サウナの醍醐味は「心身がととのう」ことだといわれています。近年、老若男女を問わず「サウナ」を楽しむ人が増え、サウナを楽しむ活動=「サ活」という言葉も登場しています。初心者でも安心してより効果的にサウナを楽しむ方法について、サウナ愛好家で自律神経の研究者・小林弘幸先生にうかがいました。
1987年順天堂大学医学部卒業。同大学大学院医学研究科(小児外科)修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科などに勤務後、順天堂大学医学部小児外科学講師・助教授などを歴任し、現在に至る。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。自律神経研究の第一人者であり、多くのアスリートの指導にかかわっている。また順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した‟腸のスペシャリスト“としても活躍。著書に『一流の人をつくる 整える習慣』『自律神経を整える「あきらめる」健康法』(KADOKAWA)、『自律神経が整う時間コントロール術』(小学館)、『聞くだけで自律神経が整うCDブック』(アスコム)、『小林弘幸式2週間プログラム 朝だけ腸活ダイエット』(ワニブックス)など多数。YouTubeチャンネル「ドクター小林の健康塾」で健康情報を発信している。
サウナに入った後、体が軽く感じ、気分がスッキリすることを、サウナ愛好家の間では「ととのう」という言葉で表現していますが、この感覚は医学的にどういう状態なのでしょう。
「“ととのう”とはサウナの刺激で自律神経が働いて血流がよくなった状態」だと小林先生は言います。自律神経には活動時に優位になる「交感神経」と、休息時に優位になる「副交感神経」とがあり、私たちの体はこれを無意識に切り替えて血流や呼吸、睡眠や体温などをコントロールしています。しかし過度なストレスや運動不足、不規則な生活などで自律神経の働きが乱れると、スムーズな切り替えが困難になり心身に不調を来してしまいます。
サウナ・水風呂・外気浴を行うと、その急激な温度変化が体に適度な刺激となって、自律神経の働きをととのえていきます(下図参照)。血流は体調に大きく影響し、血流をコントロールしているのが自律神経です。サウナで温まり、自律神経が働いて血流がよくなることで感じる気持ちよさが「ととのう」の正体なのです。
血流を促すという点では運動に近い効果も期待できるサウナ。サウナを習慣にすることで健康や美容面で得られるメリットには次のようなものがあります。
●自律神経の不調による症状を和らげる
血管や内臓組織の働きなどにかかわる自律神経は、いわば生命活動の維持装置。交感神経と副交感神経がそれぞれアクセルとブレーキの役割を担い、体を調整していますが、バランスが乱れると心身に不調をもたらします。例えば、これといった原因はないのに不調が続く「不定愁訴(ふていしゅうそ)」や、不眠・食欲不振・めまい・息切れ・便秘や下痢などの症状が現れる「自律神経失調症」。女性の「更年期」に現れる諸症状も、自律神経の不調による血流のうっ滞が根底にあります。習慣的にサウナを利用することで自律神経のバランスがととのうと、こうした不調が緩和されていきます。
●血管の筋トレで動脈硬化を予防
人は血流がよくなると、動脈内で血圧や血流などをコントロールしている「内皮(ないひ)細胞」の働きが活発になります。すると血中に一酸化窒素が豊富に分泌されて血管が軟らかくなるため、加齢や生活習慣によって血管が硬くなる「動脈硬化」の予防・改善が期待できます。動脈硬化は自覚症状のないまま進行し、様々な循環器系疾患を引き起こすため、50代を迎えたら注意が必要。サウナ習慣で血管をしなやかに「筋トレ」して予防しましょう。
●血液サラサラで美肌や育毛に
美肌のためには肌の「ターンオーバー」が正常に行われていることが大切。ターンオーバーとは、皮膚細胞が一定周期で生まれ変わる仕組みのことで、そのカギを握るのが毛細血管の血流です。毛細血管は体の隅々へ酸素や栄養を送り届け、二酸化炭素や老廃物を静脈へ送り出す重要な役割を担っています。皮膚細胞の周りにある毛細血管の血流がよいと皮膚細胞の代謝が促され、肌のターンオーバーを円滑にします。さらに老化した毛細血管の再生=血管新生も活発になり、美肌や育毛に役立ちます。
