おならとは、消化管内にたまったガスを体の外に自動で放出する正常な生理現象です。
おならの正体は、飲食する際に口から飲み込む空気と、腸で腸内細菌が食べ物を分解する過程で発生したガスなどが混ざったもの。口から飲み込んだ空気(酸素や窒素)と、腸内細菌によって消化管内でつくられる水素、二酸化炭素、メタン、揮発性ガスなどの気体で構成されています。
1日に出るおならの総量は約500~1500mL。おならの量や回数には個人差があり、おならの成分は人種や食生活、腸内細菌の構成によっても大きく左右されます。例えば、日本人はメタンが少なく、酢酸が発生しやすいという特徴があります。
おならの悩みで多い「おならがよく出る(量が多い・お腹が張る)」「おならがくさい」の原因と対策をお伝えします。
帝京大学医学部卒業後、同大学医学部附属病院外科下部消化器外科に入局。手術や内視鏡診療(胃カメラ・大腸カメラ)をはじめ、多数の消化器疾患に対して診療。その後、大腸肛門病専門病院である所沢肛門病院にて、多数の肛門手術、大腸内視鏡検査に携わる。現在は、東京都江東区にある赤羽根医院で院長を務める。日本外科学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医、日本臨床肛門病学会技術認定医。
おならはなぜ出るのか。どのようにしてつくられ、体外に放出されるのかを、まずは押さえておきましょう。
食事と一緒に飲み込んだ空気は、肺ではなく、胃に入ります。胃に入る空気の量は意外に多く、飲んだ水の2倍以上といわれています。このうち、一部は「げっぷ」として口から放出され、残りの空気は食べ物と一緒に腸へと運ばれます。
十二指腸で胃の消化液(胃酸)と反応して二酸化炭素が発生し、大腸では腸内細菌の働きによって、さらに二酸化炭素、水素、硫化水素などの揮発性ガスが発生します。また、腸内細菌の働きにより、直腸でメタンガスができる体質の人もいます。これらが混じった気体が、肛門から放出される「おなら」です。
おならの回数やにおいに個人差が生じる主な原因の1つが、空気の飲み込み過ぎです。早食い、食べ物をよくかまない、会話をしながら食べると、無意識のうちに空気を多く飲み込んでしまいます。胃に入る空気の量が増えると、腸内ガスの量も増えて、おならの量やお腹の張りにつながります。
ストレスが消化機能に影響を与え、ガスを増加させるケースも。精神的なストレスで、無意識に飲み込む空気の量が増えると、お腹にたまるガスの量も増え、おならが増えることがあります。こうした症状は「呑気(どんき)症」と呼ばれています。
この他に、運動不足で腸の動きが悪くなり「腸内にたまったガスが出にくくなる」ことや、便が腸内に留まってより多くのガスが発生し、「おならの回数が増える」「においが強くなる」ことがあります。
同じおならでも、くさいおならと、そうでないおならがあります。意外なことに、消化管内で腸内細菌がつくるおならの成分のうち、99%の成分(窒素、二酸化炭素、酸素、水素、メタンなど)は無臭です。わずか1%の揮発性ガスこそが、くさいおならの原因なのです。
揮発性ガスとは、大腸にいる腸内細菌が食べ物を分解・合成する時につくり出す硫化水素やメタンチオール、トリメチルアミンなどのこと。においに個人差があるのは、食事の内容や腸内細菌の種類・バランスによって、つくられるガスも変わるからです。
例えば、肉類などのタンパク質を、代表的な悪玉菌であるウェルシュ菌が分解すると、硫化水素が発生し、腐った卵のようなにおいのおならが出ます。一般的に、腸内細菌の悪玉菌が増えると、おならのにおいが強くなる傾向があります。普段から肉類を多く食べる生活を長年続けている上に、加齢で腸の動きが悪くなると、ガスの量が増え、においが強くなることもあります。
一方、食物繊維が分解される際もガスは発生しますが、ほとんどが無臭の水素やメタンのため、くさいおならにはなりません。
