抗原検査キット(市販の一般用抗原検査キット)の使い方や判定結果の見方に不安がある……という人も多いのでは?
新型コロナウイルス感染症の法律上の位置づけが5類に変わり、初めての冬。様々な場面で個人の判断が大切になる中、新型コロナウイルス以外にもインフルエンザやかぜ等、症状が似ている別の感染症も流行しており、見分けがつかない場面も増えてくることでしょう。
そこで、いざという時に役立つ抗原検査キットの使い方のポイントと、改めて見直したい感染予防とケアの基本を、新型コロナウイルス感染症に詳しい舘田先生にうかがいました。
(インタビューは2023年11月7日に行い、内容はその時の状況に基づいています。)
医学博士。1985年長崎大学医学部卒業、長崎大学医学部附属病院(現 長崎大学病院)第二内科に入局。90年東邦大学医学部微生物学講座助手。99年米国ミシガン大学呼吸器内科に留学。2005年東邦大学医学部微生物・感染症学講座准教授。11年より同講座教授、東邦大学医療センター大森病院感染管理部部長。日本感染症学会理事長(17~21年)、日本臨床微生物学会理事長(18~22年)、ICD制度協議会議長(17~21年)等を歴任。
「抗原」とは、体の免疫反応(免疫応答)を引き起こす物質のこと。体にとっての異物で、新型コロナウイルスをはじめとしたウイルスや細菌の他、花粉症の人にとっての花粉など、アレルゲン(アレルギーの原因物質)も抗原です。私たちの体は抗原が侵入すると、その抗原に特異的に結合して体内から除去するタンパク質「抗体」をつくり、抗原を除去する免疫機能が備わっています。
市販の一般用抗原検査キットで行う簡易抗原検査(イムノクロマト法)は、この原理を利用して、人工的に特定の抗体をつくり、それに抗原が反応したかどうかで、体内に抗原があるかどうかを調べます。体内に抗原があれば、感染しているということになるのです。
抗原検査は、ウイルスの遺伝子を検査するPCR検査よりも少し感度は落ちますが、短時間で簡単に検査ができ、特別な検査機器も必要ないことから、スクリーニング検査(疾患の疑いのある人を発見する検査)に適しています。
市販の抗原検査キットは添付文書をよく読み、指示通りに使うのが基本です。その上で、知っておきたいポイントをご紹介します。
ポイント① 「体外診断用医薬品」または「第1類医薬品」と表示のある抗原検査キットを選ぶ
抗原検査キットはインターネットでも購入できますが、国が承認した「体外診断用医薬品」または「第1類医薬品」とパッケージに表示されている物を選びましょう。「研究用」と書かれた物は、性能等が確認されていません。誤って選ばないようにしましょう。厚生労働省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27779.html)で、承認された検査キットを確認することができます。
ポイント② 抗原検査キットを使うタイミング
咳や熱、のどの痛みなどの症状が出た日(発症日)を1日目として、2日目以降に検査をするとよいとされています。検出には一定以上のウイルス量が必要になるため、発症後すぐに検査をすると偽陰性(本当は感染しているのに陰性と判定される)のリスクが高まります。早めに検査をして陰性だった場合は、翌日に再び検査するなど、複数回行うとよいでしょう。
ポイント➂ 鼻の中が乾燥している場合は先にのどをぬぐうのも1案
検体(鼻腔ぬぐい液)を採取する綿棒は、鼻孔(鼻の穴の入り口)から2cm程度入れて、鼻の内壁に沿って5回転させてぬぐうのが基本のぬぐい方です。細かい使用法は抗原検査キットによって異なるため、添付文書に従って行いましょう。ぬぐった後の綿棒が十分に湿っていることが大切です。鼻の中が乾燥していて上手に検体が採取できるか不安……という場合は、まず綿棒でのどを1回ぬぐってから、同じ綿棒で鼻腔をぬぐうのも1つの方法だと舘田先生は言います。覚えておくとよいでしょう。
ポイント④ 判定ラインはうっすらでも出れば陽性! 観察時間を少し延ばすと確認しやすい
