下肢(脚)の神経痛

下肢の神経痛が出る老女

下肢(脚)の神経痛は、座る、立つ、歩くなどの日常生活の基本動作に大きくかかわります。
そもそも神経痛とは、脳、脊髄、末梢神経の障害により生じる痛みやしびれです。脳、脊髄から枝分かれする末梢神経は、体中に張り巡らされるように広がっているため、頭、体、手、足など体中のあらゆる箇所に神経痛が現れます。
今回は、日常生活の基本動作に大きくかかわる下肢(脚)の神経痛について、具体的な症状や原因、治療や対処法、予防法を解説します。

監修プロフィール
神谷町脳神経外科クリニック もりもと・だいじろう 森本 大二郎 先生

日本医科大学卒業。医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本脊髄外科学会認定医・指導医・代議員、脊椎脊髄外科専門医、日本脊髄障害医学会評議員、日本仙腸関節研究会幹事、末梢神経の外科研究会世話人。釧路労災病院脳神経外科部長、日本医科大学脳神経外科病院講師を経て現職。「坐骨神経痛 : 腰と神経の名医が教える最高の治し方大全 : 腰・お尻・太もも・すね・足裏がジンジン痛む」(文響社)など多くの書籍に執筆する一方、メディアでも活躍している。

<目次>下肢の神経痛について知る


下肢の神経痛の症状

下肢の神経痛は症状が出る場所や、痛みの感じ方は様々

神経痛は、文字通りの痛みの他に、しびれや感覚異常などもあり、強いしびれを痛みと感じる人も多く見られます。その感じ方も「ピリピリ」「ジンジン」「チリチリ」「電気が走るような」など様々です。下肢の代表的な神経痛は坐骨神経痛であり、皆さんも一度は耳にしたこともあるかと思います。坐骨神経痛は、実は病気の名前ではなく症状で、殿部(お尻)から下肢の後面(大腿(もも)の後ろ、ふくらはぎ)の痛み、しびれのことを指します。他にも下肢の神経痛を起こす病気は様々あり、障害される神経により痛みやしびれなどの症状は異なります。


「冬に痛みがひどくなる」は、気のせいではありません

寒くなってくると、腰や関節の痛みが強くなるように感じますが、それにはいくつかの理由があります。

■筋肉が硬くなるため

体が冷えると、血管が収縮し、血液の循環が悪くなります。その結果、筋肉が硬くなり、神経が圧迫されることで、痛みが強くなることがあります。

■痛みを感じる物質が発生するため

血液循環が悪化すると、体内の組織への酸素供給が鈍くなります。酸素供給が滞ると、ブラジキニンやセロトニンといった痛み物質が、筋肉などにたまりやすくなり、痛みの悪化を引き起こします。

■運動不足による血行不良のため

寒くなると外出する機会が減り、運動量が少なくなることから血行不良となり、神経痛の悪化につながります。

■冬の急激な気圧の変化のため

強い寒気が流れ込む時などに起きる急激な気圧の変化によって交感神経が刺激されると、筋肉や関節周辺で血管が収縮します。血行が悪くなり、疲労物質がたまることで、もともとあった痛みが悪化したように感じます。さらに、痛いという感覚自体が交感神経を刺激し、悪循環に陥ってしまいます。


下肢の神経痛の原因

腰の部分には、脊髄から枝分かれした腰神経(Lumber nerve)と仙骨神経(Sacral nerve)があります。これらは合流した後に数本の末梢神経に枝分かれして、骨盤を通って下肢へと延びていきます。
下肢の神経痛は、主に以下の2種類に分けられます。
1)「腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)」や「腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア」などの腰椎(腰骨)の病気によって神経が圧迫されて起こるもの。
2)下肢に延びた末梢神経が、鼠径部(そけいぶ)や膝、足首で、靭帯や筋肉によって締めつけられて起こる「絞扼性末梢神経障害(こうやくせいまっしょうしんけいしょうがい)」によるもの。
これらは、症状が似ていたり、時には両者が合併していたりする場合があるので注意が必要です。

