片頭痛とは、緊張型頭痛や群発頭痛と並ぶ慢性頭痛の1つで、ストレスや睡眠、ホルモンバランスなどの様々な要因で脳の血管が拡張し、脳神経が刺激されて起こります。日本には1000万人もの患者がいるとされ、男女比は1:4と特に女性に多く、30代の女性の5人に1人は片頭痛といわれます。その一方で、片頭痛のある人の8割は緊張型頭痛を併発するともいわれており、実は医師でも診断が難しい頭痛です。
夏の強い日差し、急激な温度や気圧、湿度の変動、夏休みでの環境や生活リズムの変化は、片頭痛を招く要因に。また、秋雨前線や台風がやってくる秋も、気圧や湿度の変化が大きいため、片頭痛を起こしやすくなります。
夏の片頭痛については、コラム「夏の片頭痛の原因と予防・対処法」もご覧ください。
医学博士。日本頭痛学会専門医・指導医・代議員。東海大学医学部卒業後、ドイツ・米国の大学にて脳神経内科を学ぶ。東海大学脳神経内科専任講師を経て、05年、にわファミリークリニックを開設。15年、専門医のみによる日本初の頭痛専門クリニックを開く。著書に『日本初の頭痛専門クリニックが教える最新頭痛の治し方大全』(扶桑社)などがある。
片頭痛は、様々な要因によって頭蓋内血管(ずがいないけっかん)の周囲や硬膜(こうまく)の三叉神経(さんさしんけい)が活性化されると、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やサブスタンスPといった血管を拡張させる物質が放出され、拡張した血管の周りに炎症が生じて起こります。
血管拡張の要因には次のようなものがあり、常に同じ要因で発症するとは限らず、複数の要因が重なって起こることもあります。
<脳の血管が拡張する要因>
・ストレスがかかった時や、逆にストレスから解放された時
・寝不足の時や、睡眠をとり過ぎた時
・空腹で血糖値が低下した状態
・光、騒音、におい、人混みなどの環境における外的要因
・チョコレートやチーズ、赤ワイン、コーヒーなど特定の飲食物の過剰摂取
・湿度や気圧の変化
・女性ホルモンの変動
・遺伝
・マスクによる二酸化炭素の再吸入
●片頭痛のある人は血管拡張作用のある食品に注意!
次の物質には血管を拡張させる働きがあります。片頭痛のある人は、これらの物質を含む食品の摂り過ぎには注意しましょう。
物質名 |
含まれている食品 |
ヒスタミン |
アルコール飲料全般など |
フェニルエチルアミン |
赤ワインなど |
ポリフェノール |
赤ワイン、チョコレートなど |
チラミン |
ワイン、ビール、チョコレート、ソラマメ、柑橘類、チーズ、発酵食品など |
グルタミン酸ナトリウム |
うま味調味料、コンブ、カップ麺、スナック菓子、チーズなど |
亜硝酸ナトリウム |
昔ながらの真っ赤なハム、ソーセージなど |
アスパルテーム |
ノンカロリーシュガー、低カロリー食品など |
●なぜ片頭痛は女性に多いのか
片頭痛が特に女性に多いのには、幾つかの理由があります。
①エストロゲンの分泌量の変動
女性は月経周期で女性ホルモンの分泌量が変動し、特に排卵後はエストロゲンが大きく減少します。その際に、脳内のセロトニンが減少したり、CGRPが多く放出されたりして、血管拡張が起こり片頭痛を招きます。エストロゲンの分泌量が急激に減少する更年期も、片頭痛のリスクは高まります。
②母親からの遺伝
片頭痛は遺伝性が高く、片方の親が片頭痛もちなら50%以上、両親が片頭痛もちなら75%以上の割合で遺伝するといわれています。特に母親から娘へ遺伝(母系遺伝:ぼけいいでん)しやすいことも、女性に片頭痛が多い一因です。
③役割の多さ
女性の社会進出が進んだ現代においても、育児や介護、家事など家庭内で女性が担っている部分は多いといえます。これらが心身への負担となり片頭痛を誘引することも。頭痛のつらさは周囲に理解されにくく、痛みを我慢して頑張ってしまう女性も見られます。
