シェーグレン症候群

シェーグレン症候群

シェーグレン症候群は、本来は体を守るために働く免疫が自分自身の体を攻撃することによって起こる自己免疫疾患で、全身の様々な組織に炎症が起こる「膠原病(こうげんびょう)」の1つです。涙腺や唾液腺など粘液を出す組織に炎症が起こることで、口の渇き(ドライマウス)や目の乾燥(ドライアイ)などの症状が現れます。厚生労働省の調査(※)によると、1年間に病院を受診したシェーグレン症候群の患者は3万人程度となっていますが、潜在的な患者数はその数倍~10倍と推定されています。男女比は 1:17.4 で、圧倒的に女性に多く見られ、発症のピークは40~60 歳代です。シェーグレン症候群は命にかかわる疾患ではありませんが、口や目の乾燥をはじめ様々な不快症状によってQOL(生活の質)が低下するため、症状をコントロールしながら長く付き合っていく必要があります。また、関節リウマチなど他の膠原病に合併して起こるケースも多いため、その疾患の治療もしっかり進めていくことが大切です。

※「令和2年(2020年)患者調査」厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/dl/r02syobyo.pdf

監修プロフィール
健愛記念病院 副院長 いけだ・さとし 池田 聡 先生

1989年産業医科大学医学部卒業。同大学整形外科、市中病院を経て、2001年健愛記念病院整形外科に入職。日本整形外科学会(専門医、認定リウマチ医、認定スポーツ医、骨粗鬆症委員会アドバイザー)、日本骨粗鬆症学会(監事、評議員、認定医、認定医制度委員会委員長、骨粗鬆症リエゾンサービス委員会委員、キャリアアップ委員会委員)、日本骨形態計測学会評議員、日本骨代謝学会、日本脊椎脊髄病学会、日本腰痛学会、ASBMR(アメリカ骨代謝学会)等に所属。平成21年度日本骨形態計測学会ゴールドリボン賞、日本骨粗鬆症学会森井賞(第11回、16回)受賞。

<目次>シェーグレン症候群について知る


シェーグレン症候群の原因

シェーグレン症候群をはじめ、膠原病の原因はいまだに不明

シェーグレン症候群を含めた膠原病がなぜ起こるのか、根本的な原因はいまだ解明されていませんが、以下の4つのかかわりが考えられています。

①遺伝的要因
シェーグレン症候群にかかりやすい体質や素因はある程度、親から子へ受け継がれます。ただし因子を引き継いでいる可能性があるだけで、いわゆる遺伝病ではありません。同一家族内でシェーグレン症候群を発症する率は2%程度という報告があります。

➁環境要因(後天的な要因)
ウイルス感染症、薬物、化学物質、紫外線、外傷、ストレスなどをきっかけにシェーグレン症候群を発症したり症状が増悪したりすることから、これらの要因が関係すると考えられています。

③免疫の異常
私たちの体には細菌やウイルスなどの病原体から身を守るための免疫システムが備わっています。シェーグレン症候群をはじめとする自己免疫疾患は、何らかの原因でこのシステムに狂いが生じ、自分自身の細胞や組織を異物と見なして攻撃してしまうことで起こると考えられています。

④女性ホルモンの影響
発症に明らかな性差があり女性に多いこと、好発年齢が女性ホルモンのバランスに変化が起こりやすい時期に重なっていることなどから、シェーグレン症候群の発症には女性ホルモンの影響が考えられています。

シェーグレン症候群は、これらの要因が複雑に関連し合って発症するものと考えられていますが、どれか1つの原因で発症するケースがないともいえません。今後の研究成果が待たれるところです。


シェーグレン症候群の症状

口や目の乾燥が長引く人は要注意

シェーグレン症候群では粘液を出す組織に炎症が起き、分泌液が少なくなるため乾燥症状が起こります。典型的なシェーグレン症候群の症状は口と目の乾きで、患者の90%以上に見られます。シェーグレン症候群の自覚症状としては口や目の乾きだけのこともありますが、舌が荒れたり虫歯が増えたといった症状や、目の痛みや疲れを感じたりすることもあります。

