便秘とは、便が腸内に長い間とどまって排泄されず、不快に感じる状態です。一般的に3日以上便が出ない、あるいは毎日排便があっても残便感がある状態であれば便秘と考えられています。便秘になると、お腹が張ったり、ガスがたまったりし、不快感があるだけでなく、肩こりや頭痛など、体に様々な症状も現れてきます。
自治医科大学大学院医学研究科修了。日本消化器病学会認定専門医、日本ヘリコバクター学会ピロリ菌感染症認定医、日本抗加齢医学会専門医、米国消化器病学会国際会員。『新しい腸の教科書』(池田書店)他著書多数。
機能性便秘とは、排便回数が減ったり困難になったりすることで起こる便秘です。便秘のほとんどがこの機能性便秘で、大きく分けて大腸の動きに原因がある「排便回数減少型」と、直腸と肛門の動きに原因がある「排便困難型」に分けられます。2つの型はさらに2つのタイプに分かれ、それぞれ原因が異なります。
慢性便秘症の分類
原因分類 | 症状分類 | 検査による病態分類 | 考えられる原因 |
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機能性便秘 | 排便回数 減少型 |
大腸通過遅延型 | ・突発性(原因不明) ・症候性 代謝・内分泌疾患、神経・筋疾患、膠原病、 便秘型過敏性腸症候群など ・薬剤性 |
大腸通過正常型 | 経口摂取不足(食べる量が少ない)など | ||
排便困難型 | 硬便による排便困難 | 硬便による排便困難・残便感 (便秘型過敏性腸症候群など) |
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機能性便排出障害 | 骨盤底筋協調運動障害・腹圧(怒責力)低下・直腸感覚低下・直腸収縮力低下など |
「日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編:慢性便秘症診療ガイドライン2017」南江堂 を参考に作成
排便の回数や量が減る「排便回数減少型」の便秘は、便を送る大腸の動きが遅い「大腸通過遅延型」と、大腸の動きは正常でも、便の量が足りない「大腸通過正常型」の2つのタイプに分かれます。
●排便回数減少型のタイプ①:大腸通過遅延型
大腸遅延型は主に次の3つが原因。
便を送る動きは正常だが、便のもととなる食事、特に食物繊維の摂取量が足りていないことが原因。若い女性に多くみられ、無理なダイエットや偏った食事、朝食を抜くといった生活習慣が原因になる。
「排便困難型」の便秘は、便が直腸まで下りてきているのに直腸や肛門でスムーズに排便できない状態です。便が硬いことで出なかったり残便感があったりする「硬便による排便困難」と、排便にかかわる筋肉の機能低下による「機能性便排出障害」の2タイプに分けられます。
器質性便秘とは、腸に腫瘍や炎症、閉そくなどがあって大腸の内部が狭くなり、便の排泄が滞って起こる便秘です。大腸がんや虚血性大腸炎などが原因となっていることがあり、便秘を引き起こしている元の病気を治療する必要があります。急に便秘になったり、腹痛や下血の症状を伴うような場合は、便秘を軽く考えず、医療機関を受診してください。
便が詰まる便秘の症状と同時に、便秘が原因で次のような不調が現れることがあります。便秘は様々な不調の元凶と捉え、しっかりとケアしていくことが大切です。
健康な便は、約80%が水分、残りの20パーセントが食物繊維や腸内細菌の残骸で構成されています。水分が不足すると便が硬くなるので、こまめに摂るようにします。コーヒーや紅茶、緑茶に含まれているカフェインには利尿作用があるため、水分がすぐに排出されてしまいます。カフェインを含まない飲み物を摂るようにしましょう。
食物繊維には排便を促すと共に、腸内細菌のバランスを改善する効果もあるので、便秘を解消するためには積極的に摂るようにします。1日の食物繊維の摂取目標量は、男性で20g以上、女性で18g以上(共にに18〜69歳の場合)とされていますが、便秘を改善したいのであれば、1日25g以上摂取できると理想的です。
以下、2種類の食物繊維をバランスよく摂ることが大切です。
食事から食物繊維を目標量摂ることができない場合には、栄養補助食品などを補助的に利用してみるのもよいでしょう。
油は便の滑りをよくして、便通を促します。中でもオリーブオイルは、小腸で吸収されずに大腸まで届き、便の潤滑剤としての機能を果たしてくれます。炒め物に使ったりパンにつけたりと、積極的に取り入れてみましょう。目安は1日に小さじ2~3杯です。
便秘の原因は様々なため、便の回数や形状に変化があったり、出血を伴ったりする場合は大腸に病気が隠れていないか専門医を受診することが大切です。その上で、食生活や生活習慣を改善しても便秘改善につながらない場合は、便秘薬の使用も考えてみましょう。
服用便秘薬には主に、大腸を刺激して腸の動きを促進するタイプと、便に水分を含ませて軟らかくするタイプの2つがあります。さらに、坐薬や浣腸として、直接的に直腸に働きかけて排便を促すものもあります。いずれも初めて使う場合には服用量を少量ずつ調節できるものを選び、自分の症状や体質に合った量を見つけるようにします。
説明書に書いてある用量・用法や使用期限を必ず守り、それでも便秘が改善されない場合には医療機関での診察を受けるようにしましょう。
「第2の脳」と呼ばれることもある腸は、体の機能をコントロールしている「自律神経」と密接な関係があります。自律神経とは、活動しているときや緊張している時に働く「交感神経」と、リラックスした状態や睡眠中に働く「副交感神経」の2つの神経で成り立っており、胃や腸などの消化器官は副交感神経が優位に働いている時に機能が活発になります。ですから、リラックスする時間や睡眠時間を大切にし、副交感神経がしっかり働く生活を送ることが便秘予防につながります。また、運動なども腸を刺激するので効果的。以下のようなライフスタイルを心がけてみましょう。
便は体の健康状態を示すバロメーターにもなるので、日頃から便の状態を観察するようにしましょう。