④その他の理由
女性の場合、頭痛の予防に効果があるマグネシウムが月経時の子宮の収縮の調整などで消費されることや、セロトニンを産生する能力が男性の半分くらいしかないことも、男性より頭痛が多い理由として挙げられます。
片頭痛は、動くとつらく、安静にしていると楽になる頭痛です。痛み方には個人差があり、痛みを頭の片側に感じる人も両側に感じる人もいます。また、ズキズキと痛む人がいれば、ズキズキせずに頭重感(頭が重い、または締めつけられるような感覚)がある人も。症状の主な特徴には次のようなものがありますが、人によって症状が異なるため、全てが該当するわけではありません。
●片頭痛の症状の特徴
・歩く、階段を上るなど日常的な動きをしても痛む
・吐き気または嘔吐(おうと)を伴う
・光、音、においに敏感になる
・光のようなものが見えたり、視界が欠けたりといった「前兆」がある
・頭痛の数時間前から2日前に首や肩の張り、生あくび、だるさや眠気、疲労感、めまいや目のかすみ、集中できないといった「予兆」がある
・痛みの持続は短く、4時間から長くても3日間
・コーヒーを飲むと痛みが和らぐ
・アルコール(特に赤ワイン)を飲むと痛むことが多い
・降雨や台風の前に痛くなる
・空腹時に痛くなる
たかが片頭痛と思われるかもしれませんが、重症の場合、日常生活への支障度は認知症や四肢のまひなどと同レベルとされます。
●緊張型頭痛や群発頭痛と片頭痛の見分け方
片頭痛は、同じ慢性頭痛である緊張型頭痛や群発頭痛とは、症状や痛みが現れる場所、痛む時間などが異なります。
|
片頭痛 |
緊張型頭痛 |
群発頭痛 |
頭痛の症状 |
60%はズキズキ 40%は非拍動性(ズキズキではなく締めつけられるような痛み) |
頭重感 側頭部絞扼感(そくとうぶこうやくかん:孫悟空の頭の輪っかのような締めつけられる痛み) |
激痛 |
頭痛のイメージ |
側頭部を押さえて動かないでじっとしていたくなる |
頭を振ったり動かしたりすると楽になる 首回りを自然ともみたくなる |
頭を殴りたくなる 壁にぶつけたくなる 髪の毛を抜きたくなる |
| 頭痛の部位・左右差 | 片側性60% 両側性40% |
後頭部や側頭部を中心にどの部位にも |
眼窩(がんか)・顔全体だが必ず片側のみ |
頭痛が続く時間 |
4~72時間 |
30分~7日 |
15~180分 |
頭痛が起きている時の特徴 |
動くと痛い 暗い場所が楽 |
動くと楽 |
動かないといられない |
●片頭痛以外の病気を見逃さないために
次のような頭痛が起きた場合は、片頭痛ではなく他の病気の可能性があります。できるだけ早く頭痛外来や脳神経内科、脳神経外科を受診し、治療を受けましょう。
<他の病気の可能性がある頭痛>
・脳腫瘍や慢性硬膜下血腫などの疑いが高まる50歳以上で、今までに経験したことのない頭痛が起きた
・突然激しい痛みが起きた
・痛みが長く続く
・頭痛以外に発熱などの他の症状がある
・直近1カ月の間にだんだんひどくなっている
日本頭痛学会のホームページで最寄りの認定頭痛専門医を調べることができるので、ぜひ参考にしてください。
日本頭痛学会認定頭痛専門医一覧
●片頭痛の医療機関での診断
月に6日以上、片頭痛に悩まされている場合は医療機関を受診しましょう。片頭痛は医師による詳細な問診と診察から診断します。他の頭痛や病気の可能性がなく、次の項目に該当すると、片頭痛と診断されます。
・発作性の頭痛である
・日常生活が妨げられる
・日常的な動作により頭痛がひどくなる
・吐き気または嘔吐を伴う
・光、音、においに過敏である(通常2つは当てはまる)
甲状腺ホルモンの分泌が過剰な場合(バセドウ病など)は片頭痛、低下している場合(橋本病など)は緊張型頭痛のリスクが高まるため、甲状腺ホルモンの異常にも留意します。
