「夏型過敏性肺炎」は、梅雨の季節になると気になる「カビ」が原因の肺炎です。家の中に繁殖したカビを吸い込むことでアレルギーが起こり、肺に炎症が生じます。
まだまだ聞き慣れない病名ですが、毎年、「夏になると咳が続く」「家の中にいると、だるさが出る」といった症状は、ただのかぜではなく、夏型過敏性肺炎の可能性があります。特に初期は、かぜと似た症状のため、夏かぜとの区別がつきにくいことも……。
かぜとは原因も治療法も異なる夏型過敏性肺炎の早期発見のポイントや予防法などについて、横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニックの三島渉先生にうかがいました。
横浜市立大学卒業後、同大学附属病院で内科全般について研修。三浦市立病院内科では様々な症例に触れる。横浜市立大学大学院病態免疫制御内科学博士課程修了。医学博士。研究に携わりながら呼吸器内科専門医として外来診療の経験を積む。横浜保土ケ谷中央病院(旧 横浜船員保険病院)内科・呼吸器内科を経て、2007年に上六ツ川内科クリニックを開院。2019年8月、弘明寺駅近くに移転し、横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニックへ名称を変更。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医資格などをもつ。主な著書に『なぜ、あなたは禁煙できないのか?』(アート印刷)など。
過敏性肺炎は、空気中の微細なカビや細菌などに対する免疫反応によって起こる肺の炎症です。日常生活において、カビや細菌、有機物などを吸い込むことが引き金になって発症します。
「一般的な肺炎は細菌やウイルスが肺の中に入って炎症を起こす感染症です。過敏性肺炎は感染症ではなく、アレルギー反応が原因で発症する肺炎。他人にうつる病気ではなく、体質や環境によって起こる反応である点が、一般的な肺炎との大きな違いです」と三島先生。
過敏性肺炎は1年を通して起こり得る病気ですが、夏に起こる過敏性肺炎を「夏型過敏性肺炎」と言います。
夏型過敏性肺炎の原因はカビ(真菌)で、主に「トリコスポロン」というカビが原因です。カビが繁殖しやすい梅雨から夏にかけて、特に発症が増加します。
トリコスポロンによる夏型過敏性肺炎は、日本で特に多いタイプです。日本における過敏性肺炎全体の約75%が、夏型過敏性肺炎だと指摘する論文(※)もあり、高温多湿の気候や日本独特の住宅環境に関連して発症することが知られています。
トリコスポロンは、風呂場や台所、フィルター掃除が行き届いていないエアコン内部、木造の古い家などに繁殖しやすいカビです。三島先生によると「白っぽい色のカビ」で、長期間同じ場所に生えていると、黒っぽい色に変色していくといいます。
「どの程度の期間、量の曝露(ばくろ)で発症するかは個人差も大きいです。ずっと吸っていても平気な人もいれば、わずかな期間や量で発症してしまう人もいます」と三島先生。
夏型過敏性肺炎の主な患者層は30~50代ですが、三島先生は「誰でも発症するリスクがある」と指摘。「カビが生えていることが、目で確認できるような住環境は、年齢にかかわらず注意が必要です」と警鐘を鳴らします。
※出典:AndoM, et al. Am Rev Respir Dis. 1991;144(4):765-769.
夏型過敏性肺炎の主な症状は咳、発熱、だるさ、息切れなど一般的なかぜとよく似ており、症状だけでは見分けがつきにくいとされています。特に初期は症状が軽く、かぜとの区別が難しいため、様子を見てしまうケースも……。
「かぜだと思って受診したら、実は肺炎だったというケースは当院でも珍しくありません。中でも、毎年、夏になると同様の症状を繰り返す場合は、夏型過敏性肺炎の可能性があります」と三島先生。
家にいると悪化し、外出すると軽快する点も、一般的なかぜと見分ける重要なポイントになります。「自宅以外にも、職場がカビの多い環境で、仕事に行くと具合が悪くなる……など、特定の場所で発症するかどうかも要チェックです。原因となる環境から離れると症状が軽くなるようなら、夏型過敏性肺炎を疑ってみてください」。
夏型過敏性肺炎かどうかは、レントゲンやCTによる画像検査、血液検査、トリコスポロンに対する抗体検査などをもとに、総合的に診断されます。必要であれば、原因を特定するため住環境調査を行う場合もあります。
トリコスポロンに対する抗体検査は専門医療機関の受診が必要です。まずはかかりつけ医を受診し、疑わしい所見があれば紹介状を書いてもらうとよいでしょう。
夏型過敏性肺炎は、急性の場合は早期発見・治療によりほぼ完治が可能です。治療期間は数週間から数カ月が一般的です。また、適切な環境改善によって再発を防ぐことができます。
