基準値はあくまでも目安と捉え、前回の検査と比較して異常値に近づいている場合は、動脈硬化を進めないために早めのケアに取り組みましょう。
医療機関では、通常は1カ月間の生活習慣の改善後、再検査を受けます。そこで脂質異常症と診断されると、「禁煙」「適正体重の維持・改善」「食事療法」「運動療法」といった生活習慣の改善を中心とした治療を行います。治療を続けても数値が下がらない場合は、動脈硬化のリスクを高めないよう、コレステロール値や中性脂肪値を下げる薬が処方されます。
中性脂肪値、コレステロール値の異常の原因のほとんどは、生活習慣の乱れによるものです。予防・改善には、まず次のように食生活を見直しましょう。
ウォーキングや水泳などの有酸素運動を行うと、「リポタンパクリパーゼ」という酵素が活性化し、LDLコレステロールを減らして、HDLコレステロールを増やすことが分かっています。運動は、短時間でも継続することで効果が上がります。週3回1日30分程度を目安に、汗ばむくらいの運動をしましょう。
イワシやマグロ、サバなど脂がのった青背の魚に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)。このEPAは、中性脂肪値を下げ、LDLコレステロールを減らし、HDLコレステロールを増やし、動脈硬化の予防・改善に有効であることが分かっています。他にも高血圧、アレルギー性疾患、炎症性疾患などの予防・改善に効果があります。1日1切れを目標に、積極的に新鮮な魚を摂るとよいでしょう。効率的に摂取するには刺身(生食)が最も適していますが、脂肪を逃さないホイル焼きなども適しています。