咳(せき)

咳(せき)

咳は、異物や刺激物から体を守るために、自動的に起こる生体防御反応です。ウイルスや細菌、ほこり、煙、乾燥した空気などは、鼻やのど、気管、気管支などの気道を通って体の中に入ってきます。咳は、気道に入った異物の情報が咳中枢に伝わって起こるもので、気道の表層にある咳受容体が異物に過敏に反応し情報を伝えて生じる咳と、気管支の筋肉である平滑筋の収縮が起こり、平滑筋内の知覚神経からの情報で生じる咳があります。
気温が下がり空気が乾燥してくるこれからの季節は、咳に悩まされる人も増えてきます。咳の原因となる病気は様々で、咳が長引く場合は重い病気が潜んでいる場合がある他、感染症に起因する咳の場合、きちんとした対策をとらないと周囲の人に病気をうつしてしまう恐れもあります。「たかが咳、されど咳」と心得て、咳のことを正しく知り、対処することで、冬の健康を維持しましょう。

監修プロフィール
山王病院アレルギー内科 あだち・みつる 足立 満 先生

国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授。医学博士。1971年昭和大学医学部卒業後、同大学医学部第一内科学入局。山梨赤十字病院内科部長を経て、80年昭和大学医学部第一内科専任講師、その後同助教授、同主任教授に。89年ロンドン大学Royal Postgraduate Medical School 臨床薬理学教室に留学。日本大学医学部呼吸器内科学客員教授を経て、現職。

咳について知る


咳の種類と原因

咳の原因となる病気は様々

咳の原因には、かぜや毎年冬になると流行するインフルエンザのような身近なものから、新型コロナウイルス感染症、さらには肺がんのような重篤なものまで、様々な病気があります。

●感染症…かぜ、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、気管支炎、肺炎、百日咳、肺結核 など
●アレルギー…ぜんそく、咳ぜんそく、アトピー咳嗽、アレルギー性鼻炎 など
●鼻の病気…後鼻漏、副鼻腔気管支症候群 など
●その他…肺血栓塞栓症、肺がん、間質性肺炎、胃食道逆流症、慢性閉塞性肺疾患(COPD) など


長引く咳には感染症以外の病気の可能性が

咳は症状が続いている期間の長さから次の3つの種類に分けられ、咳の出ている期間が長くなるほど感染症以外の病気が原因である可能性が高まります。

 

①3週間未満の咳「急性咳嗽(きゅうせいがいそう)」…主にかぜやインフルエンザといった感染症が原因になります。

②3週間から8週間の咳「遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)」…急性気管支炎などの感染症が長引いたものに加え、咳ぜんそくなどが原因と考えられます。

③8週間以上の咳「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」…咳ぜんそく、アトピー咳嗽、後鼻漏などが原因となります。


「湿った咳」か「乾いた咳」かで、原因が異なる

咳には湿った咳と乾いた咳があり、そのタイプによっても原因が異なります。

① 湿性咳嗽(しっせいがいそう)…痰がからんだ湿った咳。炎症によって分泌された痰や鼻水などを、体の外に出そうとして起こります。痰が生じる気道や肺の病気が原因として考えられ、感染性咳嗽(3~8週間以内)や慢性閉塞性肺疾患(COPD)といわれる慢性気管支炎や後鼻漏などで起こり、慢性的に痰が出ます。結核などにも注意が必要です。

② 乾性咳嗽(かんせいがいそう)…乾いた咳。肺や気道に炎症や過敏反応が起こることで発生します。また、刺激物を吸い込んだ時に防御反応として起こることもあります。かぜの場合が多いものですが、時にはレントゲンやCT検査で間質性肺炎や肺がんと診断されることも。レントゲンで影がないのに咳が続く場合は、気管支炎が長引いていることや、アトピー咳嗽、咳ぜんそくや胃食道逆流などが考えられます。