抗原検査キットの判定部には「C」と「T」の文字があります。「C」はコントロールラインといい、正しく検査ができているかどうかをチェックするラインです。正しく検査ができていれば、誰でも必ずラインが出現します。「T」は判定ライン(テストライン)です。陽性の場合、ここにラインが出ます。うっすらとでも出ていたら陽性です。「ラインが薄い場合は、観察時間を少し延ばすとだんだん濃くなってくるので、より確認しやすくなる」と舘田先生。
また、「C(コントロールライン)」に線が出ない場合は正しく検査ができていません。たとえ「T(判定ライン)」に線が出ていても判定は無効になります。新しい検査キットで再び検査をしましょう。
ポイント⑤ 抗原検査キットの保管と廃棄方法は適切に
検査キットの保管温度は一般的に2~30℃とされています。また、使用期限があるので注意しましょう。使用後はビニールに密封して捨て、他者への感染を防ぐことも大切です。
ポイント➅ 受診する際は、病院の指示を仰ごう
抗原検査で陽性になった場合、必ず病院を受診しなければいけないということはありませんが、症状がつらい、悪化してきた、基礎疾患がある等、症状や状況に応じて受診しましょう。その場合、いきなり病院へは行かず、まずは電話をして受診方法を確認し、病院の指示に従って受診するようにしてください。
「5類」になったと聞くと、ウイルスが弱毒化した印象をもつ人もいるかもしれません。しかし、そういうわけではないのです。「ウイルスが弱毒化したわけではなく、ワクチンを接種した人や罹患者が増えたことによって、新型コロナウイルスに対する基礎的な免疫をもつ人が増え、結果的に重症化が減ったり肺炎を合併しにくくなったりしているケースも考えられます」と舘田先生。
ワクチンや治療薬、診断法も確立されつつあり、パンデミックの初期の頃のように、大騒ぎする段階ではなくなりました。しかしながら、社会には重症化リスクの高い人やその家族もいるという想像力を常にもち、たとえ自分は軽症だったとしても、感染を広げないようにすることは、5類になっても同様に大切なことだといいます。
5類では法律に基づく外出自粛は求められておらず、個人の判断に任されています。とはいえ一般的な目安は知っておきたいものです。
厚生労働省は、発症日の翌日から5日間(5日目にも症状がある場合は、症状が軽快してから1日)は他の人に感染させるリスクが高いので外出を控えるように推奨しています。また、発症後10日間が過ぎるまではウイルスを排出している可能性があるので、不織布マスクを着用したり、高齢者や重症化リスクの高い人との接触は控えたりするのが望ましいとしています。
さらに学校では学校保健安全法により、発症後5日を経過し、かつ、症状が軽快した後1日を経過するまでは出席停止というのが基準です。こうした対応の基本を押さえておきましょう。感染したら無理をせずにゆっくり休むことは、重症化を防ぐことにもつながります。
新型コロナウイルスの治療薬(抗ウイルス薬)は保険が適用されますが、新薬のため個人の費用負担も大きくなります。症状に応じて、処方してもらうかどうか医師と相談しましょう。なお、抗ウイルス薬は後遺症の発現を抑えることが報告されています。症状が軽くても後遺症が不安だという人は、医師に相談して内服薬を処方してもらうとよいでしょう。
インフルエンザが前倒しで流行し、この冬は新型コロナウイルスとインフルエンザが同時に流行することも考えられます。同時に複数の感染症にかかる「混合感染」を起こすと、重症化しやすくなるという報告もあります。
「新型コロナウイルスもインフルエンザも、感染予防策は同じです。室内や人混みの中で不織布マスクをすることは有効ですし、3密を避ける、こまめな換気、手指消毒といった予防策を行うことが基本となります。この3年間、一時は感染者数が落ち着いても冬には増えてくるということを、私たちは繰り返し経験してきました。その経験を忘れずに、冬は感染予防を強化していきましょう」と舘田先生。
5類移行後、新型コロナウイルスに対する様々な対応は個人の判断に任されました。しかし、基本の感染予防策や感染を広げない配慮に変わりはありません。これまでの経験を活かして、この冬を乗り切っていきましょう。