関節リウマチと気象との関係は?冬から春にかけて悪化させずに過ごすポイント

関節リウマチの女性

関節リウマチの痛みは、寒い季節になると増すという人が珍しくありません。気象の変化が関節リウマチの症状に影響するという研究もあります。さらに冬から春にかけては、受験や転勤といった生活環境の変化によるストレスで自律神経が乱れ、関節痛が悪化することもあります。関節リウマチと気象の関係と、これからの季節を快適に過ごすためのポイントを、那須高原クリニック院長 佐藤先生にうかがいました。

監修プロフィール
那須高原クリニック 院長 さとう・ひでとも 佐藤 英智 先生

日本内科学会認定内科専門医、日本リウマチ学会専門医、日本リウマチ学会登録ソノグラファー、日本アレルギー学会専門医、日本医師会産業医、介護支援専門員、栃木リウマチネットワーク世話人。専門は関節リウマチ、花粉症、気管支喘息、膠原病を中心とするアレルギー免疫疾患だが、プライマリーケア医として糖尿病、循環器疾患、消化器疾患、アトピー性皮膚炎等の診療も対応している。

関節リウマチの気象の変化による悪化には、自律神経の乱れが影響していることも

関節リウマチに影響する気象の変化

関節リウマチと気象因子との関係を研究した論文はいくつかあります。サンプル数の多い研究として知られているものでは、京都大学医学部附属病院が、関節リウマチ患者のデータベース(KURAMAコホート)に登録されている2,131人のうち、326人の臨床データを用いて、気圧・気温・湿度と症状の悪化との関係を分析した研究があります。この研究によると、気圧が低いほど関節の腫れや痛みが悪化することが分かりました。一方で、気温との相関は見られませんでした。

佐藤先生は、「気圧の低下による関節リウマチの症状悪化を訴える患者さんは一定数います」と言います。そのメカニズムについては、これまでの論文の中で、いくつかの考察が記されています。

メカニズムの前に、関節の構造を簡単に知っておきましょう。私たちの関節には、骨と骨との間にわずかな隙間(関節腔:かんせつくう)があり、その内部は潤滑油のような滑液(かつえき)で満たされています。そのため骨同士を滑らかに動かすことができるのです。関節リウマチは、この関節腔の周りをくるんでいる関節包の組織、滑膜(かつまく)の炎症から始まります。

関節リウマチに関連する関節の構造

「気圧が低くなると関節の外圧は下がり、関節が腫れやすくなります。関節腔が広がるので、炎症を起こしている滑膜から、より多くの炎症細胞が関節腔に入ってきて、炎症性サイトカイン(炎症反応を促進する働きをもつタンパク質)が産生されます。それが関節痛の悪化に関係していると考察している論文や、他にも自律神経が関係しているというものもあります。気圧の低下で交感神経が優位になって血管が収縮すると、末梢に血液が十分に送られなくなり、組織内の酸素が減ってしまいます。すると、ブラジキニンなどの痛みを発する物質が産生され、それがさらに交感神経を刺激して、痛みの悪循環が起きる……このように、いくつかのメカニズムが考えられていますが、詳細はまだわかっていません」。

自律神経とは、私たちの心拍や血圧、体温、呼吸、消化や代謝、排尿や排便など内臓の動きを24時間、自動でコントロールしている神経のこと。昼間や緊張している時に優位になる交感神経と、夜間やリラックスしている時に優位になる副交感神経の2つが互いにバランスを取り合い、私たちの体は健康に保たれています。自律神経はホルモン分泌の調節もつかさどるため、関節リウマチの症状に影響を与える可能性があります。

関節リウマチに関係している自律神経

関節リウマチの診療に30年以上携わり、患者さんと向き合ってきた佐藤先生は、「関節リウマチの患者さんからは、台風の前に痛くなる、梅雨の時期や夏の冷房がつらい、冬が苦手、春がつらいなど、季節ごとに様々な訴えをお聞きします。研究結果としても気象因子が影響するという論文もあれば、それを否定する論文もある。つまり、気象因子だけが症状の悪化に作用するというわけではなく、例えば冬から春にかけては受験や転勤等、様々なストレスを抱えがちです。そうした生活の変化による肉体的、精神的なストレスが自律神経の乱れを引き起こし、気象の変化と複雑に絡み合って、関節リウマチの症状を悪化させているのではないでしょうか」と話します。

自律神経は気候の変化やストレスで乱れやすいため、冬から春に関節リウマチの症状がつらいと感じる人は、冷え対策などの気象対策はもちろんのこと、その季節ならではの生活によって起きるストレスもできるだけ減らし、自律神経を乱さない工夫が大切であるといえるでしょう。

※[DOI] http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0085376 Chikashi Terao*, Motomu Hashimoto*, Moritoshi Furu, Shuichiro Nakabo, Koichiro Ohmura, Ran Nakashima, Yoshitaka Imura, Naoichiro Yukawa, Hajime Yoshifuji, Fumihiko Matsuda, Hiromu Ito, Takao Fujii, Tsuneyo Mimori (* equally contributed)"Inverse Association between Air Pressure and Rheumatoid Arthritis Synovitis" PLOS ONE published 15 Jan 2014

