トイレの後に水洗いだけで済ませていませんか? 咳が出始めたらマスクを着用していますか? 「手洗い」と「咳エチケット」は、かぜやインフルエンザをはじめとする感染症対策の基本。でも実際のところ、正しく手洗いを行えている人は少ないようです。“やったつもり”にならないで、正しくできているか今一度見直してみましょう。
※この記事は2014年12月のものです。
1981年名古屋大学医学部卒業、同年名古屋掖済会病院。米国フレッドハッチンソン癌研究所、浜松医療センター血液科、米国ワシントン州立大学感染症科(エイズ臨床短期留学)、米国エイズトレーニングセンター臨床研修修了、97年浜松医療センター感染症内科長を経て、20年より院長補佐。インフェクションコントロールドクター。日本感染症学会評議員、日本環境感染学会評議員。
身の回りには、目に見えない細菌やウイルスなどの病原体が存在しており、私たちは常に感染のリスクにさらされています。病原体が体内に侵入する主な経路は、「接触感染」、「飛沫感染」、「空気感染」の3つです。感染リスクをできるだけ減らすためにも、まずは、どんな病原体が、どのようにして体内に侵入するのかを知りましょう。
多くの場合、私たちは1年を通じて様々な感染症にかかりながら、病原体に対する免疫力をつけています。症状が軽いため感染したことに気づかない場合もありますが、中には強い感染力で大流行したり、重い症状を引き起こしたりする感染症もあるため注意が必要です。秋から冬にかけて特に流行しやすいのは、次の感染症です。
ウイルスの語源は、ラテン語で「病気の毒」という意味。その名の通り、季節性インフルエンザやRSウイルス感染症を含む、かぜ症状の80~90パーセントは、ウイルス感染によって引き起こされます。
人や動物の体から離れたウイルスの生存期間は種類により異なります。中でも生存期間が長いのが、アデノウイルス。これには50以上の種類があり、咽頭結膜熱(プール熱)、急性呼吸器感染症、胃腸炎など様々な症状を引き起こします。
ウイルスは、自分の力では移動することができません。そのため飛沫や人の手などによって様々な環境に移動しては、その場でじっと待機し、人の体内に侵入する機会をうかがっています。待機時間が長いと干からびて死んでしまいますが、生存期間が長いウイルスほど、環境を介した接触感染が起こりやすいといえます。
ウイルスを目で確認することはできませんが、共有して使う場所や物には多く付着しています。特に次のような所に触れた後は、石けんで手を洗うようにしましょう。
ノロウイルス胃腸炎やRSウイルス感染症をはじめ、感染症の多くは人の「手」を介して引き起こされます(接触感染)。そのため、病院でも感染対策の基本として重要視されているのが、石けんと流水による「手洗い」です。
石けん自体に消毒効果はありませんが、石けんを使ってこすり洗いすることで、皮膚に付着しているウイルスをはがし、水で流し落とすことができます。また石けんと流水で15秒間手を洗うと、皮膚の細菌数は4分の1から13分の1に減少するという報告もあります。ただし、正しい洗い方をしないと効果がありませんので注意してください。
手洗いの目的は、手についたウイルスを洗い流すことです。手を洗う時には、石けんを使って、手のひらと手の甲全体から手首まで、洗い残しがないように15秒以上かけてこすり洗いをしましょう。特に次の部位は洗い残しやすいので注意してください。
感染症を予防するために、特に食事の前、トイレの後、帰宅時には、必ず石けんで手を洗う習慣を身につけましょう。
手を洗う際の注意点として、次のことが挙げられます。正しく行えているか、手洗い習慣を見直してみましょう。
アルコール消毒剤には、次のようなメリットがあります。
以上のことからアルコール消毒剤は、何度も手を洗うのが面倒な人や、手荒れが気になる人におすすめで、一家に1本置いておくと便利です。
ただしノロウイルスはアルコールに対する抵抗性が高いため、効果が得られない可能性があります。また、目に見える汚れはアルコール消毒剤では落とすことができないため、手が汚れている場合は、石けんと流水で手を洗いましょう。
2003年、 SARS(重症急性呼吸器症候群)が世界中で大流行しました。高熱と激しい咳の症状が現れ、重症化すると死に至る感染症です。
この時に問題となったのが、救急外来を訪れた患者やその家族が、咳の飛沫によってSARSウイルスを拡げたことです。その後 〝人にうつさない〟ことの重要性が見直され、患者だけでなく家族も、来院時にマスクを着用して手洗いする「咳エチケット」が提唱されました。咳エチケットは、診断の有無を問わず、咳やくしゃみ、鼻水などの症状があれば行う必要があります。
季節性インフルエンザなどは、主に患者の咳やくしゃみなどの飛沫に含まれるウイルスなどを浴びたり、吸い込んだり、飛沫が付着した物を食べたりすることで感染します(飛沫感染)。これらの感染症を周囲に拡げないためにも、普段から、咳やくしゃみを直接人に向けないよう、咳エチケットを心がけましょう。咳エチケットの方法は次の通りです。