過敏性腸症候群(IBS)とは、大腸内視鏡などの検査をしても腸には目に見える異常が見つからないのに、下痢や便秘などの便通異常が頻繁に起こり、腹部の不快な症状が続く病気のことです。 腸には多くの神経細胞があり、自律神経を介して脳とつながっています。腸が不調だと気持ちが落ち込み、脳に受けたストレスは腸に反映し不調を招く。このように脳と腸が双方向に影響し合うことを「脳腸相関」といいます。
自治医科大学大学院医学研究科修了。日本消化器病学会認定専門医、日本ヘリコバクター学会ピロリ菌感染症認定医、日本抗加齢医学会専門医、米国消化器病学会国際会員。『新しい腸の教科書』(池田書店)他著書多数。
過敏性腸症候群は、次に挙げるような要因により腸神経系の調節がうまくいかなくなり、腸の神経が過敏になることで下痢や便秘などのお腹の不調が起きます。日本では10人に1人が過敏性腸症候群に苦しんでおり、中でも感受性が強くストレスを受けやすい10〜30代の若い世代に多く見られます。
腸のぜん動運動は自律神経によってコントロールされています。自律神経には交感神経と副交感神経があり、交感神経が腸の動きを抑えるのに対して、副交感神経は腸の動きを活発にします。ストレスを受けると、この自律神経のバランスが悪くなり、交感神経が優位になっている仕事中でも腸の動きが盛んになり過ぎたり、けいれんのような動きをしたりするのです。食べ物が胃に入ると大腸のぜん動運動が起こりますが、この動きが盛んになりすぎると下痢に。逆に腸のぜん動運動が起こらず、腸がけいれんするように動き、便が腸の中に留まってしまうと便秘になります。これはまさに自律神経の失調状態。腸だけでなく頭痛やめまいなど、様々な症状が現れることもあります。
過敏性腸症候群の症状は大きく分けて「下痢型」「便秘型」「混合型」の3タイプあります。いずれのタイプも、下痢や便秘などの症状の他、排便をしてもスッキリしない、お腹が張るなどの症状を伴うことが多いです。
過敏性腸症候群によって腸が敏感な状態だと痛みを強く感じる上に、脳にも過剰な刺激が伝わってストレスを増幅させるので、さらに便通異常や腹痛といった症状が悪化するといった悪循環に陥ってしまいます。自律神経の乱れから、頭痛、だるさ、めまい、耳鳴りといった症状を伴うこともあります。常にお腹の不調を抱えていれば、憂うつになったりイライラしたりし、抑うつ状態にまでなってしまうことも。お腹だけでなく全身や心の健康にも影響を及ぼし、生活の質(QOL)を低下させてしまいます。
過敏性腸症候群の予防・改善には、「規則正しい生活」が基本中の基本。「決まった時間に起きて、決まった時間に寝る」「朝昼晩の3食を規則正しく摂る」といった生活を送ることで、自律神経が整い、腸の働きも整います。
この他、ストレスをためこまずにこまめに解消する、ウォーキングなどの運動を習慣化するなど、自律神経を乱さないための心がけも大切です。
●胃腸を強くするライフスタイル=規則正しい生活習慣
①起床……日の光を浴びる
体内時計が整い、睡眠ホルモンのメラトニンの生成や分泌に好影響。
夕食は軽めに
②朝食……朝食は必ず摂る
朝食を摂ることで胃腸が目覚め、胃腸の運動機能が高まる。
③昼食……食事はよくかんで
かむことで唾液による消化が進み、胃の負担が抑えられる。
④間食……ちょこちょこ食べはNG
胃腸をきれいにするために、4時間は何も食べない時間をつくる。
⑤夕方……軽い運動を習慣に
ウォーキングなどの有酸素運動と筋トレ、ストレッチを組み合わせる。
⑥夕食……夕食は軽めに
脂っこい物を控えて消化のよい物を中心に摂る。中高年は腹七分目が目標。
⑦就寝……決まった時間に寝る
就寝前はできるだけリラックスして過ごし、7時間程度の睡眠をキープする。
納豆やヨーグルトなど腸内環境を整えるとして知られている食品が、過敏性腸症候群の人が摂ると逆に症状を悪化させてしまうことがあります。4種類の発酵性の糖質を含む食品を控える食事療法を「低FODMAP(フォドマップ)食」といいます。その4種類とは、発酵性の「オリゴ糖(Fermentable Oligosaccharides)」「二糖類(Disaccharides」「単糖類(Monosaccharides)」「ポリオール(Polyols)」で、それぞれの頭文字に「And」を加えて「FODMAP」という言葉になります。
最近の報告では、低FODMAP食の実践で75~80%の人に過敏性腸症候群の症状の改善が見られ、日本消化器病学会も安全で効果の高い治療法として推奨しています。
低FODMAP食の中でも多種類のものを組み合わせて食べると腸内細菌の種類が増えて、腸内細菌同士の結びつきも強くなり、腸のバリア機能が正常に働き、免疫力がアップします。日々の食事に様々な低FODMAP食を取り入れるようにしましょう。
低FODMAP食品 | 高FODMAP食品 | |
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穀物など | 米、玄米、米粉類、もち米、そば粉100%のそば(十割そば)、米菓子(せんべい)など | 小麦、大麦、ライ麦、パン、パスタ、ラーメン、うどん、そうめん、とうもろこし、ケーキなど |
野菜・いも・きのこ・豆 | なす、人参、レタス、キャベツ、きゅうり、じゃがいもなど | アスパラガス、にんにく、キムチ、玉ねぎ、納豆、ごぼうなど |
フルーツ | バナナ、いちご、ぶどう、メロン、キウイフルーツ、オレンジ、レモンなど | りんご、スイカ、桃、なし、グレープフルーツ、アボカド、柿など |
乳製品 | バター、マーガリン(牛乳を含まない物)、チェダーチーズ、モッツァレラチーズ、カマンベールチーズ、パルメザンチーズなど | 牛乳、生クリーム、ヨーグルト、アイスクリーム、プリン、クリームチーズ、コンデンスミルクなど |
肉・魚介・卵・ナッツ・スパイス | ベーコン、ハム、豚肉、牛肉(赤身)、鶏肉、卵、魚介類、ピーナッツなど | ソーセージ、わさび、カシューナッツ、ピスタチオなど |
過敏性腸症候群はストレスや食べ物が関係しているため、まずは生活習慣を見直すことが大切ですが、なかなか改善しない場合や症状がひどい場合は、胃腸科や消化器科を受診しましょう。過敏性腸症候群と診断されれば、症状に応じて薬が処方されます。