下肢の神経痛の原因となる疾患

【腰骨の病気】
■腰部椎間板ヘルニア
背骨の間にある椎間板のクッション材の役割をする髄核(ずいかく)という物質が、外側にはみ出して神経を圧迫する病気です。障害を受ける神経により、様々な下肢の痛みやしびれを生じます。
■腰部脊柱管狭窄症
背骨の中の神経の通り道である脊柱管が加齢により狭くなり、内部を通っている神経を圧迫する病気です。椎間板ヘルニアと同様に、障害を受ける神経により、様々な下肢の痛みやしびれを生じます。

【下肢の絞扼性末梢神経障害】
■梨状筋症候群
お尻の深い所にある梨状筋という筋肉が緊張し硬くなることで、坐骨神経が締めつけられる病気です。坐骨神経痛の原因となります。
■外側大腿皮神経障害
外側大腿皮神経は、骨盤から下腹部と大腿のつなぎ目にあたる鼠径部にある鼠径靭帯の深部を通過し、大腿の外側に分布する感覚神経です。鼠径靭帯で締めつけられることが原因で、大腿外側の痛みやしびれが生じます。また、きつい服の着用やベルトの締め過ぎ、妊娠や肥満によるお腹の荷重なども原因となります。
■腓骨神経障害
坐骨神経から枝分かれした腓骨神経が、膝の後ろ側から下腿(すね)の外側に延び、下腿外側の筋肉(長腓骨筋)によって締めつけられることによって、下腿外側から足の甲にしびれが生じます。腓骨神経は、足首を上に上げる筋肉(前脛骨筋)を支配しているために、腓骨神経の障害が進行すると前脛骨筋の筋力が低下し、足首を上げにくくなります。ストッキングや足組みによって膝の外側部での腓骨神経が圧迫されたり、運動などで長腓骨筋が発達したりすることが原因となることもあります。
■足根管症候群
坐骨神経から枝分かれした後脛骨神経は、足関節内側にある足根管という場所を通り、足裏の感覚を支配します。足根管部で後脛骨神経が靭帯や動脈、ガングリオン(ゼリー状の物質がつまった瘤)により締めつけられると、足底にしびれが生じます。

下肢の神経痛が起こる場所

誰でもできる! 下肢の神経痛の簡単セルフチェックをご紹介

腰椎の病気の場合には、背筋を伸ばしたり、腰を後ろに反らす姿勢をとったりすることや、歩行により、症状が増強する傾向があります(間歇性跛行/かんけつせいはこう)。一方、「絞扼性末梢神経障害」は、神経が締めつけられ障害を受けている場所を指などで圧迫すると症状が誘発されたり増強したりする「チネル様徴候」を確認することができます。
この特性を利用したセルフチェックの方法をご紹介します。

☑腰骨の病気(腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアなど)

腰骨は背筋を伸ばしたり後ろに反らしたりすることで神経の圧迫が強くなり、前かがみになると神経の圧迫が軽減する特性を活かしたチェック法です。背筋を伸ばし後ろに反らした状態で腰に痛みやしびれが現れたら、腰に原因があります。

下肢の神経痛の簡単セルフチェック:腰骨のチェック

☑外側大腿皮神経障害

「絞扼性末梢神経障害」は、神経が締めつけられ障害を受けている場所で神経が過敏な状態となっているために、神経を指などで体の表面から圧迫すると症状が誘発されたり増強したりすることが確認できます。「外側大腿皮神経障害」を例に挙げると、仰向けになり、ベルトを締める位置の少し下で腰骨が出ている部分を探し、そこの内側をぐっと押す。これにより大腿の外側の痛み・しびれが誘発されると、「外側大腿皮神経障害」の可能性があります。

下肢の神経痛の簡単セルフチェック:外側大腿皮神経障害のチェック

☑足根管症候群

足首を上に曲げ、足の内くるぶしとかかとの間にある動脈のすぐ下を押し、足の裏に痛みやしびれが誘発されたり増強したりするようであれば、足根管症候群の可能性があります。これも「チネル様徴候」を利用したものです。

下肢の神経痛の簡単セルフチェック:足根管症候群のチェック

☑総腓骨神経障害

腓骨神経は、下腿の外側にある長腓骨筋の深部に入り込む場所で締めつけを受けることで障害を受けます。長腓骨筋は歩行するときに足首を伸ばし地面を蹴る筋肉で、足関節を下に伸ばすと緊張し、腓骨神経の圧迫が強くなります。足を伸ばした状態で床に座り、足首を伸ばしたり戻したりする動作を繰り返し、90秒以内に症状が出た場合は、「総腓骨神経障害」の可能性があります。また、総腓骨神経が長腓骨筋の深部に入り込む場所を指で圧迫することで症状が誘発されたり増強したりする「チネル様徴候」が確認できる場合もあります。