シェーグレン症候群の症状の現れ方や程度は人により様々で、強い症状でQOLが著しく低下する人がいる一方で、口や目に違和感を覚えながら病的な症状とは思わずに過ごしている人もいます。中にはこれといった自覚症状がないまま、他の膠原病の治療中に検査で見つかるケースもあります。

シェーグレン症候群の主な症状。口の渇き(口がねばつく、物が飲み込みにくい、虫歯が増えたなど)・目の渇き(目がゴロゴロする、目が疲れる、涙が出ないなど)・その他の症状(耳下腺・顎下腺の腫れ、耳・鼻・のどの乾燥、膣の乾燥・性交痛、倦怠感など)

<シェーグレン症候群の主な症状>

●口の渇き(ドライマウス、慢性唾液腺炎)
唾液腺に炎症が起こり、唾液の分泌が減ります。そのため口が渇く、口がねばつく、物が飲み込みにくい、会話がしにくい、虫歯が増える、舌や口角が荒れる、夜間に飲水のために起きるといった症状が現れます。

【シェーグレン症候群 口の渇きの症状】
・口が渇く
・口がねばつく
・物が飲み込みにくい
・会話がしにくい
・虫歯が増えた
・舌や口角が荒れる
・夜間に飲水のために起きる

●目の乾き(ドライアイ、乾燥性角結膜炎)
涙腺の炎症によって涙液の量が減ります。そのため目が乾燥し、目の表面の角膜に傷ができやすくなります。症状としては、目がゴロゴロする、痛む、疲れる、かすむ、目やにが増える、充血する、光がまぶしい、悲しい時でも涙が出ない、などが起こります。

【シェーグレン症候群 目の渇きの症状】
・目がゴロゴロする
・目が痛む
・目が疲れる
・目がかすむ
・目やにが増える
・目が充血する
・光がまぶしい
・悲しい時でも涙が出ない

●その他の症状
唾液腺の1つである耳下腺(じかせん)や顎下腺(がっかせん)などに炎症が起こって腫れることがあります。乾燥症状が耳、鼻、のど、腟など他の粘液を出す組織に起これば、鼻の乾燥や嗅覚の低下、のどのイガイガ、声がれといった症状が現れます。女性の場合は、腟の乾燥による性交痛も比較的多い訴えです。また、倦怠感、関節の痛みやこわばり、微熱、気分の変調(うつ)、皮膚の炎症といった全身症状を伴うこともあります。

【シェーグレン症候群 その他の症状】
・耳下腺・顎下腺の腫れ
・耳・鼻・のどの乾燥
・腟の乾燥(性交痛)
・倦怠感
・関節の痛み・こわばり
・微熱
・集中力低下
・気分の変調
・皮膚の炎症(紫斑や環状紅斑) など

シェーグレン症候群の約半数は関節リウマチなど他の膠原病を合併

シェーグレン症候群には、単独で起きる「一次性(原発性)シェーグレン症候群」と、他の膠原病との合併が見られる「二次性(続発性)シェーグレン症候群」の 2 種類があります。「一次性シェーグレン症候群」はさらに2つのタイプに分けられ、口と目のみの症状の場合は「腺型シェーグレン症候群」、口と目の症状に加えてリンパ節や内臓(甲状腺、肺、肝臓、腎臓)などにも病変が及ぶ場合は「腺外型シェーグレン症候群」といいます。

シェーグレン症候群の患者のうち、二次性の人の割合は約半数と見られています。合併する膠原病としては関節リウマチが最も多く、次いで全身性エリテマトーデス、混合性結合組織病、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎などが挙げられます。シェーグレン症候群では関節痛が見られることがありますが、左右対称に複数の関節の炎症が起こってきた場合は、関節リウマチの合併を考える必要があります。

<シェーグレン症候群の分類>
一次性(原発性)シェーグレン症候群:単独で発症する
・腺型シェーグレン症候群……症状は口と目のみ
・腺外型シェーグレン症候群……症状が全身に及ぶ

