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メノポハンドとは。更年期の手指のこわばりや痛み、その対策で十分?

メノポハンドとは。更年期の手指のこわばりや痛み、その対策で十分?

更年期世代の女性に多くみられる、手指のこわばりや痛み、しびれ、変形。「朝起きると指が動かしにくい」「布巾を絞ると痛みが出る」という人も多いのではないでしょうか。日本手外科学会は2022年に、このような症状を「メノポハンド」(メノポーザルハンドの略)と命名しました。メノポーザル(menopausal)とは更年期を意味する言葉であり、更年期症状の1つと位置づけられたのです。しかし、不調が起こる背景には様々な要因があり、ホルモン補充療法などの更年期に対する治療だけでは対処としては不十分といえます。
少しでも長く手指の健康な状態を維持するためには、その使い方に注意しながら過ごしていくことが大切です。手外科専門医として診療に長く携わってきた池口良輔先生に、更年期女性の手指に起こる不調の要因や対策について解説していただきます。

監修プロフィール
京都大学医学部附属病院 リハビリテーション科教授 いけぐち・りょうすけ 池口 良輔 先生

医学博士、日本整形外科学会認定専門医、日本リハビリテーション医学会代議員、日本末梢神経学会理事、日本手外科学会理事など。静岡県立総合病院、京都大学大学院、University of Pittsburgh Visiting Research Fellow、神戸市立医療センター中央市民病院医長などを経て、2024年から現職。専門は、再生リハビリテーション、手外科、マイクロサージャリー、四肢の再建。著書に『手指の痛み・しびれ・はれ・変形 自力でよくなる!名医が教える最新1分体操大全』(文響社)がある。

メノポハンドの症状は。更年期女性に現れやすい6つの手指の病気

手指のこわばりや痛みの原因となる更年期の女性に多い手指の病気は、主に次の6つです。メノポハンドの症状について見てみましょう。

①第1関節に起こる「ヘバーデン結節」
ヘバーデン結節は、関節にある軟骨がすり減ることによって炎症が起こり、こわばりや痛み、腫れが出ます。軟骨の摩耗がさらに進行して関節の隙間が狭くなると、骨と骨がぶつかりあうようになり、損傷した骨を守るためにとげのような隆起(骨棘:こつきょく)ができて強い痛みが生じたり、骨が徐々に変形したりします。関節の左右がこぶのように膨らむ「結節」や、爪のつけ根付近に「粘液嚢腫(ねんえきのうしゅ)」と呼ばれる水ぶくれも見られます。
症状は、親指を除く4本の指の第1関節に出ますが、まれに親指に起こることも。炎症が治まると痛みや腫れは和らぎますが、骨が変形してしまうと指が動かしにくくなります。

手の第一関節に症状が出やすいヘバーデン結節のイラスト

②第2関節に起こる「ブシャール結節」
ブシャール結節は、ヘバーデン結節と同様の症状が第2関節に生じます。第2関節は指の曲げ伸ばしに深くかかわるため、ブシャール結節が起こると普段何気なく行っている動作に大きな支障を来します。

手の第二関節に症状が出やすい「ブシャール結節」のイラスト

③親指のつけ根に起こる「母指CM関節症」
母指CM関節症は親指に力を入れる動作によって、親指(母指)のつけ根の関節(CM関節)に、ヘバーデン結節、ブシャール結節と同様の症状が現れます。進行するとこの関節付近が膨らんで親指が開きにくくなったり、親指の指先の関節が曲がったりします。

手の親指のつけ根に症状が出やすい「母指CM関節症」のイラスト

④小指以外の指に起こる「手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)」
手根管とは、手のひらと手首の中を通る、骨と靭帯に囲まれた小さなトンネルのような組織。その中を、指につながる腱(けん)と、小指以外の指の感覚や動きにかかわる神経(正中神経)が通っています。手根管症候群は、手根管の中の腱を覆う滑膜がむくんだり手根管を囲む靭帯が厚くなったりして、手根管内で神経が圧迫されると、小指以外の4本の指に痛みやしびれを感じるようになり、進行すると物をつまむ・握るといった動作に支障を来します。