関節リウマチを冬から春に悪化させない、季節の対策と自律神経ケア

関節リウマチを冬から春に悪化させない、季節の対策

関節リウマチの患者さんや身近な人が知っておきたい、冬から春にかけての季節の対策と自律神経ケアのポイントをご紹介します。

① 寒暖差をできるだけ抑える
自律神経は環境の変化で乱れやすいため、できるだけ変化を減らすことがポイントです。特に冬に気をつけたいのが寒暖差。暖かい屋内から寒い外へ出る時は、防寒対策をしっかりしましょう。屋内と屋外だけではなく、室内での寒暖差にも注意が必要です。お風呂場のヒートショック対策などもしっかり行うようにしてください。

② 感染症予防を念入りに
冬はかぜやインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症など呼吸器感染症が流行しやすい季節です。関節リウマチでは「抗サイトカイン療法」という免疫を抑える治療を行うため、感染症に注意が必要です。冬は特に感染症の予防策をしっかり行うようにしてください。人混みや密になる室内ではマスクを着用し、手洗い、うがいをしましょう。

感染症の予防にはワクチン接種も有効です。関節リウマチ患者では、メトトレキサート、生物学的製剤、JAK阻害薬などの免疫抑制剤を使用している場合が多く、生ワクチンは接種できませんが、インフルエンザ、肺炎球菌、新型コロナウイルス、帯状疱疹等の不活化ワクチンは接種できます。ワクチン接種の前に、かかりつけ医に内服薬を伝えて相談しましょう。また感染症に罹患した場合は急激に悪化することもありますので、発熱やせきが続くようでしたら、速やかに医療機関を受診してください。

③ 生活リズムを整える
規則正しい生活リズムは自律神経を整える基本です。睡眠時間が不規則な人は、朝の起床時刻を一定にし、起きたら太陽の光を浴びることから始めてみましょう。起床後に太陽の光を浴びると、体内時計が整い、就寝時刻も自然と整いやすくなります。日照時間が短くなる冬こそ、意識して朝の光を浴びましょう。

④ 関節に負担をかけない緩やかな運動を

関節リウマチに負担をかけない緩やかな運動

適度な運動は大切ですが、関節リウマチの患者さんは関節に過度な負担をかけない範囲で行いましょう。ウォーキングやサイクリング、浮力があって関節に負担がかかりにくい水泳や水中ウォーキングなどがおすすめです。治療によって、関節の痛みや腫れがなく日常生活に支障のない状態になると、つい頑張り過ぎて、関節可動域(関節に傷害などが起きず、生理的に関節を動かせる範囲の角度)を超えて動かしてしまい、関節症状が一時的に悪化してしまうこともありますので、症状がよくなっても急に動き過ぎることなく、関節に負担のかからない、緩やかな運動で関節可動域を維持しながら、徐々に筋力をつけていきましょう。

⑤ 楽しい時間でストレスを解消し、「ゆっくり」を意識しよう
自分にとって楽しい時間や癒やされる時間をもち、ストレスを解消することはとても大切です。また、年末から年度末にかけては慌ただしさが増す季節ですが、何事も焦らず「ゆっくり」を意識して生活することが、自律神経を乱さず、関節をいたわることにつながります。

関節リウマチ? 寒さのせい? 指のこわばりに見る、早期発見のポイント

関節リウマチによる指のこわばり

関節リウマチ治療は20年余りで著しく進歩し、早期に診断して治療を開始すれば、日常生活に支障のない状態(寛解)を目指すことができるようになりました。早期の診断と治療開始が重要な理由は、発症後1、2年で関節の破壊が急速に進み、関節が変形してしまうからです。

関節リウマチの早期発見のポイントの1つに、手の指などに起きる「朝起きた時の関節のこわばり」があります。しかし、冬は誰でも手足がかじかんで動かしにくいですし、関節がこわばったり痛んだりすることは、年齢を重ねれば誰にでも起こり得ます。寒さや加齢による関節のこわばりと、関節リウマチの疑いのある関節のこわばりとは、どのように見分ければよいのでしょうか。

「関節リウマチの場合、こわばった状態が30分以上続くのが特徴です。こわばりの時間が長い場合は、関節リウマチの可能性があります。もう1つの特徴として、加齢による関節のこわばりや痛みは、どこか1カ所の関節で起きるのに対して、関節リウマチは複数の関節が同時にこわばりや痛み、時には熱をもって腫れてきます」と佐藤先生。複数の関節が30分以上こわばり、熱をもって腫れている場合は、関節リウマチの可能性があるので、リウマチ科を標榜する内科または整形外科に相談しましょう。

関節リウマチは女性に多く、発症しやすい年代が更年期と重なるため、更年期前後に受診する人も多いといいます。関節痛やこわばりは関節リウマチだけでなく、更年期障害の症状の1つとして起きることも多いので、小さな違和感でも放置せずに一度検査をしてみると安心につながります。早めに医師に相談することが大切です。

佐藤先生は、「私が医師になった30年前は関節リウマチに対する有効な治療薬もなく、ひたすら患者さんの訴えを聞いて対症療法をすることしかできず、内科医として歯がゆい思いをしてきました。けれども今は治療法が目覚ましく進歩し、自分のライフスタイルを維持し、普通に旅行に行くこともできますし、好きなことを諦めたりしなくてもよくなりました。早期診断、早期治療が重要です」と語ります。

早期に関節リウマチの診断を受けて治療を続けること、そして季節ごとの変化に備え、毎日の生活の中で自律神経を整えることを大切にして、自分らしい人生を楽しんでいきましょう。


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