糖尿病スティグマ(差別や偏見)とは。糖尿病を正しく理解しよう

糖尿病スティグマ(差別や偏見)とは。糖尿病に対する誤解がある?

「糖尿病」は日本人にとって現代の国民病ともいわれていますが、どのようなイメージがありますか? 乱れた生活をしている人がかかる病気? 自己責任? 糖尿病に対するそのような誤った認識から生まれたスティグマ(差別や偏見)が、糖尿病のある人を苦しめてしまうことがあります。 糖尿病は様々な要因から発症するものであり、「生活習慣が悪かったからかかる病気」ではなく、「生活習慣に気をつけていく必要がある病気」です。糖尿病とはどんな病気かを知り、誤った認識を正して、糖尿病のある人が生き生きと暮らせる社会を一緒につくっていきましょう。

監修プロフィール
越谷レイクタウン内科理事長 ふじもと・まどか 藤本 まどか 先生

日本糖尿病学会認定糖尿病専門医、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医。1997年東京医科歯科大学医学部医学科を卒業し、東京医科歯科大学第3内科に入局。地域基幹病院などで糖尿病を中心に内科入院・外来診療に従事し、2008年10月に越谷レイクタウン内科を開業。糖尿病、メタボリックシンドロームなどの適切な治療により「一病息災」、病気があってこそ元気で長生きを目指している。


糖尿病ってどんな病気?


糖尿病とは、血液中を流れるブドウ糖(血糖)の上昇を抑えるインスリンというホルモンが、不足あるいは作用低下を起こして十分に働かなくなり、血糖が増えた状態が慢性的に続く病気です。糖尿病になると血管や神経が傷つき、全身に様々な障害を引き起こします。網膜症、腎症、神経障害の三大合併症が高い確率で起こる他、脳梗塞や心筋梗塞、末梢(まっしょう)動脈性疾患などのリスクも高まります。また、血糖値が著しく高くなると昏睡(こんすい)などを起こす場合もあります。
糖尿病には「1型糖尿病」と「2型糖尿病」があります。インスリン依存型とも呼ばれる1型糖尿病は、自己免疫疾患などが原因となって膵臓でインスリンを分泌するβ細胞が破壊され、インスリンがほとんど出なくなることにより血糖値が高くなるもの。インスリンの自己注射が必要になります。一方、2型糖尿病はインスリン非依存型と呼ばれ、遺伝的要因に食べ過ぎや運動不足、ストレス、加齢などが重なることでインスリンが出にくくなったり、インスリンが効きにくくなったりし、血糖値が高くなります。日本では、90%以上の人がこの2型糖尿病です。この2つの糖尿病の他にも、特定の疾患や遺伝子の異常による糖尿病、妊娠糖尿病があります。

1型糖尿病(インスリン依存型)

 

2型糖尿病(インスリン非依存型)

自己免疫疾患などにより膵臓でインスリンを分泌するβ細胞が破壊され、インスリンがほとんど出なくなる

原因

遺伝的要因に食べ過ぎや運動不足、ストレス、加齢などが重なって、インスリンが出にくくなったり効きにくくなったりする

若い世代に多い

発症
年齢

中高年に多い

典型的には急激に発症・進行する

症状

緩やかに発症・進行する

体型に関係なくやせ型も多い

体型

肥満やその既往も多いがやせ型もいる

アジア人は欧米人に比べてインスリンの分泌能力が低い傾向があり、糖尿病になりやすい体質とされています。日本における「糖尿病が強く疑われる者(糖尿病有病者)」の割合は、14.6%であり、男女別にみると男性19.7%、女性10.8%。推計で約1000万人、予備群を含めると約2000万人にも上るといわれています。しかし、糖尿病の初期には自覚症状が見られないことが多いことから、健診で血糖値が高いと分かっても医療機関を受診しないという人もいます。糖尿病は、治療開始が早ければ早いほど合併症の発症を抑えたり、その後の生活の質の低下を防いだりすることが可能な病気です。血糖値が高い場合は決して放置せず、糖尿病専門医のいる糖尿病内科や内科を受診してください。
※厚生労働省:令和元年「国民健康・栄養調査」

 

 

「糖尿病が強く疑われる者」及び「糖尿病の可能性を否定できない者」の状況

「糖尿病が強く疑われる者」「糖尿病の可能性を否定できない者」の比率 「糖尿病が強く疑われる者」は14.6% 「糖尿病の可能性を否定できない者」は12.7%

( 厚生労働省:令和元年「国民健康・栄養調査」より作成 )


