肝臓とお酒の関係

「沈黙の臓器」といわれる肝臓。肝臓のトラブルは、自覚症状がないまま進行し、気づいた時にはすでに疾患が進んでいる可能性があるのです。これらの肝臓の障害を招く要因の1つが、お酒の飲み過ぎ。過剰な飲酒は肝臓に中性脂肪を蓄積し、アルコール性脂肪肝やアルコール性肝線維症を招きます。やがては肝硬変などの命にかかわる深刻な肝障害を引き起こします。肝臓をいたわる食生活や、飲み過ぎてしまった時の対処などをご紹介します。
※この記事は2012年3月のものです。

監修プロフィール
東海大学医学部教授、同大学医学部付属東京病院院長・健診センター長 にしざき・やすひろ 西﨑 泰弘 先生

1986年東海大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部内科系大学院、同大学病院助手、UCLAリサーチフェローを経て、97年東海大学医学部講師、2018年より現職。専門は消化器肝臓病学、予防医学(抗加齢医学、総合健診、産業保健)。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本肝臓学会専門医・指導医、日本消化器病学会評議員・専門医・指導医、日本アルコール医学生物学研究会会員。

Q1 肝臓の役割って何?

A1 栄養を貯蔵したり、脂肪の消化を促進します

肝臓は食べ物から得た栄養分を貯蔵したり、アルコールや薬剤、不要な老廃物を分解・解毒したり、胆汁という物質を分泌し、脂質の消化を助けるなど、生命を維持する重要な働きを担っています。重さは成人で約1.2kg。内臓の中では最大の臓器です。

肝臓の主な機能
飲酒による肝臓ダメージチェック

Q2 酒の飲み過ぎが肝臓によくないのはなぜ?

A2 有害物質が肝臓を傷つけ脂肪蓄積を促すため

体内にアルコールが入ると、肝臓で酵素が働いて「アセトアルデヒド」という物質に分解されます。アセトアルデヒドは人体に有害な物質ですが、最終的には水と二酸化炭素にまで分解され、体外に排出されます。しかし、過剰に飲酒すると、アセトアルデヒドが多量につくられることにより、悪影響を及ぼします。
飲み過ぎで頭痛や吐き気が起こるのは、アセトアルデヒドの強い毒性が原因。アセトアルデヒドは活性酸素を介して肝細胞を傷つけ、さらには脂肪の分解を抑制し、肝臓に中性脂肪の蓄積を促します。そのため、長期の過剰飲酒は、まず脂肪肝を招き、多くのトラブルにつながります。
特に肥満傾向にある人は、過剰飲酒で脂肪を蓄積しやすいため、飲酒量の見直しが必要です。

肝臓に脂肪がたまりやすい人

Q3 飲み過ぎが原因となる肝臓トラブルとは?

A3 脂肪肝、アルコール性肝線維症、肝硬変を招きます

過剰な飲酒でまず問題になるのが、脂肪の粒が肝臓に蓄積する脂肪肝です。この脂肪肝が慢性的に続いた状態でアルコールを大量に摂取すると、肝細胞に炎症が広がったり、アルコールを分解する際に生じる活性酸素などが細胞を破壊し、次の様な段階を経て、深刻な肝障害へと進みます。

  • アルコール性脂肪肝
     中性脂肪が過剰にたまり、肝臓が全体的に肥大する。進行すると疲れやすいなどの症状が現れる。
  • アルコール性肝線維症
     脂肪肝を改善せずに飲酒を続けると、広範囲にわたって細胞に炎症が起こり、線維が沈着する。疲労感、体重減少、食欲不振などを引き起こす。
  • 肝硬変
     炎症が持続すると線維の沈着がさらに増え、肝循環の悪化が進む。進行すると黄疸、腹水などが発生する。肝がんのリスクも格段に高くなる。

肝臓は「沈黙の臓器」といわれるように、トラブルが起こっていても、進行するまでは特に目立った症状が現れません。健康診断で行う血液検査の結果から、肝臓に異常があるかどうかが分かります。肝臓トラブルを予防するためにも、検査をきちんと受けておくことが大切です。

沈黙のまま進行する肝臓トラブル
血液検査でわかる肝臓の異常

Q4 飲酒で肝臓が疲れると、どんなサインが出るの?

