生理前の便秘には、排卵後から生理前にかけて起こる女性ホルモンの変動が関係していると考えられています。腸の動きがゆるやかになり、便が硬くなったり、お腹の張りや残便感が現れたりすることがあります。
大正製薬株式会社(以下、当社)が2024年に行った「生理前、生理中のおなかの調子に関する調査」(※)からは、生理前・生理中におなかの調子が悪くなる人(便秘や下痢になる人)は60.5%、その中でも生理前(1~2週間前)に便秘になる人は61.3%と、多くの人が生理の便秘に悩まされていることが分かりました。
多くの場合は生理が始まると改善されますが、症状の出方には個人差があります。生理前に便秘になる理由、食事や運動などによる解消法、市販薬を使う際の注意点、医療機関を受診する目安を、産婦人科医として多くの女性の健康を支える稲葉可奈子先生にうかがいました。
(※)「生理前・生理中のおなかはジェットコースター? そんなときのおなかの不調対処法を聞いてみた!」
調査主体 : 大正製薬株式会社
調査方法 : インターネット調査(株式会社マーケティングアプリケーションズ サーベロイドを利用)
調査期間 : 2024年10月25日~26日
調査対象 : 20~49歳/女性/全国
設問 : いつものおなかの調子と比べた際に生理前、生理中のおなかの調子について教えてください
産婦人科専門医、医学博士、千葉大学客員准教授、みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト代表。京都大学医学部卒業、東京大学大学院博士課程修了。産婦人科診療の傍ら、子宮頸がん予防や性教育、女性のヘルスケアなど生きていく上で必要な知識や正確な医療情報を、メディア、企業研修、書籍、SNSなどを通して発信している。婦人科受診のハードルを下げて小中学生からかかりつけにできる婦人科を作るため2024年7月渋谷にInaba Clinic開院。
生理前に何らかの精神的、身体的な不快症状が生じ、生活に支障を来すことを月経前症候群(PMS)と呼びますが、便秘は月経前症候群の症状の1つでもあります。その原因には次のものがあります。
●生理前のプロゲステロン分泌量の増加
月経前症候群の原因については諸説ありますが、卵巣から分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が多くなっている時期(黄体期)に生じることから、その関与が考えられます。
プロゲステロンは、妊娠の成立や継続を助ける働きがあり、腸の動きを鈍らせ、水分や栄養をため込みやすくします。そのため便が硬くなって便秘になりがちに。また、プロゲステロンの分泌が多くなると、排便を促す腸のぜん動運動も低下します。
●自律神経の乱れやエストロゲンの減少も影響
生理前はホルモンバランスの急激な変化に伴い自律神経のバランスが乱れやすく、交感神経が優位になりがちです。交感神経は、腸のぜん動運動を抑え、血流も低下させるため、便秘につながります。さらに、腸粘膜の潤いを保ったり、腸のぜん動運動を調整したりする働きがあるエストロゲンが急激に減少する時期であることも、便通に影響します。
●症状は人それぞれ。便秘だけでなく下痢に悩まされる人も
生理前は便秘になる人が多い一方で、下痢に悩まされる人もいます。生理が始まるとプロゲステロンの分泌が減るため、基本的に便通は改善しますが、便秘が続く場合もあります。便秘がいつまで続くか、便秘になるか下痢になるかは人それぞれですが、いずれもホルモンバランスや自律神経の乱れが影響していると考えられます。
生理が始まってからは下痢になる人が多く、当社の調査では、生理が始まると下痢や軟便になるという人の割合が76.8%にも上りました。原因は、生理が始まると分泌されるプロスタグランジンという物質です。プロスタグランジンには、子宮を収縮させて不要になった子宮内膜(月経血)の排出を促す働きがありますが、腸も収縮させるため、ぜん動運動が活発になり過ぎて下痢を招くことがあるのです。
●十分に水分を摂る
体内の水分が不足すると、大腸がいつも以上に水分を吸収するため便が硬くなり、排便しにくくなります。特に気をつけたいのが夏と冬です。夏は汗をかくため水分が不足しがちで、冬も空気が乾燥するのに加え夏ほど水分摂取を意識しないため注意が必要です。1日当たり1~1.5Lを目安に、一気にたくさん摂るのではなく、少量ずつこまめに摂取するとよいでしょう。朝起きたらまずコップ1杯の水分を摂ると、就寝中に失われた水分を補うだけでなく腸のぜん動運動が促されるのでおすすめです。カフェインやアルコールを含む飲み物には利尿効果があるため、水分摂取にはあまり適していません。
