貧血は「血液中の赤血球やヘモグロビンが、基準値よりも少ない状態」を指し、女性の10人に1人は貧血ともいわれる身近な病気です。赤血球の中にあるヘモグロビンは体中に酸素を届ける役割をもつため、赤血球やヘモグロビンが減少すると体内の細胞は酸素欠乏状態となり、長く放置すると全身に貧血特有の症状を引き起こします。
自治医科大学大学院医学研究科修了。日本消化器病学会認定専門医、日本ヘリコバクター学会ピロリ菌感染症認定医、日本抗加齢医学会専門医、米国消化器病学会国際会員。『新しい腸の教科書』(池田書店)他著書多数。
貧血には様々な種類がありますが、約7割を占めるのが、体内の鉄不足によって起こる「鉄欠乏性貧血」です。赤血球の中には、鉄とタンパク質が結合してできた赤い色素のヘモグロビンがあり、ヘモグロビンが体中に酸素を届けたり、代謝で生じた二酸化炭素を回収したりしています。けれども体内の鉄が不足すると、ヘモグロビンがうまく合成できなくなってしまうのです。鉄不足の原因には次のものがあります。
胃の病気のある人や、胃腸を切る手術をした人は、鉄の吸収が妨げられやすくなります。また、痔、胃腸の潰瘍やがん、寄生虫による腸の傷、子宮筋腫などの病気が原因で、少量の出血でも、出血が長く続いていると鉄不足を招き、貧血を起こすことがあります。
また、赤血球のトラブルが原因で貧血を起こすこともあります。骨髄の働きが衰えて赤血球だけでなく、白血球や血小板の産生が低下する「再生不良性貧血」、ビタミンB12や葉酸不足により正常な赤血球が生産されなくなる「悪性貧血(巨赤芽球[きょせきがきゅう]性貧血)」、遺伝や自己免疫疾患などが原因で赤血球が破壊される「溶血性貧血」などの病気が挙げられます。
貧血になると、全身の細胞が酸素欠乏になったり、二酸化炭素がたまったりするため、現れる症状は多岐にわたります。ただし急激な症状としては現れず、徐々に以下のような体調不良が現れてきます。これを年齢や体質のせいだと思い込み、貧血と気づかずに生活をしている人が少なくないのが実情です。
貧血はすぐには症状が現れないため、貧血になりやすい女性は特に、健診などで定期的な検査を受けることが大切です。また、貧血と似た症状が別の病気が原因で起こっている場合もあるため、貧血を疑う症状がある場合は軽く考えずに受診しましょう。まず、血液検査でヘモグロビンの量と赤血球の数を測定し貧血か否かを調べます。さらに必要に応じて詳しい検査をし、貧血の種類を特定します。貧血の診断の目安は次の通りです。
成人男性 13g/dl以下
成人女性 12g/dl以下
高齢者 11g/dl以下
成人男性 400万個/μl以下
成人女性 350万個/μl以下
鉄欠乏性貧血と診断された場合には、鉄剤の投与が行われます。
同時に食事からも十分な鉄を摂取できるよう、食生活改善の指導が行われます。汗や尿によって体外に排出される鉄の量は、1日に1mg。食事から摂取した鉄は、体内では約10%しか吸収されないため、1日に必要な鉄の量は10mgです。ただし、毎月の月経で血液を失う女性は、それより多い12mgの摂取が必要となります。
鉄は体を維持するための大切なミネラルであるため、通常の状態ではなるべく減らないよう、一定量を保つ仕組みになっています。そのため、急速に鉄不足の症状が出るわけではありませんが、一度不足してしまうと、吸収されにくいために補充が難しいのも鉄の特徴です。
また鉄が一度に体に吸収される量には限界があり、過剰に摂った分は体外に排出されてしまうので、一度にたくさんの鉄を摂取するのではなく、毎日コツコツ必要な量の鉄分を食事などから摂ることが大切です。
貧血の予防には、規則正しい食生活と鉄の摂取を心がけることはもちろん、鉄の吸収を助ける栄養素や、血液の産生を助ける栄養素を一緒に組み合わせて、効率を高める工夫をしましょう。
鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があり、レバーや肉類、魚類などに含まれるヘム鉄は、体内で効率よく吸収されます。
一方、野菜や豆類、穀類、海藻、卵などに含まれる非ヘム鉄は、ヘム鉄に比べて体内への吸収率が低いことが分かっていますが、動物性の食品(肉類・魚介類・牛乳・乳製品)と組み合わせることで吸収率が高まります。鉄と共に摂取を意識したい栄養素は以下の通りです。
顔色の赤みはヘモグロビンの赤い色素からくるので、貧血の人は赤みが少なくなり、顔色が悪く見えます。目の下のくまも、酸素が不足した古い血液が滞っているしるし。また、肌がカサカサしたり、口角炎ができたりすることもあります。髪がパサついたり、抜け毛が増えたりすることもあるので、手抜きの食事やダイエット、偏食による鉄不足は要注意です。
鉄は毎日コツコツ摂ることが大事です。1日3食少しずつ鉄が豊富な食材を摂ることを心がけつつ、不足してしまう場合には、鉄が含まれた市販のドリンク剤やサプリメントを取り入れるのも一案です。なお、ドリンク剤やサプリメントを摂る場合には、お茶やコーヒー、紅茶などを一緒に摂らず、2時間くらい間を空けることをおすすめします。これらに含まれる苦み成分タンニンには、鉄と結びついて鉄の吸収を妨げる作用があるのでご注意を。