手の小指以外の指に症状が出やすい「手根管症候群」のイラスト

⑤腱鞘炎(けんしょうえん)によって起こる「ばね指」
腱鞘炎とは、骨と筋肉をつないで手指の曲げ伸ばしを可能にしている腱が太くなったり、腱を包む腱鞘が硬く厚くなったりして、腱と腱鞘がこすれ合うことで生じる炎症です。
腱鞘炎の中で、指に起こるものがばね指です。指を曲げ伸ばしすると引っ掛かるような感覚があり、カクンと跳ねるような動きが生じます。どの指にも起こりますが特に中指や親指によく見られ、進行すると指が動きにくくなり、強い痛みを感じることもあります。

腱鞘炎(けんしょうえん)によって起こる「ばね指」のイラスト

⑥手首に起こる「ドケルバン病」

ドケルバン病は、手首の親指側の腱に生じる腱鞘炎で、親指を動かすと手首に痛みを感じます。手根管症候群や関節リウマチと併発しやすいという特徴があります。

手首に起こる腱鞘炎「ドケルバン病」 のイラスト

メノポハンドの原因は。手指のこわばりや痛みが起こるのはなぜ?

更年期に手指のこわばりや痛みが出るメノポハンドの要因は明らかにはなっていませんが、女性ホルモンの分泌量の変化や加齢、生活習慣など様々な要因が重なって症状を招いていると考えられます。

要因① エストロゲンの減少
メノポハンドの大きな要因として考えられているのが、女性ホルモンのバランスの変化です。
更年期には、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が減少します。エストロゲンには、関節のスムーズな動きや修復を助ける滑膜の働きを保護する役割があるため、エストロゲンが減少すると、関節が動かしにくくなったり炎症が生じやすくなったりします。また、エストロゲンは骨の形成や筋肉量の維持にも欠かせない存在であり、その減少は関節軟骨の摩耗や関節への負担増につながります。
これらのことから、特に更年期の女性は手指の不調が起こりやすくなります。エストロゲンの分泌量が変化する産後や授乳中も手のこわばりや痛みなどが起こることがあり、そのような経験のある人は更年期にも注意が必要です。なお、女性は更年期以降に骨粗鬆症(こつそしょうしょう)のリスクが高まりますが、骨粗鬆症と手指の不調との関係は明らかになっていません。
要因② 加齢
加齢に伴って指の関節の軟骨がすり減りやすくなり、関節に負担がかかってメノポハンドを発症します。また、神経の周囲の骨や靭帯の衰え、筋肉量の低下も影響すると考えられています。
要因③ 日常動作
次のような日常動作が手指に負担をかけ、メノポハンドの原因になることがあります。同じ動作を長時間続けることも避けましょう。
・パソコンのキーボードを、手首を反らせた状態で打つ→神経を圧迫し手根管症候群のリスクが高くなります。
・片手でスマートフォンを使う→親指に負担をかけやすく、ドケルバン病に注意が必要です。スマートフォンを小指で支えて使うのも控えましょう。

メノポハンドの原因となりうる動作である、片手でスマートフォンを使うイメージ画像

・物をつまんだり握ったりする動作を繰り返す→親指のつけ根には指先にかかった力の約12倍の負荷がかかるとされ、母指CM関節症の原因になります。
要因④ 遺伝
ヘバーデン結節は、母親や祖母が発症している女性に起こりやすい傾向があり、遺伝的な要因が指摘されています。
要因⑤ 病気やその治療、けが
手根管症候群やドケルバン病は、糖尿病や長期にわたる人工透析によって引き起こされることがあります。また、手根管症候群は骨折などで手首に変形がある場合もリスクが高まります。

