咳とは、気道に入った異物(ウイルスや細菌、ほこりなど)や、気道内にたまった分泌物(痰など)を体の外に排出し、気道を清浄に保つための防御反射です。かぜや気管支炎、ぜんそく、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの他、アレルギーや胃食道逆流症(GERD)の症状としても見られます。
咳は体力を奪い、日常生活に支障を来す場合があります。また、咳が止まらない場合や長引く咳には様々な原因が考えられるため、医療機関を受診してその原因を特定し、適切な治療を行う必要があります。
咳は身近なものだからこそ、その原因を知り、適切な対処や予防を行っていきましょう。
呼吸器専門医、アレルギー専門医、喘息専門医、がん治療認定医、総合内科専門医。一般社団法人日本フィトセラピー協会顧問、NPO法人日本融合医療研究会名誉理事長、NPO法人日本メディカルハーブ協会名誉理事・顧問、NPO法人心とからだの研究会顧問。東京女子医科大学第一内科(呼吸器内科)、東京都職員共済組合青山病院などを経て現職。在宅分野には2001年から現在まで携わり、在宅訪問を厚生労働省や各医療機関のモデルケースになるまで成長させた実績をもつ。大正健康ナビの特集「アロマでセルフケア」も監修。
咳は、気道に入った異物(ウイルスや細菌、ほこりなど)や、気道内にたまった分泌物(痰など)を体の外に排出するものです。のどや気管、気管支の粘膜表面にある「受容体」が何らかの刺激を感じ取ると、脳の「咳中枢(延髄)」に信号を送り、信号を受けた脳が呼吸を行う筋肉(横隔膜や肋間筋など)に指令を出すことで起こります。
・物理的刺激…ほこり、たばこの煙、黄砂、PM2.5、ウイルス、菌、花粉、誤って気道に入ってしまった飲み物 など
・化学的刺激…刺激臭のあるガス、有害物質 など
・空気…冷気や乾燥
・気道の炎症…かぜなどの病気
咳は、次の病気の症状としても出ます。
<咳が出やすい主な病気>
・感染症…かぜ、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、気管支炎、肺炎、百日咳、肺結核 など
・アレルギー…気管支ぜんそく、咳ぜんそく、アトピー咳嗽(がいそう)、アレルギー性鼻炎 など
・鼻の病気…後鼻漏(こうびろう)、副鼻腔気管支症候群 など
・その他…肺血栓塞栓症、肺がん、間質性肺炎、胃食道逆流症(GERD)、慢性閉塞性肺疾患、心不全 など
鼻水がのどに流れ込む後鼻漏や、胃酸がのどに逆流する胃食道逆流症(GERD)などでも、鼻水や胃酸による刺激や炎症によって咳が出ます。また、ストレスが関係する心因性の咳もあります。
咳は体の自然な防御反応であり、基本的には短期間で治まりますが、長く続く場合は病気が関係している可能性があります。咳は続く期間によって、急性咳嗽、遷延性咳嗽、慢性咳嗽の3つに分類されます。
・急性咳嗽(きゅうせいがいそう)
咳が3週間未満で治まるもの。かぜやインフルエンザ、急性気管支炎といった呼吸器感染症による。初めのうちは乾いた咳だが、徐々に痰が絡んだ湿った咳になっていく。発熱やのどの痛み、鼻水などを伴うことがある。
・遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)
咳が3週間以上8週間未満続くもの。かぜなどの後に気道が過敏な状態が続いて起こる。咳ぜんそくやアトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症(GERD)、慢性気管支炎などがある場合も。
・慢性咳嗽(まんせいがいそう)
