更年期のフェムゾーン(デリケートゾーン)のかゆみはなぜ起きる?どうケアする?

更年期のデリケートゾーンのかゆみはなぜ起きる?

デリケートゾーンのかゆみや乾燥をはじめ、性交痛、尿もれなどが、女性ホルモンが減る更年期以降に起きやすくなることをご存じですか?人には相談しにくい悩みですが、これらは今、「GSM(Genitourinary syndrome of menopause:閉経関連泌尿生殖器症候群)」として総合的に診療できるようになってきています。
女性の健康課題を解決する“フェムテック”や“フェムケア”という言葉が社会に浸透してきている中で、「女性が、自分の体の臓器の一部である女性器を “デリケート(繊細な)ゾーン”と呼び、触れてはいけないものだと捉えるのは古い価値観です。これからは“フェムゾーン”として、自分でしっかりと向き合いましょう」と、女性泌尿器科専門医の関口由紀先生は語ります。更年期以降に増えてくるフェムゾーン(デリケートゾーン)のかゆみの理由と、行いたいケアについてお聞きしました。

監修プロフィール
女性医療クリニックLUNAグループ理事長 せきぐち・ゆき 関口 由紀 先生


山形大学医学部卒業、横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学修了。医学博士。2005年横浜元町女性医療クリニック・LUNA開設。理事長として世界標準の女性医療と、女性たちによる自助的な医療の実践を目指している。横浜市立大学医学部泌尿器病態学講座客員教授、インターネットサイト フェムゾーンラボ社長(https://www.femzonelab.com)
女性医療クリニックLUNA
https://www.luna-clinic.jp/

更年期以降のフェムゾーン(デリケートゾーン)のかゆみは、女性ホルモンの低下が大きな原因

更年期以降のデリケートゾーンのかゆみは、女性ホルモンの低下が大きな原因

日本人の平均閉経年齢は約51歳。閉経前後のそれぞれ約5年間を更年期といい、女性ホルモンの「エストロゲン」が不規則にアップダウンしながら減っていくことで、様々な不調が起こりやすくなります。フェムゾーン(デリケートゾーン)のかゆみや乾燥もその1つです。
エストロゲンには腟の粘膜(腟粘膜上皮)を潤して厚く丈夫に保つ働きがあり、これが減ることで、腟粘膜上皮の細胞が減り、萎縮して薄くなってしまいます。同時に腟壁(ちつへき:腟の内壁)や子宮頸管から分泌される粘液も減少するため、腟の潤いがなくなり、フェムゾーン(デリケートゾーン)にかゆみや乾燥、不快感が現れたり、わずかな刺激で出血しやすくなったりするのです。これらの炎症を「萎縮性腟炎」と呼び、GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)の代表的な症状です。


腟内の環境を整える「デーデルライン桿菌(かんきん)」が減り、細菌感染によるかゆみが起こりやすい

腟の中には多くの常在菌がいて、常在菌叢(じょうざいきんそう:常在菌のフローラ)を形成しています。その中でも体内にエストロゲンがある健康な腟内には「デーデルライン桿菌(かんきん)」という善玉の乳酸菌が多くすんでおり、腟内を酸性に保ち、外からの細菌感染を防いでくれています。腟の自浄作用として働く大切な常在菌です。
ところが、エストロゲンの分泌が減った状態が続くと、デーデルライン桿菌は減少し、酸性であるはずの腟内が中性に傾き、自浄作用が働かなくなってしまいます。そのため更年期以降は、細菌に感染してかゆみが出たり、色やにおいのあるおりものが出たりする「細菌性腟炎」にかかりやすくなるのです。
デーデルライン桿菌はエストロゲンの影響以外にも、ストレスや疲労などによっても減ってしまうため、心身ともにゆらぎがちな更年期には特に注意が必要です。


フェムゾーン(デリケートゾーン)のかゆみの他にも、GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)の主な症状をチェック

