痔とは、肛門とその周辺の病気の総称。「痔核(じかく)」と「裂肛(れっこう)」「痔瘻(じろう)」を痔の3大疾患といい、タイプによって、症状や対策は異なります。痔は男女問わず、誰でもかかる可能性のある身近な病気で、日本人の3人に1人が患っているといわれています。お尻の悩みがある人は、自分のタイプを確認し、恥ずかしがらずに治療を行うことが大切です。
自治医科大学大学院医学研究科修了。日本消化器病学会認定専門医、日本ヘリコバクター学会ピロリ菌感染症認定医、日本抗加齢医学会専門医、米国消化器病学会国際会員。『新しい腸の教科書』(池田書店)他著書多数。
排便時のいきみや血行不良により肛門周辺の毛細血管がうっ血すると、「いぼ」のように膨らんだり(痔核)、刺激により肛門の皮膚が傷ついたりすることにより(裂肛)、痔が起こります。主に次のような排便トラブルや生活習慣が肛門周辺に負担をかけ、痔を招いてしまうのです。
痔は中高年の男性に多い病気と思われがちですが、男女差はほとんどなく、実は若い女性は痔を招く多くの原因を抱えているのです。
排卵から生理開始前にかけて盛んに分泌される女性ホルモン「プロゲステロン」の影響やダイエット、排便の我慢などにより、便秘に悩むことが多い女性は、痔になりやすい傾向にあるといえます。
また、妊娠すると血液が子宮に集中したり、胎児の成長により子宮が重くなったりするため肛門がうっ血しやすく、さらに出産時のいきみによる刺激も痔を助長します。授乳時には母乳に水分を奪われることでも便秘がちになり、痔を招きやすくなります。
痔は症状や部位から、痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻(あな痔)の3種類に分けられます。痔核はさらに、肛門の内側にできるか外側にできるかで、内痔核と外痔核に区別されます。
排便時に出血を伴う「痔核」や「裂肛」と似た疾患に、「大腸がん」があります。排便時の出血を痔と思い込み、がんが進行してしまうケースもあるのです。痔であれば出血が見られない日もありますが、出血が日々増える場合は痔以外の病気である可能性が高いので、自己判断をせずに、速やかに肛門科を受診しましょう。
痔核と裂肛の場合、症状が軽いうちは、生活習慣の改善を行った上で、市販薬を使用することも有効です。市販薬には、主に炎症や痛み、出血を緩和し、消毒する作用があります。様々なタイプが市販されていますので「どこが痛むか、どのように痛むか」によって使い分けるとよいでしょう。 なお、痔瘻は医療機関での治療が必要です。症状が現れたら早めに受診してください。
1週間ほど市販薬を使用しても痔の症状が改善しない場合は、痔核も裂肛も専門医のいる肛門科を受診します。女性の場合は、肛門科に女性専門外来やレディースデーなどを設けている医療機関もあるので、上手に利用するとよいでしょう。
恥ずかしさのあまり先延ばしにしていると、痔を悪化させ、手術が必要になるケースもあります。例えば、裂肛を長年放置していると慢性化して周囲が硬くなったり、肛門が狭くなったり(肛門狭窄[きょうさく])、傷ついた肛門から細菌が進入して痔瘻になったり(裂肛痔瘻)など。悪化させる前に受診するようにしましょう。
1週間ほど市販薬を使用しても痔の症状が改善しない場合は、痔核も裂肛も専門医のいる肛門科を受診します。女性の場合は、肛門科に女性専門外来やレディースデーなどを設けている医療機関もあるので、上手に利用するとよいでしょう。
恥ずかしさのあまり先延ばしにしていると、痔を悪化させ、手術が必要になるケースもあります。例えば、裂肛を長年放置していると慢性化して周囲が硬くなったり、肛門が狭くなったり(肛門狭窄[きょうさく])、傷ついた肛門から細菌が進入して痔瘻になったり(裂肛痔瘻)など。悪化させる前に受診するようにしましょう。
痔の予防には、便秘・下痢を解消することが大切です。そのためには、3食、栄養バランスよく食べることが基本。腸の動きをよくする食物繊維や整腸作用のある乳酸菌やオリゴ糖を含むヨーグルトなどを積極的に摂り、肛門を刺激するアルコールや香辛料は控えるとよいでしょう。その他のポイントは次の通りです。
痔にならないために、いきむ習慣や長時間にわたり同じ姿勢を続けないことも大切です。重い荷物を持つ仕事、おなかに力が入るスポーツなどで肛門付近をうっ血させると、痔核の原因になります。長時間に及ぶドライブの座りっぱなしや仕事などでの立ちっぱなしの姿勢も、うっ血の原因となり、よくありません。こまめに体を動かすことを意識しましょう。 入浴はストレス解消、血行促進、お尻を清潔に保つという効果が期待でき、痔の予防・改善に有効です。シャワーだけで済ませず、湯船に浸かる習慣をつけるとよいでしょう。
痔瘻は治療せずに放置していると、炎症を繰り返したり、複雑化したりすることがあります。また、長年にわたって刺激が与えられることにより、まれに痔瘻がんになることがあります。痛みが増してきたり、ゼリー状の分泌物が出てきたりしたら要注意です。痔瘻の疑いがある場合は病院を受診し、早めに完治させましょう。
体が冷えると肛門付近の血流が悪くなり、うっ血して痔核を招きやすくなります。体を冷やさないよう、寒い場所に長時間居続けることは避けましょう。 また、飲酒も痔核を悪化させる原因となります。アルコールは動脈の血流を促しますが、静脈の血流を滞らせる性質があるため、痔核の原因となるうっ血を招きます。冬はアルコールを飲む場面が増えますが、飲み過ぎに気をつけましょう。