咳が8週間以上続くもの。多くの場合が、咳ぜんそくやアトピー咳嗽、慢性閉塞性肺疾患、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症(GERD)、慢性気管支炎などといった感染症以外の病気による。肺がんや間質性肺炎、結核など、重篤な病気がある場合や複数の病気が関係している場合も。煙を吸うなど特定の状況下で咳が出やすい。
咳には湿った咳と乾いた咳があり、それぞれ原因が異なります。
・湿性咳嗽(しっせいがいそう)
痰が絡んだ湿った咳。炎症によって分泌された痰や鼻水などを、体の外に出そうとして起こる。痰が生じる気道や肺の病気が原因として考えられ、慢性気管支炎や、副鼻腔炎による後鼻漏などで起こり、慢性的に痰が出る。結核などにも注意。
・乾性咳嗽(かんせいがいそう)
乾いた咳。肺や気道に炎症や過敏反応が起こることで生じる。また、刺激物を吸い込んだ時に防御反応として起こることもある。かぜの初期に多いが、レントゲンやCT検査で、間質性肺炎や肺がんと診断されることも。レントゲンで影がないのに咳が続く場合は、気管支炎が長引いていることや、アトピー咳嗽、咳ぜんそくや胃食道逆流症(GERD)などの可能性が考えられる。
咳の症状は、原因となる病気によって特徴が異なります。乾いた咳が続く、痰が絡む、夜間や早朝に咳が出るなど、主な病気ごとの咳の特徴を紹介します。ただし、咳の特徴だけで病気を判断することはできません。
病気 |
咳の特徴 |
| かぜ | 通常3日以内にピークを迎え、次第に症状が治まる。ただし、その他の症状が改善した後も、咳が残ることがある。 |
| インフルエンザや 新型コロナウイルス感染症 |
どちらも乾いた咳が出やすく痰が絡むこともあるが、咳だけでの鑑別は難しい。 |
| 急性気管支炎 | かぜなどの後に感染が広がって起こる。咳が主な症状となり、痰が出ることも多い。 |
| 肺炎 | 咳、発熱、痰、息苦しさなどが見られる。高齢者では発熱などの典型的な症状が目立たない場合もある。 |
| 気管支ぜんそく | ゼーゼー・ヒューヒューといった喘鳴(ぜんめい)や息苦しさがある。夜間から早朝に咳が出る他、冷気や運動も咳が出るきっかけになりやすい。 ※「気管支ぜんそく」も参照。 |
| 咳ぜんそく | 喘鳴や息苦しさがなく、乾いた咳が長く続く。夜間から早朝に咳が出る他、冷気や運動も咳が出るきっかけになりやすい。 |
| アレルギー性鼻炎や 副鼻腔炎 |
後鼻漏などに伴って咳が出ることがある。横になると咳が出やすくなる場合がある。 ※「アレルギー性鼻炎」、「副鼻腔炎」も参照。 |
| 副鼻腔気管支症候群 | 慢性副鼻腔炎に伴う鼻症状と、慢性的な湿性咳嗽や喀痰(かくたん)が見られる。 |
| 胃食道逆流症 | 胃酸の逆流によって乾いた咳が起こる。食後や横になった時に起こりやすい。 ※「逆流性食道炎・胃食道逆流症(GERD)」も参照。 |
| 慢性閉塞性肺疾患 | 喫煙をする人に起こりやすい病気で、慢性的に咳や痰が生じる。 |
| 肺血栓塞栓症 | 突然の息苦しさや胸痛が主な症状で、咳や血痰を伴うこともある。 |
| 百日咳 | 激しい咳が長期間続く。 ※「大人の百日咳」も参照。 |
| アトピー咳嗽 | 乾いた咳が長く続くが、痰は少ない。 |
| 肺結核 | 咳や痰が長期間続く。 |
| 気管支拡張症 | 慢性的に咳や痰が出る。 |
| 間質性肺炎 | 乾いた咳が出やすく、痰が出ることは少ない。 |
| 肺がん | 長引く咳の他、血痰、息苦しさなどがある。 |