糖尿病に対する誤った認識がスティグマに


誤解から、糖尿病のある人へのスティグマが生じている

糖尿病は様々な要因で発症するものであり、「生活習慣が悪かったからかかる病気」ではなく、「生活習慣に気をつけていく必要がある病気」です。にもかかわらず、生活習慣が乱れている人の病気というイメージをもたれているのは、病態の研究や治療法が確立していなかった時代の考え方や糖尿病に対する認識がアップデートできていないことが背景にあると考えられます。そして、そのような誤解から、糖尿病のある人へのスティグマが生じているのが現状です。

〈具体的なスティグマの事例〉

●「恐ろしい合併症を起こす」「糖尿病のない人と同じような生活はできない」「長生きできない」
治療法は格段に進化しており、治療をしっかり行い血糖管理をすれば、合併症を防ぎ、糖尿病のある人もない人と変わらない寿命や生活の質(QOL)を保つことが可能です。現在では、糖尿病の有無による平均寿命の差も縮まっています。

●「糖尿病は生活習慣病」「食事や生活に問題のある人がかかる」「肥満の人の病気」
血糖値が高いのは、例えば背の高さや髪のクセなどと同じ体質と認識しましょう。決して生活習慣の乱れだけで発症するものではなく、その要因は様々です。

糖尿病のある人は、周囲のスティグマによって社会的に疎外されたり、経済損失を受けたりすることがあります。実際に、進学や就職、結婚に影響したり、生命保険への加入や住宅ローンが認められなかったりといった不利益を受けた人もいます。また、糖尿病のある人が病気を周囲に隠したり社会参加を避けたりすることによって、適切な治療の機会を失い、重症化させてしまうケースも見られます。


糖尿病のある人自身も変わりましょう


糖尿病のある人は、まず自身に対するスティグマを無くしましょう。

スティグマに加えて、服薬やインスリン注射の負担、合併症など未来への不安、食事や運動などによる血糖管理のストレス、周囲に相談できない孤独感など、糖尿病のある人の苦しみや悩みは大きなものです。中には不安や恐怖を過剰に感じてしまう人もいます。
糖尿病のある人自身が糖尿病に対するスティグマをもち、「糖尿病=自己責任」という意識が抜けないケースも多く見られます。そのような人は、食事療法や運動療法ができなかったりするとますます自分を責めてしまう傾向が強いようです。2型糖尿病の場合、これまでの生活を振り返って「あれがいけなかったのでは? これもいけなかったのでは?」と思い悩み、ストレスをためてしまう人も。治療に前向きになれなかったり、うまく取り組めないことがあったりしても、治療法の選択肢は増えており、代わりはいろいろとあります。遠慮なく医師に相談して自分に合うものを探していきましょう。
また、糖尿病を自虐的に周囲に話す人もいますが、糖尿病は人生にかかわる病気であり、決して軽んじてよいものではありません。糖尿病のある人は、まず自身に対するスティグマを無くしましょう。「一病息災」という言葉があるように、病気は健康への気づきや動機づけになります。しかも糖尿病の食事・運動療法は、糖尿病のある人だけでなく多くの人の健康長寿をサポートするもの。よりよい生活につながるものだと前向きに受け止め、治療に取り組んでいきましょう。そして、定期的に通院し、検査を受け、食事や運動に気を配った生活を送っている自分は、とても健康意識の高い人だということに気づき、ぜひ誇りに思ってください。自身が変われば、周囲の人や社会もきっと変わっていきます。

糖尿病のある人に寄り添う社会に向けた取り組み

糖尿病のある人に寄り添う社会に向けた取り組み

糖尿病へのスティグマを放置すると、糖尿病のある人が社会で不利益を被るだけでなく、治療に向かわなくなるという弊害をもたらすことを懸念し、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、糖尿病であることを隠さずにいられる社会形成への取り組みを始めています。糖尿病の正しい理解を促進する活動を通じて、糖尿病のある人が安心して社会生活を送り、人生100年時代の日本で生き生きと過ごすことができる社会形成を目指す活動(アドボカシー活動)です。
活動の一環として、日本糖尿病協会は、2022年から「糖尿病にまつわることばを見直すプロジェクト」をスタートし、不適切な言葉による誤ったイメージの一掃を目指しています。さらに、「糖尿病」という病名の見直しも進められています。この病名は重症になると尿に糖が混じることから名づけられましたが、現在の診断は血糖値を測るのが基本であり、この名前は病態にも合いません。しかも、「尿」という言葉からはネガティブな印象をもたれやすいのが実状です。2023年9月22日、日本糖尿病協会と日本糖尿病学会は、糖尿病の通称の候補として英語名の「ダイアベティス」を提案しました。今後1~2年をかけて糖尿病のある人や医療従事者からの意見を募り、検討するとしています。
イメージを変えるという点では、糖尿病のある人を表現する際に多く使われている肥満体形のイラストや写真も見直す必要があるでしょう。「治療に取り組む人は、健康意識の高いかっこいい人です」と藤本先生。糖尿病のある人はこの言葉をぜひ心に留めてください。


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