咳の対処法

咳が出るなら医師に相談を

咳が長引いている場合や痰に血が混じっている場合は、呼吸器の病気の可能性があります。また、長引いてはいなくても、咳にはインフルエンザや新型コロナウイルス感染症といった他人にうつしてしまう病気によるものもあります。医療機関では、症状や過去の治療歴などに関する問診、血液検査、レントゲン、CT、抗原検査や痰の検査(痰の出る場合)などを行い、咳の原因を特定します。診断がつけば、有効な治療を受けられるだけでなく、感染症を広めるのを防ぐことにもつながるのです。咳が出るようになったらかかりつけ医に相談するか、呼吸器内科やアレルギー内科を受診してください。特に基礎疾患のある人や高齢者は、早めの受診をおすすめします。


市販薬での対処は「感染症でない」ことが前提

症状があまり重くない・つらくないという場合は、薬剤師や登録販売者に相談し、咳を鎮めたり痰を出やすくしたりする市販薬で症状を軽減してもよいでしょう。ただし、感染症の可能性がないと認められた場合に限ります。発熱がある、高齢者と接する機会が多いという人は医療機関を受診してください。また、咳には痰を体の外に排出させる役割があるため、湿性咳嗽の人が咳止めを使うと痰を出しづらくなり、かえって症状が悪化してしまいます。湿性咳嗽の場合は、咳止めではなく痰を取り除く薬を服用しましょう。


止まらない咳の対処法

仕事中などに咳が止まらなくなって困った経験はありませんか? また、夜寝ている時は、副交感神経が優位になって気管が狭まることや朝方に気温が下がること、口呼吸による口やのどの乾燥、仰向けで寝ると鼻水や痰がのどに流れやすくなることなどから咳が出やすくなります。止まらない咳には以下の対処法が有効な場合がありますが、改善しない場合は医療機関を受診しましょう。

止まらない咳の対処法

・水で湿らせたマスクや温かい飲み物、飴で口やのどを潤す。
・ネックウオーマーやタオルで首を温めて気管を広げる。
・仰向けで寝ていて咳が出たら、横を向いたり上体を起こしたりして鼻水や痰がのどに流れるのを防ぐ。


咳の予防法

咳の原因から自分を守る生活を

咳の予防は、日々の生活の中で咳の原因から自分の体を守ることが基本です。以下のことに留意しながら、過ごしましょう。

咳の予防に感染症対策を。感染症対策はマスクの着用・うがい・手洗いが基本です。

① 感染症対策に努める
感染症対策は、マスクの着用・うがい・手洗いが基本です。マスクには口の乾燥予防、うがいには粘膜の分泌を促して異物を外に排出するのを助ける効果もあります。感染症の中でもかぜは「万病のもと」といわれるように、様々な病気を引き起こしたり持病を悪化させたりするもの。決して侮ってはいけません。

② 住環境を整える
ぜんそくやアトピー咳嗽、アレルギー性鼻炎などと診断された場合は、アレルギー物質を取り除くためにこまめに掃除を行いましょう。また、空気が乾燥する冬は室内の加湿も大切です。

③ のどへの負担を軽減する
熱い物、辛い物など、のどへの刺激となる物の摂り過ぎ、お酒の飲み過ぎは避けましょう。大声を出したり歌ったりすることも、のどの調子が悪い時は控えてください。また、喫煙はのどにも肺にも影響を及ぼすためNGです。

④ のどを潤し温める
こまめに水分を摂りのどを乾燥させないようにしましょう。温かい飲み物なら、のどを潤すと共に気道が広がって呼吸が楽になります。マフラーやネックウオーマーなどを使ってのどを冷やさないことも有効です。

⑤ のどによいとされる食べ物を摂る
大根、はちみつ、しょうが、なし、れんこん、長ねぎ、きんかん、しそなど、昔からのどによいとされる食べ物があります。薬のような作用はありませんが、自分の体にあうようなら活用してみるのもよいでしょう。

⑥ ストレスをため込まない
心因性のストレスも咳の原因になる場合があります。また、ストレスを放置していると免疫力が低下し病気のリスクも高まります。軽い運動など自分に合ったリラックス法を見つけて、ストレスをあまりため込まないように留意しましょう。


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