●食物繊維やビフィズス菌、乳酸菌を摂って腸内環境を整える
食事の面では、腸内環境を整えることを意識しましょう。
・食物繊維
海藻類やこんにゃくなどに多く含まれる水溶性食物繊維は、水分を保持して便を軟らかくします。腸内の善玉菌のエサとなり、腸内細菌のバランスを整えるのにも役立ちます。また、きのこや根菜、穀類などに多く含まれる不溶性食物繊維は、便のかさを増して腸の働きも促すので、便通改善に有効です。ただし、不溶性食物繊維の過剰摂取は、便を増やし過ぎてしまうことがあり、詰まりや硬くなることの原因にもなります。
・ビフィズス菌や乳酸菌
腸内の善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌は、腸内の悪玉菌の増殖を抑えるなどして腸内環境を整え、便秘や下痢の予防・改善をサポートします。どちらも発酵食品に含まれますが、腸内には定着しないので毎日摂り続けるとよいでしょう。
●朝食を摂る
忙しさなどから朝食を食べないという人も見られますが、朝食を食べることには、生活のリズムを整えたり、眠っていた腸を刺激して便意を促したりするといった、便秘の予防・改善に役立つ働きがあります。
●トイレに行くことを習慣化する
便意を我慢すると排便しにくくなってしまいます。忙しくてもトイレに行く時間をつくることが大切です。便意を感じやすい朝、毎日できるだけ同じ時間にトイレに行くと、排便のリズムが身につくでしょう。ロダンの彫刻「考える人」のような前かがみの姿勢をとると、排便しやすくなります。ただし、無理にいきんだり長時間便座に座ったりするのは、肛門に過度な負担をかけるので避けてください。
●体を動かして腸を刺激する
体を動かさないでいると、腸のぜん動運動が低下してしまいます。次にご紹介する体をひねる簡単ストレッチで便通改善を目指しましょう。
ストレッチ①
仰向けの状態で両ひざを立て、肩を床から離さないようにしながら左右にゆっくりと倒してお腹をひねる。10回程度繰り返す。
ストレッチ②
いすに座って足を床につけ、いすの背をつかむように上半身をひねる。左右5回ずつ行う。
便秘解消に役立つエクササイズはこちらもご覧ください。
コラム『便秘のお悩み解消エクササイズ』
また、骨盤底筋の機能を低下させないことも大切です。骨盤底筋は臓器を支え排泄にもかかわるため、骨盤底筋が弱まると便秘や尿もれを起こしてしまいます。骨盤底筋のトレーニング方法については、こちらを参考にしてください。
動画『女性の尿もれの原因と改善方法』
●無理をしない・頑張らないでリラックスしよう
便秘の改善・予防におすすめの方法をご紹介してきましたが、「便秘にならないようにあれもこれもやらなければ!」と一生懸命になると、ストレスがたまってかえって便通には悪影響を及ぼすことも。特に生理前は、ホルモンバランスの変化から情緒が不安定になりやすい時期でもあるので、無理をし過ぎない・頑張り過ぎないことを第一に、できることから取り組んでみましょう。
つらい便秘で市販薬を使う人も多いでしょう。なるべく使いたくないという人もいるかもしれませんが、用法・用量を守って適切に使えば問題ありません。
便秘薬は主に次の2つに分けられます。
・非刺激性の便秘薬
水分を集めて便を軟らかくしたり、食物繊維で便の量を増やしたりして排便しやすくします。即効性はあまりありませんが、お腹が痛くなりにくく、作用が穏やかでくせになりにくいので、初めて便秘薬を使う人や「お腹が痛くなるのでは?」と不安な人におすすめです。
・刺激性の便秘薬
腸を刺激してぜん動運動を促します。よく効いて即効性もあるため、ひどい便秘の時におすすめです。ただし、お腹が痛くなりやすい上に、連続して使い続けると徐々に効きが悪くなっていったり腸本来の働きが弱まったりすることもあります。
内服薬の他に、即効性があるものとして坐薬や浣腸薬もあります。また、整腸剤も、腸に負担をかけず腸内環境を整えるのに役立ちます。薬剤師や登録販売者に相談し、自分の状態にあったものを使うようにしましょう。
市販の便秘薬が効かない、ひどい腹痛やお腹の張り、吐き気があるなど、便秘によって自分が困っているのなら、遠慮なく医師に相談しましょう。
便秘では主に消化器内科を受診しますが、明らかに生理周期に伴う便秘であれば婦人科へ。便秘改善に向けた食事や生活習慣の見直しを基本に、低用量ピルやミニピルなどによる月経前症候群の治療が行われます。生理前の便秘はホルモンのせいで起こるものなので、ホルモンの変動をコントロールすることで改善が期待できます。月経前症候群の治療によって、便秘だけでなく他の生理周期に伴う症状も改善でき、生理も軽くなり、生理前も生理中もより快適に過ごせるようになるでしょう。