A4 酒に弱くなる、疲れやすい、食欲不振など

肝臓の疾患は、初期段階ではほとんど症状が現れません。検査値に異常が少しでも見られたり、症状が現れたりする場合には、疾患がすでに進んでいる可能性も。普段の生活の中で次のようなサインを感じたら、肝臓トラブルの疑いがあります。

  • 疲れやすくなる。
  • 食欲不振、吐き気がする。
  • 酒に弱くなった、飲みたくなくなった。
  • 白目部分が黄色くなる。
  • お腹が張る。
  • 手のひらが赤くなる。
  • 赤ら顔になる。

また、飲み過ぎると下痢を起こす場合もありますが、これはアルコールが膵臓に悪影響を与えていることもあります。その他にも、アルコールは胃粘膜を傷つけ、炎症を起こして胃炎や胃潰瘍を招く原因にもなります。特に日頃から強い酒を好んで飲む人は、膵臓や胃腸のトラブルにも留意しましょう。

肝臓からのSOSサイン

Q5 肝臓に負担をかけずに酒を飲むには?

A5 適量を知り、水・野菜を摂取しながら酒を飲む

酒にはリラックス作用や血行促進作用など有益な働きもたくさんあります。適度な量を守っていれば、酒は寿命を延ばす「百薬の長」であることも事実です。肝臓に負担をかけない酒の適量をよく知っておきましょう。
厚生労働省が「節度ある適度な飲酒」として示す1日の適量は、男性の場合は次の通りです。女性の場合は、その1/2から2/3程度が適当と考えられています。

  • ビール・・・中瓶1本
  • 日本酒・・・1合
  • チューハイ(アルコール度数7パーセント)・・・350ミリリットル缶1本
  • ウイスキー・・・ダブル1杯

そして、飲み方を少し工夫するだけで、肝臓への負担を少なくすることができます。

  • 強い酒は、水と交互に飲む(チェイサー・やわらぎ水)。
  • タンパク質・ビタミン・食物繊維を含む食品をつまみにする。
  • なるべく会話をしながらゆっくり飲む。
  • 週に2日は休肝日をつくり、肝臓を休ませる。

食物繊維を多く含む食品は、アルコールの吸収を緩やかにします。飲酒時には、野菜をたっぷり食べ、高カロリーの物を控えると、脂肪肝を防ぎ、肝臓への負担を減らすことができます。

肝臓をいたわる酒の飲み方

Q6 肝臓によい食品は?

A6 肝臓を守るタウリンを積極的に摂りましょう

タウリンは、脳や血液、心臓、肝臓などに存在するアミノ酸の一種。高血圧や糖尿病、動脈硬化の予防、疲労回復など、生命を維持する様々な効果があります。特に肝臓には次の様に働きます。

  • 細胞を傷つける活性酸素を消去し、脂肪肝を予防する。
  • 胆汁の分泌を促し、過剰なコレステロールを排泄する。
  • 肝臓の細胞を保護する。
  • アミノ酸としてタンパク質の合成を改善する。

タウリンは、魚介類に多く含まれています。特にイラストの様なイカ、タコ、エビやハマグリ、シジミなどの貝類に豊富であるため、これらの食品を積極的に摂りましょう。高脂肪、高カロリー食は、肥満を招きます。さらに蓄えられた脂肪はアルコールの代謝を阻害し、肝臓のトラブルにつながります。規則正しく栄養バランスのよい食生活を心がけることは、肥満を解消し、肝臓を守ることにもなるのです。

タウリンの肝臓での働き

Q7 飲み過ぎた時はどうすればよい?

A7 痛みがある、意識がない場合はすぐに病院へ

飲み過ぎた時には、体内に巡るアルコールとその代謝産物を速やかに薄めて体外に排出することが大切です。有効なセルフケアは次の通り。

  • 血中からアルコールを排出するため、水をたくさん飲む。
  • 抗酸化ビタミンを多く含む食品を摂る(アルコール分解時に発生する活性酸素を抑える)。
  • 健胃や胃粘膜を修復する作用のある市販の胃腸薬をのむ。

また次の様な症状が現れた場合は、重篤な障害を招くこともあるため、救急隊を要請するか、早急に病院を受診することが必要です。

  • お腹や背中に痛みがある(急性膵炎や胃炎の疑い)。
  • 嘔吐がなかなか止まらない(急性アルコール中毒)。
  • 呼びかけに答えない。尿失禁、便失禁がある(中枢神経の異常)。

病院では症状の程度に応じて処置を行います。点滴で血中のアルコール濃度を低下させたり、尿中への排泄を促したり、さらにはアルコールによって生じた肝細胞のダメージを軽減します。体脂肪が多く、筋肉量が少ない人はアルコール代謝の面で不利です。普段から運動で筋肉量をアップしておくと、アルコール代謝に有利に働きます。

飲み過ぎたとき

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