痔

痔とは、肛門とその周辺の病気の総称。「痔核(じかく)」と「裂肛(れっこう)」「痔瘻(じろう)」を痔の3大疾患といい、タイプによって、症状や対策は異なります。痔は男女問わず、誰でもかかる可能性のある身近な病気で、日本人の3人に1人が患っているといわれています。お尻の悩みがある人は、自分のタイプを確認し、恥ずかしがらずに治療を行うことが大切です。

監修プロフィール
江田クリニック院長 えだ・あかし 江田 証 先生

自治医科大学大学院医学研究科修了。日本消化器病学会認定専門医、日本ヘリコバクター学会ピロリ菌感染症認定医、日本抗加齢医学会専門医、米国消化器病学会国際会員。『新しい腸の教科書』(池田書店)他著書多数。

痔について知る


痔の原因

痔は肛門周辺に負担をかける排便トラブルや生活習慣が原因

排便時のいきみや血行不良により肛門周辺の毛細血管がうっ血すると、「いぼ」のように膨らんだり(痔核)、刺激により肛門の皮膚が傷ついたりすることにより(裂肛)、痔が起こります。主に次のような排便トラブルや生活習慣が肛門周辺に負担をかけ、痔を招いてしまうのです。

  • 痔の原因①:排便トラブル(便秘・下痢)
     便秘はいきむ時間が長くなり、下痢は肛門の括約筋がいつも緊張状態となることで、肛門周辺の毛細血管がうっ血しやすくなり、痔が起こる。硬い便や下痢の刺激が肛門周囲の皮膚を傷つけることもある。また、便意がないのに長時間いきむことも肛門に負担をかけることになる。
  • 痔の原因②:同じ姿勢を長く続ける
     立ちっぱなし、座りっぱなしといった同じ姿勢を長く続けていると、肛門周辺がうっ血しやすくなり、痔を招く。これは肛門が心臓より下にあるためで、2本足で立つ人間の宿命ともいえる。
  • 痔の原因③:食生活
     食生活が不規則で朝食を食べなかったり、暴飲暴食を繰り返したりすると、腸に負担をかけ便秘や下痢を引き起こす原因になる。また、アルコールや刺激物は肛門付近の静脈の血流を滞らせるため、うっ血しやすくなる。
  • 痔の原因④:ストレスや体の冷え
     腸はストレスの影響を受けやすいため、ストレス過多になると便秘や下痢が起こりやすくなる。また、冷えると肛門周辺の血流が悪くなり、うっ血しやすくなる。
痔の原因

女性こそ痔を招く多くの原因を抱えている

痔は中高年の男性に多い病気と思われがちですが、男女差はほとんどなく、実は若い女性は痔を招く多くの原因を抱えているのです。

排卵から生理開始前にかけて盛んに分泌される女性ホルモン「プロゲステロン」の影響やダイエット、排便の我慢などにより、便秘に悩むことが多い女性は、痔になりやすい傾向にあるといえます。

また、妊娠すると血液が子宮に集中したり、胎児の成長により子宮が重くなったりするため肛門がうっ血しやすく、さらに出産時のいきみによる刺激も痔を助長します。授乳時には母乳に水分を奪われることでも便秘がちになり、痔を招きやすくなります。


痔の症状

痔は「いぼができる」「切れる」「膿が出る」などの症状が特徴

痔は症状や部位から、痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻(あな痔)の3種類に分けられます。痔核はさらに、肛門の内側にできるか外側にできるかで、内痔核と外痔核に区別されます。

  • 痔の種類①:いぼができる「痔核(いぼ痔)」
     肛門周辺の毛細血管がうっ血して、いぼのようなものができる。 肛門の内側にできる「内痔核」は、肛門から脱出すると、いぼを確認できる。痛みはないが、排便時に少量出血が見られる。外側にできる「外痔核」は、肛門のふちに血豆が見られ、痛みを伴うこともある。 排便によるいきみや同じ姿勢を長時間とることなどが原因。男女ともに全体の半数以上を占める。
  • 痔の種類②:皮膚が切れる「裂肛(切れ痔)」
     肛門の皮膚が切れたり裂けたりし、排便のたびに激しい痛みと少量の出血がある。繰り返し同じ場所が切れて慢性化しやすい。硬い便や下痢の刺激などで肛門の出口付近に傷がつくことが原因。男性よりも女性に多く見られる。
  • 痔の種類③:膿がたまる「痔瘻(あな痔)」
     便の中の細菌が肛門内側のくぼみに入り込んで感染し、炎症を起こして化膿する。最初は肛門のふち近辺が腫れ、繰り返すと膿が肛門の周囲の皮膚を破って出てきて、下着を汚すことがある。下痢が関与すると考えられており、男性に多い。
痔の3大疾患と症状

痔と間違いやすい、出血が特徴の「大腸がん」に注意

排便時に出血を伴う「痔核」や「裂肛」と似た疾患に、「大腸がん」があります。排便時の出血を痔と思い込み、がんが進行してしまうケースもあるのです。痔であれば出血が見られない日もありますが、出血が日々増える場合は痔以外の病気である可能性が高いので、自己判断をせずに、速やかに肛門科を受診しましょう。


痔の対策

痔核と裂肛の場合は市販薬も有効

痔核と裂肛の場合、症状が軽いうちは、生活習慣の改善を行った上で、市販薬を使用することも有効です。市販薬には、主に炎症や痛み、出血を緩和し、消毒する作用があります。様々なタイプが市販されていますので「どこが痛むか、どのように痛むか」によって使い分けるとよいでしょう。 なお、痔瘻は医療機関での治療が必要です。症状が現れたら早めに受診してください。