エストロゲンの減少は、フェムゾーン(デリケートゾーン)のかゆみをはじめとした萎縮性腟炎だけでなく、頻尿や尿もれ、再発性膀胱炎の原因にもなります。これまでの女性医療では、フェムゾーン(デリケートゾーン)のかゆみや性交痛は婦人科で、尿のトラブルは泌尿器科で…と、それぞれ別の科で治療が行われてきました。しかし、エストロゲンの減少という同じ要因をもち、女性のQOL(生活の質)を下げる大きな健康課題であるため、最近ではこれらを「GSM(Genitourinary syndrome of menopause:閉経関連泌尿生殖器症候群)」(以下、GSM)という名前でくくり、総合的な診療が行われるようになってきています。
次の症状のいずれかがあれば、GSMの疑いがあるといえます。チェックしてみましょう。

●GSMの3つの症状
① 腟と外陰の不快感(ムズムズ、かゆみ、痛みなど)
② 尿のトラブル(頻尿、尿もれ、再発性膀胱炎など)
➂ セックスのトラブル(性交痛、出血など)

50代以上の約2人に1人が何らかのGSMの悩みを抱えているといわれています。GSMは慢性かつ進行性の疾患のため、気づいた時からケアを続けていくことが大切です。
※ Online survey of genital and urinary symptoms among Japanese women aged between 40 and 90 years. H. Ohta, M. Hatta, K. Ota, R. Yoshikata & S. Salvatore. Climacteric. Published online:28 Jul 2020(https://doi.org/10.1080/13697137.2020.1768236

なお、尿もれにはGSMの他に、もう1つの大きな原因「骨盤底障害」があります。骨盤底障害とは、出産や遺伝、生活習慣等によって骨盤底筋や靭帯などが損傷し、それが古傷となって、筋肉量とエストロゲンが減ってくる更年期以降に再び症状として現れるもので、筋肉や靭帯が緩んで、尿もれや骨盤臓器脱を引き起こします。

GSMと骨盤底障害の発症位置

骨盤底障害は主に筋肉や靭帯、筋膜の問題ですが、そこに粘膜や皮膚、皮下組織の問題であるGSMが加わり、更年期以降はダブルパンチで尿もれが起こりやすくなるのです。そのため、GSMのケアと共に、骨盤底筋トレーニングで筋力を落とさないことも大切です。

GSM以外の、フェムゾーン(デリケートゾーン)のかゆみの原因は?

デリケートゾーンのかゆみの原因、GSM以外には?

更年期以降のフェムゾーン(デリケートゾーン)のかゆみの原因には、GSM以外にも次のような疾患があります。

●接触皮膚炎
皮膚に何らかの物質が触れ、それが刺激やアレルギー反応となって炎症を起こすもので、俗にいう“かぶれ”です。本来、フェムゾーン(デリケートゾーン)の皮膚は丈夫ですが、アトピー性皮膚炎やGSM等で肌が弱い場合、尿もれパッドやおりものシートなどのシート類や締めつけの強い下着が触れることで、かゆみが引き起こされることがあります。

●腟カンジダ
腟内の常在菌であるカンジダという真菌の異常増殖によって起こる腟炎で、女性にとって身近な疾患です。ただし、女性ホルモンが減ると腟カンジダになりにくくなるため、更年期以降は腟カンジダになる人は減っていきます。

●硬化性苔癬(こうかせいたいせん)・扁平苔癬(へんぺいたいせん)
原因が解明されていない難病で、自己免疫疾患がかかわっていると考えられています。フェムゾーン(デリケートゾーン)の皮膚に象牙色の発疹が出たり、皮下出血や水疱、びらんが現れたりして、かゆみが出るのが特徴です。発症後、しばらく経つと皮膚が薄くなり、ひび割れやカサカサした状態になって痕が残ります。

●外陰前庭痛症候群・慢性骨盤痛症候群
灼熱感のある外陰部の不快感が3カ月以上慢性的に続き、GSM等の様々な治療をしても痛みが治らない場合に診断されます。原因は不明です。

●性感染症
更年期後に女性ホルモンが少ない状態で安定すると、相対的に男性ホルモンが優位になるため、GSMの悩みがない女性の中には性欲が高まる人もいます。年齢にかかわらず性感染症を予防し、クラミジア、淋病、梅毒などに注意しましょう。