●おならのにおいのもととなる主なガス
ガス |
におい |
においが発生する原因 |
硫化水素 |
腐った卵のようなにおい |
肉類などのタンパク質が悪玉菌に分解されることで発生 |
メタンチオール |
腐った玉ねぎのようなにおい |
肉類などのタンパク質、にんにくや玉ねぎなど硫黄分を多く含む食品が分解されて発生 |
トリメチルアミン |
腐った魚のようなにおい |
魚やカニ、エビに含まれるトリメチルアミンオキシドが分解されて発生 |
インドール・ スカトール |
大便臭 |
チーズやレバー、大豆などに多く含まれるトリプトファンが分解されて発生 |
1、2カ月という短期間で、おならの量が普段よりも急に増えたり、においがくさくなったりした場合には、以下のような病気が隠れている可能性があります。
●呑気症
呑気症は無意識に飲み込む空気の量が増える症状で、一番の原因はストレスです。ストレスを抱えた状態が慢性化すると、飲み込む空気の量が多くなって、胃や腸にガスがたまり、げっぷやおならの回数が増えます。呑気症の場合、飲食時だけでなく、日常生活の中で無意識に空気をたくさん飲み込む傾向があるといわれています。
●過敏性腸症候群
腸に特段の異常が見られないのに、慢性的な腹痛や下痢、便秘などの便通異常を繰り返す病気です。腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスの乱れや心理的ストレス、食生活の影響など、様々な原因が考えられます。腸内にガスがたまりやすく「お腹が張る」「頻繁におならやげっぷが出る」ことも。お腹の張りや不快感を伴うことが多く、おならのにおいやげっぷの音が気になり、精神的な負担から日常生活に支障を来すこともあります。
●慢性胃炎
ピロリ菌感染やストレス、食生活などが原因で胃に慢性的な炎症が起こる病気です。胃の消化機能が低下するため、腸にも影響を及ぼし、げっぷやおならが増えたり、臭いが強くなる場合があります。
●炎症性腸疾患
腸に慢性的な炎症を起こす病気です。下痢や血便、腹痛、体重減少などが主症状ですが、これらに加えておならが増えたり、臭いが変化したりすることがあります。
●大腸がん
大腸がんは、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。お腹が張る、おならが頻繁に出る、おならのにおいが気になる、おならが出てもお腹が張る、便が細い、便秘、血便などの症状があるなら、医療機関で検査を受けるようにしましょう。
おならの量やにおいが気になる場合は、日頃のケアが大切です。
●おならは我慢しない
マナー違反を気にして、人前でおならをすることを我慢する人は多いでしょう。しかし、健康のためには、おならを我慢してはいけません。
我慢したおならの成分の一部は腸から吸収され、血液中に溶け込み、血液に乗って全身を巡ります。そして、呼気や皮膚から体外に放出されます。この時、おならのくさいガスが含まれていると、呼気がおならくさくなり、口臭の原因に。また、おならの成分が汗に溶け込むと、体臭の原因となります。
おならを我慢し続けることで腸内にガスがたまり、腸を圧迫して腹痛や腹部膨満感、便秘を引き起こす可能性も。ひどい便秘が何日も続くと、大腸の壁の一部が圧迫されて、外側に袋状に飛び出す「大腸憩室(だいちょうけいしつ)」を発症するリスクもあります。
大腸憩室そのものに痛みなどはありませんが、憩室の中で炎症が起こり、お腹が痛くなる憩室炎や憩室にある血管が破れて出血する憩室出血、憩室に穴が空いてお腹が痛くなる憩室穿孔(せんこう)などをごくまれに起こす場合があります。
おならの我慢は百害あって一利なし。トイレや自宅などでは我慢せずに出すことが大切です。人のいない所で、こっそりと出してしまいましょう。