二次性(続発性)シェーグレン症候群:他の膠原病に合併する
合併する膠原病によって多彩な症状を伴う


シェーグレン症候群の治療・対処法

シェーグレン症候群の確定診断には、専門医の受診が必要

口の渇きや目の乾きが生じる疾患は、シェーグレン症候群以外にも数多くあります。シェーグレン症候群の診断は専門医以外ではなかなか難しいため、疑わしい症状がある場合は、「リウマチ・膠原病内科」を標榜する病院またはクリニックの受診がすすめられます。

特にシェーグレン症候群の好発年齢である40~60代の女性は、口や目の乾きがあっても単なる加齢現象、あるいは更年期の不定愁訴と思い込みがちで、受診に至らないケースが少なくありません。適切な治療を受けると同時に、他の膠原病の合併がないか調べるためにも、できるだけ早めに受診するようにしましょう。口の症状の場合は歯科や口腔外科、耳鼻咽喉科、目の症状の場合は眼科をまず受診し、紹介状を書いてもらうのも1つの方法です。

シェーグレン症候群の確定診断には、専門医の受診が必要

病院で行われる検査は主に4種類

病院では問診の他、以下のような検査を組み合わせて行います。検査の内容はそれぞれのケースによって異なるので、事前に医師と相談しましょう。

<シェーグレン症候群の検査>
●血液検査
血液を採取して検査し、シェーグレン症候群に特有な抗体(※)である抗SS-A 抗体または抗SS-B抗体の有無を調べます。
※抗体……免疫反応を引き起こす異物(抗原)が体内に入ってきた際に、攻撃したり体外に排除したりするためにつくられるタンパク質のことで、「免疫グロブリン」とも呼ばれます。

●唾液分泌の検査
ガムをかんで唾液の分泌量を測る検査(ガムテスト)や、ガーゼをかんで同様に測る検査(サクソンテスト)で唾液分泌量の低下の有無を確認します。唾液腺のX線検査(唾液腺造影)や画像診断検査(唾液腺シンチグラフィー)を行うこともあります。

●目の検査
ろ紙を目の縁に置き、その濡れ具合から涙の分泌量を測る検査(シルマーテスト)を行ったり、細隙灯(さいげきとう)顕微鏡と呼ばれる装置で角膜や結膜の表面を調べ(ローズベンガル試験や蛍光色素試験)、傷の有無を確認したりします。

●顕微鏡検査(生検)
唾液腺や涙腺の組織を少量採取して顕微鏡で観察し、特徴的な炎症(リンパ球浸潤)があるかどうかを確認します。

シェーグレン症候群の診断基準(1999年改訂)では、上記の4項目の検査のうち 2 項目以上が陽性であればシェーグレン症候群と診断されます。ただし、シェーグレン症候群でも陰性の結果が出ることもあり、医師が患者の病態から総合的に診断します。

シェーグレン症候群は対症療法が基本

現在のところシェーグレン症候群を根本的に治療する薬はないため、主に乾燥を防ぐ対症療法が行われます。「寛解(かんかい)」を目指し、症状を悪化させずに付き合っていくことが大切です。

寛解とは、病気の進行を完全に抑制できている状態のことをいいます。シェーグレン症候群をはじめとする膠原病はたとえ一度よくなっても再燃する可能性があるため、かぜなどが治った時のように「治癒(ちゆ)」という言葉は使いません。よくなったり悪くなったりを慢性的に繰り返す疾患とこころえ、上手にコントロールしていきましょう。

●口の乾燥に対して
ドライマウスには、スプレータイプの人工唾液や、唾液の分泌を促す内服薬(塩酸セビメリンなど)が処方されます。虫歯の予防や口腔内の真菌感染、口角炎の予防として抗真菌薬などが用いられることもあります。保険適用はありませんが、漢方薬の麦門冬湯(ばくもんどうとう)が併用されることもあります。

●目の乾燥に対して
ドライアイには、涙に近い成分の人工涙液(ヒアルロン酸ナトリウム)の点眼薬が処方されます。乾燥が強い場合は、目の表面からの涙の排出を少なくするため涙の排出口である涙点を塞ぐ「涙点プラグ」も有効とされています。

