成人の2人に1人は“痔もち”といわれるほど、多くの人がお尻のトラブルを抱えています。痔は生活習慣の見直しによって改善することが可能です。お尻に優しい生活のポイントを押さえておきましょう!
杏林大学医学部卒業後、同大学病院第一外科入局。松島病院大腸肛門病センター、松島ランドマーククリニック院長などを経て、現職。医学博士。日本大腸肛門病学会専門医・指導医、臨床肛門病技能指導医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本外科学会専門医、日本消化器外科学会認定医など。
「痔」とは肛門周辺の病気の総称で、中でも痔核(じかく:いぼ痔)、裂肛(れっこう:切れ痔)、痔瘻(じろう:あな痔)が痔の三大疾患です。症状は、痛みや腫れ、脱出(出っ張り)、出血、膿など様々で、痔のタイプによっても異なります。
●痔核(じかく:いぼ痔)
肛門周辺の毛細血管がうっ血して、いぼのようなものができる。肛門の内側にできるの内痔核、外側にできる外痔核がある。痔核(いぼ痔)の主な症状として、痛み、腫れ、脱出、出血がみられる。
●裂肛(れっこう:切れ痔)
排便時に、肛門も皮膚が切れたり裂けたりする。裂肛(切れ痔)の主な症状として、痛み、出血がみられる。
●痔瘻(じろう:あな痔)
肛門の内側のくぼみに細菌が入り、炎症と化膿(肛門周辺膿瘍)をきたすことがある。痔瘻(あな痔)の主な症状として、痛み、腫れ、膿がみられる。
痔は痛みや出血、脱出という症状ばかりではなく、肛門から脱出した痔核や裂肛が原因でかゆみが生じる場合もあります。かゆみの原因が痔であることには気づきにくく、ケア方法を間違えると悪化につながるので気をつけましょう。
特に、かゆみの原因をお尻が不潔なためだと思い、排便時に拭き過ぎたり、温水洗浄を使い過ぎたりすると必要以上に肛門周辺を刺激し、かゆみを強めてしまいます。また、入浴時に石けんで肛門を洗い過ぎると、石けんが肌のバリア機能である皮脂膜を洗い流してしまうため、肌の抵抗力が弱まります。間違ったケアをし続けると、かえって症状を悪化させてしまうので注意が必要です。
痔を改善するには、食事や排便習慣、お尻のケアなど日常生活の見直しが大切です。
●食物繊維を摂ろう
痔を改善するには、食生活の見直しを。食物繊維を積極的に摂りましょう。
食物繊維の摂取目標量は、成人男性で1日当たり21g以上、成人女性で1日当たり18g 以上が目安(※)とされています。根菜に多く含まれる不溶性食物繊維は便のかさを増やし、大腸の働きを活発にします。また、果物や海藻類に多く含まれる水溶性食物繊維は、便を軟らかくする作用があります。便通をよくするために、両方をバランスよく摂るのが大切です。
※厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2020年版)
●排便に無理は禁物
痔を防ぐためには、排便時に無理は禁物です。
長時間のいきみは肛門周辺をうっ血させ、痔核の原因になります。便意を感じてからトイレに入る、便意を我慢しない、排便時間は短くするなどの排便習慣を心がけましょう。なお、理想の便は、黄褐色か茶褐色のバナナ状です。
●お尻のケアはソフトに
石けんで洗い過ぎると、皮脂膜がとれて抵抗力が弱まってしまいます。痔の症状がなくても、入浴時、肛門周辺はお湯で洗い流す程度にしましょう。また、温水洗浄を使用する場合は水圧を弱めに設定し、短時間で済ませましょう。
●お尻の冷えやアルコールなどの刺激物にご用心
冷えにより肛門周辺の血流が悪くなると、うっ血して痔核を招きやすくなります。冷房が効きすぎるような寒い場所に長時間居続けることは避けましょう。また、アルコールなどの刺激物もうっ血を招きます。飲み過ぎにも気をつけましょう。
かゆみや我慢できる痛み、脱出の症状があっても、すぐに受診できない場合は、まずは市販薬を使用するのも有効です。痔の市販薬には大きく以下の3種類があります。症状や使いやすさ、塗りやすさで選ぶとよいでしょう。
(1)坐剤
●用途……痔核や裂肛の出血や痛み、腫れに。
●特徴……成分が患部に長く留まり、効果が持続する。
●使い方……座った状態で肛門に坐剤を入れて手で押さえ、肛門に力を入れながら立つ。
(2)塗り薬(軟膏・クリーム)
●用途……痔核や裂肛の痛みや、かゆみ、出血に。
●特徴……患部にぴったり定着する軟膏タイプと、べたつかないクリームタイプがある。
●使い方……適量を指に取り、直接塗布(とふ)する。
(3)注入軟膏
●用途……痔核、裂肛の痛みや腫れ、出血に。
●特徴……肛門の内側の痔には注入、外側の痔には塗布と2 通りの使い方ができる。
●使い方……塗布する場合は、適量をガーゼなどに伸ばしてから患部にあてる。指で直接塗布してもよい。注入する場合は、少し軟膏を出してから容器の先端部を肛門内に挿入して薬剤を注入し、容器を押したままの状態で引き抜く。
市販薬を1週間ほど使用しても改善しない場合や、我慢できない痛みや出血がある場合は受診が必要です。痔瘻の場合は手術が必要になるので、症状が現れたら早めに受診してください。
出血や痛みなどお尻のトラブルが現れたら、恥ずかしがらず早めに肛門科を受診しましょう。女性医師が診察を行う肛門科や女性限定の診療時間帯を設けている医療機関もありますので、調べてみましょう。
●受診の流れ
(1)問診
症状や排便状態、病歴などについて聞きます。
(2)診察
次の手順で診察を行います。痛みはほとんどありません。
①視診…肛門周辺の状態をよく観察。
②指診…人差し指を肛門内に挿入して診察。
③器具(肛門鏡)で肛門内の状態を観察。
④15~20cmほどの器具(直腸鏡)を挿入して肛門から直腸内の状態を観察。
(3)説明
診断の結果と治療方針を説明します。
排便時の出血の症状を痔と思い込んで受診のタイミングを逃し、大腸がんの発見が遅れることも少なくありません。大腸がんは、女性のがん死亡原因の第1位ですが、早期に発見すれば完治できるがんでもあります。出血や便が細くなる、排便の回数が少量で頻回になるなどの症状があれば、専門医を受診しましょう。
痔は誰にでも起こり得る疾患であり、生活習慣の見直しで改善できる疾患でもあります。また、大きな病気が隠れていることもあるので、少しでも気になることがあったら恥ずかしがらず、必ず受診するようにしましょう。