お尻の穴(肛門)のかゆみ

お尻の穴(肛門)のかゆみ

お尻の穴(肛門)のかゆみは、何らかの病気であるケースは少なく、ほとんどはお尻の洗い過ぎや、下痢などの便通異常によって肌の「バリア機能」が失われ、肌が刺激されることで引き起こされます。さらに、「かゆい→かく→肌が荒れてさらにかゆくなる→肌をかき壊してしまう…」といった悪循環によって悪化してしまいがちです。お尻の正しい洗い方やスキンケアを知り、腸活で便秘や下痢を防いで、お尻の穴(肛門)のかゆみを予防・改善していきましょう。

監修プロフィール
平田肛門科医院 院長 ひらた・ゆうご 平田 悠悟 先生

医学博士。2009年筑波大学医学専門学群卒業後、東京大学大腸肛門外科に入局。18年東京山手メディカルセンター大腸・肛門外科(大腸肛門病センター)に勤務し、20年東京大学大学院医学系研究科医学博士課程を修了。22年より平田肛門科医院に勤務し、25年に4代目院長に就任。日本外科学会専門医、日本大腸肛門病学会指導医、日本消化器内視鏡学会専門医。

お尻の穴(肛門)のかゆみについて知る


お尻の穴(肛門)のかゆみの原因

お尻の穴(肛門)にかゆみを感じる人は多いですが、そのほとんどは病気が原因ではなく、いわゆる「肌荒れ」によって引き起こされるかゆみです。このようなかゆみを「肛囲掻痒症(こういそうようしょう)」といい、自分自身でかいてしまうことで起きる肌の赤みやびらんなども、肛囲掻痒症に含まれます。
肛囲掻痒症の原因は大きく分けて「肌が化学的に傷つくこと(石けんの使用など)」、「肌が物理的に傷つくこと(温水便座やトイレットペーパー、生理用品、下着などの刺激)」の2つがあります。また、肛囲掻痒症以外のかゆみでは、カンジダ症やその他の病気によるものもあります。


●お尻の穴(肛門)のかゆみのほとんどは、弱酸性の肌がアルカリ性に傾くことで起きる

私たちの全身を覆う肌(皮膚)には、紫外線やウイルス、細菌など外部からの異物の侵入を防ぎ、体内の水分を保持する大切な役割があります。これを肌の「バリア機能」といい、肌が弱酸性の状態の時に正常に働きます。ところが何らかの原因で肌がアルカリ性に傾くと、バリア機能が低下し、かゆみや乾燥などの肌トラブルを引き起こしてしまうのです。

健康な皮膚とバリア機能が低下した皮膚を比較したイメージ図。健康な皮膚はアレルゲンや細菌を弾き水分を閉じ込めるが、バリア機能が低下した皮膚では、アレルゲンや細菌が入ってきてしまう。

これは顔の肌も、お尻の穴(肛門)の肌も同じです。肛門周囲の皮膚は唇や目の周りの皮膚ほどに薄いため、実はバリア機能が失われやすい部位です。
肛門周囲の肌がアルカリ性に傾き、かゆみを引き起こす原因には次のようなものがあります。

〈お尻の穴(肛門)がアルカリ性に傾く原因〉
(1)洗い過ぎ
石けんはアルカリ性のものが多く、それによって肌がアルカリ性に傾き、かゆみにつながることがあります。特に、お尻の穴(肛門)にかゆみがあると「お尻が汚いからではないか」と思い込み、洗い過ぎてしまいがちです。このような洗い過ぎによってバリア機能が低下し、肌荒れや肌の乾燥が進み、かゆみを誘発したり細菌やアレルゲンの影響を受けやすくなったりします。

(2)下痢や便秘
下痢になると、膵液(すいえき:膵臓で分泌される消化液)や胆汁酸(たんじゅうさん:脂肪の消化吸収を助ける働きをもつ胆汁の主成分)などが活発になったまま(or 活発なまま)排出されます。これらはアルカリ性なので、弱酸性の肛門周囲の肌をアルカリ性に傾けてしまいます。そのため、下痢をしがちな人は肛門周囲の肌が荒れやすく、かゆみも感じやすくなります。
また、便秘になってしまうと、腸内にウェルシュ菌などの悪玉菌が増えます。ウェルシュ菌はアルカリ性のアンモニアを産生し、腸内や便もアルカリ性に傾けてしまうため便秘もよくありません。このように腸内環境の良しあしが、お尻の穴(肛門)周囲の肌の健康にもかかわっているのです。
便が酸性かアルカリ性かを見分ける1つのバロメーターが、便の色です。酸性の便はどちらかというと黄色っぽく、アルカリ性だと黒っぽくなります。黒い食べ物を食べたわけではないのに、どちらかというと黒っぽい場合は、便がアルカリ性に傾いている可能性があります。

(3)痔[裂肛(切れ痔)・痔瘻(あな痔)・痔核(いぼ痔)]
裂肛(れっこう:切れ痔)の人は、見えないレベルで便汁(腸粘膜から分泌された粘液など)が漏れ出していることが多く、これがお尻の穴(肛門)周囲の肌をアルカリ性に傾けてしまうことがあります。お尻の穴(肛門)はシワが多いため、シワの間に便汁が残ることで肌が荒れやすくなります。