●腸が温まって心がととのう
腸が温まり活発に働くことによるメリットは多々ありますが、注目したいのは脳への影響です。「脳腸相関(のうちょうそうかん)」といって脳と腸は互いに影響し合い、腸の働きがよいと脳にもよい影響があります。サウナでお腹が温まり気持ちよさを感じると、脳内で「オキシトシン」というホルモンの分泌が促されて多幸感が高まります。サウナに入るとリラックスできるのは、オキシトシンの分泌も作用しているからなのです。
心身の不調をととのえ、生活習慣病の予防や改善に役立つサウナ。健康的に利用するためには、次のポイントを押さえておきましょう。ただし、既往症がある人は、医師に相談してから利用してください。
① 時間・回数にルールなし。自分の最適を見つけよう
サウナ・水風呂・外気浴を1セットとし、何度か繰り返すのが一般的ですが、時間や回数に絶対はありません。大切なのは、自律神経を動かす適度な刺激と休憩で「気持ちいい」と感じること。その感覚はサウナや水風呂の温度、体質や体調によって異なるため、自分が気持ちいいと感じる範囲内で楽しみましょう。我慢や無理は心身にストレスがかかったり、健康面でもマイナスになってしまうこともあります。健康維持には週に2〜3回程度の利用がよいリズムです。
②水風呂はマストではない
サウナで温まった体を直ちに冷ますと自律神経が刺激を受けて、サウナ効果は高まります。水風呂はすぐに体表面温度を下げ、深部体温を上げて交感神経を活発にします。長く浸かる必要はなく、体がポカポカし始める1分間程度で十分。水風呂が苦手な場合は無理をせず、代わりに温度調節した水シャワーを浴びてもOKです。
③自律神経のサイクルに合わせ、朝と夕方に入ると効果的
朝と夕方は自律神経の優位が切り替わるタイミング。朝に入れば交感神経を刺激して日中の活力アップに、夕方に入れば副交感神経への切り替えをスムーズにして、眠りの質を高める効果が期待できます。朝夕は血流も滞りがち。この時間帯のサウナは血流改善にも効果的です。
④水分補給で脱水の危険を防ぐ
サウナでは大量の汗をかきます。脱水による危険を防ぐため、できれば飲用水を持ち込んで水分補給しながら入るのが理想的です。飲用水の持ち込みができない施設なら、サウナの前後でしっかり水分補給をしましょう。経口補水液やスポーツドリンクもおすすめです。
⑤飲酒前後のサウナはNG
お酒を飲んだ後、サウナに入る人がいますが、この行為は大変危険です。アルコールには利尿作用があり、分解時には体内の水分を消費します。したがって飲酒後のサウナは脱水のダブルパンチ。サウナの直後にお酒を飲むのも避けましょう。水分補給をしたとしても体は脱水気味。言わずもがなですが、お酒は水分補給にはなりません。
自律神経のコントロールと呼吸には密接な関係があります。人は恐怖や不安を感じるとドキドキと動悸がして、呼吸が浅くなるものです。そこで落ち着くために深呼吸をしますが、これは呼吸によって副交感神経の働きを優位にし、緊張で高まった交感神経を抑えているのです。
サウナでも呼吸を意識しながら入ると自律神経の働きを促し、同時に肺の動きを支える「呼吸筋」の鍛錬になります。また、サウナ中にストレッチをすると、筋肉を伸縮する動きが血流や腸の働きを促します。以下はサウナを習慣的に利用している小林先生おすすめの呼吸法とストレッチです。
6秒間かけて口からゆっくりと息を吐いた後、3秒間かけて鼻から大きく息を吸う。これを繰り返す。
①頭上で両手首を交差させ、上体を伸ばす。
②息を大きく吐きながら、ゆっくりと上体を片方に倒す。
③息を吸って元の位置に戻り、再び息を大きく吐きながら、上体を逆側へ倒す。
①両ひじを胸の高さに上げる。
②息を吐きながら、両腕を内側にひねり、両手の甲を合わせる。
③次に、息を吸いながら両腕を開き、胸郭も開いて肩甲骨を寄せる。
「“心・技・体”といいますが、順番でいうとその逆の“体・技・心 ”が正解。体がしっかりしてこそ健やかな心や能力がついてくる」と小林先生。コロナ禍において私たちの生活は変わり、多くの人が不安や不調を感じています。不調に気づかず悪化させてしまう人もいます。今こそ体の声に耳を傾け、気持ちいいと感じることで心と体をととのえていきましょう。その1つの手段としてサウナを楽しんでみてはいかがですか?