冷えの原因は寒さ以外にも、自律神経の乱れやドロドロ血液、女性ホルモンの乱れなどがあります。冷えると肩こりや月経痛などを起こすだけでなく、肌や髪に栄養が届かず、老化を早めてしまうことに。生活習慣を改め、血行を促すマッサージやホットドリンクで冷え対策をしましょう。
※この記事は2016年2月のものです。
1992年金沢医科大学卒業後、東京大学第三内科、金沢医科大学循環器内科助手を経て現職。専門は女性疾患、漢方、高血圧、糖尿病、脂質異常症など。血流・血管の中でも特に微小循環に着目し、病気になる前の「未病」の状態から生活習慣の改善などを指導する先制医療を実践。著書に『血流美人』『血管の強化書』(共にワニブックス)他。
血液は体の隅々の細胞まで酸素や栄養を運び、二酸化炭素や老廃物を回収する働きをしています。さらに、体内でつくられた熱を全身に伝えることで体全体を温めているのも血液です。人は外気温が変化しても体温を一定に保つ機能を備えています。脳の視床下部にある体温調節中枢が皮膚にある温度センサーを通じて寒さを感じると、自律神経の働きにより血管を収縮、血流を減少させ体内の熱が奪われないようにしたり、筋肉を収縮させ震えを起こして熱を産生したりします。逆に暑さを感じると、自律神経による血管の拡張や発汗によって放熱し、体温の上昇を防ぎます。このような働きによって、体の中心部の体温(深部体温、脇下体温より約1℃高い)を脳や内臓の活動に最適な36.6~37.0℃に保っています。
人の免疫機能が最もよく働くのは、深部体温が37℃前後の時です。深部体温が35℃台になると体の機能に障害が出始め、34℃台になると体を思うように動かせなくなります。逆に40.5℃以上でも体温調節機能に障害が出て、自力では体温を下げられなくなります。
体には、重要な臓器が集まる体の中心部を一定の温度に保とうとする働きがあります。外気温が低い時は、体温を維持するために自律神経が働き、血管を収縮して手足にまわる血流を減少させ、血液を体の中心に集めます。そのため、中心温度は下がりませんが、手先や足先などの末端まで血液が行きわたらず、体感として冷えを感じます。
その他、次の原因により、熱を全身に伝えたり、酸素や栄養を運んだりする血液の役割が阻害されると、冷えが生じます。
東洋医学では、冷えは「冷え症」という病気として捉えています。「冷えは万病のもと」といわれるように、冷えると、肩こりや腰痛をはじめ、様々な不調が起こりやすくなります。冷えの感じ方は様々ですが、外見は血色もよく、健康そうでも、本人が冷えを感じている場合は冷え症だといえます。
冷えは血流の滞りなどによって感じます。血流が滞ると体の末端の老廃物をスムーズに処理することができず、次のような不調が現れやすくなります。
女性は男性に比べて筋肉の量が少なく、貧血や低血圧の人も多いことから、冷えやすいといえます。ただ男性にも冷えている人は多く、その原因の1つに血流の滞りを招く動脈硬化が考えられます。勃起不全(ED)も動脈硬化が原因で起こりやすくなります。心当たりがある場合、一度検査を受けてみるとよいでしょう。睡眠障害のある人も要注意です。
血液の流れがよい状態であれば、全身を巡ることができます。しかし粘度の高い、いわゆるドロドロ血液であると、体の末端に張り巡らされている毛細血管までは届きにくく、体の隅々まで酸素や栄養を運んだり、老廃物を回収したりすることができません。
血液の質は生活習慣、特に食生活の影響を強く受けます。次のような食べ物を摂り過ぎていないでしょうか。
このような食生活を続けていると血液中の糖質や脂質が増え、冷えや不調、病気の原因になります。
親が冷えを感じている場合、同じような食生活をしている子どもも冷えやすい体になっているケースがあります。家族の食生活に気を配ることは、肥満だけでなく、冷えを予防する意味でも大切です。
「肌年齢」という言葉があるように、肌の状態は実際の年齢とは別に、生活習慣や日々の対策によって変化するとされています。血行が悪いと肌の細胞に栄養が行き届かず、肌のターンオーバーが乱れます。通常、肌は代謝によって28日周期で新しい肌に生まれ変わります。しかし、代謝が乱れると次のような肌トラブルを招き、老化を早めてしまいます。
血行不良から目の下にクマができ、不健康な印象も与えてしまいます。
さらに頭皮や髪も、血行不良の影響を受けます。髪は根元にある毛母細胞でつくられますが、血行が滞り、十分な栄養が運ばれないと、薄毛や白髪の原因になります。
その他、血行不良により冷えを感じると、体は自然と縮こまります。そのため、姿勢が悪く猫背になる傾向にあり、老けて見られやすくなります。
血行不良を起こしているかどうかは、ある程度、見た目で確認することができます。次の部位をチェックしてみましょう。
しもやけは、手や足、耳などの体の末端や露出している部分にできやすいのが特徴です。冷えや寒さで末端の血行が悪くなった状態を放置することで起こります。子どもの頃からしもやけができやすかった人は冷えやすい体質で、大人になっても慢性的に冷えている傾向にあります。血行不良を改善する対策をとりましょう。
また、寒い場所で手が白色になってしまうレイノー症状がある場合は、自己免疫疾患が隠れていることもあるので、病院を受診しましょう。
血管は、体中に張り巡らされています。そのうちの99パーセントが、太い血管から枝分かれした毛細血管です。
毛細血管は細いため、血流が滞ったり詰まったりすると末端まで血液が届かず、冷えを感じやすくなります。
また、毛細血管は加齢と共に血管そのものの数が減ることが、近年の研究から分かっています。その数は20歳をピークに60歳以上では20歳の時の約60パーセントにまで減少します。
加齢により冷える原因には、毛細血管の数が減っていくことや、筋肉量が減って熱を産生できなくなること、加齢と共に「ゴースト血管(無機能血管)」が増えることなどが関係しています。「冷えは万病のもと」と言われる通り、ゴースト血管が増えると、様々な臓器の機能低下を引き起こします。血行をよくすることと同時に、ゴースト血管を増やさないための「血管の安定化」(参照:Tie2・リンパ・血管研究会)も、重要なポイントです。
頭部や手、足など末端のマッサージをして、全身の血行をよくしましょう。特に耳には、体を温める効果のあるツボやリンパ腺が密集しています。
冷えを感じている人は、冬場は特に次のような服装に注意しましょう。
血流をコントロールしている自律神経は、ストレスがかかることによってバランスを崩してしまいます。ストレスを受けると血管は収縮して、一気に血行が悪くなります。現代人は多かれ少なかれ、日々ストレスを感じているものです。なるべくその日のうちにリセットできるよう、ゆったり過ごす時間をつくりましょう。
首を温めると、手や足などの血流がよくなります。これは、首には末梢にある血管の体温調節を司るAVA(動静脈吻合)のスイッチがあるからです。ここを普段からしっかり温めておけば、体の隅々まで血液が行きわたり、温かく過ごすことができます。マフラーやスカーフを巻いて、全身の血行を促しましょう。
体を温める食品には、根菜類や、黒ごまなどの色の黒っぽい物、スパイスなどがありますが、手軽に摂るには、ホットドリンクを活用するのがおすすめです。
次の食材は、いずれもスーパーマーケットなどで手に入りやすいので、生活の中に取り入れてみるとよいでしょう。
体を温める作用のあるシナモンやしょうが、朝鮮人参などが含まれた、ドリンク剤や飲料も販売されています。冷えが気になる人はこれらを活用するのも一案です。