インフルエンザは感染力が強く、38℃以上の高熱や頭痛、体や関節の痛み、倦怠感、咳、鼻水、のどの痛みなど、強い全身症状が急激に現れます。中耳炎や熱性けいれん、まれに急性脳症を起こす場合もあります。インフルエンザの流行シーズンは、例年12月から3月ですが、それよりも早くシーズン入りする年もあるので、厚生労働省や自治体からの情報を見逃さないようにしましょう。
インフルエンザの感染経路には、咳やくしゃみなどで飛び散ったウイルスを含む飛沫を吸い込んで感染する「飛沫感染」と、ウイルスが付着した物に触れた手で目・鼻・口を触って感染する「接触感染」があります。学校や職場、公共交通機関、飲食店など人が集まる場所で感染しやすく、さらに、家庭内感染にも注意が必要です。特に小さな子どもはインフルエンザにかかりやすいので、子どものいるご家庭は、感染予防や感染を広げないための対処法を知っておくとよいでしょう。
日本小児科学会小児科専門医・指導医、日本感染症学会専門医・指導医、ICD制度協議会認定インフェクションコントロールドクター(ICD)、国際渡航医学会認定資格、臨床研修指導医。三重大学医学部小児科、国立病院機構三重病院などを経て現職。ガーナ共和国での小児医療や中国ポリオ対策プロジェクト、ニジェール青年海外協力隊チームで活動した経験ももつ。
インフルエンザは年齢を問わず注意が必要な感染症ですが、次のような理由から、未成年者や子どもはかかりやすいと考えられます。
①体が発達途中で感染の経験も少なく、免疫の働きが未熟。
②保育園や学校など、集団で過ごすことが多い。
③特に小さな子どもは、遊んでいる時の子ども同士の距離が近く、おもちゃを共有することも多い。
④自身で十分な感染対策を行えない。
大正製薬が行った調査では、同居する子ども(0~20歳)がいる家庭といない家庭では、家庭内感染は子どもがいる家庭で発生しやすいことが分かりました。
同居のご家族のどなたかがインフルエンザにかかった後、
最初にかかった人の発症から1週間以内に、
他の同居家族もインフルエンザにかかりましたか?
また、保育園や幼稚園、小学校低学年の子どもがいる家庭で、家庭内感染が多く発生していることも明らかになりました。
同居のご家族のどなたかがインフルエンザにかかった後、
最初にかかった人の発症から1週間以内に、
他の同居家族もインフルエンザにかかりましたか?(年齢別)
家庭内で感染が広がる原因には、家族で食卓を囲む、タオルや食器を共有する、寝室を共にするといったことがあります。特に小さな子どもの場合は、抱っこや添い寝などで親と密着する機会も多く、子から親、親から子への感染リスクが高まります。また、上にきょうだいがいると、下の子も感染症にかかりやすい傾向もあります。
生まれてから半年ほどの赤ちゃんは、母親から受け継いだ免疫に守られています。保育園などの入園前であれば、感染リスクは低いでしょう。逆に子どもが成長し免疫機能が高まると、ウイルスを排出する期間や量も減少するので、感染したり感染させたりしにくくなります。さらに、子どもは成長するにつれて親と密着しなくなっていくので、徐々に家庭内感染のリスクは低下していきます。
●こまめな手洗いとうがいを行う
インフルエンザの感染予防のためには、多くの人が触れる場所に触った手で、目や口、鼻などをいじらないようにし、帰宅後や食前などに、石けんと流水で15秒以上かけて手を洗いましょう。指の股や爪の間、手の甲、手首なども丁寧に洗い、洗った時間の2倍の時間をかけてしっかりと流水ですすいで、清潔なタオルなどで水分を拭き取り乾燥させます。
また、口やのどの粘膜を潤しておくことは、体内へのウイルスの侵入予防に役立ちます。もし子どもが上手にできるようなら、うがいも習慣化するとよいでしょう。
●人混みには注意する