下肢の神経痛の簡単セルフチェック:総腓骨神経障害のチェック

下肢の神経痛の治療・対処法

痛みやしびれは、体からのSOS。痛みやしびれを放置しておくと、生活に支障が出るほどに症状がひどくなったり、運動神経の障害が加わり手や足に力が入らなくなることもあります。痛みやしびれを感じたら体を休ませて、体への負荷を減らすことが大切です。そして、早めに医療機関を受診して原因を調べ、適切な対処を行うことが望ましいです。治療では消炎鎮痛薬、末梢神経障害治療薬、神経障害性疼痛治療薬、漢方薬などの内服薬で、痛みやしびれの軽減を図ります。この服薬治療と並行し、病気に合わせた治療法も段階的に行っていきます。腰骨の病気が原因の場合には腰部の動きを抑える腰部コルセットを、下肢の末梢神経障害の場合には足裏を中心とした痛みやしびれを和らげるための足底板装具などをつける場合があります。神経ブロックは、腰骨の神経や末梢神経に局所麻酔を注射することで、神経の痛みを緩和する治療です。また、筋肉の緊張をとるためのストレッチやマッサージ、病気により衰えた筋力を回復させ身体機能を高めるリハビリテーションを行います。これら安静、投薬、装具療法、神経ブロック、リハビリテーションといった保存的治療を行っても症状の改善が得られず、日常生活に支障を来している場合には、神経の圧迫をとる手術を考慮します。

症状が軽い場合のセルフケア

下肢の神経痛の症状が軽い場合で、すぐに医療機関に行けない時には次に挙げるようなセルフケアを行いましょう。

☑無理に動かず安静にする。
☑痛みのある場所に負担をかけない姿勢をとる。サポーターなどで痛む場所を支えるのも有効。
☑市販の消炎鎮痛薬を使用する。使用にあたっては薬剤師や登録販売者に相談を。
☑軽いマッサージを行う。
☑患部は冷やさず温め、激しく動かさない。

これらのセルフケアを行っても症状が改善せず増強する場合や、症状が軽くても改善せずに持続する場合は、医療機関への受診をおすすめします。

下肢の神経痛の予防法

日常生活で無理なく取り入れられる予防法をご紹介

下肢の神経痛の予防法を日常生活で無理なく取り入れる

神経痛の改善には医療機関での治療も大切ですが、常日頃から生活の中で体の負担をかけない姿勢や動作を意識することも必要です。下記のような予防法を実践するだけでも、痛みやしびれの予防につながるので、ぜひ日々の生活に取り入れてみてください。

☑食事、睡眠、運動による規則正しい生活を心がける。
☑しょうがや葛、にんにくなど体を温める食べ物を摂る。
☑シャワーで済まさず湯船に浸かる、腹巻やレッグウォーマーを着用するなどして体を温め、冷やさない。
☑適度な運動やストレッチ、マッサージで血流を促し筋肉をほぐす。
☑パソコンを使う時などは机やいすなどを調整し、腰に負担をかけない正しい姿勢を心がける。
☑腰に負担をかけないように体重増に気をつける。
☑ストレスをためない。

足に痛みやしびれがあると、何をするのにも面倒になり、体を動かさなくなることでさらに痛みが増すといった悪循環に陥ることになります。そうならないためにも、まずは日々の生活の見直しから、症状を改善し、日常生活を快適に過ごせるように心がけていきましょう。


適切な治療を受けるためにも医療機関へ相談を

神経痛は様々な原因があり、中には「原因が分からないまま痛みに悩まされている」という人も見られます。体で何が起きているかの的確な診断と治療で、症状の改善が期待できます。下肢の神経痛については、腰骨の病気だけでなく末梢神経の病気が原因の場合も少なくないため、末梢神経に関する病気を診療することができる医療機関を選ぶことも大切です。気になる症状が現れたら、神経の病気に詳しい診療科である、脳神経外科、神経内科、整形外科を受診しましょう。日本脊髄外科学会のホームページでは、痛みやしびれの症状を診療できる医療機関が掲載されているので、気になる方は確認してみてください。


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