●腸活、便秘対策
便秘はおならや腹部膨満感の原因の1つ。便秘とおならの両方に効果のある「腸活」を心がけましょう。
腸内細菌は善玉菌・悪玉菌・日和見菌の3種類に分けられます。おならの成分は腸内細菌がつくるため、善玉菌を優勢にし、腸内フローラのバランスを保つことも、おなら対策には重要です。
善玉菌はヨーグルトや納豆などの発酵食品に多く含まれています。善玉菌を含む食材と、善玉菌のエサになる食物繊維やオリゴ糖などを意識して摂ると、腸内フローラを理想的なバランスに整えることができます。腸内フローラのバランスが整うと腸の働きがよくなり、便秘やおなら対策につながります。
●自分の腸に合った腸活を
ただし、お腹が張りやすい人の中には、ヨーグルトなど「腸によい」とされる食品が逆効果になる人もいます。
小麦などの穀物、納豆や大豆製品などの豆類、牛乳やヨーグルトなどの乳製品などに含まれる、発酵性の吸収されにくい糖質群のことを「FODMAP(フォドマップ)」といいます。発酵性のオリゴ糖(Fermentable Oligosaccharides)、二糖類(Disaccharides)、単糖類(Monosaccharides)ポリオール(Polyols)の頭文字に「And」を加えて名づけられたもので、腸が敏感な人はFODMAPが小腸で吸収されにくいため、健康な人には腸によい食品でも、大腸で大量のガスを発生させてしまうことがあるのです。
思い当たる人に試して欲しいのが、オーストラリアのモナッシュ大学で開発された食事法「低FODMAP食」です。文字通り、FODMAPの少ない物を摂取する食事法で、例えば、主食はパンやパスタ、ラーメンを控え、米や十割そば、もちなどに変えたり、豆類や乳製品を控えたりするなど、自分の腸に合った食べ物を見つけることが大切です。
<低FODMAP食品・高FODMAP食品の例>
|
低FODMAP食品 |
高FODMAP食品 |
穀類 |
米、米粉、玄米、もち米、十割そばなど |
大麦、小麦、ライ麦、パン、うどん、そうめん、パスタ、ラーメンなど |
いも類・豆類 |
じゃがいも、こんにゃくいも、木綿豆腐など |
里いも、さつまいも、豆類全般など |
野菜 |
オクラ、かぼちゃ、きゅうり、大根、トマト、なす、人参、ほうれん草、レタスなど |
アスパラガス、カリフラワー、ごぼう、玉ねぎ、にら、にんにく、ねぎなど |
果物類 |
いちごなどのベリー類、オレンジ、キウイフルーツ、バナナ、ぶどう、みかん、メロン、レモンなど |
アボカド、りんご、すいか、桃、なし、グレープフルーツ、かきなど |
乳製品 |
バター、カマンベールチーズ、パルメザンチーズ、チェダーチーズ、モッツァレラチーズなど |
牛乳、ヨーグルト、カッテージチーズ、クリームチーズ、プロセスチーズ、生クリームなど |
●ストレス対策
脳と腸は「脳腸相関」といわれるほど密接につながっています。ストレスによって腸の機能がうまく働かなくなると、腸の動きが乱れてガスがたまりやすくなり、お腹が張ったり、おならの量が増えたりすることがあります。
人前でおならはできないという不安や緊張で、おならを我慢すると、ますます悪循環に陥ってしまいます。できるだけリラックスできる時間をつくって、心身のリフレッシュをしましょう。適度な運動は腸の動きをよくし、気分転換にもなります。ウォーキングなど毎日続けられる運動を取り入れましょう。
この他、腸活の基本となる食物繊維、水分の摂取も心がけましょう。また、お酒の飲み過ぎも禁物です。アルコールによって腸が炎症を起こし、腸内細菌の状態が悪くなることがある他、肉類など一緒に食べるおつまみが腸の不調を招く場合もあります。
もし1、2カ月の短期間で、急におならの量やにおいが気になってきた場合には、病気が原因の可能性も否定できません。念のため医療機関を受診しましょう。