朝、手指が動かしにくいのには理由がある

朝は手指のこわばりや痛みが強く、我慢して家事や仕事をしているうちに動かしにくさが解消されていくという人も多くいます。実際に、手根管症候群の症状が強まるのは夜間から明け方が多く、ばね指やドケルバン病も症状が朝に現れやすいという特徴があります。
その理由は、寝ている間は長時間手指を動かさないため、関節を滑らかに動かす関節液が滞り、関節周辺が硬直しやすくなるためだと考えられます。また、筋肉を動かさないことで血流が低下したり体が冷えたりすることも一因になります。
朝目覚めたら、まず布団の中で指をゆっくりと動かすようにすると、血行も促され、動かしにくさが和らぐでしょう。

メノポハンドは「ホルモン補充療法で解決!」とはなりません

メノポハンドによる手指のこわばりや痛みには波があり、中には症状が改善したと感じる人もいます。しかし、治療せずに放置すれば7~10年で指が変形する可能性があり、変形してしまうと元には戻りません。「更年期だからしょうがない」などと思わず、早めに診断を受け適切な治療に取り組むことが重要です。

様々な要因が重なって起こるため更年期症状の治療だけでは不十分
エストロゲンの減少が主な要因に挙げられ、更年期症状にも数えられるため、「手指の不調は更年期症状を改善するホルモン補充療法(HRT)で解決できるのでは?」とも考えられがちです。確かにホルモン補充療法で、ある程度の効果が期待できることもありますが、手指の不調はエストロゲンの減少以外にも様々な要因が重なって生じるもの。そのため、ホルモン補充療法だけで十分な治療とはいえません。
治療は、消炎鎮痛剤や湿布による薬物療法、ホットパックなどでの温熱療法、サポーターを使い関節を安静にする装具療法といった保存療法が基本。症状や進行状況によって変わり、関節の可動域が狭くなった場合などは手術という選択肢も出てきます。

メノポハンドで受診するなら手の外科の専門医がおすすめ
ホットフラッシュなど手指以外の更年期症状も強く出ている場合は婦人科を受診するのも一案ですが、手指の不調がつらいのなら、まずは整形外科に相談しましょう。おすすめは手の外科の専門医です。日本手外科学会のHPには医師のリストが掲載されているので、通院しやすい医師を探してみてください。
一般社団法人日本手外科学会 手外科専門医名簿

手指の不調でまず疑われるのは「関節リウマチ」
全身性エリテマトーデス(膠原病)、パーキンソン病、線維筋痛症、脳卒中、糖尿病、頚椎症などによっても手指の不調は現れますが、自覚症状がある人が真っ先に疑うのが関節リウマチです。

正常な手と関節リウマチを患った手のイメージイラスト

関節リウマチは自己免疫疾患で、慢性的な炎症によって関節が破壊されていく病気です。初期は手指や手首にこわばりや痛み、腫れなどが出やすく、朝に強い症状が現れるなど、メノポハンドと重なる部分が多く、一般的な認知度も高いため、真っ先に疑われる病気でもあります。その一方で、腫れがブヨブヨと軟らかい、症状が左右対称に現れ長く続く、手指だけでなく肩や股関節にも出るなど、更年期の手指の不調とは異なる点も。とはいえ自己診断できるものではなく、更年期の手指のこわばりや痛みとは原因も治療法も異なります。
関節リウマチも早期発見と早期治療が重要なので、不調を感じたら躊躇せずに整形外科、できれば手の外科専門医に相談し、適切な治療を受けるようにしましょう。
関節リウマチの原因や治療法などについては、疾患ナビ「関節リウマチ」もご覧ください。

更年期女性におすすめ! メノポハンドの予防や進行を遅らせるのに役立つ日常生活のポイント

ポイント① 体を冷やさない
エストロゲンの分泌の指令を出している脳の視床下部は、自律神経もコントロールしているため、更年期におけるエストロゲンの減少は視床下部に影響し、自律神経の乱れにつながることも。その結果、更年期になって体の冷えを強く感じる人が出てきます。体の冷えは血行を低下させ、手指のこわばりや痛みを悪化させるので、日頃から体を冷やさないように心がけましょう。
規則正しい生活は自律神経の調整に欠かせないもので、冷え対策にも有効です。また、入浴時に湯船にゆっくり浸かったり、適度な運動や手指のマッサージを行ったりして血流を促すのもおすすめです。更年期は仕事もプライベートも忙しく、ストレスがたまりやすい時期。ストレスも血行不良の原因になるので、自分にあった方法でストレス解消に取り組んでみてください。