切れ痔(裂肛):肛門上部が切れるイメージ図

また、痔瘻(じろう:あな痔)の人や、痔瘻を治療済みの人は、お尻の穴(肛門)のかゆみが起きやすいことがあります。
肛門と直腸の境目の歯状線(しじょうせん)には、肛門陰窩(こうもんいんか)と呼ばれる小さなくぼみが10~15カ所ほどあり、それぞれが粘液を出す肛門腺とつながっています。通常はこの肛門陰窩に便が入り込むことはありませんが、下痢で水のような便が出た時などに入り込み、肛門腺が大腸菌などの細菌に感染して炎症を起こすのが痔瘻(あな痔)です。痔瘻を経験した人は肛門陰窩の炎症である「肛門陰窩炎」にもかかりやすいことが分かっています。肛門陰窩炎は肛門内部で起こりますが、それがお尻の穴(肛門)のかゆみとして感じられることがあります。

痔瘻(あな痔):肛門陰窩に便が入り込み、肛門腺が大腸菌などの細菌に感染して炎症を起こすイメージ図

また、痔核(じかく:いぼ痔)の中でも肛門の出口にできる「外痔核(がいじかく)」は、治療後に皮膚が余って垂れることがあり、皮膚が垂れている間などに便の成分が残ったりしてかゆみを引き起こすことがあります。

外痔核(いぼ痔):直腸と肛門の境目の歯状線の外側にできるいぼ痔のイメージ図

(4)汗などの成分の付着
お尻の穴(肛門)付近は蒸れやすく、汗をかきやすい環境にあります。汗の水分は蒸発しても塩分やアンモニアなどは皮膚の表面に付着したまま残るため、肌がアルカリ性に傾きやすくなります。

(5)食べ物による刺激
からい食べ物、生にんにく、わさび、コーヒーなどの刺激物は、胃腸を傷めて下痢になりやすく、お尻の穴(肛門)のかゆみにつながります。食物アレルギーがある人がアレルゲンとなる食べ物を食べた場合にも、肛門のかゆみが起きることがあります。


●物理的な刺激によって引き起こされるかゆみ

清潔にしようと思って温水便座を使い過ぎたり、何度もトイレットペーパーでごしごしとお尻を拭いたりすると肌表面が傷つき、バリア機能が失われてかゆみが出やすくなります。その他、下着や生理用ナプキン、尿もれパッドなどとの摩擦で刺激を受けてかぶれること(接触性皮膚炎)でも、かゆみが引き起こされます。

おしりの洗いすぎ、拭き過ぎがかゆみの原因になるイメージ図

●カンジダ症・その他の病気によるかゆみ

肌のバリア機能が失われると細菌感染しやすくなるため、「カンジダ症」にも注意が必要です。カンジダ菌は、元々健康な人の皮膚などにいる常在菌の一種ですが、肌の抵抗力が落ち、汗をかいて蒸れやすい夏場などに増殖して、お尻のかゆみを引き起こします。
その他、かゆみを引き起こす病気には次のようなものがあります。

<かゆみを引き起こすその他の病気>
・尖圭(せんけい)コンジローマ…ヒトパピローマウイルス(HPV)による性感染症の一種。性器や肛門の周囲にいぼや腫れができる。
・ボーエン病…皮膚(または粘膜)の表皮内部に生じるがんの1つ。
・パジェット病…主に汗を産生する汗腺由来の細胞ががん化する病気。
・肛門がん…肛門管(お尻の出口から直腸に向かう約3~4cmの管状の部分)と、肛門周囲の皮膚組織にできるがん。
カンジダ症やその他の病気によるお尻の穴(肛門)のかゆみは、痛みを伴う「痛がゆい」ことが多く、そのようなかゆみが長引いている場合は、皮膚科医または肛門科医に相談しましょう。


お尻の穴(肛門)のかゆみの症状

お尻の穴(肛門)のかゆみの症状は、肌の状態や時間帯によっても変わります。


●乾燥肌は、かゆみの症状が出やすい

かゆみは元々、肌についた虫や異物を取り除くために、「引っかく」という行動を起こさせるための防御反応です。かゆみを感じる神経線維であるC線維の末端部分は、健康な肌では表皮と真皮の境界近くにありますが、バリア機能が失われ、乾燥した肌は外敵や異物が侵入しやすいため、角質のすぐ下にまでC線維が伸びてきます。そのため、健康な肌では感じないような少しの刺激でも、すぐにかゆみが引き起こされるようになってしまいます。

かゆみを感じる神経線維であるC線維の末端部分は、健康な肌では表皮と真皮の境界近くにありますが、バリア機能が失われ、乾燥した肌は外敵や異物が侵入しやすいため、角質のすぐ下にまでC線維が伸びるイメージ図