また、片頭痛は次の2つに分類されます。
①反復性片頭痛…頭痛が1カ月あたり15日未満の場合
②慢性片頭痛…頭痛が1カ月に15日以上の頻度で3カ月以上続き、そのうち片頭痛の特徴を示す頭痛が1カ月に8日以上現れる場合
●片頭痛の急性期に行われる「層別治療(そうべつちりょう)」
片頭痛の痛みが生じている状態(急性期)では、薬を用いた治療が行われます。治療薬には様々な物がありますが、現在は、効きめの弱い薬から治療を始めて徐々に強い薬へと切り替える「段階的治療」ではなく、軽症の場合はNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、中等症~重症なら血管拡張と神経の炎症を抑えるトリプタンといった成分のように、最初から日常生活への支障の度合いや痛みの強さに合わせて薬を選択する「層別治療」が中心となっています。
●片頭痛では予防療法が行われる場合も
片頭痛の発作が1カ月に2回以上もしくは3日以上ある、日常生活に支障を来している、急性期治療で効果が見られないといった場合は、発作の頻度や程度、発作が起こっている時間を減らす予防療法が行われます。
予防療法では、CGRPの働き(血管が拡張し、炎症が起こって痛みが伝わる)を抑える薬などを6~12カ月継続して使用し、発作の頻度や発作日数の50%以上の減少や、QOLの改善が見られたら、徐々に薬の量を減らしていきます。また、電気による神経刺激療法(ニューロモデュレーション)には発作の頻度を低下させる効果があり、予防療法にも有効です。薬を使わないため妊婦も治療を受けられます。ただし、保険適用外(2026年5月現在)です。
●片頭痛が生じている時のセルフケア
片頭痛が出てしまったら、脳に血液を送る内頸動脈(ないけいどうみゃく)が通る首の前側を冷やし、暗い場所で休みましょう。入浴はシャワーで済ませることをおすすめします。
外出先での場合は、冷たい缶コーヒーを購入して首の前側に当てると脳の血管の拡張が抑えられ、痛みを和らげる効果が期待できます。コーヒーに含まれるカフェインには血管を収縮させる効果がある上に、砂糖入り(人工甘味料を除く)の物を選べば、脳血管を拡張させる低血糖状態を緩和することもできます。
市販の解熱鎮痛薬を使う場合、1カ月のうち6日以下の使用であればどの種類を選んでも問題ありません。ただし、生理痛の時にも使用するのであれば、薬の作用が子宮に届きやすいイブプロフェンを配合した物がおすすめです。解熱鎮痛薬の使用過多によって起こる頭痛(薬物乱用頭痛)を防ぐため、用法・用量を守り、長期間使い続けないように注意しましょう。
●片頭痛の予防に役立つ生活のコツ
片頭痛を起こさないために、日常生活の中では、「片頭痛の原因」で紹介した脳の血管を拡張させる行動は避け、次のことを心がけるとよいでしょう。
・強い光や騒音、におい、人混みを避ける
・生活のリズムを整え、寝過ぎも寝不足も避ける
・ストレスをためない
・バランスのとれた食事を摂る
・朝食を摂って低血糖を防ぐ
・体調の悪い時は飲酒を避ける
・無理な姿勢を続けない
・解熱鎮痛薬をのみ過ぎない
また、次のようなことも片頭痛の予防に有効です。
・休日はゴロゴロせずに出かける
せっかくの休日、疲れをとろうとゴロゴロしているとかえって片頭痛を起こすことも。近所でもいいのでちょっとした外出の予定を入れると、交感神経が適度に刺激され、気分がリフレッシュできます。
・リズミカルに体を動かす
リズミカルに体を動かすことには、セロトニンの分泌を促す働きがあります。無理に運動をしなくても、ガムをかんだり、散歩したりするだけでも効果が期待できます。
・親しい人とおしゃべりしたり、ペットとスキンシップを図ったりする
親しい人やペットとのコミュニケーションは、セロトニンだけでなく愛情ホルモンのオキシトシンの分泌も促します。オキシトシンはセロトニンの分泌を促すだけでなく、オキシトシンそのものも片頭痛の緩和に役立ちます。