インフルエンザの流行時にはなるべく人混みに出かけず、出かける場合はマスクを着けましょう。子どもに合ったサイズで、口と鼻の穴をしっかり覆ってすき間ができず、着けていても痛みや息苦しさがないマスクを用意してあげてください。ただし、就学前の子どもは、マスクを着けることによって呼吸がしにくくなったり、体調の変化に親が気づきにくくなったりする場合もあるため、無理にマスクを着用させなくてもよいでしょう。
●規則正しい生活
十分な睡眠、バランスのよい食事、適度に体を動かすなど、子どもに規則正しい生活をさせるようにし、免疫機能の低下を防ぎましょう。
●室内を乾燥させず、定期的に換気も行う
空気が乾燥していると、ウイルスが空気中を浮遊しやすくなると共に、口やのどの粘膜も乾燥してウイルスが体内に侵入しやすくなります。加湿器などを活用し、室内の湿度を50〜60%に保ちましょう。また、空気中のインフルエンザウイルスを屋外に排出するために、換気も行いましょう。厚生労働省は「1時間に2回以上(数分間程度/回)、風の流れができるように2方向の窓を全開にする」としていますが、無理のない範囲で行ってください。
換気の方法や加湿器の上手な使い方は、大正健康ナビ「換気と加湿の新常識。冬の感染症対策とは…?」も参考にしてください。
●清掃を心がけ、過密状態を避ける
家庭内でもドアノブやスイッチ、リモコンなど、人の手が触れやすいところは消毒用アルコールなどで掃除してください。家庭内であっても人が集まる過密状態を避けることも、感染予防には大切です。
●インフルエンザワクチンを接種する
ワクチンは感染を100%予防できるものではありませんが、発症や重症化を抑える効果があります。ワクチンの効果が現れるのは、接種して約2週間後から。接種時期の目安は、通常、10~11月頃です。流行シーズンに入ってからでも有効ですが、早めに接種するとよいでしょう。また、インフルエンザウイルスには複数の型があるので、既に罹患した子どもでも接種する意義はあります。
インフルエンザ予防のワクチンは、皮下注射の不活化ワクチンと、2024年度から使用可能となった鼻の中に噴霧するタイプの生ワクチンの2種類。効果はおおむね同等と考えられますが、噴霧タイプのワクチンは、接種できる年齢が2歳以上19歳未満で、注射に比べると痛みがないという特徴があります。ただし、生ワクチンであることから、免疫不全(免疫抑制剤を使用している、免疫不全の病気があるなど)や喘息がある子ども、家族など周囲に免疫不全患者がいる子どもは不活化ワクチンが推奨されています。
感染予防は無理のない範囲で!
感染予防のポイントをご紹介しましたが、子どもが日々を楽しく過ごすことも大切です。親も子どもも無理のない範囲で取り組むとよいでしょう。
早めの対処が大切!
子どもがインフルエンザにかかると、突然の高熱や、ぐったりとして元気がないといった症状が現れます。インフルエンザにかかっても高熱が出ず、微熱や平熱の場合もありますが、体や関節の痛み、倦怠感、頭痛などがある場合は、インフルエンザが疑われます。
早めに対処すると、回復しやすく重症化を防ぐことも可能です。一般用検査薬として承認されたインフルエンザと新型コロナの両方を検査できるキットも市販されているので、家庭に常備し、いつもと異なる様子があれば活用してみるのも一案でしょう。ただしあくまでも検査であり、病気を診断できるものではありません。明らかな症状があるなら、速やかに病院を受診してください。
また、発熱や痛みがつらい時のために市販の解熱鎮痛薬を用意しておくのもよいでしょう。解熱鎮痛薬には様々な種類がありますが、インフルエンザ脳症重症化のリスクが低いアセトアミノフェンが成分の薬剤を選んでください。
病院の受診・治療
インフルエンザウイルスは、発症後12時間は十分に増殖せず、感染していても検査結果が陰性になる場合があります。また、発症から48時間以上を経過すると抗インフルエンザ薬の効果が得にくくなります。そのため、病院の受診は発症してから12~48時間の間が望ましいです。病院を受診する場合は、感染を広げないために事前に病院に連絡をしましょう。
解熱後すぐに登園・登校できる?