●夜間やリラックスしている時は、かゆみの症状が出やすい

自律神経のうち、副交感神経が優位になっているとかゆみを感じやすくなります。そのためリラックスしている時や、夜寝ている時にかゆみの症状が悪化しやすくなります。

1日24時間の自律神経のリズムのイメージグラフ。副交感神経は、夜に優位になる。

お尻の穴(肛門)のかゆみの治療・対処法

お尻の穴(肛門)のかゆみ、肛囲掻痒症は市販薬でも対処でき、かゆみ止めの抗ヒスタミン薬、ステロイド薬(短期間の使用にとどめる)、保湿剤などがあります。
ただし、1週間以上市販薬を使用しても改善しない場合や痛みを伴うかゆみがある場合、またはかゆみの原因が分からない場合は、皮膚科医または肛門科医に相談しましょう。


●かゆみのホームケア

「かゆみ→かく→バリア機能が低下してさらにかゆくなる」といったかゆみの悪循環を防ぐため、できるだけかかないことが大切です。爪は切り、かゆみ止めを適切に使用しましょう。また、冷やすとかゆみが治まることが多いので、タオルなどに包んだ保冷剤を当てて冷やすこともお勧めです。保湿ケアには、ヘパリン類似物質やワセリンなどをお風呂の後に塗るとよいでしょう。

お尻の穴(肛門)をかかないためのホームケア。爪を切る、かゆみ止めの薬を塗る、保冷材などでかかずに冷やす、お風呂上りに保湿するなどのイメージイラスト

お尻の穴(肛門)のかゆみの予防法

お尻の穴(肛門)のかゆみの大きな原因である肛囲掻痒症は、生活習慣によって改善・予防することが可能です。肛門周囲の肌のバリア機能を保つために、「清潔を保つが、洗い過ぎない」ことがポイント。次のようなことに気をつけましょう。


●お尻は石けんで洗わず、ぬるま湯だけで洗う

かゆみがあると、清潔にしなければ…と思いがちですが、石けんは使わずにぬるま湯で洗うだけで十分きれいになります。石けんを使うことでかえって肌のバリア機能を低下させてしまうので、肛門周囲はぬるま湯だけで洗いましょう。


●熱いお風呂に長時間浸からない

熱めのお風呂も、肌にとって大切な水分や油分を取り除き過ぎてしまい、肌の乾燥を招きます。ぬるめのお湯で、湯船に浸かる時間は10分程度にしましょう。


●お風呂上がりに保湿をする

お風呂上がりに水分を拭き取った後、ヘパリン類似物質の入ったローション、ワセリンなどで肛門周囲の保湿をしましょう。


●温水便座は「弱」で「10秒以内」に。トイレットペーパーでこすらない

温水便座を使う人も多いですが、水圧が強過ぎたり、長時間使ったりすることによって、肌のバリア機能が損なわれてしまいます。水勢は「弱」で10秒以内の使用に留めることがポイントです。その後はトイレットペーパーでこすらず、優しく押さえて水分を取りましょう。トイレットペーパーのみで拭いている人も、ゴシゴシこすらず、優しく拭き取ってください。


●通気性のよい下着を選ぶ

通気性のよい綿素材などを選び、締めつける下着は避けましょう。生理用ナプキンなども、通気性がよく肌に優しいものを選びましょう。


●便通を整える

便は酸性であることが望ましく、腸内細菌のビフィズス菌が産生する酢酸や酪酸菌が産生する酪酸などには、腸内や便を酸性に保つ働きがあります。このような有用菌(いわゆる善玉菌)やそのエサとなる食物繊維などを積極的に摂る「腸活」は、腸の健康や便通改善のためだけではなく、お尻の穴(肛門)のかゆみの改善にもつながります。
下痢を引き起こすアルコールや刺激物の摂取は控え、納豆やヨーグルトなどの発酵食品で善玉菌を摂り、同時に善玉菌のエサとなる食物繊維を、海藻やきのこ、野菜などから積極的に摂りましょう。水分や油分の不足も便秘を招くので、水分やアマニ油、えごま油、オリーブ油などの油(不飽和脂肪酸)も忘れずに摂取してください。


●長時間の座りっぱなしを避ける

長時間の座りっぱなしは、肛門周囲が蒸れてかゆみにつながります。また、座りっぱなしだと血流も悪くなって痔のリスクも高めます。お尻のためにも、1時間に1回は立ち上がって歩くようにしましょう。

お尻の穴(肛門)のかゆみを予防するライフスタイル。肛門周囲はぬるま湯だけで洗う、お風呂はぬるめのお湯で10分以内、お風呂上りに保湿する、温水便座は弱で10秒以内でトイレットペーパーでこすらない、締め付けず通気性の良い下着を選ぶ、刺激物を控え腸によい食事で便通を整える、椅子に座り続けないなどのイメージイラスト

お尻の穴(肛門)のかゆみのほとんどは、肛囲掻痒症やカンジダ症などですが、まれに大きな病気が隠れていることもあります。お尻の悩みは恥ずかしくて病院の受診をためらうこともあるかもしれませんが、最近の肛門科はプライバシーを守る配慮が行き届いています。自分で対処してもよくならない場合は、1週間を目安に、早めに医師に相談しましょう。


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