●腟の乾燥に対して
エストロゲンの内服薬やエストロゲン入りのクリームなどが処方されます。

●リンパ腺や耳下腺の腫れに対して
腺外型シェーグレン症候群で、リンパ腺や耳下腺が急激に腫れたり、間質性肺炎が進行したりする場合には、少量のステロイドや免疫抑制剤が用いられることもあります。

●二次性シェーグレン症候群の場合
合併している他の膠原病の治療を並行して進めていきます。その治療をしていくことで、シェーグレン症候群の症状が軽減することがあります。

シェーグレン症候群は対症療法でのコントロールが基本 人口唾液、人口涙液・涙点プラグ、内服薬・漢方薬・クリームなど

治療を開始したら、主治医の指示通りにきちんと薬を使用し、定期的に受診してシェーグレン症候群の状態や薬の副作用の有無、合併症の有無などをチェックしましょう。

セルフケアでより快適な生活を

シェーグレン症候群は乾燥を防いで不快な症状を緩和し、QOLを低下させない習慣が大切です。日常生活では、次のようなケアを心がけましょう。

●こまめな歯磨きとうがい……口やのどの乾燥を和らげると共に、ドライマウスによる虫歯を防ぎます。また、口やのどのバリア機能を高めることで、感染症対策にもなります。併せて半年に1回は歯科を受診し、プロのチェックとメンテナンスを受けるようにしましょう。

●ドライアイ用の眼鏡の着用……シリコン製のカバーで目の周りをすっぽりと覆うので風よけになり、涙の蒸散を防ぐことができます。外出時だけでなく、冷暖房の風よけにも適しています。

●水筒やペットボトルを持ち歩く……外出時は水筒やペットボトルを持ち歩き、こまめに水分補給をしましょう。人工唾液を使用しなくても、水分補給だけで十分に症状を緩和できるケースがあります。

●加湿器を使う……室内の湿度を保ち、目や口の乾燥を防ぎましょう。また、外出時はエアコンの近くや風の強い場所など、乾燥しやすい環境はなるべく避けるようにしましょう。

●寒冷を防ぐ…鼻の中や口の中が乾燥していると、かぜなどの感染症にかかりやすくなります。他の膠原病で免疫抑制剤を使用している人は、特に注意が必要です。乾燥する冬場はマスクの着用も有効です。

●避けたい食品……口の渇きがある人は、のどを通りにくい乾燥した食品や香辛料、アルコール飲料はなるべく避けましょう。また、パンをスープに浸して湿らせて食べるなど食べ方の工夫をしましょう。

●唾液分泌を刺激する物を摂る……ガム、飴、トローチ、レモン、梅干などは唾液の分泌を増やします。虫歯予防のためガムや飴はシュガーレスのものを選んでください。

●禁煙する…たばこは乾燥症状を悪化させるだけでなく、同じ膠原病である関節リウマチのリスク要因として知られています。喫煙している人は禁煙しましょう。

●ストレスコントロール……肉体的、精神的なストレスは、シェーグレン症候群の症状を悪化させる原因になります。規則正しい生活を心がけ、無理をせずに体と心を休ませましょう。適度の運動、入浴、散歩、ガーデニングなどは、症状の緩和に有効です。

●皮膚を乾燥させない……石けんや熱い風呂などで皮脂が過度に失われると、皮膚が乾燥してしまうので注意が必要です。洗顔後や入浴後は、化粧水やクリームで保護するようにしましょう。

●健康食品・サプリの利用の注意……健康食品やサプリメントに含まれる成分が治療に影響してしまうケースがあります。利用したい場合は主治医に相談し、アドバイスを受けるようにしましょう。日頃からバランスのよい食事を心がけることが何より大切です。

シェーグレン症候群対策のセルフケアでより快適な生活を。水稲やペットボトルを持ち歩く、加湿器を使う、ドライアイ用の眼鏡

現在、シェーグレン症候群の研究は世界中で進められ、将来的には完治も可能となることが期待されています。悲観的になることなく、積極的に生活を楽しむ工夫をして、前向きに人生を送っていきましょう。

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