排尿困難とは、尿が出にくい、尿の勢いが弱い、お腹に力を入れないと尿が出ない、尿の出始めが遅い、尿が出終わるまでに時間がかかる、など尿を出すことが難しい症状のことをいいます。また、排尿後も尿が残っている感じがする「残尿感」も排尿困難症状の1つです。 放っておくと、尿が全く出なくなる尿閉(にょうへい)や腎不全など重い病気につながりかねないため、早めに医療機関を受診しましょう。
1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。藤田医科大学医学部名誉教授。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。
排尿困難の原因は実に様々ですが、大きく分けて主に加齢によるもの、泌尿器自体に原因があるもの、泌尿器周辺の他臓器や泌尿器につながる神経の障害が原因となって起こるものがあります。何の原因によるものなのかは詳しい検査が必要であるため、排尿困難の症状を感じたら泌尿器科を受診しましょう。
男性の前立腺肥大症、女性の骨盤底筋のゆるみや腹圧性尿失禁、男女共に過活動膀胱など、加齢が原因で排尿困難を始めとした排尿トラブルが起こることは多くあります。
主に加齢が原因の排尿困難②:骨盤底筋の緩み女性では出産・加齢の影響で膀胱や子宮、腸を支える骨盤底筋が緩み、骨盤内の臓器が下がってくる「骨盤臓器脱」によって排尿困難が引き起こされることがある。
排尿困難の原因となる泌尿器の病気は、男性に多いのが尿路結石、尿道狭窄、女性に多いのは膀胱炎などです。男女の尿道の長さが違うので、かかりやすい病気にも違いがあります。
以下のように、排尿困難の原因は泌尿器以外の疾患にもあります。
加齢が原因で排尿困難の症状が起きている場合、「尿が出にくい」という自覚症状に加えて「頻繁にトイレに行きたくなる」「尿もれがある」など、別の症状が同時に出ていることも多くあります。これは老化現象による「過活動膀胱」など、「膀胱に尿をためておくのが難しくなる」症状が重なることも多いためです。早めに医療機関を受診して、原因を確かめるようにしましょう。
男性の排尿困難で最も多い原因の「前立腺肥大症」かどうかが気になる場合は、医療機関で使われている質問票「国際前立腺症状スコア(IPSS)」と「QOLスコア(IPSS-QOL)」で、症状をセルフチェックすることもできます。医師に相談する際の参考にしてみてもよいでしょう。
国際前立腺症状スコア(IPSS)
どれくらいの割合で次のような症状がありましたか | 全くない | 5回に1回の割合より少ない | 2回に1回の割合より少ない | 2回に1回の割合くらい | 2回に1回の割合より多い | ほとんどいつも |
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この1カ月の間に、尿をしたあとにまだ尿が残っている感じがありましたか | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
この1カ月の間に、尿をしてから2時間以内にもう一度しなくてはならないことがありましたか | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
この1カ月の間に、尿をしている間に尿が何度もとぎれることがありましたか | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
この1カ月の間に、尿を我慢するのが難しいことがありましたか | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
この1カ月の間に、尿の勢いが弱いことがありましたか | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
この1カ月の間に、尿をし始めるためにお腹に力を入れることがありましたか | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
この1カ月の間に、夜寝てから朝起きるまでに、ふつう何回尿をするために起きましたか | 0回 | 1回 | 2回 | 3回 | 4回 | 5回以上 |
0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
IPSS合計 点
QOLスコア(IPSS-QOL)
現在の尿の状態がこのまま変わらずに続くとしたら、どう思いますか | とても 満足 |
満足 | ほぼ満足 | なんとも いえない |
やや不満 | いやだ | とても いやだ |
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0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
QOLスコア 点
(出典)日本泌尿器科学会「男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン」
排尿困難の原因は多岐にわたるため、まずは泌尿器科を受診して原因を知ることが大切です。尿路結石や膀胱炎などのように痛みがある場合は受診につながりやすいですが、痛みのない排尿困難の場合、「加齢によるものだから仕方がない」などと受診しないままでいると、尿が出なくなる「尿閉」が起こったり、実は別の病気が隠れていたりする場合もあります。痛みがなくても放っておかないで受診するようにしましょう。
男性の排尿困難の最も大きな原因である「前立腺肥大症」は、加齢以外には、生活習慣病との関連も指摘されており、肥満、高血圧 、高血糖 などの人はかかりやすくなるといわれています。 また最近では、「尿路結石」もメタボリックシンドロームの1つであると捉えられています。尿路結石は、シュウ酸などを増やす動物性タンパク質の多い「食の欧米化」が大きな原因となっており、年々罹患率が増え、肥満との関連性も指摘されています。
前立腺肥大症や尿路結石の予防法は、高血圧 や糖尿病 など生活習慣病を予防するための食事や生活指導と共通点が多く、生活習慣病を予防することによって、排尿困難を引き起こす原因も減らすことができます。
骨盤内の臓器が下がり、排尿困難を引き起こす「骨盤臓器脱」は中高年女性に多く見られます。その原因となっているのが、骨盤底筋の緩みです。骨盤臓器脱にならないためにも、出産や加齢によって衰えた骨盤底筋を鍛える「骨盤底筋体操」を実践してみましょう。前立腺肥大症や尿路結石の予防法は、骨盤底筋体操のやり方はこちら。