40代から始めたいフェムゾーン(デリケートゾーン)のセルフケア

デリケートゾーンのセルフケアは、40代から始めたい

GSMは加齢により徐々に進行していきます。50代以上の2人に1人は症状があるというように、誰もがGSMになる可能性があるため、40代になったらフェムゾーン(デリケートゾーン)のセルフケアを始めましょう。

「日本の女性の中には、フェムゾーン(デリケートゾーン)を自分で見たことがない人も多くいます。まずは自分のフェムゾーン(デリケートゾーン)に向き合うこと。顔のしわやたるみをチェックするのと同じように、手鏡で自分のフェムゾーン(デリケートゾーン)を見て、皮膚の状態を確認することから始めましょう。そして、ケアのポイントは、“保湿”と“運動”です」と、関口先生。具体的なポイントをお聞きしました。

●フェムゾーン(デリケートゾーン)は泡立てた石けんで、指を使ってやさしく洗う
お風呂で洗う時は、石けんをしっかり泡立て、指を使ってやさしく洗いましょう。ボディタオルでゴシゴシ洗うのはNG!襞(ひだ)の間は垢がたまりやすいので、丁寧に洗います。洗うのは自然に指が触れる腟前庭部(小陰唇の内側)までで、腟の中までは洗わないでください。その後、やさしく流します。

●お風呂上がりにフェムゾーン(デリケートゾーン)の保湿を習慣にする
お風呂上がりにタオルで拭いたら、フェムゾーン(デリケートゾーン)の保湿をします。ボディクリームやジェル、オイルなど、普段ボディ用に使っている保湿剤でOKです。保湿効果が高いヘパリン類似物質入りの保湿剤を選ぶのもよいでしょう。人差し指と中指に1、2滴つけて、まずは中央を真っすぐに塗り、腟前庭部にも塗ります。さらに小陰唇、大陰唇に塗り、あまったら肛門あたりまで塗ります。

●骨盤底筋トレーニングをする
骨盤底筋トレーニングの方法は、こちらの動画で紹介しています。(https://www.taisho-kenko.com/movie/91/)フェムゾーン(デリケートゾーン)を保湿したついでに、人差し指を第二関節まで腟に入れ、指をキュッと締めたり引き上げたりする動きをしてみると、骨盤底筋がしっかり動いているかどうかチェックすることができます。時々行ってみるとよいでしょう。

●尿もれパッドやおりものシートは必要な時だけ使用し、こまめに交換する
尿もれパッドは外出時や寝る時など、心配な時だけ使用し、頼り過ぎないようにすることが大切です。尿もれパッドをつけない時間があることで、肌への負担が減らせるだけでなく、骨盤底筋を締める意識が働き、骨盤底筋トレーニングにもつながります。おりものシートも、おりものが気になる期間だけ使いましょう。また、使用する際は雑菌が増えないよう、こまめに取り替えることも忘れずに。

●下着で締めつけ過ぎない
常に締めつけの強い下着を使うのではなく、出かける時は好きな下着を身に着けてポジティブに、家にいる時はゆったりとした木綿の下着でリラックス…などメリハリをつけて着用し、肌をいたわりましょう。

●腟カンジダを繰り返す時は市販薬も一案
腟カンジダの診断を受けていて、繰り返す場合は市販薬の使用も一案です。用法・用量を守って正しく使いましょう。過労やストレスを抱えている時に発生しやすいので、安静や休養もとても大切です。ただし、更年期以降は腟カンジダにかかることは減ってきます。いつもと違うかゆみがある場合は、GSMや他の病気の可能性もあるため、必ず医師に相談しましょう。


人生100年時代。閉経後の長い人生を楽しむために

今は人生100年といわれ、昔とは違って閉経後の人生が長くなりました。
「生殖年齢が終わり、自分の好きなことができるのが閉経後です。女性が閉経後の人生を楽しく過ごすためにも、早めにフェムゾーンケア(デリケートゾーンケア)を始めて、続けてほしい」と、自らもGSMに悩んだ経験のある関口先生は語ります。レーザー治療や女性ホルモンの局所投与など、GSMの治療法も進歩し、選択肢も増えているので、一人で悩んでいる人は医師に相談することも大切だといいます。

顔のスキンケアをするのと同じように、フェムゾーン(デリケートゾーン)もポジティブに気軽に、毎日ケアしていきましょう。


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