●片頭痛の予防に食生活の見直しも
片頭痛の予防に役立つ栄養素もあります。バランスのよい食事を基本に、これらの栄養素の摂取を意識してもよいでしょう。
・ビタミンB2
片頭痛には脳の細胞内でのミトコンドリアの機能低下も影響すると考えられていますが、ビタミンB2は、そのミトコンドリアの機能改善に役立ちます。
(含まれる食品)レバー、豚肉、牛肉、ウナギ、サバ、卵、牛乳、アーモンド、納豆、まいたけなど
・マグネシウム
脳神経の過活動を安定化させる働きがあります。
(含まれる食品)ナッツ類、海藻類、豆類・大豆加工食品など
・カフェイン
血管収縮作用があり、有効です。ただし、摂り過ぎるとかえって頭痛を招いてしまうことも。摂取量は1日200mg以内(レギュラーコーヒーでマグカップ約2杯分)に抑えましょう。
(含まれる食品)コーヒー、緑茶、紅茶など
・糖質
低血糖を抑えると共にマグネシウムの過剰消費を防ぎます。未精製の食品(玄米、全粒粉、黒砂糖など)での摂取がよいでしょう。
(含まれる食品)穀類、いも類、果物など
・トリプトファン
セロトニンの生成に必要です。
(含まれる食品)乳製品、大豆製品、卵、赤身の魚や肉など
・オメガ3脂肪酸
抗炎症作用があります。
(含まれる食品)背の青い魚、亜麻仁油、えごま油など
●湿度は40~60%に
梅雨の時期や夏は、湿度に注意を。湿度70%以上の環境では汗が蒸発しにくく、体内に熱がこもり、体が熱を逃がそうとして皮膚の血管を広げるため痛みが誘発されます。エアコンや除湿機を活用し、快適とされる40~60%を目安に調整しましょう。
●自分の頭痛を記録しよう
片頭痛を起こす要因は人それぞれです。自分の片頭痛の要因を突き止めるために、頭痛がいつどのような状況で起きたか、痛みの度合いや生活への支障、使用した薬とその量、女性の場合は月経期間などを記録しておくと、対処しやすくなります。日本頭痛学会のホームページからは頭痛を記録する「頭痛ダイアリー」がダウンロードできます。
母系遺伝するため、母親が片頭痛に悩まされている人は自身のリスクも高いといえます。男性に比べると女性の患者が多い頭痛ですが、だからといって男性が発症しないわけではありません。また、環境や行動の急激な変化や刺激も要因になるため、生活のリズムが乱れていたり、疲れやストレスがたまっていたりする人、外部からの刺激に敏感な人も注意が必要です。
それだけではなく、何事もきちんとしていないと気が済まない人や、食事や睡眠を後回しにしても「自分が頑張らなければ!」と思ってしまう頑張り屋さんも、心身に負荷がかかりやすいので要注意。性格はなかなか変えられないと思いますが、既に十分に頑張っている自分を認め、時には100%ではなく80%くらいの完成度を目指すようにしてみましょう。
片頭痛が起こったら、安静に過ごし、首の前側にある頸動脈を冷やすことが大切です。体を動かすと血行が促され、さらに血管が拡張して痛みが増してしまいます。また、首の後ろを冷やしてしまうと、首こりが悪化して緊張型頭痛を引き起こしてしまう可能性があります。
片頭痛と緊張型頭痛を併発する人は多いのですが、一度に両方の頭痛が起こることはありません。その対処法は真逆なので、今起きている痛みが片頭痛なのか緊張型頭痛なのかを見極める必要があります。
片頭痛で市販の鎮痛薬を服用する人も多いでしょう。手軽に利用できるメリットがあり、用法・用量を守れば問題はありません。しかし、のみ過ぎると薬物乱用頭痛を招く場合もあります。この場合ののみ過ぎは、量ではなく頻度が基準となり、薬物乱用頭痛の判断基準は「1カ月のうちに薬をのむ日が何日あったか」ということ。薬をのまない日を1カ月に20日以上つくることが目標になるため、月に10日以上薬をのむようになったら頭痛専門医に相談しましょう。