| 心不全 | 心臓のポンプ機能が低下することで肺に血液がうっ滞し(肺うっ血)、肺の血管から水分が染み出して、咳や息苦しさが生じることがある。横になると症状が悪化し、座ると楽になる「起坐呼吸(きざこきゅう)」が見られることも。さらに、肺うっ血が強くなって肺水腫を起こすと、薄いピンク色の泡状の痰が出ることがある。 |
| 薬剤性咳嗽 | ACE阻害薬など、一部の薬剤で乾いた咳が続く場合がある。 |
ストレスや緊張が影響して起こる心因性の咳もあります。この場合、ぜんそくや感染症などの身体的な原因を除外して鑑別します。心因性の咳は乾いた咳が多く、息苦しさなどはあまり感じません。また、ストレスを感じた時や緊張している時など、特定の状況下で咳が出ます。咳をしないと落ち着かなさを感じることも。逆に、何かに集中している時や睡眠中は咳が出にくいのが特徴です。
咳は、お腹などの筋肉の強い収縮によって起こります。そのため体力が奪われやすく、特に深夜や明け方に咳が出ると、睡眠の質が低下し、疲れがとれなくなったり集中できなかったりするなど、日常生活に支障を来すこともあります。中には、咳によってのどが敏感になり、ますます咳が出やすくなるといった悪循環に陥る場合も。
また、咳が出る際の筋肉の収縮によって、肋骨の間の筋肉や腹筋に筋肉痛や筋膜炎が生じる場合があります。骨がもろくなっている高齢者や骨粗しょう症の人は、肋骨の疲労骨折も起こしやすくなります。
咳の治療では、原因となる病気を特定し、適切な対処を行うことが大切です。
かぜなどの感染症による咳もあれば、ぜんそくなどの病気による咳もあり、原因によって治療法は異なります。また、咳には他人にうつしてしまう病気によるものもあるため、注意が必要です。
咳が長引いている(3週間以上)、症状が悪化している、咳がつらくて眠れないといった場合は、医療機関を受診しましょう。かぜから気管支炎や肺炎になることもあります。
また、強い息苦しさや胸の痛み、意識障害、血痰などがある場合は、早急な受診が必要です。
特に基礎疾患のある人や高齢者、早めに受診することをおすすめします。
医療機関では、症状や過去の治療歴などに関する問診、聴診の他、必要に応じて胸部のX線検査やCTスキャン検査、肺機能検査、血液検査、喀痰検査、抗原検査、アレルギー検査などを行って咳の原因を特定し、薬(抗菌薬、吸入ステロイド薬、抗アレルギー薬、咳止め薬、去痰薬など)による治療や生活習慣の見直しなどを行います。
受診科は、かかりつけの内科か呼吸器内科で、鼻の症状や痰などもある場合は耳鼻咽喉科、胸焼けなどがある場合は消化器内科でもよいでしょう。
受診時には医師に、咳が出るようになってからの期間やどんな咳が出るか、痰や鼻水、のどのかゆみなど、咳以外の症状が現れているか、どのようなタイミングで咳が出るかなども伝えましょう。
咳の症状があまり重くない、つらくないという場合は、薬剤師や登録販売者に相談し、咳を鎮めたり痰を出やすくしたりする市販薬で、症状の改善を図ってもよいでしょう。
かぜによる乾性咳嗽では、咳止め薬を症状の緩和に用いることがあります。咳には痰を体の外に排出させる役割があるため、湿性咳嗽の人が咳止めを使うと痰を出しづらくなり、かえって症状が悪化してしまう場合もあります。湿性咳嗽の場合は、咳止めは自己判断で漫然と使用しないようにしましょう。
ただし、高熱、呼吸困難、胸の痛み、血痰、悪化、長期化などが見られる場合は医療機関を受診してください。
咳が止まらない、咳が出てつらい時は、次のようなセルフケアで症状が和らぐ場合があります。ただし、痰が出る咳や息苦しさを伴う咳を無理に抑えるのはおすすめできません。
・マスクや温かい飲み物、飴で、口やのどを潤す。