インフルエンザは解熱後も感染力が持続します。学校保健安全法に定められているように、発症した日を0日目として「発症した後5日を経過し、かつ、熱が下がった後2日(幼児では3日)を経過」してから登園や登校が可能になります。
家庭内に感染した人が出た場合に、家族に感染を広げないためのポイントをご紹介します。全てを徹底して行うのは難しいかもしれませんが、できることから取り組んでください。
●家の中でもマスクを着用する
家の中でも、感染した人以外も含め家族全員でマスクを着用し、飛沫感染を防ぐという予防法もあります。ただし、就学前の子どもは無理に着用する必要はありません。
●こまめな手洗い
帰宅後や食事の前、トイレの後だけでなく、日常生活の中で石けんを使ってこまめに手を洗うようにしましょう。看病にあたる人は、看病をした後にも必ず手洗いを行ってください。
●可能な限り部屋を分ける
感染した人とは部屋を分けて生活し、感染した人と家族は食事の時間を分けるようにしてください。
●タオルや食器を共有しない
タオル、食器などは共有せず、使用後はできるだけ早く洗剤を使って洗ったり、消毒用アルコールや熱湯で消毒したりしましょう。
●アルコール消毒を行う
ドアノブやスイッチなどの人が触れやすい場所やおもちゃは、消毒用アルコールなどを使い念入りに消毒するとよいでしょう。トイレや洗面所といった共有スペースの消毒もおすすめですが、使うたびに行うのは難しいので、できる範囲で行えば問題ありません。
●加湿と換気を行う
インフルエンザウイルスが空気中に浮遊しないように、加湿器などを使って室内の湿度を50〜60%に保ちます。換気も行い、インフルエンザウイルスを屋外に排出しましょう。
●家族みんなでインフルエンザワクチンを接種する
インフルエンザに感染すると重症化しやすいのは、子どもに加え、妊婦、高齢者、糖尿病や、呼吸器、腎臓、心臓などに慢性疾患のある人です。ご家族にそのような人はいませんか? 妊娠中や疾患の治療中の場合は医師にも相談しながら、子どもだけでなく家族みんなのワクチン接種を検討してください。
子どもの看病の注意点
●看病は限られた人が行う
家族の中で看病にあたる人を1人に決めましょう。感染を広げるのを防ぐだけでなく、決まった人が看病をすることで、脱水や意識障害など危険を示す小さな兆候にも気づきやすいという利点があります。また、高齢者や妊婦、持病のある人などは、どうしても他に看病できる人がいないという場合を除き、極力看病にあたらないようにしてください。
●こまめに水分を摂らせる
高熱が出て汗をかくため、子どもが脱水症状を起こさないように水分を摂らせてください。塩分も補える経口補水液などを活用するとよいでしょう。
●子どもの快適さを大切にし、無理をさせない
体温の上がり始めは寒気や震えが起こりやすいため、布団を重ねたりして暖かな環境で休ませてあげましょう。体温が上がりきったら、室温や着衣なども調整して熱がこもらないようにしてください。
吐き気がある時は、水分補給ができていれば無理に食事を摂らせる必要はありません。水分も、一度にたくさん飲ませるとさらに戻してしまったり体に負担をかけてしまったりするので、口を湿らす程度にしてください。食欲が戻ってきたら、子どもが口にしやすい物を食べさせましょう。水分も栄養も摂れてのど越しがよく、消化しやすい、うどんやおかゆ、ゼリーやプリンなどがおすすめです。
●処方された抗インフルエンザ薬は正しく服用する
抗インフルエンザ薬の効果で熱が治まったとしても体内にウイルスは残っています。途中で服用をやめてしまうと、症状がぶり返したり、重症化したりするので、処方された薬はしっかり飲み切りましょう。
インフルエンザの対策等については、大正健康ナビの「インフルエンザ」や「インフルエンザ対策の基礎知識(動画)」も参考にしてください。