一方、肺炎が慢性化して肺の線維化が進行すると、まれに呼吸機能低下が残ることもあります。「線維化」とは、肺に炎症が起こり続けたために、徐々に肺の壁が厚く、硬くなってしまうこと。例えば、転倒などで同じ場所を繰り返しけがすると、傷口がだんだん硬くなり、跡が残ります。それと同じことが肺で起きていると考えるとイメージしやすいでしょう。
酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する肺に、このような線維化が起こると、慢性呼吸器不全に陥り、息苦しさがずっと残る場合があります。そうなると、長期にわたる治療・管理が必要なため、早期発見・早期治療、環境改善などの早めの対策が大切なのです。
●夏型過敏性肺炎の重症化に注意が必要な人
・喫煙している人
・毎年自覚症状があっても、病院を受診せずに放置している人
・カビが多い場所に住んでいる、または勤務している人
・肺に持病がある人
・免疫力が低下する疾患がある人
●夏型過敏性肺炎の治療法
夏型過敏性肺炎の治療は、次のように段階的なアプローチを行います。
(1)一時的な入院で原因環境から離れて、症状の改善度を評価します。症状の改善には、原因となる環境から離れることが最も重要です。
(2)カビの徹底的な除去や住環境の改善を行い、再発を防止します。
(3)環境改善だけで症状が改善しない場合は、ステロイドなど薬物療法を行います。
夏型過敏性肺炎の対策では、主な原因菌であるトリコスポロンの発生源を知ることが第一歩です。トリコスポロンはエアコン内部や押入れなど、家の中の湿気の多い環境を好んで繁殖します。
●トリコスポロンの繁殖条件
・温度が20℃以上、特に25~30℃が繁殖には最適です。
・湿度が60%以上で繁殖し、80%を超えると急激に増殖します。
・栄養源は木材や畳、有機物、エアコン内部など。
●繁殖しやすい場所
・エアコン内部
エアコンのフィルターや内部にカビが繁殖し、空気中に拡散されることがあります。日頃から小まめな掃除を心がけましょう。
・押し入れ、家具裏
押入れの中や家具の裏などは湿気がこもりやすく、カビの温床になりやすい場所です。
・カビの生えた建材
壁紙や木材などに発生したカビが原因となることがあります。
・湿気の多い場所
台所や浴室周辺などの水回りや、結露の多い場所なども発生源になりやすいため、注意が必要です。
「床下や冷蔵庫の裏、ソファーのすき間や寝具の裏など、見えにくい場所もトリコスポロンが繁殖しやすい場所です。この他にも、例えば3階建ての家で、3階にいる時は何ともなくても、湿気がこもりやすい1階では症状が出るなど、部屋によって環境が異なる点も、盲点になりやすいので覚えておきましょう」。
夏型過敏性肺炎の対策の鍵を握るのは、トリコスポロンの除去と、発生させない環境的な再発防止策です。住環境対策のポイントや具体的な場所を解説します。
●住環境の対策
・除湿
カビの繁殖を防ぐためには、室内湿度の管理が重要。湿度は60%以下になるよう、除湿器なども上手に活用しましょう。
・換気
定期的に空気を入れ替えることで、原因物質の蓄積を防ぐことができます。
・掃除
カビや微粒子を減らすために、たまりがちなホコリの除去など、定期的な清掃を心がけましょう。
・エアコン清掃
エアコン内部のカビ対策として、フィルターや内部洗浄が有効です。費用はかかりますが、年1度は業者による掃除を取り入れるとより効果的です。
・寝具・カーテンの洗濯
寝具やカーテンにもカビは付着します。日常的に触れる布製品に付着したカビやホコリの除去も、忘れずに行いましょう。
・カビのにおいは発生のサイン
「なんとなくカビ臭い」と気づいたら、それはカビ増殖のサイン。そのままにせず、早めに対処しましょう。
「カビ対策では普段からしっかり掃除をすることが、最も効果的です。カビが舞うので、掃除の際は必ずマスクを着用しましょう。目に見えるホコリはアルコール等で拭き取ってから、掃除機をかけると舞い上がりにくくなります」と三島先生。
環境づくりとして家具の配置も大切です。家具を壁にすき間なく、密着して設置するとカビが生えやすくなるため、家具と壁の間は少しすき間を空けておくのも、カビ対策のポイントの1つ。「ソファーやベッドも置き方1つで、カビの増殖を防ぐことができます。寝具のカビ対策としては、天日干しや布団乾燥機の使用もおすすめです」。
咳などの症状が2週間以上続く場合は、一般的なかぜではない可能性が高いサインです。「ただのかぜだろう」などと自己判断せず、医療機関の受診を検討しましょう。
特に、毎年夏に同じ症状を繰り返すなど、季節性がある場合は、夏型過敏性肺炎の可能性があります。自宅にいると症状が悪化するなど、特定の場所で起こるなら、環境要因も疑いましょう。
「2週間以上症状が続く場合というのが、受診の1つの目安です。夏だけ具合が悪くなるなら夏型過敏性肺炎、梅雨時期に毎年同じような症状が出るなら、喘息の可能性もあります。なるべく早いうちに呼吸器内科を受診し、専門医の診断を受けることをおすすめします」。