・ネックウォーマーやタオルなどで首元を温め、のどへの冷気の刺激を避ける。
・夜、仰向けで寝ていて咳が出たら、横を向いたり上体を起こしたりして鼻水や痰がのどに流れるのを防ぐ。
※夜、咳がつらくて眠れない時の対処法について詳しくはこちら
咳の予防に、日常生活の中で次のことに取り組んでみましょう。
・感染症対策に努める
手洗い、咳エチケット、症状や流行状況に応じたマスク着用などを行う。インフルエンザなどではワクチン接種も重要。
※咳エチケットについて詳しくはこちら
・住環境を整える
ぜんそくやアトピー咳嗽、アレルギー性鼻炎などと診断された場合は、アレルギー物質を取り除くために、こまめに掃除や寝具の洗濯などを行う。また、空気が乾燥する冬は室内の加湿も大切。加湿し過ぎるとカビやダニが増え、喘息やアレルギーを悪化させることがあるため、湿度は40〜50%程度を目安にし、少なくとも60%を超えないようにする。
・のどへの負担を軽減する
熱い物、辛い物、アルコールなど、のどへの刺激となる物の摂り過ぎは避ける。大声を出したり歌ったりすることも、のどの調子が悪い時は控えるとよい。喫煙・受動喫煙は、のどにも肺にも悪影響を及ぼす。
・のどを潤し温める
こまめに水分を摂り、のどを乾燥させないようにする。温かい飲み物は、のどを潤し咳の刺激を和らげる。うがいは、のどの乾燥や不快感を和らげる目的で行うのはよいが、感染予防効果を過度に期待せず、水道水で高頻度に行うのがおすすめ。また、外出先などで水分が摂りにくい場合は、のど飴やトローチを活用してもよい。マフラーやネックウォーマーなどを使ってのどを冷やさないことも有効。
・のどによいとされる食べ物を摂る
バランスのとれた食事を摂り、体調を整える。また、大根、はちみつ(1歳未満には与えないように注意)、しょうが、梨、れんこん、長ねぎ、きんかん、しそなど、昔からのどによいとされる食べ物がある。薬のような作用はないが、自分の体に合うようなら活用してみるのもよい。
・疲労やストレスをため込まない
睡眠不足を避けて心身の休息を心がけ、軽い運動など自分に合ったリラックス法を見つけて、疲労やストレスをあまりため込まないように心がける。
咳は体に入ってきた異物を排除しようとする防御反応。そのため、無理に我慢をしないほうがよいです。ただし、飛沫が飛んだり、感染症の場合は人にうつしてしまったりするので、マスクなどで口を覆うなど、咳エチケットを心がけて周囲に配慮しましょう。
咳は様々な病気の症状として現れます。かぜだと思って放置していたら深刻な病気だったということも。発熱などの他の症状がない場合でも、咳が3週間以上続いている、症状が徐々に悪化している、睡眠不足などがあってつらいといった場合は、遠慮せずに受診してください。
強い息苦しさや胸の痛み、会話困難、意識障害、血痰・喀血などがある場合は速やかに受診してください。呼吸が苦しく会話が困難、意識状態がおかしいといった場合は、救急要請も検討しましょう。特に大量の喀血は、窒息リスクもあり緊急性が非常に高い状態です。
運動中は換気量が増え、気道から水分が失われて乾燥します。特に冷たく乾いた空気の中では気道が狭くなりやすく、ぜんそくや運動誘発性気管支収縮(うんどうゆうはつせいきかんししゅうしゅく)がある人は咳や息苦しさが起こります。
アルコールはのどを刺激するため、咳が出ている時にお酒を飲むと症状を悪化させてしまいます。特に、感染症や胃食道逆流症(GERD)の疑い、発熱、痰などがある場合は注意が必要です。また、眠気を起こす咳止め薬や抗ヒスタミン薬などでは、アルコールが眠気という副作用を強めてしまう場合も。咳が治まるまでお酒は控えましょう。