ポイント② 手指は負担をかけないようにしながら使う
手指の使い過ぎには注意が必要ですが、仕事も家事もやらないわけにはいきません。日常生活の中では次のようなことを意識したり取り入れたりして、手指の負担を軽減させましょう。
●同じ動作を長時間続けない
同じ動作を続けると、手指の同じ箇所に負担がかかり続けることに。時間を決めて、休憩を挟みながら行うようにしましょう。
●大きな関節を使って動作する
物を取る、ふたを開けるなどといった動作を指先だけで行うと、細く小さな指の関節にだけ過度な負担がかかってしまいます。手首やひじ、肩などの大きな関節も使った動作にすると、力が分散でき、指の関節への負担を軽減できます。
●便利なアイテムや機能を活用する
筆記具や調理道具などの日常的に使うものは、グリップが細い物より太い物のほうが手指への負担が軽くなります。できるだけグリップの太い物を選ぶか、グリップにテープなどを巻いてグリップを太くして使いましょう。ペットボトルのふたを開けやすくする滑り止めシート、髪を洗うためのシャンプーブラシ、キーボードやマウスの前に置いて手首をのせるリストレスト、スマートフォンの音声入力など、手指の負担を軽減する便利なアイテムや機能は積極的に活用してください。
●痛みやしびれがある時も無理のない範囲で動かす
痛みやしびれがあると手を動かさないほうがいいようにも思いがちですが、過度に安静にしていると手指の筋力が衰えると共に血行が低下し、症状が改善されにくくなります。症状があっても、無理のない範囲で手指を動かすようにしてください。痛みの出ている箇所をテーピングや装具で固定すると、関節の負担が和らぎます。

ポイント③ 食事で必要な栄養を摂取する
バランスのとれた食事は健康の基本です。さらに、手指の健康維持に役立つ次のような栄養素も積極的に摂取するようにしましょう。
●腱や骨、筋肉、関節の健康維持や血行促進に役立つ栄養素
タンパク質、カルシウム、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ミネラル類

手指のこわばりや痛みの症状改善に役立つエクササイズ

手指のこわばりや痛みの原因となる病気に合わせた、症状改善に役立つエクササイズをご紹介します。入浴後など血行がよい状態の時に、力を入れ過ぎずゆっくりとした動作で、無理のない範囲で行ってください。強い痛みや腫れ、関節が熱をもっている場合は控えましょう。
ヘバーデン結節・ブシャール結節におすすめ「関節プッシュ」
①テーブルなどに手のひらをつけ、反対の手の指で人差し指の第1関節を小指方向に向けて3秒押す。同様に、中指、薬指、小指も押す。
②①を5回繰り返す。
③反対の手も同様に行う。
※ブシャール結節の場合は第2関節を押す。

ヘバーデン結節やブシャール結節の症状改善に役立つ「関節プッシュ」のイメージイラスト

母指CM関節症におすすめ「親指伸ばし」
①親指を伸ばして小指のつけ根に触れて6秒キープする。
②①を10回繰り返す。
③反対の手も同様に行う。

母指CM関節症の症状改善に役立つ「親指伸ばし」のイメージイラスト

手根管症候群、ばね指、ドケルバン病におすすめ「手首ストレッチ」
①手のひらを上に向けた状態で手を前に伸ばす。
②反対の手で人差し指から小指を5~7秒反らせる。
③同様に親指も5~7秒反らせる。
④①~③を3セット行う。
⑤反対の手も同様に行う。

手根管症候群、ばね指、ドケルバン病の症状改善に役立つ「手首ストレッチ」のイメージイラスト

更年期の今からでも、気づいたら早めに取り組むことが大切

これまでご紹介したセルフケアは、更年期前から予防的に取り組むのがおすすめです。しかし、手指にこわばりや痛みなどの症状が出てから始めても決して遅くはありません。手指の変化に気づいたら、早めに医療機関を受診すると共に日常的に取り組んでいきましょう。


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