  • 痔の市販薬①:軟膏
     手で触ると肛門付近に凸凹があり、そこが痛む痔の場合に使用するとよい。直接塗布する。
  • 痔の市販薬②:注入軟膏
     肛門の内側、外側どちらが痛む痔の場合でも使用可能。外側の場合は、軟膏をそのまま塗る。内側の場合は、先端部を肛門内に挿入し、容器を押して薬剤を注入する。患部に触ることなく内部に挿入することができるので、清潔。
  • 痔の市販薬③:坐薬
     排便の時に痛む場合や出血が多いが痛みが少ない痔の場合は、肛門の中が切れている可能性が高いので、挿入するタイプが有効。就寝時に挿入すると成分の漏れを最小限にできるので効果的。成分が患部に長く留まり、効果が持続する物もある。
  • 痔の市販薬④:内服薬
     痔の症状を悪化させる原因となる便秘を改善しながら、患部の血行を促して痔の症状を改善する作用をもつ漢方薬などがある。

市販薬を1週間ほど使用しても改善しない場合は肛門科を受診

1週間ほど市販薬を使用しても痔の症状が改善しない場合は、痔核も裂肛も専門医のいる肛門科を受診します。女性の場合は、肛門科に女性専門外来やレディースデーなどを設けている医療機関もあるので、上手に利用するとよいでしょう。

恥ずかしさのあまり先延ばしにしていると、痔を悪化させ、手術が必要になるケースもあります。例えば、裂肛を長年放置していると慢性化して周囲が硬くなったり、肛門が狭くなったり(肛門狭窄[きょうさく])、傷ついた肛門から細菌が進入して痔瘻になったり(裂肛痔瘻)など。悪化させる前に受診するようにしましょう。


市販薬を1週間ほど使用しても改善しない場合は肛門科を受診

1週間ほど市販薬を使用しても痔の症状が改善しない場合は、痔核も裂肛も専門医のいる肛門科を受診します。女性の場合は、肛門科に女性専門外来やレディースデーなどを設けている医療機関もあるので、上手に利用するとよいでしょう。

恥ずかしさのあまり先延ばしにしていると、痔を悪化させ、手術が必要になるケースもあります。例えば、裂肛を長年放置していると慢性化して周囲が硬くなったり、肛門が狭くなったり(肛門狭窄[きょうさく])、傷ついた肛門から細菌が進入して痔瘻になったり(裂肛痔瘻)など。悪化させる前に受診するようにしましょう。

裂肛、痔核の場合の応急処置

痔の予防法

痔の予防で最も大切なのは、よい排便を促す食習慣

痔の予防には、便秘・下痢を解消することが大切です。そのためには、3食、栄養バランスよく食べることが基本。腸の動きをよくする食物繊維や整腸作用のある乳酸菌やオリゴ糖を含むヨーグルトなどを積極的に摂り、肛門を刺激するアルコールや香辛料は控えるとよいでしょう。その他のポイントは次の通りです。

  • 痔の予防法①:1日1.5~2ℓの水を飲む
     よい排便のために水を飲む。理想の便は、むいたバナナくらいの軟らかさ。そのために水分は不可欠。お茶には利尿作用があり、むしろ体の水分を絞り出してしまうので、水をしっかり飲む。
  • 痔の予防法②:食物繊維やねばねばした食品を摂る
     よい排便のためには食物繊維が不可欠。食物繊維の豊富な食品は、野菜やいも・豆類、海藻やきのこなど。特におくら、めかぶ、山いもなどは保水性があり、便を軟らかくする働きをもつのでおすすめ。
  • 痔の予防法③:植物性の油を適度に摂る
     よい排便のためには、油の摂取も必要。油分は便をスムーズに出しやすくする。特に、オリーブオイルに含まれるオレイン酸はリラックスを促し、腸を動きやすくする効果も期待できる。
よい排便を促す食習慣

肛門に負担をかけるライフスタイルを知り、見直しを

痔にならないために、いきむ習慣や長時間にわたり同じ姿勢を続けないことも大切です。重い荷物を持つ仕事、おなかに力が入るスポーツなどで肛門付近をうっ血させると、痔核の原因になります。長時間に及ぶドライブの座りっぱなしや仕事などでの立ちっぱなしの姿勢も、うっ血の原因となり、よくありません。こまめに体を動かすことを意識しましょう。 入浴はストレス解消、血行促進、お尻を清潔に保つという効果が期待でき、痔の予防・改善に有効です。シャワーだけで済ませず、湯船に浸かる習慣をつけるとよいでしょう。

痔の予防・改善のための心得

お役立ちコラム

痔を放っておくとがんになる?

痔瘻は治療せずに放置していると、炎症を繰り返したり、複雑化したりすることがあります。また、長年にわたって刺激が与えられることにより、まれに痔瘻がんになることがあります。痛みが増してきたり、ゼリー状の分泌物が出てきたりしたら要注意です。痔瘻の疑いがある場合は病院を受診し、早めに完治させましょう。


冬は痔になりやすい季節⁉

体が冷えると肛門付近の血流が悪くなり、うっ血して痔核を招きやすくなります。体を冷やさないよう、寒い場所に長時間居続けることは避けましょう。 また、飲酒も痔核を悪化させる原因となります。アルコールは動脈の血流を促しますが、静脈の血流を滞らせる性質があるため、痔核の原因となるうっ血を招きます。冬はアルコールを飲む場面が増えますが、飲み過ぎに気をつけましょう。


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